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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

お金大好きで恐妻家な四代目

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クラーラの冒険者講座

 図書館の小部屋で、俺はクラーラの仕事ぶりを見ながら話をしていた。

 色々と聞きたいと言ったら、仕事があると言われて断られたのだ。本が好きなクラーラらしく、今日は図書館の依頼を受けて仕事をこなしている。

 その手伝いをするという事で、図書館側の許可は取って俺も依頼を受けてクラーラの手伝いをしている。

 小部屋で待機しているクラーラだったが、そこに図書館の職員が数冊の本を持って入ってきた。

「クラーラ、これを頼めるかしら? 一冊ずつね。一週間程度よ」

「はい」

 ふっくらした中年女性が本を三冊クラーラに手渡すと、クラーラはそのまま席に戻って三冊の本にスキルを使用する。

「……何してるの?」

 【リーディング】というスキルを持つクラーラは、そのスキルは珍しくないと言っていた。

 本に手をかざすだけで、本の内容を理解できる優れたスキル――。

 しかし、内容は忘れることもあるし、普通に本を読む方がクラーラは好きだと言っていた。

「本を読んで理解しています。こうして――」

 そのまま右手で本を読み込みつつ、左手にスキルを発動する。

「――【コピー】」

 すると、同じような本が出現した。

 俺は驚きつつその光景を見ていると、クラーラは同じように三冊全てをコピーする。そして、コピーした方の本に目印をつけていた。

「……それ、凄くない?」

 俺がそのスキルを褒めると、宝玉から三代目の興奮した声が聞こえる。

『凄いよこの子! 凄くないとか言いつつ、かなり凄いよ!』

 ……確かに、ご先祖様たちより良いアドバイスをくれる。凄いのは認めよう。

 クラーラは、そのまま六冊の本を抱えて小部屋を出てすぐに戻ってきた。

 席について本を読み始める。

「これが私の受けている依頼内容です。貸し出しはしていませんが、ある程度の時間が来れば消えてしまう模造した本を売っているんです。あ、コピーは期間限定ですよ。しかも本に限定されたスキルです。この状態で一週間程度は維持できると思います」

 限定されていると言っても、凄いスキルには変わりがない。

(なる程、貸し出してはしていないけど、こうして期間限定で本を持ち出せるのか……詳しく聞いておけば良かった)

 図書館のシステムを詳しく聞かなかったことを後悔するが、持ち出すのは金もかかるのだろう。

 どうせ図書館に通っているので、俺は気にしてない事にした。

 ただ、クラーラのスキルは凄いと思ったのは事実である。

「十分凄いと思うけど……それはスキルの応用?」

 俺がたずねると、クラーラは頷いた。

「このスキルは本に関係するスキルですね。それで統一されています。何かしらの縛りがあるのでしょうけど、スキルの事は未だに全て解明されていませんから」

 本を読みながら説明するクラーラに、俺は小部屋の掃除をしながらたずねた。

「気になったことがあるんだけど、聞いて良いかな?」

 クラーラは本から視線を外さずに言う。

「大体分かります。専門的な技術を、アリアさんたちが習得できるのか? という事ですよね。ハッキリ言えば、専門家並の技量を得るのは年単位の時間が必要です」

 それではかなりの時間を有するのではないか? 俺はその間に何をすれば良いのか?

 聞きたいことは山のようにあった。

 ただ、クラーラは言う。

「ただし、アラムサースに限って言えば専門家でなくてもある程度の成果は出せるんです」

「専門家ではなくても?」

 俺が聞くと、クラーラは分かりやすく説明してくれた。

「だって、迷宮も冒険者たちが狩り場とする周辺も、ほとんどの情報は開示されていますから。それに、迷宮に出てくる魔物も決まっています。多少の違いは出てきたとしても、対処できないほどではないと思いますよ」

 それを聞いて、宝玉から声が聞こえてきた。

 二代目だ。

『あ~あ、教えちゃったか……この子、面倒見良くない? 外見や性格からだと印象が違いすぎ』

 四代目が同意しつつ、言う。

『生き抜くためにも、コミュニケーションは必須ですからね。ましてや、ソロと言ってもサポート専門ですから。好きなことに熱中するタイプなのは間違いないでしょうが』

 こいつら、知っていながら黙っていたのだろうか?

 俺はクラーラに聞いてみた。

「つまり、アラムサースに限定してしまえば……」

「二ヶ月から三ヶ月で形にはなります。冒険者がホームを決めてそこで稼ぐのは、稼ぐパターンを築き上げている場合が多いですよ。その地方に特化する訳です。専門職には及ばなくとも、ある程度の成果は出せるんです」

 ただ、クラーラは俺に注意してきた。

 あくまでも形が整うだけで、本物の専門職になった訳ではない、と。

 経験を積んでいけば、アリアたちもそれなりになるだろう。しかし、本物の専門職と比べると効率も効果も違ってくる、と。

(素早く攻略するために、今だけはアラムサースの迷宮に特化する、という事か。ご先祖様たちの様子だと、最初から知っていたのかな?)

 黙っていた理由を考えると、すぐに理解できた。

 つまり、俺の今の行動は褒められないという事である。

(安易に聞けば良いと思っていたけど、なる程……自分で考えさせたかった訳だ)

 クラーラに頼りすぎた自分を恥じつつ、俺は礼を言う。

「そうか。ありがとう、クラーラ。おかげで方針が決まったよ」

 本を読み終えたクラーラを見て、俺は――。

(読むのが早いよな……)

 そう思っていたら。

「構いませんよ。気が付かれたようですし……それと、ライエルさん」

「何?」

「焦っているようですが、何事も準備が大事です。それさえ忘れなければ、何事も成功率は高くなります。私からは以上です」

 そう言ったクラーラは、新しい本を手に取るのだった。





 ダミアンの研究室にポヨポヨを連れて向かった俺は、そこで相談をする。

「……人型ではないゴーレム? 結果だけ言うなら動かせるよ。少し癖が違うとは思うけどね」

「そうか」

 ダミアンは以前よりも綺麗になった研究室で、何か図面のような物を見ながら考え事をしていた。

 室内では、ポヨポヨが一体のオートマトンと向き合って目を赤く何度もチカチカと光らせ合っている。

 見ていて怖い。

「というか、そんな事を聞きに来たのかい? オートマトンの方は何か変化があったとか、新しいことに気が付いたとかないの? 基本的どっちもメイドとして扱っているから、似たような報告ばかりでさ……戦闘とかしてみた?」

 こいつは何を言っているんだ?

 そう思うと、七代目が言う。

『ライエル、そう言えばポヨポヨが言っていなかったか? 役に立つとか? もしかしたら、戦闘もこなせるかもしれないぞ。なんと言っても古代のオートマトンだ』

 七代目の宝玉内の姿は、三十代で渋い感じだ。

 そんな七代目がポヨポヨと呼ぶ姿を想像すると、噴き出しそうになった。

 意外と、ポヨポヨが定着しつつある。

「で、できるのかな? 壊れると思うんだけど」

「なんで笑うの? いや、重い物を持たせてみたら、結構力があるんだよね。だからどうなのかと思ったんだけど……」

 ダミアンが睨み合っているオートマトンを見る。すると、他のオートマトンがダミアンの動きを見て声を出す。

「二号、マスターがお呼びです。無益な喧嘩はおやめなさい」
「可哀想なポンコツに構っていないで、マスターの要望にお応えするのです」

 そんな事を言うオートマトンを見て、俺は――。

「え? あれが喧嘩だったの?」

 ダミアンは言う。

「らしいよ。なんか目を見るだけで相手と高速でやり取りをするとか……古代人はどうしてこんな機能をオートマトンに持たせたんだろうね。不思議だよ」

 すると、ポヨポヨがプルプルと震えだし、二号と呼ばれたオートマトンが勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 こいつら怖い。

 そして、ダミアンには良い笑顔を向ける。

「なんでしょう、マスター」

 ただ、その笑顔はダミアンには価値がないようだ。ピクリとも反応を示さずに言う。

「お前たちは、戦闘は可能か? どの程度まで戦える?」

 すると、二号は答える。

「戦闘は可能ですが、戦闘用ではありませんので限界があります。あまり外に出ていないので魔物のデータが少なすぎますが、アラムサース周辺では武器無しでも戦えると判断します」

 俺はつい口を出してしまった。

「え? 素手で魔物と戦うの?」

 すると、俺に反応してポヨポヨが――。

「これだから量産機は駄目なのですよ。このポヨポヨ……特別機として戦闘もこなせる優れた存在です! その気になれば、こんな量産機共はすぐにでもスクラップに――」

「止めろよ。可哀想だろ」

 俺が止めると、ダミアンは。

「見てみたいけど、壊されると研究室の掃除が大変なんだよね」

 ダミアンにとって、オートマトンは家政婦のようなものらしい。いや、確かにメイドタイプなので間違ってはいない。

 結構酷いことを言われているのに、三体のオートマトンはニヤリとしていた。

「このまま私たちなしでは生きられない体にして差し上げます」
「そう、いないと不安になるような」
「第一段階はクリアしました。第二段階に移行します」

 そう言われても、ダミアンは気にしていなかった。

 ポヨポヨは、他のオートマトンに可哀想だと言った俺の言葉にショックを受けている。

「……私がチキン野郎専用なのに。誰よりもチキン野郎に上手く仕えられるのに」

 俺の感想は――。

「オートマトン怖い」

 ――である。

 ダミアンは俺を見て相談してきた。

「ライエル、このオートマトンを外に連れて行って戦闘をしてみてくれない? 報酬は出すし、慣れてきたら迷宮に挑ませてよ。無理なら諦めるけど」

 ダミアンの依頼に、俺はポヨポヨを見る。

 期待した視線を向けてきて、先程までいじけていたポンコツには見えなかった。

(こいつ面倒臭ぇ)

「まぁ、試す分くらいには」

 他の面子が忙しいので、しばらく俺は単独で行動することが決まっていた。

 ノウェムにでも相談して、ポヨポヨを外に連れ出してみても良いかも知れない。

 それを聞いたポヨポヨは言う。

「フフフ、ついに戦場でもチキン野郎のお世話をするのですね。任せてください。外だろうと食事はフルコースをご用意してご覧に入れます!」

 やたら張り切っているが、俺は言う。

「え? 食べやすいサンドイッチがいいよ」

 すると、ガッカリしたポヨポヨが――。

「そうですか……でも、そのくらいの気持ちはあると思って頂ければ……あ、それと、ご相談があるのですが、変態教授」

 ダミアンの事を変態教授と呼ぶポヨポヨに、三体のオートマトンが目を赤く光らせながら睨み付けていた。

 ただ、ダミアンは気にした様子がない。

「なんだい」

「チキン野郎が持ってきたという金属は、まだ保管していますよね?」

「そうだね。加工が難しいようだし、あると思うよ」

 それを聞いて、ポヨポヨが俺に言うのだ。

「チキン野郎、その金属を私に使用させてください! チキン野郎よりも有効活用して差し上げますよ」

 俺が扱いに困っているのは事実だが、それを言われると腹も立つ。

 しかし、こいつに文句を言っても始まらない。

「好きにしろよ」
「好きにします!」

 こうして、俺はポヨポヨの意外な使い道を知ることになるのだった。





 アラムサースから外に出た俺は、その光景を見て目を見開いた。

 武器を持っていなかったポヨポヨが、スカートの中から取りだしたのは自分の身長を超える大きなハンマーだったのだ。

 そして、細腕から想像も出来ない力で、魔物に向けて大きなハンマーを横に振り抜いた。

 なんとも表現したくない姿になって吹き飛んだ魔物だが、それ以上に気になるのはそんなハンマーをどこから取り出したのか――。

 そして、見たことのある素材であるのが問題だったのだ。

「お、お前……」

「どうです? 私の強さに驚きましたか、チキン野郎。これからは護衛も任せてください。そうすれば一日中、チキン野郎の側でお世話を……おっと、涎が」

「お前……それをどうやって加工したんだ?」

 俺はポヨポヨのハンマーを見て、それが地下四十階層で戦ったボスの戦利品である鎧である事に気がついた。

 加工は難しいと言っていたダミアンの言葉を信じるなら、こんな短期間で加工したのは驚きの技術である。

「……え? 驚くのはそこですか? スカートの中身に興味を持つとかないんですか? それでも男の子ですか? もっと、私の強さに驚くとか、褒めるとか、色々とあると思うですが? 驚かれ、褒められたパターンをいくつも想定していた私の立場は?」

 俺は酷い状態になった魔物を見て、それから笑顔で言うのだ。

「オートマトンが妄想か? それより、もっと手加減してくれないと素材が回収できないだろうが。少しは考えろ。だけど、その加工する技術は凄いな。どんな形にも加工できるのか?」

 ポヨポヨは無表情で肯定する。

「まぁ、あの機動兵器の残骸のような代物程度なら……データと違う部分が多かったですが、素材は似ているようですし」

 俺はそれを聞いてアゴに手を当てつつ思案した。

(だとしたら、いけるな……それに、ポヨポヨの力もあてに出来そうだ。誰かを加入させる必要があると思ったけど、これで少しは解決できるか?)

 クラーラに言われて自分なりに考えてみた計画があった。

 それを実行するために、ポヨポヨの力というか技術は必要である。

 俺は地面に食い込むほどの重みのあるハンマーを持った無表情のポヨポヨの両肩を掴んで言うのだ。

「凄いぞ、ポヨポヨ! お前、ただの残念なオートマトンじゃなかったんだな! 見直したよ!」

 徐々に顔が赤くなるポヨポヨは、横を向いて小さな声で――。

「べ、別に貴方のために頑張った訳じゃないんだからね。……言ってみたかった台詞を、ついに使う時が来ました」

 三代目が言う。

『この子は何を言っているの?』

 六代目は。

『深く考えなくて良いのでは? というか、理解できない何かですよ』

 五代目は冷めた様子で。

『オートマトン駄目だな。やっぱり、ここは可愛い動物に癒された方が良くないか? ライエル、個々の平穏のためにも可愛い動物をだな――』

 前回の麒麟の話をしてから、五代目が壊れたままである。

 どうせ放置すればいつも通りになるので、俺は気にしない事にした。

 とはいえ、ポヨポヨがやる気を出したのは良いことだ。

 俺はそのまま褒めつつ、計画を実行することにした。

「よく分からないが、お前は凄いぞ」

 すると、ポヨポヨが耳まで赤くしてプルプルと震えだした。

「今日はなんという素晴らしい日でしょう……チキン野郎が、この私の価値に気が付くなんて。でも、メイドとして褒められていないのは不満ですね」

 嬉しいが、納得できていないポヨポヨを連れ、俺は屋敷へと戻ることにした。

 その前に――。

「さて、魔石なんかを回収したいわけだが……かなり酷いな」

 そこら中に地面が赤く染まっており、酷い光景が広がっていた。

(大きなハンマーとか、迷宮内では使えないから荷物持ちでいいや)

 俺は覚悟を決めて魔石や素材の回収に乗り出すのだった。
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