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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

初代様は蛮族

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ダリオン

 行商人に言われたとおり、都市から王都行きの馬車に乗り込んだ。

 街道が整備され、連結された馬車を六頭もの馬が引く。乗り心地は悪くないが、やはり王都までとなると料金が高かったらしい。

 一人につき銀貨五枚という金額だ。

 俺とノウェムで金貨一枚分の出費になる。

 座って景色を見ながら、俺は隣を見た。

 疲れているのか、ノウェムは熟睡している。俺の方にもたれかかり、静かに寝息を立てていた。

(無理させたのかな)

 自分が不甲斐なくなるが、ノウェムがいたからここまで来られた。そうでなければ、俺は一人でもたついていたか、どこかで徒歩でダリオンを目指していたかも知れない。

 野営などした事がない俺は、ご先祖様たちが言うには一人旅など論外らしい。漠然と大丈夫と思っていたのだが、その認識の甘さに全員が呆れていた。

 流石に、七代目の祖父も今回ばかりは庇ってくれなかった。

 ノウェムを起こさないように、俺は周囲に視線を向ける。

 すると、二代目の声が聞こえる。

 今日は二代目が俺の面倒を見る日らしい。

 どういう基準か分からないが、旅をしている間は、初代か二代目、そして四代目が俺と会話する事になっていた。

 魔力の問題もあり、同時に二人が会話すると疲れが出てくる。そのため、一人がこうして俺に語りかけてくるのだ。

『今は便利なものがあるね。俺の時はこんな連結式の馬車なんかなかったよ』

 俺は、小声で答える。

「そうなんですか?」

『二百年近く前になるからね。魔具だっけ? そんな便利なものもなかったし』

 魔具は、玉の代わりになるために作られた簡易のスキル保有を可能とした道具だ。ただし、玉が強すぎるのか、魔具を複数持つのは不可能である。

 一つか二つまで。

 しかし、俺は魔力の問題もあって、魔具を持つ事が出来ない。ご先祖様たちのスキルもそうだが、今の俺にはかなりの負担であるようだ。

 使えないスキルの方が多いのである。

 というか……七代目のスキルは、俺自身が耐えきれないので使えない。二代目のスキルは、他のスキルと汎用するタイプだ。

 初代に関しては、俺を認めていないためにスキルを使用させてくれない。

 他のスキルも同様だ。俺が耐えきれないからと、使用許可が降りない。

(まったく使えない状態じゃないか)

「しかし、途中で宿泊する場所に泊まるとしても銀貨五枚は高いんですか?」

 俺は金銭感覚が明らかにおかしいらしい。五代目以降は、本当に貴族として暮らしているために、一般人の金銭感覚ではない。

 それは武器を選んでいた時もそうだった。

 五代目以降は、高いのを長く使えばコストパフォーマンスが良いと、俺に高価な剣を勧めてくる。

 だが、元から持っている所持金を考慮すると、それは不可能だった。購入は出来るが、これからの旅がきついと二代目や四代目に却下されたのだ。

『むしろ安いだろうね。王都まで安全、そして宿泊施設も確保して銀貨五枚だよ? 俺なら喜ぶね。ま、客を大量に用意して、そこで利益が出るようにしているんだろうけどさ』

 銀貨五枚は、一般人にしてみれば高額だ。

 しかし、安全に旅が出来るからと、利用している客は多かった。

『便利な時代になったものだよ』

 そう言って、二代目は黙り込んでしまう。俺は、宝玉を手にとると覗き込む。青い宝玉は、代々ウォルト家が受け継いできた宝だ。

 それが今、俺の手元にあるのは大丈夫なのだろうか?

(問題にならないかな?)

 そう思っていると、隣でもたれかかるノウェムが少し動いた。首飾りになっている宝玉を服の下にしまい込む。

 だが、ノウェムは起きなかった。

「しかし、これから五日間は移動だけの日々か」

 周囲では馬に乗った護衛が馬車の警備をしている。ソレを見て、他の客は安心しているようだった。

 だが、ご先祖様たちに言わせると護衛たちの腕はそこまで高くないらしい。昔はもっと腕利きの護衛がいた、などと『自分たちの時代は凄かった』自慢を繰り広げた。

(俺たちの時代は、とか言う辺りがどうにも、ね)

 俺もノウェムのように眠る事にした。





 五日後の夜。

 連結馬車の終着点である王都に到着した俺たちは、夕方という事もあって先に宿屋を探す事にした。

 夜になってからでは面倒だし、何よりも移動の旅で体に疲れが溜まる。慣れない環境は、それだけで大変だ。

 少し休むべきと――ご先祖様たちが、ノウェムのために提案してきた。

「ライエル様、宜しかったのですか? 少し値の張る宿ですよ」

 目の前には、今までと違って個室に風呂のある部屋を完備した宿屋がある。

 外見もバイセム王国の首都である【セントラル】だけあって、非常に綺麗だった。

 これまで通過してきた町や村とは、雰囲気が違っている。

「今日くらいはゆっくりしよう。旅の疲れを癒すのも大事だからな(というか、そうしないとご先祖様たちが五月蝿いんだよね)」

 主に初代から四代目は、ノウェムにかなり気を使っている。

 ノウェムの実家であるフォクスズ家に、それぞれがかなり世話になっているためだ。

 初代は開拓村を起こした際に助けて貰い、二代目は後を継いでから領地経営のノウハウ、更には嫁探しにも協力して貰っている。

 三代目も、陞爵で慌ただしいところを手伝って貰ったらしい。

 そして、四代目は三代目が戦死し、まだ若い時に地位を継いだ上に三代目の功績で陞爵して男爵になってしまった。

 その時、影ながら支えてくれたのがフォクスズ家であるという。

 つまりだ!

(俺の実家であるウォルト家は、フォクスズ家なしにはあそこまで発展しなかった、と……それなのに、今では家臣化で恩も返せていないとか)

 ノウェムには直接関係ないだろうが、頭が下がる思いだ。

 もっとも、それも五代目以降だと考え方がガラリと変わる。

 長く付き合いがあるので、それなりに恩に報いたという認識なのだ。ただ、それを初代から四代目は、直接の恩があるので納得していない。

(というか、そこまでされてきて血の繋がりがないとか……)

 色々と事情があったのだろうが、とにかく関係の深いウォルト家とフォクスズ家は、今まで血の繋がりがなかった。

 普通、ここまで付き合いがあれば、一人や二人は両家から結婚している人物がいてもおかしくないはずだ。

(何やってんだろう、俺の実家……というか、ご先祖様たち)

 会議室での会話を聞く限り、どこか致命的に抜けている気がする。

 初代など、伝え聞いている限りでは未開の地を切り開いたウォルト家の祖だ。なのに、現実は獣の毛皮を着込んだ蛮族かと見間違うような男である。

「お気遣いありがとうございます。では、参りましょうか」

「うん」

 宿屋に入ると、入口の先にカウンターが見えた。

 綺麗にしており、魔石を使用した魔道具で室内は明るい。

 カウンターの店員が、俺たちに「いらっしゃいませ」と告げてくる。

「お泊まりですか?」

「あぁ」

 受け答えも丁寧だ。

 久しぶりにゆっくりと休む事が出来る。俺はそう思っていた。





『零点』

 久しぶりにフカフカのベッドで寝ていたと思えば、会議室に呼び出された。

 しかし、そこには初代しかいない。

 出会い頭に採点をされ、しかも零点と言われた俺はなんと帰して良いのか分からなかった。ので――。

「そうですか……帰って良いですか?」

『なんでそんなに張り合いがないんだよ! お行儀良すぎてつまんねーよ!』

 どう返しても怒られるのではないだろうか?

 そう思いつつ、俺は初代の話を聞く事にした。

「というかどうしたんですか? 俺は明日に備えて休みたいんですけど」

『分かってる! ただ、どうしてもお前に伝えておく事があるんだよ』

 真剣な初代が、前回の怪物発言をもう一度口にする。

 俺は嫌そうな顔をしたが、初代は真剣だった。真剣に、俺に初代の前――王国が誕生する時代の話を語るのだった。

『俺が生まれたのは王国歴でいう五十年頃だ。その時はまだ、国内で激しく戦った時の生き残りがいたんだよ』

「……はぁ、そうですか」

『俺が住んでいた所にも、当時は王族派、貴族派に別れて激しく戦った兵士がいてな。その爺さん連中に良く言われたんだが……当時は、なんであんなに言われるまま戦ったのか分からない、っていうんだぜ』

 俺は三百年続く王国の歴史を思い出す。教育の一環で王国の事を学ぶのだが、その中で国の成り立ちが内乱だった。

 当時、王国がかなり腐敗していたらしく、それに我慢できなかった地方貴族が内乱を起こして作ったのが【バンセイム王国】である。

「熱が冷めたんじゃないですか?」

『俺もそう思ったよ。けどな、その兵士の爺様たちが言うには、まるで夢でも見ていたようだ、っていうんだ。それに、当時は王族派に偉い美人がいたらしい』

 傾国の美女という奴だろう。

 もっとも、そんなのは話の中の存在で、周囲の状況もあって戦争が起こったというのが今の見解だ。

 起こるべくして起こった内乱だ、と教えられている。

 確かに、一人の美しい女性が政治を自由にしていた時期があるにはあるらしい。

 だが、そんな美人がいたからといって、まともな国なら政治を好きにできるなどあり得ない。

 元から国の中枢が腐っていたのだ。

「傾国の美女なら俺も聞きましたよ。けど、それってきっかけの一つですよね?」

『違うな。本当にいるんだぜ。時代の節目、って言えばいいのか? そういう時代には怪物たちが出てくるんだよ。奴らは魔物なんかよりよっぽど質が悪い』

 初代が、真剣な表情のまま、俺に当時の話を聞かせてくれた。

『お前らは与太話だと思うだろうが、本気で狂っていた時代だぞ。俺の祖父母もあの時代は不思議な事が多すぎた、っていうくらいだ。自分たちでも信じられなかったんだよ。それを引き起こしたのが――』

「……怪物ですか?」

『そうだ! 国を傾けた傾国の美女! 万の軍勢を破った万夫不当の将! 島を浮かせた魔法使い! そいつらみんなが時代の節目に現われやがる。お前の妹はその怪物だよ。まさか、俺の血筋から怪物が生まれるとはな』

「ま、まさか」

 俺が信じないでいると、初代は俺に言ってくる。

『なら可愛い息子を遠ざけるか? お前は腐っても次期当主だった男だ。それなりの扱いがあるだろうが。気に入らないなら指図して改めさせるのが普通だ。それに、最低限の扱いは受けていたのも運が良い』

「運?」

『そうだよ。お前さ、殺されていてもおかしくない状況じゃね? 気に入らないから追い出すより、病と偽って殺した方が楽だろうが』

 言われて衝撃を受ける。確かに、俺は必要最低限の環境にはいた。もっとも、誰も俺を見ない環境だが。

 そして、言われて始めて殺されなかった事が不思議に思う。セレスにしても、俺を憎んでいると思うほどの扱いだった。

『自覚が出てきたか? お前、それを不思議とも思わなかっただろ。そう思わせるだけの魅力って言うの? 環境すらねじ曲げるのが怪物だよ。良く生きていたな。両親がそれだけ愛していて、怪物に抵抗していたのかも知れないぞ』

 環境すら変えてしまう怪物――それがセレスだと、初代は結論づけた。

『奴らに常識なんてものはねーし、もしかしたら気まぐれにお前を追い出しただけかも知れない。怪物の気持ちなんて分からねーが、奴らは実在する』

 時代の節目に現われる怪物たち。

 初代の言葉に俺は少し呑まれた。自分がセレスで経験していただけに、笑い飛ばす事が出来なかった。

「じゃあ……セレスが全部の原因ですか? 俺は悪くなかった?」

『それは知らん。俺が知っているお前は、世間知らずでオヤッサンの子孫に迷惑をかけるお坊ちゃん育ちのボンボンだからな。というか、セレスという娘も俺は知らん。こうして話せるようになったのは、お前がスキルを発現した時からだ』

「そ、そうですか」

 言い返せない事が続いただけに、俺は黙り込んでしまう。すると、初代が俺に言うのだった。

『お前、これからどうするつもりだ?』

「え? いや……冒険者になりますけど」

『ちげーよ! これから国が荒れるかも知れないって時に、荒れるのが分かってどう行動するのか、って聞いてんだよ! お前にはあのノウェムちゃんの人生もかかってんだぞ! 下手な事したらぶっ飛ばすからな』

 今日は色々と自分が考えていない事が分かった。

 なんとかなると思っていたが、今の俺にはノウェムという存在がいる。勝手についてきただけとも言えるが、見捨てるなど出来ない相談だ。

「お、俺は……」

『……お前はもう少し自分で考えろ。見ていてイライラする』

 そう言って初代が自分の部屋へと向かってドアを開け、そして力一杯に閉めた。会議室で取り残された俺は、しばらくどうしたらいいのか考えるのだった。





「見えてきましたよ、ライエル様!」

 荷馬車の荷台で立ち上がったノウェムは、見えてきたダリオンの街を指さして叫んでいた。

 長旅もようやく終わるためか、ノウェムの表情も明るい。俺も、気分的に楽になってきた。

 当分はダリオンで冒険者として頑張るつもりだ。つまり、旅は一時中断という事になる。

「そうだな。なんか良いところそうだ」

 雰囲気は王都のように人で溢れかえる事もない。そして、騒がしいとまでは言わないが、賑わいのある街であった。

 ダリオン――ゼルが言っていたように、これから発展していく活気のある街であるらしい。

 俺は、喜んでいるノウェムの横顔を見て考える。

(俺は……これからどうするべきなんだろう)

 昨日から考えているが、まったく答えが出てこなかった。相談したくとも、今日は初代が表に出ているので、声をかけても返事もしてこない。

 俺に対して、相当腹立たしい思いをしているのだろう。

「ダリオンの冒険者ギルドは結構大きいらしいですよ。仕事も豊富で、駆け出しには丁度良い街だと聞いています」

「いつの間に聞いたんだ?」

「王都で買い物をしている時に聞きました。これから行くところですから、どんなところか気になって」

 ノウェムがそう言うと、宝玉から聞こえてくる。

『……ええ子や。お前には勿体ないな。ソレに比べて、お前は情報収集もなしかよ。……ちっ!』

 舌打ちが聞こえてきた。

「……ノウェム、色々と迷惑かけたな。お、俺もこれから頑張るから」

 自分の不甲斐なさを感じながら、俺はノウェムにお礼を言う。

「いいんです。私が好きでやっている事ですから。ライエル様、一緒に頑張りましょう」

「お、おう!」

 すると、今度は馬を操る荷馬車の主である行商人の青年が――。

「ちっ!」
『ちっ!』

 ……舌打ちをしてきた。ついでに初代も。
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