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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

実は黒いのか? 三代目

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ノウェム・フォクスズ

 ――朝方。

 屋敷の洗濯物を洗い終えたノウェムは、庭に出ていた。

 かごには洗濯物が山のように積まれている。

 留守にしていた時のものもあるのだが、それ以上に迷宮に挑んだ際の洗濯物も多かった。

「今日は良い天気ですね……ライエル様は大丈夫かしら」

 今朝の様子を思い出す限り、大丈夫ではないだろう。

 ノウェムにもそれは分かっていたのだが、本人が行くと言ってしまえばそれまでだ。

 決定権はあくまでもライエルにあると、ノウェムは思っていた。

 庭を見ると、留守にする前に手入れが出来ていなかったので雑草や芝生が伸びている。

 周囲を見たノウェムは、右手の指を鳴らした。

 自分はそのまま洗濯物を干し始めると、雑草が引き抜かれ、芝生は綺麗に整えられ、一箇所に集められた。

 数秒の出来事である。

「あんまり使いたくないんですが」

 こうした魔法の使用方法は好まれないのを知っているが、大きな屋敷を一人で手入れをしようと思うと時間が少なかった。

 今日はこのまま屋敷の掃除も行い、お昼の準備もするつもりである。

「ミランダさんとシャノンちゃんも帰ってきますし、お世話になっているのだから少しは奮発して……でも、ライエル様がどれだけ報酬を受け取ってきてくれるか」

 首をかしげたノウェムは、庭で休憩がてらにノンビリとしていた。

 すると、塀の上を歩く猫と視線が合う。

 ノウェムが微笑みながら近づくと、猫は「フシャァァァ!!」と毛を逆立て、慌てて逃げ出してしまった。

 伸ばした手を見て、ノウェムはしばらく考え込む。

「やっぱり、駄目なのですかね」

 気持ちを切り替えると、台所の掃除を行なうためにかごを持とうとする。

 そこで声がかかった。

 シャノンだ。

「へぇ、一人なんだ」

 普段と雰囲気の違うシャノンを見ても、ノウェムは驚かない。

「どうしました? ミランダさんの気配はしませんが」

 シャノンは言う。

「私をおいて学園の方に行ったわ。何でも問題があったみたいよ。何をしたのかしらね、あなたのお仲間が」

 クスクス笑うシャノンの瞳は、間違いなくノウェムを見ている。

 見えているのだと、ノウェムは気が付いていた。しかし、見えないふりをしているシャノンのために、部屋に案内する事にした。

「危ないから部屋に案内しますね。それにしても、学園で問題ですか」

 ライエルにもしもの事があった、と考えた。

 だが、ダミアンが何かしでかしたとも想像できる。

 ライエルなら切り抜けられると信じ、ノウェムはシャノンに手を伸ばした。

 すると、シャノンが下卑た笑顔を向けた。

「……その笑顔は止めた方が良いですよ、シャノンちゃん」

 忠告すると、シャノンが言う。

「何があったのか知らないけど、お姉様が凄く抵抗するのよ。心に触れようとしても触れられない……だから、あんたを操ってみるわ。あんた、ライエルの人形みたいだもん」

 ライエルの人形。

 そう言われたノウェムは、少しばかり考える。

 間違いでもないだろう。

 自分はライエルのために行動し、ライエルのために存在していた。

 だが、それを人に言って良い言葉ではないとも知っている。

 だから注意する。

「人にそんな事を言っては駄目ですよ。部屋に行きましょう」

 すると、シャノンがノウェムの右腕を握った。

 明らかに見えている行動だ。

「……もっと上手くやるべきではありませんか? 少なくとも、見えていないふりを今までしてきたのですから」

 今までのシャノンは、見えていないふりを演じてきていた。

 こんな分かりやすい行動はしない。

(焦っているのですかね)

 ミランダが抵抗したと聞いたノウェムは、シャノンに焦りのようなものを感じていた。

 ようやく手に入れようとしていた人形を奪われ、普段しない行動に出ているようだ。

 すると、シャノンの何かがノウェムに触れた。

「澄ましてんじゃないわよ! これであんたは私の人形よ! お姉様よりも弱そうなあんたなら……あんた、なら……」

 シャノンの様子がおかしい。

 ノウェムは、優しい口調で言う。

「離してください、シャノンちゃん。さぁ、部屋に行きましょう」

 そう言うと、シャノンは瞳を見開いてノウェムを見た。

 手を急いで離すと、後ろに倒れて尻餅をつく。

 しかし、痛がる様子はない。

 ノウェムから目を離さずに、手足が震えていた。

「大丈夫ですか?」

 一歩近づくと、シャノンは喉から「ヒッ!」という声を出してそのままの状態で下がる。

「服が汚れますよ? 洗うので着替えましょう」

 ノウェムにとっては当たり前の行動だが、今のシャノンにとってはそれどころではない。

「何よ……なんなのよ、あんた……人間じゃない。あんた、絶対に人間なんかじゃ……」

 目を見開いたシャノンの言葉に、一瞬だけノウェムが反応して止まる。

 そして、無表情になった顔に手を触れて見た。

(……人間じゃない。また言われてしまいましたね)

 困ったものだ。そう思いつつ、ノウェムはまた表情を作る。

 そして怯えるシャノンにどう声をかけて良いのか悩み――。

「シャノンちゃんの瞳……とっても綺麗ですよね。黄色だと思っていましたけど、今は金色に見えます。どんな世界が見えるんでしょうね。私も気になります」

 本当は違う世界が見えているのも、能力があるのも知っている。

 知っていたが、ノウェムは知らない振りをしていた。

 ただ、シャノンが見えないふりを止めたので、興味のあるふりをしてみた。話題を振ったのだが――。

 それを聞いたシャノンがどう思うか?

 そこまで考えてはいなかった。

「ヒッ! 来ないで、来ないでぇぇぇ!!」

 叫ぶシャノンは、近づくノウェムを前にして気絶してしまう。

 ノウェムはそれを見て。

「また、こんな結果に……」

 小さく溜息を吐くと、シャノンの頭を撫でる。

 そのままシャノンを抱きかかえる。

 お姫様抱っこだ。

 すると、凄い勢いで屋敷に迫る気配を感じた。

「ライエル様?」

 ノウェムが塀の向こうを見ると、そこからライエルが飛び出してきた――。





「大丈夫か、ノウェムゥゥゥ!!」

 たまたま使用したスキル。

 想像以上に広範囲を見ることが出来た俺は、ノウェムの側に赤い反応があるのを察知した。

 学園から急いで駆け出し、四代目のスキルで全速力を出す。

 そのままサークライ家の屋敷の塀を飛び越えたところで、俺は着地した場所に引き抜かれた雑草の山があったので転ぶ。

 滑って転ぶと、スライディングをするような形でノウェムの前まで移動してしまった。

 転んだのは思うところもあるが、我ながら素晴らしいポーズでノウェムの前に現われたと思う。

「……だ、大丈夫ですか、ライエル様」

 立ち上がって汚れを手で払い落としながら、俺は言う。

「大丈夫だ。新しい着地ポーズを編み出してしまった自分が怖いくらいだよ。それよりノウェムは大丈夫だったのか?」

 抱きかかえられているシャノンを見れば、問題なかったのだろう。

 俺はノウェムに一応確認してみた。

 すると――。

「はい。少し驚いたようで……それで、どうして虫を持っているんですか?」

 俺の右手に握られた虫を見たノウェムが、不思議そうにしている。

 走っている最中に見つけ、その虫を捕まえたのだ。

 殴るわけにもいかないので、嫌いな虫でお仕置きをしようと考えていた。

「シャノンへのお仕置きだ!」

 そう言ってノウェムの目の前に虫を出した俺だが――。

「痛っ! こいつ噛みやがった!」

 虫に指を噛まれて、投げ捨ててしまう。

 虫はそのまま飛び去ってしまったが、それを見てノウェムが笑う。

「ど、どうした?」

「だって、ライエル様……まるで好きな子に悪戯する男の子みたいですよ」

 そう言われた俺は、髪をかき上げて言う。

「男は常に少年の心を持って生きているものさ。どうだ、惚れ直したか」

 そう言うと、宝玉内からテーブルを叩く音が聞こえる。

 何人も一緒になって、笑い声とテーブルを叩く音が――。

 しかし――。

(フッ、今の俺にとって、ご先祖様たちがいくら騒ごうが問題にもならない。この体から溢れてくる魔力量……実に素晴らしい)

 自分の才能が恐ろしくなっていると、ノウェムが俺を見て頷いた。

「惚れ直しましたよ、ライエル様。さぁ、一緒にシャノンちゃんを部屋まで運びましょう。あ、それと素材や報酬はどうなりました?」

 俺は報酬のことを聞かれたので答える。

「いや、メイドが、あれはいい物だとかなんとか言ったから保管して貰う事にした。ギルドの買い取り価格より少し多い程度で買い取りだったしな」

 売ってもよかったのだが、何やら重厚感が素晴らしいと語り出したために、意気投合して売らない方向で話が進んだのだ。

 ダミアンが起きたメイドを気に入ったので、定期的に通えば管理費はいらないという話になっている。

 メイドは利用する方法を考えていたようだ。

「メイド、ですか? オートマトンではなかったのですか? それに、魔法に関しても……」

「安心しろ! 俺は【ゴーレム】という魔法を教えて貰った。だが、確かにあれは怒ると思うぞ。誰でも使えるが、使いこなすには才能がいるタイプだな」

「あぁ、それで」

 ノウェムが納得する。

 教えて貰ったゴーレムの魔法だが、実は簡単だった。

 簡単なのだが……ハッキリ言って、使うのが難しい。

 動かすにしても、人形の視点で操作をする訳ではない。

 自分から見てどう動かすか考え、更には同時に視界が塞がれるとどうして良いのか分からなくなる。

 ダミアンのように扱うには、確かに才能がいる。

 俺でも同時に操作するのは二体が限界だった。

「では、報酬は受け取られたのですね。ミランダさんが学園に慌てて向かったと聞きましたが、何かあったのですか?」

「なんだ、知っていたのか……実は、報酬で貰ったオートマトンが話題になったんだ。古代技術の結晶がどうとか言って、学園の生徒が見に来ていたよ。それが凄いんだぞ、本物の人間のようなんだ!」

 俺が喜んで説明すると、四代目が口を挟んでくる。

『おい、この野郎。説明は良いから、いつまでノウェムちゃんにシャノンちゃんを抱えさせるつもりだ。早く部屋に運べ、馬鹿野郎』

 三代目も。

『本当だよ。ついでに抱きかかえて一言お願いね』

 一言をお願いされたので、俺はそれくらいいいだろうとノウェムに言う。

「おっと、すまない。俺が持とう」

「お願いいたします」

 そう言ってシャノンを抱きかかえた俺は、彼女の顔を見て言うのだ。

 何があったのか、白目で口が開いて涎が垂れている。

 美少女が台無しだった。

「フッ……今日は眠り姫に縁がある」

 しかし、ここで台無しにしないのが、俺の良いところだ。

「眠り姫ですか?」

「あぁ、キスで目覚めさせるんだ。オートマトンもそれで目が覚めたよ」

「……キス、ですか? そうですか……」

 そう言うと、六代目が。

『今日のライエルは切れ味抜群だな!!』

 七代目も。

『これは一生物だぞ、ライエル! お前という奴は……いいぞ、もっとやれ』

 二代目が苦しがっていた。

『もう止めろぉぉぉ! これ以上は俺の腹筋が持たないぃぃぃ!!』

 何を騒いでいるのやら。

 そう思った俺は、屋敷へと入る。

 後ろを歩くノウェムが――。

「ライエル様は、シャノンちゃんをどう思いますか?」

 そう言われた俺は。

「ん? 可愛いと思うぞ。食べてしまいたいくらいだよ。だが残念だ……呪いで眠っていない少女にキスで起こすわけにもいかないからな」

 すると、ノウェムが少し考え込む。

「……体は丈夫そうですし、病気もしないらしいですね。目の方は……まぁ、合格としておきましょう。ウォルト家と血縁がありますが、遠いので問題もありませんね。分かりました。なんとかします」

「うん、任せた。おっと、アリアを置いてきたんだ。あとで迎えに行かないとな」

「はい」

 クスリと笑ったノウェムを見る。

 普段と違って、柔らかい印象だった。

 俺も気分がよくなる。

(ノウェムにこんな笑顔を向けさせる俺……凄すぎて恐ろしいな!)
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