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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

実は黒いのか? 三代目

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女性の背中

 三十階層のボスの間を突破すると、そこからも早かった。

 俺がスキルを使用する事で、確実に戦闘を有利に始められる。

 最短距離で出口へのルートを探しだし、最低限の戦闘回数で目的地へと到着することが出来るのだ。

 集団で動いている相手の種類、数。

 それらを確認して戦闘を仕掛けるのは、非常に楽だった。

 荷物は最低限の物だけを持ち、そして相手に合わせて装備を変更する。

 出口付近であまり動かない魔物の集団を見つけると、俺は全員に指示を出す。

「クラーラは明かりを消してくれ。ノウェムは魔法の準備。火属性で頼む。アリアとミランダさんはとどめを任せます。ダミアンさんは、人形に盾を持たせて敵の突進を防いでください。曲がり角を左に曲がればその奥に敵がいるので、これまでと同じパターンで」

 同じパターンとは、俺が弓で爆発する仕掛けのついた矢を放ってから戦闘を開始する事だ。

 奇襲を仕掛け、慌てる魔物に魔法で攻撃を加える。

 こちらに向かってきたら、人形たちが攻撃を防いでいる間にとどめを直接攻撃でアリアとミランダさんが刺すのだ。

「……ミランダがここまで戦えるなんて知らなかったわ」

 アリアが、複雑そうな表情でミランダさんを見る。

「そう? 黙っているつもりはなかったけど、教える機会もなかったのよね」

 笑顔で答えるミランダさんを見て、アリアが言う。

「少し、変わった? もしかして“成長”でテンションが高いとか? 気をつけてよね」

 成長を実感するのは、人それぞれだ。

 迷宮に入って戦闘をこなし、成長を感じる場合も多いと聞いている。そういう時は、しばらく戦闘から外して様子を見るのである。

(俺が体力温存しなくて良いなら、下がらせるんだが)

 ボスを相手にする事を考えると、俺は少しでも体力の温存と魔力を節約する必要があった。

 矢の数を確認すると、期間の事を考慮してもある程度の余裕があった。

(そろそろメイスだと厳しいな。明日は四十階層に挑むとなると……)

 武器の変更を考えつつ、弓矢を構えるとクラーラが明かりを消す。

 ゆっくりと曲がり角まで進み、そして射程まで進むと矢を放つ。

 爆発音が聞こえてくると、クラーラが明かりを点ける。

 二代目が言う。

『終わったな』

 油断しなければ、攻撃を受けることなくこの戦いも終わるだろう。





 三日目にして地下三十九階層に到着した俺たちは、少し早いが明日のために休むことにした。

 持ち込んだ食材は保存食だけではない。

 普段使用する食材も持ち込んでおり、七代目のスキルである【ボックス】は新鮮なまま保存していた。

 食事に関しても、俺たちは迷宮とは思えない料理を食べている。

 地下四十階への入口付近にある部屋で、周辺の魔物を倒してから俺たちは休んでいる。

「正直に言って舐めていたよ」

 ダミアンが休憩している俺に声をかけてきた。

「スキルもありますからね。あ、黙っていてくださいよ」

 俺が口止めをすると、ダミアンは真金を人差し指で押し上げつつ言う。

「僕も言いふらす趣味はないからな。君に敵対されると面倒そうだからしないよ」

 俺の事を「面倒」という程度には、評価しているのかも知れない。

(この手の人間から評価されても……)

 そう思っていると、ダミアンは報酬の話を始める。

「さて、それでは魔法についてだったね。あれは迷宮を出てからでいいかい? 魔力を温存しておきたいからさ」

「えぇ」

 そう言うと、ダミアンは本命の依頼について話をする。

「このまま依頼を達成しそうだから言っておくけど、今回の報酬は金じゃない。ただ、それ以上の価値はあるものだ」

 金貨千枚相当と依頼書には書かれていた。

 地下四十階のボスからはぎ取った素材が、どうしても必要だと。

(やっぱりそうか。微妙な言い回しだったし。そうなると、報酬はなんだ? 魔具か、それともそういう類いの物かな)

 俺が報酬を予想していると、ダミアンが言う。

「なんだ、驚かないところを見ると予想していたみたいだね。まぁ、そっちの方が楽でいいけど……報酬は自動人形でどうだい」

「自動人形? え、それって……」

 貴重な物なのではないのか?

 そう言おうとした俺に、ダミアンが説明する。

「自動人形の部品自体は揃っているんだよ。ここで結構集まるからね。後は肉付けして起動させるだけなんだが……その起動に必要な魔力をため込む質の高い魔石がなかったんだよ。だから今回の依頼をしたの。多少は素材もいるけど、他の残った素材は君たちが好きにするといい。帰りは荷物持ちをしても良いよ」

 ギルドの記述では、四十階層のボスは全身鎧姿の巨人だった。筒を持ち、そこから攻撃魔法を放つ厄介な存在だと確認している。

 魔物が着込んでいる鎧は、高く売れたと聞いている。

「自動人形の件は、学園が認めますか?」

「認めるも何も、沢山あるから一台くらい良いんじゃない? 僕の趣味じゃないから、君が持って行くといいよ。起動方法に主従契約が用いられているみたいだから、血は必要だけどね」

 古代の技術で作られた人形にしては、魔法技術で動いているのが少し不思議に思う。

 そこまで発展した技術を、古代に失った理由が気になった。

(よく知られていないんだったな)

「あ、そうだ。しばらくここにいるなら使用した感想を教えに来てよ。その時は情報料を払うからさ。今は予算使い切ってきついんだよね」

 本当に自由な奴だと思いながら、俺は頷いた。

 ダミアンの人形を見ると、鉄の鎧の塊である。

 戦闘で役に立ちそうだ。

(ゴーレムの魔法と一緒に使用すれば、一気に戦力が増えるな)

 のんきなことを考えている俺だが、気になったことを聞いてみることにした。

「ダミアンさん、ボスの間で言ったあの言葉なんですけど」

 すると、ダミアンが少し考え込む「……あの?」などと言っていて、覚えていない様子だった。

「もういいです」

「そう。じゃあ、明日もよろしく。この分だと予定より早く帰れそうで嬉しい限りだよ」

 ダミアンが戻っていくのを見て、俺は思う。

(……俺がこのままだと駄目になる、ってどういう意味なんだろう)





 四日目の朝。

 俺たちは起きて準備を済ませると、ボスに挑むための準備に入った。

 ボックスからこの日のために用意した荷物を取り出す。

 三代目がそれを見て言う。

『ライエルもえげつないよね。こんな木のボールに火薬を詰めた物を使うなんて』

 四代目も呆れていた。

『確かに七代目のスキルなら、持ち運びも可能だな。途中で爆発させる心配もない訳だ』

 二代目が――。

『しかし、四日目にボスに到着したのは良いけど、戻ることを考えると確かに一週間は必要だったな。ウッカリしていたよ』

 そう。

 迷宮で大事なのは、潜ってボスを倒して終りではないという事だ。

 戻るのも大変なのである。

 荷物は増えて装備は減り、移動速度も落ちて行きよりも帰りが危険度が高いと言えるだろう。

 ただ、俺は別だ。

 ボックスで荷物を最小限にし、最短ルートで戻ることが出来る。

 更に言えば、通ってきた道は魔物を倒しているのだ。

 復活していたとしても、行きより戦闘が多いこともない。上手く避けて通ることも可能である。

(ボスもいないだろうし、帰りは冒険者の多い地下二十階層付近で休めるようにするか)

 ボスがいたのでこのように休憩を入れて挑んでいる。

 それさえなければもっと早い段階で、ここまで到着できただろう。

 地下三十階層にボスがいたのが問題だった。

(切り札の一つは使えなくなったけど、まぁ問題ない)

 俺はボックスから取り出した、球体に火薬の詰まった物を見る。いくつも用意したそれは、冒険者の道具の一つだ。

 厄介な魔物が攻め込んできた時に使用する。

 ただ、管理が難しく魔法を使用する、あるいは使用されて爆発する危険もあったのだ。迷宮に持ち込むなどまともな冒険者なら絶対にしない。

 俺は最終的な確認を終えると、ボックスをしまいボスの間へと降りる前に全員にそのボールを渡した。

「ボスの間に到着したら投げつけてくれ。表面にはあまり効果がないみたいだけど、中身には効くと聞いている」

 五十階層に到着した冒険者から聞いていた。

 効くかどうかで言えば、効くと彼は答えたのである。

 ダミアンが受け取ると「人形に投げさせるか。僕じゃ無理だ」などと言っていた。

「ノウェム、クラーラはアリアに投げて貰え。アリアが投げたら渡せば良い。ミランダさんは火属性で魔物に攻撃をしてください」

 俺が入ってからどう動くべきかを説明すると、全員が頷いていた。

 というか、相当に硬いようだ。

 そんな魔物を普通に相手にするには、歴戦の猛者たちが準備をして挑まないと無理であろう。

 なんで迷宮にボスのだが出現するのか?

 そんな風に思ってしまう。

「基本的に最初は持っている筒を狙う。大砲のような感じらしいけど、もう片方は盾を持っていたようだから気をつけてくれ。斧のような武器も持っていたらしいから、筒を手放させた後には――」

 最終的な段取りを確認し、俺たちは四十階層のボスに挑むために進むのだった。





 地下四十階層。

 これまでのボスの間と同じだ。

 違うのは、大きさ――広さと周囲の壁である。

 今まで金属の板をデタラメに貼り付けたような通路から一変して、そこからは綺麗に張られていた。

 雰囲気がまるで違う。

「この通路は長いわね」

 ミランダさんが呟くと、周囲も同意していた。

 地図の見えていない他の仲間には、いったいどこで敵が見えるのか気になるのだろう。

 俺は頭の中で距離まで分かっているので、そういった事に緊張を覚えない。

「もうすぐです。部屋の中央ではなく、奥にいますから部屋に入ったら先に俺が仕掛けます」

 囮役である。

 いきなり固まっている場所に魔法を使用されるわけにもいかないので、こうした役割が必要になるのだ。

 ただ、俺はスキルで移動速度を上げて逃げ回れば良い。

「ライエル様、気をつけてくださいね」

「分かっている」

 ノウェムに心配された俺は、頭の中で何度もシミュレートする。相手の強さをだいたい感知する二代目のスキルは、俺に危険を知らせている。

 しかし、同時に今の面子なら倒すのは難しくないと判断も出来た。

 このために他の仲間をできるだけ温存してきたのだ。

(俺一人では倒しきれない、か)

 魔法を使用しても、相手は魔法の攻撃すら防いでしまうらしい。

 前回挑んだ冒険者たちは、一斉に魔法を叩き込んだようだ。

 しかし、魔法による一撃で大きなダメージを負った。

 主要メンバーがなんとか踏ん張り、立て直すと倒れるまで攻撃を続けたと聞いている。

 歩いていると、部屋の入口が見えてくる。

 中は暗く薄気味が悪い。

 何よりも、生き物が呼吸をしている不気味な音が聞こえてきた。

「聞いていたけど、ゾクゾクしてくるね。ここから先は本格的に魔物の強さが違うみたいだ」

 ダミアンが言うと、アリアが呼吸を整えていた。

「まったく、なんでこんな依頼を引き受けたのよ。もっと実力を付けてからでもいいじゃない」

 すると、ミランダさんが笑いかけながら言う。

「アリア、緊張しすぎよ。準備だって出来ているんだし、そう心配する必要はないわよ」

「どうしてそんなに軽いのよ! 昨日はあんなに……」

「二人とも、静かにしてください」

 クラーラが二人に注意をすると、その場が静かになった。

 俺はゆっくりと口を開く。

 同時に、二代目のスキル【オール】本来の使用方法で――。

 パーティー全体を初代のスキル【フルオーバー】で能力を上昇させた。

「行くぞ」

 部屋に先には言った俺は、走り出すとスキルを使用して自分の存在を知らしめるように音を立てた。

 大きな何かが動き始めると、右手に持った木製の玉を投げつける。

 それを盾で受け止めた魔物だが、何もないと知るとこちらに向かって構え始めた。

 大きな筒を右手に持ち、こちらに狙いを定めている。

 すぐに腰に下げた袋から、木製の玉を取り出すと次々に投げる。

 円状の部屋を壁に沿って移動する俺は、持っていた五つの木製の玉を投げつけた頃には強い光がこちらに向けられているのが目でも確認できた。

 二代目が――。

『相当まずいぞ。食らえば今のライエルなら一撃で終りだ』

 七代目も。

『防ごうと思うな。なんとしても避けなさい』

 アドバイスをしてくる二人の意見に、俺も同意だった。

「アレはまずいな」

 冷や汗が出てくる。

 直撃は危険だと判断し、すぐに駆け出すと筒から放たれた一撃が俺の方へ向かってくる。

 それもとんでもないスピードだ。

 壁に激突した魔力の塊は、そのまま爆発して一瞬だけ部屋を照らす。

 見えたのは今までと違い、角張った鎧を綺麗に着込んだ魔物の姿だった。

 関節部から何やら木の枝らしき物が飛び出している。

「植物系の魔物が金属の鎧を着込む? なんの冗談だよ、まったく!」

 俺は魔法を使用する。

 敵にではない。その下に転がっている木製の玉に、だ。

「ファイヤーバレット!」

 指先から火球が飛び出すと、木製の玉に直撃した。

 爆発を起こすと、他の木製の玉も誘爆する。

 煙が部屋中に巻き起こる。

 五代目が言う。

『煙で他の連中が敵を確認できないな。ライエル、煙を吹き飛ばせ』

 指示されたとおりに、俺は煙だけを吹き飛ばすことにした。

 魔物の方は、足下の爆発で盾を手放してしまったようだ。

「筒を手放せよ! ストーム!」

 風が起きて煙を吹き飛ばした。

 だが、あまり周囲が確認できない。

 やはり、この方法にも問題があるようだ。

 六代目は――。

『木箱にでも詰め込んで運ばせれば良かったな。そこに誘導してドカン、とな』

 今更過ぎるが、確かにその方法もありだった。

 だが、火薬がそこまで手に入らない。用意できても一つだけだ。

 上手く誘導できるか怪しい上に、運んでいる時に攻撃されて爆発すると危険だった。

 三代目が周囲の様子を見て――。

『ほら、ノウェムちゃんたちが来たよ』

 丸い物が次々に魔物に向かって投げられると、集団から離れた場所でミランダさんが魔法を使用していた。

 一箇所に固まるのは危険と判断したのだろう。

 同時に、ミランダさんの魔法で近くの火薬が反応するのも怖い。

 火球や木製の玉がボスにぶつかり爆発する。

 角張った鎧はビクともしないが、右腕の関節部分が衝撃で吹き飛んだ。

 筒が地面に落ちた。

 四代目が指示を出す。

『ライエル、風の向きを調整して奥の通路に煙を流すんだ。このままだと視界が悪くて身動きが取れなくなる』

 俺は魔法を使用して煙の除去を行なうと、膝をついていた魔物が雄叫びを上げた。

 兜が取れると、そこからは昆虫のような頭部を持つ魔物の姿が見える。

 なんとも不気味な奴だ。

 二代目は――。

『おい、アリアが――』

 スキルを使用し、全力で木製の玉を投げたアリア。

 その玉が叫んでいた魔物の口にぶつかると、呑み込んだ。

 次に、ノウェムが魔法を使用した。

 周囲の風が魔物に向かって巻き上がっていく。

 難易度の高い魔法は、セレスが使用していたものだ。

「ファイヤーストーム……使えたのか」

 炎が風を巻き上げる。風に炎が加わりその中で魔物がもがいていた。

 熱が部屋の温度を一気に上昇させ、魔物の様子がおかしくなる。

 頭部が吹き飛んでしまった。

 五代目が推測する。

『アリアの投げた奴がとどめになったのか? 今回のお手柄はアリアだな』

 俺は燃え上がる魔物を見ながら、すでに死んでいることを確認するとホッと一息ついた。

 ノウェムがアレだけの魔法を使用できるとは思っていなかったが、結果的に勝てたので問題はない。

 最初に駆け寄ってきたのは、ノウェムではなくミランダさんだった。

「おつかれ!」

「上手く行きましたね」

 俺はミランダさんいそう言うと、笑顔で頷いていた。

「本当よ。植物系の魔物が入り込んだのかと思ったけど、頭部は昆虫だったわね。シャノンだったら卒倒しているわよ」

 どやらシャノンは虫が嫌いなようだ。

 動かなくなった魔物を見て、ダミアンが喜んで魔法で火を消している。

 中身は燃えているのに、鎧の部分は汚れただけでほとんど溶けてもいなかった。

 頑丈すぎる。

 アリアは、慣れないスキルでも使用したのか疲れている様子だった。

 ノウェムとクラーラは、そんなアリアに付き添っている。

 ミランダさんが、ノウェムを見て呟いた。

「……あの子、とんでもないわね。私以上よ」

 俺はそれを聞いて、ノウェムを褒めたのだと思った。

「頼りになる存在ですよ。その……色々と」

 言葉を濁して俺もみんなの下へと向かう。散らばった金属の鎧に筒や盾、それらをダミアンに運んで貰おうと考えながら。



「……凄く疲れた。もう帰りたい」

「あ、あんたねぇ」

 地下四十階層のボスを倒した俺たちは、そのまま先に進むことなく上の階層に戻った。

 できれば今日中に地下二十階層付近まで戻って、一晩休んでおきたかったのだが――ここで、俺に変化がではじめた。

 以前ほどではないが、体に酷い疲れを感じる。

 体を動かすのも嫌になり、ついでに歩くのもきつかった。

 大きな魔石を持って「これで魔力を電力に変換する装置が完成するぞ!」などと大喜びしているダミアンを見る。

(子供が玩具を買って貰った時の光景だよね)

 魔物の必要素材も回収したが、お目当ては魔石のようだった。

 装置が完成するのが嬉しいのだろう。

 無邪気に喜んでいるダミアンだが、人形たちは重そうなボスが着込んでいた鎧を運んでいる。

 今回の報酬は自動人形とダミアンの魔法を教えて貰う事、だ。

 しかし、それでは収入がない。

 準備のために大金を支払っている俺からすれば、少しでも回収したいと思うのは当然だった。

 しかし――。

「あの鎧、恰好いいよね。なんか無骨なところが凄く良いよ」

 ノタノタと歩く俺を、イライラしたアリアが見て怒鳴りつけてくる。

「いい加減にシャンと歩きなさいよね!」

「……やる気が出てこない」

 ここに男でもいれば背負って貰いたい気分だった。

 だが、この場にいる男といえば、俺より背の低いダミアンだけだ。

 しかも本人は大きな魔石を抱きかかえ、頬ずりしている。

 他の事など見えていないのだろう。

(その状態でよく人形を動かせるよね)

 不思議に思いながら、俺は気力を振り絞って迷宮を進むのだった。





 五日目。

 更に酷い状態になった俺は、ノウェムに肩を借りて迷宮を歩いていた。

 クラーラが俺を見て流石に心配してくる。

「顔色が悪いですよ、ライエルさん」

「……もう、無理……あ、次はそこを右ね」

 スキルを使用し、なんとか全体に指示を出す俺。

 スキルの使用も出来るのだが、段々と疲れが酷くなってきた。魔力の回復量も少なく、体が痛くて仕方がない。

「ライエル君、無理しすぎたのかしらね?」

 ミランダさんがそう言うと、アリアが――。

「前もこんな風だったのよ。その後も酷いんだから」

「そうなの?」

 俺の秘密をばらす仲間に、注意をするのも面倒になって口を開かない。

 ノウェムが俺に声をかけてくる。

「ライエル様、もう十階層に到着しましたから、もう少しの我慢ですよ」

 冒険者が多く入り込んでいるおかげで、上に行けば行くほどに魔物が少なく安心して移動できる。

 スキルで周囲を確認すれば、チラホラと黄色い反応が見えていた。

 だが――。

「……もう無理ぃ」

 弱音が口から漏れてしまう。

 それを聞いた六代目が溜息を吐く。

『ライエル、もう少しだけ我慢しろ。というか、お前はアレだな……成長前にかなり体調を崩すタイプだな』

 五代目は冷静に。

『それだけ大きく伸びるんだろ? 反動だと思って我慢しろ。というか……他の面子も辛そうだな』

 周囲を見れば、ノウェムも辛そうなのを我慢している。

 ダミアンも口数が減っていた。

 アリアもイライラしている。

 ミランダさんは動きにキレがなくなっている。

 クラーラは明かりが安定せずにいた。

 ノウェムも少し辛そうだった。なのに、俺に肩を貸している。

 二代目が。

『全員で戦ってでかい経験を得たらこうもなる、か。本気で人数を増やさないとまずいぞ。これ、絶対にライエルのスキルが関係しているな』

 三代目も同じ意見だった。

『むしろ、これだけの経験をしないと成長できないとか……他の面子は何度も成長していると考えても、ライエルは二度目だよ?』

 そう、俺は二度目の成長を経験しようとしていた。

 ただ……問題は、迷宮で多くの戦闘を行ない、地下三十階と四十階のボスに勝利して得られた経験で一回だけ、である。

 しかも、その後は疲れて身動きが出来ない状態になるのだ。

 七代目が言葉を選びつつ。

『……ライエルはアレです。ほら……使いどころさえ間違わなければ、貴重な戦力ですから。多少のデメリットなど問題ではありませんよ』

 四代目が。

『まぁ、一度成長すればしばらくは大丈夫だろうしね。でもさぁ……』

 俺は一歩を踏み出すのも、かなりの気力を必要としている状態だった。

 最終的に、地下五階付近でもう大丈夫となると俺はそのまま意識を失う。

 後で聞いたのだが、ノウェムとミランダさんが背負ってくれたようだ。

 ダミアンの人形が重い荷物を運び、ダミアンは拒否し、アリアはもしものための戦力で、クラーラはサポートで明かりを点さなくてはいけない。

 ミランダさんが立候補したので、ノウェムと交互で背負ってくれたらしい。

 冒険者がウロウロしている地下五階付近で、俺は女性に背負われている姿を晒してしまったのである。






 ご先祖様たちが今回の迷宮での俺を、こう評価した。


『女の子に背負われるとか、ないわー。引くわー』


 ……だ、そうだ。

 俺もそう思う。
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