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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

初代様は蛮族

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冒険者ギルド

 ダリオンは、王都近くにある街だ。

 近年活気に溢れ、規模が大きくなっている事で有名らしい。

 実家であるウォルト家の領地にある都市と比べると小さいが、整えられた街並みにはない雑多な活気が新鮮に感じた。

「王都から宿場町を通って二日の距離か……やっぱり道が整備されているのはいいな。移動も早いや」

 俺が到着したダリオンで背伸びをし、周囲を見渡しているとノウェムは近くにあった看板に目を向けていた。

「簡単な地図がありますね。店の名前も書かれていますよ」

 便利だと思いながら、俺もノウェムと一緒に看板を見る。その中には、冒険者ギルドと書かれた建物の場所が書かれていた。

 地図の配置からするに――。

「ライエル様、あそこに見える建物ではありませんか?」

 ダリオンの入口からも見える建物は、周囲の二階建てから三階建ての建物よりも高かった。

 周辺では、一番大きな建物だろう。

 ダリオンの冒険者ギルドは、かなり稼いでいるようだ。

「実家……いや、ウォルト家の領地にある支部よりも大きいな」

 言い直した俺を見て、少しだけノウェムが何か言いたそうにした。そのため、俺は無理矢理笑顔になる。

「さて、時間もあるんだ。冒険者ギルドに登録しようか」

「はい、ライエル様」

 笑顔を向けてくれるノウェムの旅行鞄を持ち、前を歩く俺。

(それにしても、ゼルもノウェムも言っていたけど……お金ってすぐになくなるんだな)

 財布が随分と軽くなっている。

 当然だが、ダリオンに来る前に色々と購入していた。一番高いのは剣だろう。サーベルを購入したのだが、需要があまりないのか数打ち品でも高めの値段だった。

(節約も本気で考えないと。でも、ご先祖様たちは基本的に価値観違うし……)

 世代で価値観が違うのだが、それは金銭感覚も同じである。

 代を重ねるごとに裕福になったせいか、祖父である七代目、六代目、五代目は基本的に金持ち思考? らしい。

 初代など、男の武器は斧か鈍器と言い、サーベルなど役に立たないと文句を言っていた。

『その辺に落ちている木や石で殴ればいいだろ? なければ素手でいいんじゃね?』

 ――まさに野性味溢れる思考の持ち主だ。

 目立つ建物に向かい歩いていると、周囲には冒険者らしき人たちが同じ方向へと歩いている。

 恰好は様々だが、中にはならず者の集団にしか見えない連中もいた。

 ナイフを腰に下げ、周囲の通行人たちを威嚇するように歩いている。

 冒険者は普段から武器を所持して歩いている。ギルドで管理されているとが、だからといって犯罪件数が少ないかと言われると、そうではない。

 何しろ、冒険者の多くはならず者、もしくは傭兵たちである。

 中には、犯罪者も指名手配されていないだけで、紛れ込んでいる場合がある。ギルドも気をつけているようだが、上手くいっていない様子だ。

 実質、三割から四割がまともな冒険者であれば良い方だろう。他は、片手間に冒険者をしている連中がほとんどである。

(まぁ……ご先祖様に聞いた知識なんだけどね)

 俺自身の知識ではない。

 冒険者を漠然としか理解していなかった。ただ、中身を知ると、憧れていた自分が馬鹿らしくなってくる。

 子供が憧れるような冒険者は、全体の一割もいないというのが現実である。

「着きましたね、ライエル様」

「あれ? なんでギルドの一階が市場をやっているの?」

 大きな看板に冒険者ギルド、と分かるように表記している建物の一階は、柱で支えて倉庫のようになっている。

 荷馬車や冒険者に、商人たちが出入りをしていた。

 そこで、冒険者や商人、それに一般人らしき人たちが買い物をしている。

「ライエル様、あれは売り買いをする場です。一階を使用して、冒険者が持ってきた魔物の素材などを売り買いしているんですよ」

「え? そうなの? 手に入れたものはギルドに渡すんじゃないの?」

 そう言うと、ノウェムは困った顔をする。

「私も詳しいわけではありませんが、外に出て魔物を相手にして持ち帰って来るとその……凄く汚れますよね? そのまま室内に入るのも大変ですよ。ほら、隣に銭湯がありますよね。どうしてもギルドの受付に用がある場合は、あちらで汚れを落とすんです」

 確かに、よく考えてみれば魔物の素材をカウンターに引き渡すのはおかしい。血生臭いし、それに酷く汚れる。

 受付などでは書類などを記入するだろうし、別々に場所を設けるのは普通だろう。

「そ、そうなんだね。アハ、アハハハ」

 頑張ると決めたのに、早くも世間知らずである事を披露してしまった。もう何度目だろう?

(俺、これから上手くやっていけるのかな?)

 不安を抱えつつ、俺とノウェムはギルドの受付がある二階へと向かう。階段を上り、そして看板の案内に従って受付に向かうのだった。





 冒険者ギルドの二階は、受付になっているのだがカウンターが広い。

 そして、何人もの職員が列を作る冒険者の相手をしていた。

「随分と多いね」

「そうですね。私も登録などはした事がないので、不安です」

 そう言うと、宝玉から初代ではなく二代目の声が聞こえた。

『あの爺はふて腐れているから、代わりに俺が教えてあげるよ。というか、ギルドの登録とか気にする必要はないけどね。向こうはそういった新人の相手になれているだろうし』

(最初から二代目で良かったのに)

 俺は分かったと合図するために、宝玉を一階触る。そして、二代目の声に耳を傾けながら、どこの列に並ぶかを考えていた。

 見れば列には違いがハッキリしている。

 若く、そして新米冒険者たちだろうか? そういった冒険者たちは、綺麗な職員のいるカウンターに並んでいた。

 笑顔の素敵な女性が、笑顔で冒険者たちの相手をしている。

 他には、慣れた感じでおばさんが、急いでいる冒険者たちが並ぶ列をさばいていた。

 割と職員は女性が多い。男性職員は少ない。

 俺はおばさんの列に並ぼうと足を踏み出そうとした。だが、ここで二代目から待ったがかかる。

『ライエル、あの一番数の少ない列に並ぼうか』

(え? 一番少ないって言うと……)

 俺が二代目に指示された列の先を見ると、褐色の肌で筋骨隆々としている赤い髪を坊主頭にした男性職員がいた。

 見た目もあって、かなり怖い。

 俺が戸惑っていると、二代目は言う。

『大丈夫。この中で一番まともだよ』

(外見がまともではないです)

 スーツの上着を脱いでいるが、シャツの下には鋼のような筋肉があるのが分かった。怒らせると拳が飛んでくるのではないか?

 そう思わせる。

『は、や、く! ノウェムちゃんを待たせない!』

(どうして初代から四代目まではノウェム押しなんだよ。いや、お世話になった家の娘だというのは分かるけどさ……)

 渋々、俺は言われた職員の列に並ぶ。すると、ノウェムは意外そうな声を出した。

「あちらの職員を選ばれたのですか? ライエル様なら、処理の早い職員を選ばれると思っていました」

「うん、そうだったんだけど」

 本当ならそちらが良かった、などとは言えなかった。しかし、ノウェムは安心する。

「私もあの職員さんを薦めるつもりでしたので、丁度良かったです」

「え、そうなの?」

 ノウェムも二代目と同じ意見だったらしい。

「はい。仕事ぶりが丁寧でしたし、私たちのような登録を希望する者にしたら、丁寧な方がいいですから」

 そう言うと、二代目も納得したようだ。

『いいね。まさにその通りだ。笑顔だけ振りまいて仕事が大雑把な美人より、仕事が早くて慣れていないと分からない職員より、強面でも親切丁寧な職員を選ぶべきだよね。というか、あの美人はないわ』

 二代目がない、というので美人の列を見る。

「え~、お食事とか困りますよ~」
「いいじゃん。仕事が終わったら一緒に食事に行こうよ」
「でも~」

 笑顔で対応しているが、次の人物になると――。

「はい、こちらが報酬になります」
「あ、あの……」
「次の方どうぞ」

 顔が良く、装備も良い冒険者に対する時の態度と、装備は良いが顔は普通の冒険者では態度が明らかに違った。

 それに、普通がおの冒険者は困っている。

「待ってくれ! 報酬の額が違うじゃないか! 依頼者の評価は……」

「そんな事を言われても~」

 困った顔をしていると、後ろに並んでいた冒険者が口を出してくる。

「おい! こっちも急いでんだ。小さい金額でガタガタ言うんじゃねーよ!」

 俺はソレを見て、あの人の列には並ばないと心に決めた。

『あれはないよね。というか、顔は良いけど受付から外すべき職員だよ。あの態度だと裏でも仕事をしないような気がするけど』

 二代目の評価は厳しかった。

 受付の美人職員は、どうやら新人やナンパ目的の冒険者に人気のようだ。だが、仕事ぶりは酷い。

(選ばなくて良かったよ)

 そう思っていると、ノウェムから声がかかる。

「ライエル様、次ですよ」

「おっと」

 そして、俺の番が回ってきた。

 相手は遠くから見るよりも、近くで見ると迫力が増している。体つきが大きいのもあるが、雰囲気があった。

 まるで戦士のようだ。

『この人、元は冒険者かもね。冒険者を引退してギルドで職員をやっているなら、かなり優秀で品行方正なんだろうさ。ライエル、これからはこの人のところで受付をしなよ』

 二代目が勝手に決める中、俺は職員に冒険者登録をお願いした。

「冒険者登録をお願いします。あの、二人です」

 そう言うと、相手は理解したのか用紙を用意する。

「登録ですか。初めまして、私は【ホーキンス】と申します。分からない事があれば気兼ねなく尋ねてください。それと、お二人というならついでにパーティー登録をしましょうか」

 パーティー登録? などと思って首をかしげると、二代目より早くノウェムが反応した。

「よろしくお願いします」

 ホーキンスさんは、見た目に反してかなり丁寧な口調だった。そして、手続きを進めていく。

「冒険者登録後は、ホームとなるギルドはこのダリオン支部になります。活動する拠点を変えるときには、ギルドで異動届を出してください。それから、移動先には転入届を出し、そこでホームとして活動する手続きが必要になります。でないと、ギルドに魔物の素材などは売れても、依頼などは受けられませんから気をつけてくださいね」

 用紙に名前を書き、そして書類に不備がないかホーキンスさんが確認する。俺もノウェムも、こういった書類に記入するのは慣れている。

 実家で教え込まれるし、何よりもサインする書類などが数多くあったからだ。

「結構です。では、こちらの二枚の板に血をつけて頂けますか? こちらの針を使用してください。あ、ちゃんと消毒しているので大丈夫ですよ。さぁ、そちらのお嬢さんも」

「はい」

「ありがとうございます」

 指先に針を刺し、チクッと痛んだ。血がプクリと小さな玉を作ると、銀色の板に血を付ける。

「結構です。こちらは薬になるので血を拭き取ってからお使いください。では、この二枚にお名前を刻みます。一枚はギルドで保管しますね」

 銀色の板は、冒険者ギルドが発行する身分証を兼ねたカードだ。
通称はギルドカード。

 もしも持ち主が死亡すると、刻んだ名前が消える不思議な板らしい。他には、これまでの記録を書き込み、そして好きなときにギルドがその情報を読み込めるらしい。

 その説明を聞き、二代目は――。

『……これだけの年月が過ぎれば、便利になるものだね。俺の時はこんな道具はなかったよ? というか、値段の張る代物じゃないかな?』

 二代目の言うとおりだった。

「こちら、初回は銀貨で五枚の料金になります。ですが、支払いが無理なら今後の報酬から少しずつ……報酬の一割から二割を引いて、支払いに充てます。よろしいですか?」

 すると、ノウェムは金貨を出した。

「いえ、支払います」

「分かりました。では、ギルドカードを用意いたしますので、ソファーに座ってお待ちください」

 ホーキンスさんが、カウンターの後ろのドアへと向かうとギルドカードを持っていった。しばらくすると戻ってきて、自分は受付の仕事に戻る。

 俺とノウェムがソファーに向かい、そのまま二人で隣同士になって座ると周囲の視線を集めた。

 舌打ちや嫉妬のこもった視線を向けられる。理由は明白だ。

 隣に座るノウェムが美人だから、だ。

「思った通り丁寧で優しい方でしたね、ライエル様」

「そ、そうだね」

 ノウェムは気にした様子がない。すると、今まで黙り込んでいた初代の声がした。

『このボンクラ共がぁ! ノウェムちゃんにいやらしい視線を向けてんじゃねーぞ、ゴラァ!!』

 それに二代目も続く。

『ノウェムちゃんに何かしたら、ライエルがボコボコにするからな!』

 最後に、四代目まで出てきた。

『まぁ、基本的に俺たちが直接手を下す事はできないからね……でも、言っていて情けなくないの、二人とも? というか、あんまり暴れないでね。ライエルが倒れるから』

 苦労人オーラを出しながら、四代目が二人をなだめる。感情が高ぶり、俺に声を届けるという行動は、それだけで俺の魔力を消費するのだ。

(何もしてないのに疲れるとか……俺が貧弱みたいじゃないか)

 自分の魔力は少ないとは思っていなかった。だが、ご先祖様たちからすれば、かなり少ないようである。





「それでは、こちらがお二人のギルドカードになります。既にお二人はパーティー登録をされているので、互いのギルドカードに相手の名前が刻まれていますよ」

 ホーキンスさんに手渡されたギルドカードには、俺の名前が大きく刻まれていた。そして、小さくノウェムの名前も刻まれている。

「では、こちらはギルドの規約を記入した冊子になります。今日はもう講習はしていませんが、明日の午前には三階の会議室で新米冒険者向けの講習も開かれていますから、暇があれば覗いてみてください」

 ホーキンスさんは、受けておくべきと俺たちに言う。

「丁寧な説明、ありがとうございます」

 ノウェムがお礼を言うと、ホーキンスさんは俺たちを見て少し考え込む。

「何か?」

 俺がどうしたのかと思って聞くと、ホーキンスさんは苦笑いをした。

「いえ、私にあまり驚かれない新米冒険者は珍しいので、つい。それと、これは私個人の意見ですが――お二人とも、もしも金銭的余裕があるのでしたら、指導員を雇われてはいかがです?」

「指導員ですか?」

 ノウェムが聞き返すと、ホーキンスさんは説明する。

「えぇ。ギルドが保証する優秀な冒険者を、数ヶ月――期間は通常三ヶ月ですね。その期間を指導員として冒険者を雇うのです。契約方法は色々とありますが、報酬から支払う、または一括で事前に支払う方法があります」

 支払い方法の違いは、雇える冒険者の質に関わるらしい。

 報酬から支払う方法では、良くて中の下辺りの冒険者が指導員となる。しかし、一括で支払うなら、中堅冒険者――中の上クラスの冒険者が指導員役になってくれるらしい。

 その代わり、一括で金貨十枚を支払う必要がある。

(いや、そんな金額はないな)

 俺がそう思い、ノウェムに報酬払いの分割で指導員を雇うか尋ねようとすると――。

「では、一括でお願いします」

「……え? 一括ですか?」

 ノウェムが財布から金貨十枚を支払った。ソレを受け取ったホーキンスさんは、かなり焦った顔をしている。

 自分で言って、分割の方を選ぶと思っていたのだろう。

「ちょ、ノウェム!?」

 俺が止めようとすると、ノウェムは真剣な表情で説明してくる。

「ライエル様、冒険者ギルドが保証する実力のある冒険者に指導して貰えるのです。この機会は大切にするべきですよ。特に、私たちは冒険者というものをあまり理解していませんし」

 ノウェムの意見ももっともだと思うが、俺はそれ以上に金貨十枚を支払ったノウェムに驚いた。

 無一文で実家を追い出され、そして使用人にお金を借りている俺とは偉い違いである。

 ホーキンスさんが、再度確認をしてくる。

「では、一括で支払うという事で宜しいですね?」

「はい、お願いします。優秀な指導員をお願いしますね」

「もちろんです。不手際があれば、頂いたお金はお返ししますよ」

 自信ありげなホーキンスさんだが、俺として何も意見を言っていないのに話だけが進んでいく状況だ。
 すると――。

『なんかさ……端から見ると駄目男みたいだよね、今のライエルって』

 二代目の言葉が、かなり心に重くのしかかった。
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