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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

動物大好き効率厨な五代目

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護衛対象

 狭い路地を歩く俺は、メモを見て確認する。

「ここか」

 明るいはずなのに、建物が太陽の光を遮って薄暗く感じた。

 ラルフさんから貰ったメモには【マーカス・カニング】という名前が書かれている。

 サークライ家の三女に気に入られ、婿にしようと画策された男だ。

 もっとも、その画策は前提から間違っているわけだが。

「功績を以て官位を上げようとしたら、それが人員調整だとは……確かに、寝覚めは悪いな」

 最初からある程度の被害を想定した『ジオニ村への派遣』は、義勇兵と聞いてわずかばかりのチャンスを掴もうとする末端の貴族たちを減らすことが目的である。

 貴族と言っても、特に宮廷騎士という者たちは生活が苦しい。

 爵位を持たない者たちは、家族が慎ましく暮らす程度の年金しか貰えない。

 働けば違うのだろうが、その仕事を奪い合っているのが今の王都であるセントラルの現状だった。

 宝玉の中から文句が聞こえてくる。

 二代目だ。

『派遣して失敗しても、今度は本命を送って無事に解決、ってか? 後で活躍した連中でも持ち上げるんだろうさ』

 周囲を見て、誰もいない事を確認した。

 俺は口を開く。

「それって、失敗する方が色々と問題があるような……」

 答えたのは六代目だった。

『色々とあるんだ。派閥争いに役職の奪い合い、それに巻き込まれたのだろうな』

 貴族が増えすぎた、というのが本当なのだろう。

 大きな戦争がここ数十年で起きていないのも、問題だという。

 七代目が言う。

『バンセイムは大きくなりすぎました。だがな、ライエル……そんな大国でも、支えていける人口というのは決まっているのだよ。貴族も同じだ。抱えていける数は決まっている』

 決まってはいるのだろうが、何か功績を挙げれば騎士に取り立てる、あるいは褒美を与えねばならない。

 二代目が言う。

『開拓させろよ! なんだよ、あのスラム……あれだけの人数がいれば、村の一つや二つはすぐに出来上がるだろうが!』

 来る途中、王都のスラムというのを見る機会があった。

 人で溢れ、通りには物乞いまでいる。

 四代目が言う。

『獣に賊、それに魔物……小さな村は、すぐに滅んでしまう可能性が高いですからね。投資をする方もためらいますよ』

 魔法を使用すれば確かに早く村は出来上がるが、今度はその維持が難しい。

 魔法使いをその村にずっと置いておくというのも、金がかかるのである。

 村の開発が可能な魔法使いは、土や水系統の属性が得意である。

 それを活かして村の基礎を作るのだが――。

(今回のように、厄介な魔物が出るとすぐに滅んでしまう、と)

 そのために騎士団が派遣され、冒険者や傭兵が飯を食える。

 俺は溜息を吐くと、ドアに書いてある番号と表札を確認してノックをおこなった。

『は~い』

 間延びした声でドアを開けたのは、オレンジ色の短髪を逆立てた不良っぽい青年である。

 真面目には見えない。

 垂れ目で俺の方を見てくると、用件を待っているようだ。

 背も高く、顔立ちも整っており少し不良という青年――。

「マーカスさんですか?」

 相手は、頭をかく。

「そうだけど? 俺に何の用だ? いや、ですか?」

 俺の服装を見てボンボンと思ったのだろう。

 言葉遣いを気にしているようだ。

 世話になっているサークライ家で、ラフな恰好もできないので割と良い服を着て彼のアパートを訪ねた。

「冒険者です。まぁ、サークライ家からの依頼で訪ねたんですけどね」

 そう言うと、マーカスさんが言う。

「……なんだ? 義勇兵の事なら引く気はねーからな。こっちは少しでも官位を上げておくか、定職に就きたいんだ。末端の気持ちなんか、あのオッサンには分からねーだろうがよ」

 オッサンとは、ラルフさんの事だろう。

 三代目が関係ないことを言ってくる。

『……箱入り娘とか、お嬢様とかさ。なんかこう不良っぽいのに恋することがあるよね』

 官位――宮廷騎士たちにとっては、一つ違うだけ年金が大きく変わってくる。

 毎年のように支給される年金は、彼らにとって貴重な収入源だ。

 四代目が言う。

『働こうとするだけ意欲はあるね』

 五代目も同意だ。

『俺らから言わせると、面子を気にしないで王宮からの仕事以外でもやればいいと思うんだがね』

 その辺の事情を知らない俺は、マーカスさんに言う。

「義勇兵の事で依頼は受けましたけど、俺は主に貴方たちの部下という形ですけどね」

「部下? どういう事だ?」

 マーカスさんが食いつくと、俺は手紙を渡す。

 ラルフさんからの手紙だ。

 そこには、冒険者である俺に依頼をしたことが書かれている。

 マーカスさんの顔が笑みになる。

「やってくれるね、子爵様も! これで個人参加じゃなくなる分、俺も目立てる、って訳だ!」

 嬉しそうなマーカスさんを見て、俺は苦笑いをしてごまかした。

 よく分からないが、人がいなければ雇えば良いのではないか?

 知り合いの伝を当たるなど、色々と方法があると思う。

 すると、七代目が言う。

『ふむ、今回のあのネズミ野郎の依頼は、ライエルのためにもなるかも知れませんな』

 五代目が同意していた。

『持つ者と持たざる者、ってか? まぁ、この場合は少し違うだろうが。確かに、今のライエルには必要だろうな』

 俺に足りないものがあるのかと思っていると、肩をバンバンと叩かれた。

「なんだよ、七人でパーティーなのか? これなら小隊規模で俺としても大歓迎だ!」

 手紙には俺の事も書かれており、挨拶として今日は面会したのだ。

 出発は五日後とあって、準備などで忙しいのである。

「あの、痛いです」

「おっと、悪いな。で、今日は挨拶に来たのか?」

「いえ、明日の予定を聞こうと思いまして。装備を持ってサークライ家の屋敷に来て貰う事になります。そこで色々と確認をしないといけませんから」

 マーカスさんが微妙な表情になる。

「屋敷に? そうなるとブレッドの野郎もいるのか……」

 マーカスさんの言う【ブレッド・バンパー】は、サークライ家で使用人というか男手として力仕事をしている。

 彼の父が宮廷騎士として一代限りの官位を持っていたが、それを引き継げない上に三男だったようで使用人として働いている。

 俺は聞いてみた。

「苦手なんですか?」

 マーカスさんが頷く。

「こう、絡んでくると言うか、俺に対して嫉妬かな? こっちは世襲貴族だから、色々と思うところがあるんだろうさ」

 ブレッドさんにも会ってはいるが、その時はあまり会話などしなかった。

(……別に貴族にこだわる必要はない気がするんだけど)

 マーカスさんが言う。

「と言うことはアレか? ブレッドの野郎も一緒に参加する、と?」

 俺は頷いた。

「えぇ、そう聞いています。なので、打ち合わせを行なおうと思いまして」

 実際、今の内に色々と把握していないと、今回の遠征は非常にまずかった。

 少しでも二人の無事を考えるなら、準備を済ませておく必要がある。

「分かった。文句を言える立場じゃないからな。それで、お前の名前は……」

「ライエルです」

 苗字は名乗らなかった。

「そうか、よろしくな」

 見た目は不良っぽいが、割と気さくな人だと俺は思うのだった。





 ――サークライ家の屋敷。

 ミランダは廊下を歩いているが、不機嫌だった。

「あのクソ親父……」

 原因はミランダの父である。

 ライエルに対し、試すような事をしたのが腹立たしかったのだ。

 隣を歩いているシャノンは、ゲンナリしている。

「なんで私まで遠征に参加するのよ。実家でノンビリしたいのに」

 ミランダが言う。

「なら、一人だけ置いて行くから、あの二人にネチネチ嫌味でも言われるのね。今なら手を出してくるかも知れないわよ」

 脅すように言うミランダだが、その可能性が低くないと知っていた。

 実家に戻ってきた自分たちを、妹たちは歓迎していないのが理解できている。

「どっちも嫌よ。私はもっと優雅に生活したかったのに」

 ミランダは溜息を吐くと、廊下にある窓を見る。

 そこにはドリスが、背の高い黒髪の青年と話をしていた。

 真面目そうな青年は【ブレッド・バンパー】である。

 自分たちと入れ違いで屋敷に来たブレッドは、貴族でもない三男坊だった。

 読み書きや計算ができ、剣の腕もあって屋敷に住み込みで働いている。

「どうしたの? あぁ、ドリスお姉様ね。部屋から出て珍しいわ」

 シャノンが馬鹿にしたように笑うのを、ミランダも同意する。同意はするが――。

(あんたも同じで部屋からあまり出なかったけどね)

「そうね。良い傾向ね」

 そして、二人が別れるとシャノンはそれを見て言う。

「……あの男、なんかドリス姉様を利用しようとしているわね。気持ちがあんまりこもっていないというか。恋人には見えないわ」

 ミランダもそれを感じていた。

 窓から見ている二人の視線に気が付いたのか、ブレッドは笑顔を向けて軽く会釈してその場を去る。

 背も高く顔も悪くない。

 だが、ミランダも気が付いていた。

「野心が強い顔をしているわね。ドリスに近づいたのも、貴族になるためかしら」

 シャノンが言う。

「多少はできるみたいだけど、実力はライエル以下って……手柄を立てるとか無理じゃない?」

 ミランダは溜息を吐く。

「ライエルと比べないの。次元が違うわよ」

 剣も魔法も使いこなし、幾つものスキルを同時に使用して一年もしない内にライエルは冒険者として中堅クラスの入口にさしかかっている。

 才能が違いすぎる。

 そんなライエルを追い出すウォルト家には首をかしげたくなるが、セレスがいるという時点で納得もできた。

(まったく……分かっていて、試すような事をして)

 そんなライエルの事を知っていて、ラルフが今回の依頼を行なったのをミランダは後になって聞かされている。

 ライエルがどう動くのかを、ラルフが確認したかったのだ。

 そして、今回の依頼をどう達成するのかも。

 調べ上げていたのは事実のようで、ライエルが冒険者として優秀であるのは知っていたようだ。

 腹立たしいミランダは、そのせいで朝から機嫌が悪い。

(世の中に絶対なんてないのよ。それなのに、危険な依頼を出すなんて)

 言いたいこともあったのだが、ミランダは時間もないとあって準備を急ぐ事にした――。





 ――モニカは、屋敷の裏庭でポーターを改造していた。

 その様子を見ているのはクラーラだ。

 クラーラは屋敷の雰囲気に馴染めず、裏庭でモニカと話をしている。

「ポーターを外でも使用しますか? あまり速度は出ませんよ」

 クラーラの問いに、モニカは言う。

「チキン野郎と私の愛の結晶が、その辺の荷馬車にも劣るとでも? どうせ全員が馬には乗れないのなら、徒歩なのでポーターでも安心ですよ。荷物も詰め込めますし、何よりもこの装甲です!」

 拳でポーターをコツンと叩くモニカは言う。

「魔物の牙や爪など、恐れる必要はないのですよ! しかも悪路でも揺れませんからね!」

 ポーターを自慢するモニカを見て、クラーラも拍手をする。

「確かに徒歩で移動が多いとなると、ポーターも大活躍ですね。連結馬車は道が整備されていないと使えませんし」

 モニカはクラーラの言葉を聞いて頷くが、首をかしげる。

「それよりクラーラさん、分からないことがあるのですが?」

「何か?」

「村が襲撃されているのなら、騎士や兵士を先に送り込むべきではありませんか? 随分とノンビリしているように見えますが? 被害は出ているのでしょう?」

 モニカは、こうしている間にも被害が出ているのに、先に現地に人を送り込まないのを不思議に思っていた。

 クラーラは眼鏡を外して「詳しくは知りません」と前置きをする。

「……小さな村ですので、優先順位が低いと考えています。こういう言い方は嫌いですが、失っても王都にとって痛手ではないのかも知れませんね」

 それを聞いてモニカが言う。

「弱者に厳しい世界のようですね」

 ポーターの改造に取りかかるモニカは、実質四日程度の間に終わらせる必用もあって急いで作業に取りかかる。

 夜になれば作業ができないので、限られた時間で計画通りに進める必要があった。

 苦情が来るからである。

 クラーラが「あっ」と呟くと、モニカは手を止める。

「何か?」

 大股で歩いてきたのは、緑色のストレートロングの髪を揺らして現われたルーシーだった。

 屋敷の使用人を連れている。

「何か? じゃないわよ! 誰の屋敷で騒いでいるのよ。キーキー、ジージーとか五月蝿いったらないわ!」

 座っていたクラーラが立ち上がると、それを見てルーシーが言う。

「メイドを連れてどこの家の人間かと思えば、追い出されたウォルト家の人間で冒険者まで連れて……あいつには相応しいわ」

 モニカは言う。

「そうですか。それは良かったですね。ただ、ここでの作業は既に当主であるラルフ様の使用許可を頂いております。誰の屋敷かと言われると、ラルフ様のものかと? ……それで、何を言いに来たのですか?」

 アワアワとクラーラがモニカを止めようとするが、基本的にモニカはライエルのメイド型オートマトンである。

 今では国も失い、製造元もなくなってしまった。

 つまり、自分自身がルールである。

「五月蝿いって言っているのが分からないの!」

 ルーシーの言葉に鼻で笑う。

「だから? と、先程から言っております。使用許可は貰っていますし、何よりもこれは貴方の恋人であるマーカスさんでしたか? その人のためにもなるので、足を引っ張らないで頂きたいですね」

 仕事が間に合わなくなると言いだし、モニカはそのまま作業を再開する。

 ルーシーは、マーカスの名前を出されると使用人を引き連れてその場から去って行った。

 クラーラが言う。

「良いんですか? サークライ家のお嬢様なんですけど」

 鼻で笑うモニカは、クラーラに言う。

「誰のせいでこんな状況にいるとでも? 少しは大人しくして頂きたいですね。邪魔までされたら迷惑で仕方ありません」

 座り込んだクラーラは、モニカに言う。

「前から思っていましたけど、モニカさんはライエルさん以外に態度が冷たいですよね」

 言われたモニカは当然のように言う。

「え、何か問題でも?」

「……いえ、何でもないです」

 クラーラが本を読み出すと、モニカは作業を進めるのだった――。
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