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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

動物大好き効率厨な五代目

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準備

 元から準備期間が少なかった。

 それに加え、魔物が襲撃をかけている村はだいぶ前から被害を受けていたようだ。

 魔物退治の騎士団遠征。

 その義勇兵として参加を依頼された俺は、宝玉内の会議室で六名のご先祖様たちと会議をしていた。

 いかにして生き延びるのか? そして、護衛対象をどう守るのか?

 この二点を考えていた。

 冒険者としての経験も少ししかない俺にとって、今回のような依頼は初めての経験でもある。

 何しろ、自分が指揮する立場にないのが、問題をややこしくしていた。

 進行役の四代目が、黒板にこれまでの情報をまとめていく。

『騎士団の出発は明日になっていますね。護衛対象である二人の装備は一応は揃えたとして、問題はこちらの装備です。防具も武器もまったく揃っていない。食料などの消耗品は余裕があるにしても、これは実に厳しいですね』

 俺は小さく手を上げる。

 眼鏡を右手の中指で押し上げ、位置を正した四代目が睨んでくる。

『はい、駄目なライエル君』

「駄目!? 酷くないですかね? え~と、なんというか、装備も武器もあるんですけど」

 そう言うと、三代目が大笑いをする。

 俺が驚いていると、七代目が咳払いをして三代目を睨んでいた。

 やれやれ、といった表情をしながら三代目が説明してくれる。

『空を飛ぶ敵がいるのに、それに見合った装備が少ないのさ。ヒッポグリフと戦った経験は何度もあるけど、魔法で狙いを付けるのも大変だと思うよ』

 空を飛ぶ敵に対し、魔法で攻撃する事を考えていた俺に二代目が言う。

『弓矢も難しいぞ。目にでも当たれば良いかも知れないが、腕の良い奴がどれだけいるか……サーベルでなんとかしようと思ってないよな?』

 俺は魔法でどうにかするつもりだった事を、二人に説明する。

「魔法で点ではなく面の攻撃をしようと……」

 ヒッポグリフもそうだが、空を飛んでいる敵に対して点の攻撃は当てにくい。ならばどうするか?

 数で押すか、面の攻撃を行なえば良いのだ。

 それを聞いて二代目が言う。

『バーカ! 場所は? それに連携は? 指揮官が有能かどうかも分からない上に、確実に前に出してすり潰される可能性が高いのに、何をのんきなことを』

 魔法を使用する場合、巻き込まれないようにする必要がある。

 味方がいれば魔法を使用できない。

 それこそ、味方を囮にでもするつもりなら、話は違ってくる。

 五代目が溜息を吐く。

『ラルフから騎士団の装備の確認をしたな? 剣と槍で何を退治するつもりなんだか』

 騎士団の装備は、やはり剣や槍が主体だった。

 飛び道具である弓矢に弩といった武器は、セントラルの騎士は持たない。

 いや、持たない傾向にあるだけで、装備としては持っているのだろう。

 魔法という便利な飛び道具があり、そういった武器は騎士に相応しくないという風潮があったのだ。

 六代目が鼻で笑う。

『王都周辺には、大物はあまりでませんからな。ヒッポグリフの評価も低いのでしょう。たしかに、オーガよりも弱いでしょうが……空を飛ぶという脅威を低く考えすぎですな』

 七代目も同意していた。

『腕の良い連中なら、ヒッポグリフなど獲物でしかありませんからね。賊や魔物の討伐を領主に依頼する場合も多いですからな』

 俺はこの場の雰囲気がピリピリしているのを感じる。

(王都の貴族たちと、領主貴族は仲が悪いというか、なんというか……)

 俺は全員に聞いてみた。

「王都の宮廷貴族や騎士たちを、ご先祖様たちは、その――」

 そこまで言うと、二代目から順番に。

『嫌いだね』
『僕は王様も嫌いだよ』
『好きじゃないな』
『五月蝿いネズミだ』
『大っ嫌いだ』
『好きか嫌いかではないのだよ。殺意を覚える』

 だが、初代も元は宮廷騎士である。

 三男で継ぐべき宮廷官位もなかったが、宮廷貴族たちとはウォルト家も関係があった。

「え、でも、ミレイアさんが嫁いで、他にも色々と関係が……」

 そう言うと、三代目が笑顔で言うのだ。

『ライエルには良い言葉を教えようか……それはそれ、これはこれ!』

 俺が頬をヒクヒクとさせると、五代目も言う。

『ま、向こうも領主たちをよく思ってはいないだろうな。何しろ、時には互いに殺し合う立場だからな』

 七代目は真剣な表情で。

『昨日まで酒を飲んでいた相手が、今日からは敵同士……少なくはない。だが、そんな事で割り切れる世の中でもない。だから』

「それはそれ、これはこれ……ですか」

 俺が呆れていると、全員が頷いていた。

 五代目が教えてくれる。

『派閥争いをしていても、領主は利益があれば協力もする。それが互いのためになるなら、な。実際、その辺は柔軟に動くべきなんだよ。さて、話を戻すが装備も人手も数日で揃えられない。ライエルの責任だけでもない』

 地味にフォローしてくれる五代目に感謝しつつ、俺は全員の意見を聞く。

 こういった遠征で頼りになるのは二代目や三代目である。

 五代目や六代目も似たようなことをしてきたようだが、誰かの下で戦うというのはあまり経験がないようだ。

 三代目が言う。

『指揮する騎士の好みを知って、賄賂を送りたかったね』

 二代目も同意する。

『そうだな。できればマーカス辺りに持って行って貰えれば、話も早くて助かるんだけどな』

「え? 賄賂?」

 俺が流石にそれはどうかと思っていると、二人は真剣な表情で言うのだ。

『お前、本当にあれだな。良い子ちゃん過ぎる』

 呆れる二代目に、同意する三代目が笑いながら言う。

『そういう風に考えられるのは良いんだけどね。ただ……』

 ただ、三代目が笑うのを止めて真剣な表情になった。

『それで命が助かるなら、安い物だと思うけどね。しかも今回は自分たちだけじゃない。役立たず二人もオマケでついてくるんだよ。しかも護衛の依頼まで引き受けているんだ』

 マーカスさんもブレッドさんも、外に出て野営した経験もなければ魔物を倒した経験もない。

 警備の仕事を、臨時でマーカスさんがした事があるだけだった。

 二代目が言う。

『どうしても無理なら仲間を優先して、二人は見捨てろ。ノウェムちゃんが死んだりしたら、一生祟るからな』

 二人の脅しにゴクリと唾を飲み込むと、脅しが利いたと思ったのか二人は表情を崩した。

 三代目が笑いながら言う。

 二人にとって、賄賂など手段の一つだった。

 悪く言えば賄賂、という事だろう。実際は、人間関係を円滑に進めるための手段だと言ってくる。

『手段の一つだよ。お土産渡してよろしくお願いします、って事。深く考えないで良いよ。やることはやるんだし。ただ、今回の相手は微妙かもね。手柄が欲しいタイプだし』

 二代目も同意見のようだ。

『いるよな。こき使って手柄を独り占めにする奴。ま、大概最後は周囲の恨みを買って、ろくな最後じゃないけどな』

 四代目が口を挟んできた。

『二十にもなっていない騎士でしたか? 経験不足でしょうし、今回の規模を指揮した経験もないとなると、不安ですね』

 女性騎士である【ノーマ・アーネット】の事は、少しだが調べている。

 出世欲が強く、これまでも無理をしてきたために悪い噂が絶えない人物だった。

 どうしてそんな人が責任者に選ばれたのかを考えると、やはり辿り着いてしまう結末は――。

『いてもいなくても良い騎士なんだろうね。優秀でも和を乱すとか、さ』

 三代目が言うと、全員が頷いていた。

 七代目が言う。

『いますな。そういう輩は。余計な事をして周囲の恨みを買う事が多い』

 四代目が手を叩く。

『はい、話が逸れてきました。さて、それではライエルたちがいかに生き残る確率を上げるのか、考えていきましょう』

 二代目が頭をかく。

『下手に人手を増やせないからな。できればもう少しだけ時間があれば……』

 今回は義勇兵の参加を見込み、ある程度の余裕をもって物資も揃えられているという。

 ただ、俺たちはここに知り合いが少ない。

 冒険者として仕事もしていないので、同業にどんな連中がいるのかも知らなかった。

 使えない人間を連れて行く訳にもいかず、しっかりと探そうとすれば時間が足りない、という状況だ。

 三代目が言う。

『マーカスやブレッドの知り合いを集めて貰うのも良いかも知れないけど、装備すら持ってなさそうなんだよね。しかも足手まといだろうし』

 五代目が言う。

『もう少しだけ時間があれば、経験のある連中を金で雇っても良かった。ま、今回はあの二人を守る事が依頼であって、魔物を倒さなくてもいいんだが』

 六代目が言う。

『それではあの二人が納得しないでしょう。手柄を得るために焦る事もあるでしょうし、咄嗟に動けるかどうか』

 俺が口を開くと、その場の空気が微妙になる。

「あの、訓練をしていたなら、ある程度は動けますよね? 流石に駄目という事もないかと。それに、騎士なので訓練もしっかり……」

 二代目が顔に手を当てて言う。

『うん。そうなんだよ。誰もがしっかりできていれば、なんの問題もないんだよ……“しっかりしていれば”な』

 七代目が俺をフォローする。

『……ライエルは出来る子ですから。ほら、それに世間に出てまだ一年も経っていないですし。どうしてもその辺は理解できないかと』

 五代目が俺を微妙そうな表情で見ていた。

『いや、うん。お前はできると思うよ。実際、今までなんでもこなしてきたし、想像以上の成果も出している。ただ、な』

 四代目が言う。

『これは出来すぎて駄目な子だね。周囲を理解できていないよ』

 三代目も言う。

『ノウェムちゃんをはじめ、周りは出来る子ばかりだからね。駄目な子でいうと、シャノンちゃんくらい?』

 六代目がその意見に反論する。

『あの子は駄目ですが可愛いじゃないですか!』

 六代目は、ミランダさんとシャノンを贔屓している。

 俺が困っていると、二代目が言う。

『つまりだ。俺たちが言いたいのは、周りはお前が思うような賢い連中ばかりではない、って事だよ』

 その言葉が、俺にはあまり理解できなかった。





 出発を明日に控え、俺たちは全員の装備を確認していた。

 チェーンメイルを買い、武器を購入したブレッドさんは以前よりも堂々としている。

 マーカスさんも、腰に下げていた剣が新しい物に変わっていた。

 俺たちの方は、アラムサースで装備していた物の上からファーのついたローブを着ている。

 俺の装備はサーベルに弓という感じで、他は全員が普段と同じ装備である。

 全員に弓矢や弩を持たせることも考えたが、訓練している時間がない上にこれだけの人数が遠距離で攻撃する手段を持っていても上が上手く使わないと結論に至ったのだ。

 それに、人数が少ない。

 もっと人手が多いなら、弩を買い集める事も考えた。

 だが、人数が少ない上に周囲も信用できない可能性が高く、自衛できる普段の装備の方が安全という流れに――。

(魔物を倒しに行くのに、味方にも注意を払わないといけないのか)

 今回、俺はマーカスさんとブレッドさんを守るのが依頼内容だ。

 二人に危険がないようにしたいが、活躍できないのでは二人が暴走する可能性もあった。

 ブレッドさんが、俺にお礼を言ってくる。

「ありがとう、ライエル君。これでやっとスタートラインに立つことができる」

 喜んでいるブレッドさんに苦笑いを返すと、ミランダさんが不機嫌になっていた。

 理由が分からないでいると、マーカスさんも喜んでいた。

「これで見た目は整ったな。さてと、それでこの集団のリーダーだが」

 リーダー。

 そう、この集団のリーダーは俺ではない。

 身分的なものもあるが、俺はあくまでもマーカスさんやブレッドさんを守るようにサークライ家から依頼されている立場だ。

 形としてはマーカスさんに雇われた形で参加する形である。

 ブレッドさんの表情は、笑顔から一気に不機嫌なものになる。

「身分的には貴方でしょうね。ですが、私は貴方の下につくつもりはありません」

「……おい、お前一人で行動するつもりか?」

 マーカスさんの表情も真剣なものになると、それを見ていたドレスを着た二人組――。

 ドリスさんとルーシーさんが口を挟んでくる。

「リーダーならブレッドでしょう! 貴方たち、誰の下につくつもりだったの! お父様の指示でしょう。なら、サークライ家の関係者であるブレッドに従いなさいよ!」

 俺たちを睨み付けるドリスさん。

 そして、ルーシーさんは。

「騎士でもない使用人に、なんでマーカスが従わないといけないのよ! 従うならマーカスに従ってよね!」

 俺から言わせて貰えれば、どちらも経験不足で頼りない。

(いや、協力しないと手柄も立てられないんだけど)

 この場は協力する、という事が出来ないようだ。

 すると、ミランダさんが手を叩く。

 周囲の視線が集まると、テキパキと指示を出していく。

「表向きはマーカスさんがリーダーで、実質はライエルの指示で動きます。嫌なら参加はしないで貰うわよ」

 すると、ブレッドさんがミランダさんの前に出る。

「お嬢様、それは納得が――」

 納得が出来ない。

 年下だからか、それとも自分がリーダーになりたいのか。

 ただ、ミランダさんは睨み付けていた。

「自分でも武具も揃えられない。戦ったこともない。ましてや王都から出るのはこれがはじめてよね? そんな人間の指示に従えないのよ」

 ノウェムも同意する。

「ですね。表向きはマーカスさんをリーダーにして、その下にブレッドさんが宜しいかと。騎士であるマーカスさんが率いる分には、何も問題がありません。逆ではちょっと……」

 使用人が騎士を率いるのは、周りも納得しないだろう。

 そういう社会で生きており、実際にマーカスさんと同じような立場の騎士も多い。

 ブレッドさんが、決意のこもった表情で言う。

「でしたら、自分は一人で――」

「その武具のお金を出したのは誰? 勝手に死なれても困るから言っているのよ。借金の保証人はお父様よ。そのお父様に……サークライ家の当主に貴方たちの護衛を頼まれているの。勝手に動くなら参加自体を止めて貰う事になるわ。それが嫌なら、装備を置いて身一つで参加するのね」

 厳しいことを言うミランダさんに、マーカスさんも表情が引きつっていた。

 小声で俺に言う。

「なぁ、サークライ家の長女は優しいとか聞いたんだが?」

 俺は頬をかきながら言うのだ。

「え、いや……や、優しいですよ」

 宝玉の中から、三代目の声が聞こえる。

『確かに優しいね。ライエルやシャノンちゃんには、って感じだけど』

 不満そうにしているのは、ドリスさんやルーシーさんも同じだった。

 そんな二人に、ミランダさんが言う。

「偉そうなことを言うなら、全額出してから言うのね。恋人を死地に追いやっているのを理解しなさい」

 ドリスさんが言い返してきた。

「何よ! 騎士団の遠征じゃない。それに、ブレッドはこうでもしないと一代限りの騎士にもなれないのよ! そこの不良みたいな奴と違うの!」

 マーカスさんが頭をかいて気まずそうにしていた。

 自分でも見た目が不良っぽいというのは自覚しているのだろう。

 どうにも、雰囲気が軽く感じられる。

 ルーシーさんも参加する。

「マーカスは立派な騎士よ! 使用人風情と一緒にしないで!」

 そして、ルーシーさんは俺を見て言う。

「私、知っているのよ。そこの男が元は伯爵家の跡取りで、出来が悪くて追い出されたのを。お姉様にはお似合いよね。落ちぶれた者同士」

 痛いところを突くと思いつつ、俺はブレッドさんの視線を見た。

 そこには、今までにない何か薄暗いものを感じる。

(こんな面子で魔物退治をしないといけないのか。難易度高いな)

 これなら自分たちだけで参加する方がかなりマシである。

 だが、依頼を受けてしまったので仕方がない。

(考えが甘かったな)

 すると、ミランダさんがルーシーさんの頬を平手打ちした。

 宝玉から声が聞こえる。

 三代目だ。

『愛されているね、ライエルは』

 地面に倒れたルーシーさんに近づいたミランダさん。

 近くで見ていた使用人たちが、オロオロとしていた。

 家を追い出されたとは言え、元はサークライ家の長女である。

 一人が屋敷に走って行くと、止めに入る声が聞こえてきた。

「お、お嬢様、それ以上は」

「黙りなさい! ルーシー、私はもうサークライ家と関わりはないわ。家を追い出されたからね。でも、自分の恋人が死地に向かう上に、その護衛に言って良いことと悪いことの判断もつかないわけ?」

 ドリスさんは、ブレッドさんの後ろに隠れていた。

 怒ったミランダさんを見たことがなかったのだろう。

 ルーシーさんも怯えている。

「で、でも、騎士団の遠征で――」

「……お父様に聞いてきなさい。安全なら、私たちに依頼なんかしないわよ」

 そうして、ミランダさんは俺たちに振り返った。

「私たちの代表は、表向きはマーカスにするわ。騎士だから問題ないし、ブレッドも戦った経験もないでしょう。嫌なら置いて行くわ。武具も没収よ」

 マーカスさんとブレッドさんが渋々頷くと、そのままミランダさんが場を仕切る。

「ほら、あんたら二人は邪魔だからどっか行って」

 妹二人を追い返し、明日からの遠征について話し合うことになった。

 四代目が言う。

『ライエル、本当はお前が仕切らないといけないんだからね』

 自分でも分かっていたが、ミランダさんの勢いに押されて口出しできなかったのだ。

(つ、次から気をつけます)





 ――出発の日。

 王都では遠征部隊が出発の準備をしていた。

 騎士である【ノーマ・アーネット】は、青い瞳で集まってくる義勇兵を見る。

 肩に掛からない辺りで切りそろえたサラサラした茶髪が、風で揺れる。

「やはり寒いな」

 副官である騎士が、ノーマに同意した。

「予想よりも大勢集まってきています。食料もですが、薪は足りないかも知れませんね。途中で集めさせましょう」

 中年男性で、チョビ髭を生やした副官を見る。

「移動速度が落ちる。節約すれば問題ない」

「で、ですが、この寒さでは流石に」

 自分よりも年上なのに、出世も出来ない男が副官だった。

 名前は【クラーク・アッシャー】。

 額が広がっており、それを隠すために前髪を伸ばしていた。茶色の髪に黒い瞳で、小柄で小太りの騎士だった。

(そんな事だから出世できないんだよ、お前は……こんな騎士を副官にして、上は何を考えているんだ)

 持っている武器も弩である。

 腰に剣は下げているが、魔物退治でヒッポグリフと聞くと弩を騎士団の管理する倉庫から持ち出してきたのだ。

 ノーマは、そういった勝手な行動をする副官が嫌いだった。

「義勇兵などに構っていられるか。数が足りないから提案されただけだ」

 そう言われ、クラークは肩を落とす。

「……義勇兵の数を確認してきます」

 その場から去るクラークを見て、ノーマは鼻で笑う。

 立っている姿は鎧も着ており絵になるが、どこか刺々しい印象のある女性だった。

 周囲の兵士たちを見る。

(今回の遠征でなんとして手柄を挙げねば。だが、義勇兵が多いな。手柄を挙げられる者たちがいるとも思えないが)

 騎士団に所属しており、腕にも自信のあるノーマ。

 彼女が出発の時間が来るのを待っていると、急に騒がしくなる。

「なんだ。いったいなに……が」

 視線の先には、鉄の塊がこちらに向かってきていた。

 前の方には装備も揃えている二人と、軽装の男女がいた。

 騒がしい兵士や義勇兵を押しのけ、クラークが走ってくる。

「ノーマ隊長、参加の申請をしていたマーカス・カニングです。冒険者を雇ったようで、アレは冒険者たちの荷馬車のようなものだと」

 ノーマはクラークに呆れる。

「どこに馬がいる? しっかり確認してこないか!」

「いえ、ただ本人たちが言うには、アレはゴーレムだとか、ポーターと呼んでおり、実際に馬はいないのですが荷運びに使用しているのは間違いなく……」

 ノーマは、ここに来て混乱するのを避けたかった。

 ただ、急いでいるにしても身なりも整っており、追い返しては戦力的に不安になってくる。

 義勇兵の中には、まともな装備をしていない連中もいるのだ。

「ちっ、もういい! 確認が取れたなら出発する。今から参加を申し込んできた連中は、武具が揃っていないなら追い返せ!」

 クラークは嫌味を言う。

「ノーマ隊長、普通は事前に確認をしなくてはいけません。私も急に副官として参加する事になりましたが、前から分かっていたならもっと準備を――」

「私はそんな雑事に構っていられない! さっさと出発の準備を始めろ」

 クラークを追い払うと、ノーマは自分の馬がいる場所に向かう。

 そこには騎士たちが自分の部下たちと話をしていた。

 ノーマが来ると、会話を止める。

(弛みすぎだ。どうして私の部下にはこんな連中しか……)

 今回の任務で指揮する立場になり、ノーマは自分なりに色々と手を打とうとした。

 格上の子爵の屋敷まで行き、そこで予算についてどうにかならないか相談までしていたのだ。

 結果的に、多少は増額できても義勇兵の数が増えて物資に困った状態だ。

(魔法の使える騎士も揃えた。後は向こうでヒッポグリフをなんとかすればいい)

 誰かの下で働く事が多かったのだが、今日は自分が指揮官だった。

 しばらくして、クラークが走ってくる。

「ノーマ隊長。装備が揃っていない者が多すぎます。ここは追い返して準備を――」

「くどいぞ、クラーク!」

 年下の女性騎士に怒鳴られるクラークを見て、周囲の若い騎士たちがニヤニヤとしていた。

 クラークは、黙って従う事にしたのか自分の馬へと向かう。

 準備が整った事を確認し、ノーマは言う。

「これより、ジオニ村へヒッポグリフ討伐に向かう!」

 王都の大きな門を、装備も満足に揃えられない集団を抱えくぐっていくノーマだった――。
+注意+
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