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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

実は黒いのか? 三代目

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マインド

 二日目の終盤。

 俺たちは二十九階層の広場で、周囲の魔物たちを一掃し休憩に入っている。

 地下の反応を確認するに、大きな反応が確認できた。

 ボスが復活しているのである。迷宮で活動している冒険者たちが討伐に動くかと思ったのだが、どうやら引き上げていくばかりで見向きもしない。

 戦闘もあって、疲れていた俺たちは明日にボスを討伐することにした。

 スキルを発動し、周囲を確認すると迷宮の一部が動き出している。

 金属音が遠くから聞こえてきたので、通路の一つが動いたのだろう。

「二日目で地下三十階層とは……本当に君たちに頼んで正解だったよ」

 ダミアンが、七代目のスキルである【ボックス】から取り出した水を飲みながら言う。

 軽装で動き回れる俺たちは、移動速度が周囲の冒険者たちと違って速かった。

 同時に、四代目のスキルで移動速度を上昇させている。

「途中で何度も移動速度が上がったけど、それも君のスキルだよね? 使用する前には言ってね。僕の人形たちにも効果があったみたいで、動かすのに違和感があるんだよ」

「それはすみませんでした」

 ダミアンは時々鋭い。

 アリアと喧嘩をしている時とは違い、今は俺の事を冷静に分析しているようだった。

 ただ、興味があっても優先順位が低いので根掘り葉掘り聞いてこない。

(人形にも効果があったのか。確かに移動速度は上昇したけど……そうなると、このスキルも破格だな)

 どういう原理なのか知らないが、役に立つのは事実である。

 今のところ、使用していないのは三代目のスキルである【マインド】だけである。

 これがある意味で、一番異質なスキルでもある。

 精神に働きかけるスキルで、悪用すれば大問題となるスキルだ。

(もしかしたら、教えなかったのは俺がどんな人間かを見極めるつもりだったのか?)

 スキルとしては危険だが、使用するのは割と簡単である。

 そして、このスキルの第二段階の仕様に関しては、未だに三代目が許可を出さなかった。
使用できるだけの能力が俺にあっても、だ。

 ダミアンが考え込んだ俺を見て、声をかけてくる。

「どうしたんだい? 明日の作戦ならギルドの資料を見て考えてきたんだろう?」

「まぁ、それはそうですけど。緊張するのは事実ですよ。はじめて戦う訳ですからね。専門という訳でもないですし」

 復活するボスを専門に討伐する冒険者もいる。

 彼らは特化した装備を持っており、ボスを倒すのは最早作業といった感じらしい。

 しかし、そういった冒険者は、他での仕事で役に立たないことも多かった。

 俺たち万能型のパーティーは、こうした時に苦労するがほとんどの状況で戦えるのが強みでもある。

 もっとも――。

『何を弱気になってんだよ。次の階層のボス程度なら楽に勝てるだろうに』

 二代目が呆れた声を出してくる。

 そうなのだ。

 今の俺にとっての切り札である初代のスキル【フルバースト】は、自身の能力を一時的に倍にする。

 爆発的な能力を発揮するスキルだが、それを使用するためには普段からチマチマと魔力を貯めておく必要があった。

 今の俺ならば、一度の使用で二日から三日は期間を空ける必要がある。ただ、それだけ待つと、能力を

 一時的に二倍から三倍に出来るのだ。

 ここに来る前にフルバーストを使用していないので、今なら三倍だろうが五倍だろうが能力を引き出せる。

「万能型の弱みだったかな? だけど、あらゆる状況に対応できる万能型のパーティーとして君は優秀だよ。優秀すぎると言ってもいい」

 ダミアンの言葉に引っかかるものを感じた。

 だが、俺も明日は早い。ゆっくりと休みたかった。

「そうですかね? 自分では気が付きませんけどね。眠いのでもう寝ます。食事は後で貰いますから」

「……そうかい。なら、おやすみ」

 ダミアンと別れてボックスから取り出した寝袋に包まると、俺は時間が来たら起こしてくれとノウェムに頼んで眠りにつくのだった。





『やあ!』

「……なんですか、三代目」

 眠ったと思ったら、俺は宝玉の中の会議室にいた。

 呼び出したのは三代目らしい。

『そう怖い顔しない。まったく進展のないライエルに、ミランダちゃんをいかに口説き落とすか教えようと思ってね』

 口説き落とすという言い方は嫌いだが、実際にきっかけを掴めないでいた。

 スキルを使用して見れば分かる。

 敵ではないが味方でもない状態である黄色で表示され、不安定に時々赤くなっている。

 シャノンはいないはずなのに、ミランダさんはボンヤリとしていた。

『六代目の落ち着きがなくてね。僕としても何とかしたいから、特別にスキルの使用方法を教えようと思ったんだ。みんなは駄目だって言うけど』

「まぁ、精神に干渉するやり方は少し思うところもありますから」

 そう言うと、三代目はニヤリと笑った。

『スキルで精神に干渉するのは駄目なのかい? 人間なんて、スキルがなくても相手を意のままに操れるのに?』

 それを聞いて「コイツ黒い!」と思った俺は悪くないはずだ。

 三代目はそのまま説明を続ける。

『人を操るのにスキルなんていらない。要るのは技術やちょっとしたテクニックだ。それを思えば、普段から人間は相手の精神に干渉しているとも言える。スキルを使用したからなんだって言うんだい? 問題なのは、それをどう使うか、だよ』

「どう使うんです? 下手に味方になれ、って干渉したら六代目は激怒しますよ。たぶん、あれはミランダさんにミレイアさんを重ねてみていますし」

 六代目のミランダさんへの執着は実際に凄い。

 俺には危険を冒させてでも、シャノンの手から解放させようとしている。

 それが出来ると思われている証拠でもあるのだろうが。

『人は疲れると精神も不安定になるからね。今は慣れない環境でミランダちゃんもいつもの抵抗力がないのかも知れないよ。だから……シャノンちゃんの影響が出てきているのかもね』

 確かに最初までは、ミランダさんも今よりしっかりしていた。

 迷宮に潜れば潜るほどに、不安定になりつつある様に感じたのは三代目の意見が正しいのかも知れない。

 今まで同じ屋敷に住んでいて、あまり干渉を受けなかったのがおかしいのだ。

「シャノンは危険ですね」

『そうかな?』

「え?」

 三代目の言葉に、俺は驚く。

 これだけのことをやっておいて、シャノンは危険だと思えないようだ。

『ミランダちゃんが慣れない環境で精神的に不安定になっているから、今の状況だよね? これが普通の生活ならどうだろう? 意外とミランダちゃんは平気だったかも知れないよ』

「……あの、それって俺たちが余計な事をしたんじゃ」

 五代目と六代目が異様に警戒したために、俺たちは大きな間違いを犯していたのではないか?

 そう思い始めた。

『五代目も六代目も、あれはミレイアちゃんを見ているんだろうね。それだけミレイアちゃんが凄かったから、シャノンちゃんも、って感じじゃないかな?』

 驚異だと思えなかった。

 俺はセレスを間近で見てきたが、セレスほどの何かをシャノンから感じなかったのだ。

 むしろ――。

『ミランダちゃんは、ミレイアちゃんに似ているって言っていたけど……本当に怖いのはミランダちゃんかも知れないよ』

 そう。

 明るくて周囲を気遣うミランダさんの方が、何かを持っている気がしていた。

 それは人を引き付ける何か、である。

 セレスに感じた恐怖とは違うものだった。

『そんなミランダちゃんが不安定なんだ……僕はそっちの方が危険だと思うんだよね。だから、スキルの使い方を教えて上げよう。応用すれば、すぐにでもハーレムが爆発的に増えるよ、ライエル』

 笑顔で告げてくる三代目に、俺は頬を引きつらせる。

 そんな事を本気で考えていないと知っているのに、よく言えたものだ。

 三代目の冗談に付き合いつつ、俺はスキルの使用方法――応用を聞かせて貰うのだった。





 目を覚ました時――。

 俺はすぐに寝袋に入ったまま転がってその場を移動した。

 周囲ではダミアンとアリアが、酷く疲れたのかぐっすり眠っている。見れば、ノウェムも眠っていた。

 クラーラも床に倒れて眠っている。

 ノウェムとクラーラは、最初の見張り当番だったはずだ。

 二代目が言う。

『この女、盛りやがったぞ!』

 俺は眠った後に食べようとしたために、食事に手を付けていなかった。

 運が良かった。食事に睡眠薬でも混ぜたのだろう。

 六代目の声が宝玉から聞こえてきた。

『操られていたのか。だが、どうしてこのタイミングで――』

 五代目が、六代目を止めた。

『今はライエルの命が優先だろうが。切り替えろ』

 俺は寝袋から飛び出すと、自分がいた場所を見る。

 俺が持っていたメイスを、ミランダさんが思いっきり地面に叩き付けていた。

 その力は、迷宮に入ってから見せてきた彼女のものではない。

「こんな事をしてどういうつもりですか?」

 俺がゆっくりと状態を起こしたミランダさんを見る。

 いつもの明るい笑顔はそこにはなかった。

 ただ、ハイライトの消えた瞳で、俺を見てブツブツと呟いていた。

「シャノンの敵は私の敵。シャノンの邪魔をする者は排除する。シャノンの敵は――」

 俺の武器も取って使用したのだろう。

 三代目に宝玉に呼ばれていなかったら、もっと危険な状態だったかも知れない。

「聞こえていますか、ミランダさん?」

 ミランダさんが飛びかかってくる。

 まるで前衛で肉弾戦を得意とするような動きを見て、俺は後ろへと跳んだ。

 しかし、彼女はメイスを俺に投げつける。

 避けると、壁にメイスがぶつかって金属音が部屋に響いた。

 彼女の手には、予備の武器である短剣が握られている。

 野営用の魔石を使用するランプの光が、部屋を薄暗く照らしている。

「ライエル……あの子の邪魔をしたわね……」

 踏み込んだミランダさんは、俺のすぐ側まで一瞬で移動してくる。

「速い!」

 すぐに屈んで突き出してきた短剣を避けるが、今度は彼女の足が俺に迫っていた。

 一瞬。

 セレスに蹴り飛ばされた光景を思い出す。

 すぐに彼女の足を掴んで無理矢理投げ飛ばしたが、壁に激突する瞬間には体勢を立て直し、壁を蹴って綺麗に着地していた。

 その光景を見ていた七代目が言う。

『後衛の動きではないな。いや、どちらもできる、というところか』

 ミランダさんの実力を見て、俺は今まで隠していたのだと気が付いた。

 シャノンに言われて隠してきたわけではないだろう。

 彼女は、自分の意思で隠していたのかも知れない。

 五代目がミレイアさんの名前を口にする。

『どうやらミレイアみたいに厄介な存在は、この娘だったようだな。まったく、俺の目もたいした事がない』

 悔しそうに呟く五代目。

 六代目は声を出さなかった。

 周囲の魔物は倒しているので、割り込まれる心配はない。

 だが、味方が眠っているので助けもない。

 ミランダさんはすぐに俺の視線に気が付いて、俺とノウェムたちの間に移動する。

 短剣を構え、腰を落としたミランダさんは一日や二日で戦いを覚えたようには見えない。

「今時の子はそんな事まで覚えるんですか? まぁ、ノウェムもそんな感じでしたけど」

 苦笑いをすると、ミランダさんの眉がピクリと反応を示す。

「……もしかして、実は意識があるんじゃないですか?」

 ここまで強い人が、これまでの戦闘で疲れたためにシャノンの干渉に抵抗できなくなった、とは思えなかった。

 頬がつり上がり、彼女の口が三日月のような形になった。

 綺麗な歯が暗い部屋で白く見えて不気味である。

「……どいつもこいつも五月蝿いわね。愛想の良い私はつかれて眠っているわよ。あのガキには感謝しているわ。ようやく表に出てこられた」

 キヒキヒと笑い出したミランダさんは、普段の雰囲気とは違っていた。

 短剣をもう一本引き抜くと、両手に構える。

 二刀流のスタイルだった。

「こいつさぁ、本当に良い子ちゃん演じるのが上手いのよぉ。だって、自分すら騙して良い子を演じるんだもの」

 舌を出して短剣の刃を舐めるミランダさんは、狂気の宿る瞳で俺を見ていた。

 それはとても楽しそうにしている。

「我慢して、それで一人でこっそり泣くの。本当に嫌になるわ……でもね、そこであのガキが余計な事をしてくれた訳よ!」

 俺は腰のベルトに隠していたナイフを手に取ると、ミランダさんの短剣を受け止めた。

 火花が散る。

 こうなるかも知れないと、黄色の反応が出たときに隠し持っていたのだ。

「やっぱりぃ、あんたは私の同類だわ……その分かってました、って顔を刻んで上げたくなるわね」

 ウットリとした表情でそう言うと、俺は彼女を蹴飛ばす。

 しかし、同じように蹴りを放った彼女はその勢いを利用して後方に飛んだ。

 まるで猫のようだ。

「あのガキが私の心の隙間に触れて、私が生まれたのよ! あのガキ、自分が何をしたか分かってないから最高ぉぉぉ! 表の私が精神をすり減らしていなくなったら、真っ先に斬り刻んでやろうと思っていたのにさぁ」

 走り出した彼女は、フェイントを使用して俺を惑わそうとする。

 しかし、二代目のスキルが彼女の位置を正確に伝えてくるので、盛っていたナイフで攻撃を受け止めた。

「でもぉ……今の私が最初に斬り刻みたいのは……あ・ん・た! ライエル君でしたぁぁぁ!!」

 連続で斬りつけてくるミランダさん――いや、彼女は、多彩な攻撃を俺に仕掛けてくる。

 サーベルを出しておけば楽だったと思いながら、俺は彼女に問う。

「どうして俺なんですか?」

「どうして? どうしてかなぁ……分かんないなあー!!」

 知っているのに隠している、そんな感じだ。

 今の彼女は戦闘を楽しんでいるようだった。

 俺を殺す事に楽しみを覚え、寝ているノウェムたちを人質に取ろうとはしていない。

 ただ――。

(想像以上の実力なんですけど!!)

 ミレイアさんに似ていると言っていたが、ミレイアさんもこんなに強かったのだろうか?

 そんな事を考えつつ、俺は彼女の短剣の一つを蹴り飛ばした。

「アハッ! 最高ぉじゃない! こいつの身体能力でも押し切れないとか、あんた本当に面白いわ」

「それはどうも」

 軽口を叩きつつ、俺は宝玉に軽く触れるのだった。

 三代目が言う。

『いいんじゃない?』

 何を言いたいのか理解したようだ。

 俺としては気が進まなかった。

「どうして最初に俺なんですか? ノウェムたちを狙わなかった理由は?」

 ミランダさんが、短剣を指先で回しながら答える。

「起きたのがあんたに声をかけられたから。意識があるんじゃないか、って聞かれたときにこいつ動揺してさぁ」

 ニタニタと笑う彼女は、ミランダさんの内心を暴露する。

「知ってる? こいつ、アンタを見て一目惚れしたの! この人なら分かってくれるんじゃないか、って淡い期待をしやがったのよ! 笑えるでしょう? 心の中では笑ったことなんかない癖に」

 愛想が良く誰からも頼りにされる彼女は、どうやら悩みも抱えていたようだ。

「だ、か、ら……あんたを最初に斬り刻んで、あの子の心を壊しておこうと思ったの。だって、もう閉じ込めていられるのも飽きたのよぉ」

 俺は彼女との間合いを計りながらジリジリと動いていた。

 彼女も、笑っているが俺が隙を見せたら飛びかかってくるつもりだ。

 こちらがミランダさんの体を攻撃できないのを、理解している雰囲気だ。

「最初にあんたを殺そうとしたの……表の私だったのよ。だってそうじゃない。私が出てくる前にとどめを刺そうとしたのはあいつの意思だもの。あのガキに操られて、だけど。でもね……ほんの少しは表の私も本気だったわよ。だって見せつけられて悔しいじゃない」

 彼女の視線がノウェムを見る。

 俺が警戒を強めると、彼女は笑い始める。

「大丈夫よ。私は浮気なんかしないから……でも、ライエル君はノウェムにもアリアにも、ついでにそこのクラーラにも手を出して、酷い男よね」

「残念でした。キスすらしたことがないね。俺はシャイなんだよ」

「あら残念……殺す前に、表の私が声をかけておけば良かったわね」

 そう言うと、俺は否定する。

「ノウェムがいるんで止めてくれるかな? 本気なんだよね」

「……そう。やっぱりそうなんだ。同じなのに、表の私は理解されないわけね」

 彼女の発言が気になったが、俺はすぐに飛びかかる。

 準備が終わったのだ。

「あら、急にやる気を見せ――ッ!!」

 彼女の顔が歪む。苦しそうな表情で、俺を睨み付けてきた。

 そのまま飛びかかった俺に対して、短剣を突き出してくる。

 突き出された短剣を握る拳を、俺は掌で掴んだ。

 人差し指と中指の間には、短剣の刃が手袋を薄く切ってしまっている。

「何をした……何をしたぁぁぁ!!」

 右手で彼女の左手を掴むと、暴れる彼女に蹴りを食らう。

 女の子の蹴りではない。

 痛いのを我慢して、余裕のある表情で説明をした。

「精神に干渉するスキルはね……支援系のスキルにもあるんだよ。それを俺が使えない、って一言でも言ったかな?」

「このクズ野郎がぁぁぁ!!」

 宝玉が青い光を発すると、無理矢理彼女を封じ込めてミランダさんを呼び出す。

「気分はどうですか?」

 両腕を離すと、彼女は膝から崩れ落ちて短剣を手放した。

 金属音が部屋に響くが、誰も目を覚まさない。

「……もう、最悪よ」

 俯いてしまって表情が見えない。

 そのままスキル【マインド】を使用する。

 彼女の心の奥底に呼びかけ、無理矢理引っ張り出したのだ。本音をペラペラと喋り始めた彼女も、マインドのスキルによって干渉されていたのだ。

(出てきたばかりで良かったよ。というか、アレは危険だね)

「……知っていたんですね。シャノンの事」

 俺が問うと、彼女は口と開く。

「聞いたでしょ。分かるのよ。あの子が干渉してきたのも知っていたし、知らない振りをしてきた。だって……私はシャノンのお姉さんだから」

 アリアが言っていた事を思い出す。

 損なことばかりする彼女を、心配していたのはアリアだった。

「誰だって見せたくない部分はありますよ」

 俺が言うと、ミランダさんは笑い出した。

「よく言うわよね。だけど、実際に見られた私はたまったものじゃないわ。異常な自分を見せつけられたのよ」

 俺は溜息を吐くと、マインドを使用する。

 六代目が声を上げた。

『よ、止せ、ライエル!』

 しかし、三代目が止める。

『いいよ、いいよ。やっちゃいなよ。シャノンちゃんに作られたとか言っていたけど、それも本当の自分だよ。積もり積もっていつか爆発するなら、認めて上げた方がまだマシだよ』

 三代目は、いつもの軽い調子で言うだけだ。

(他人事みたいに)

「拒否しようが事実は変わりません。アレも貴方の一面ですよ。これから俺のスキルでその辺を治療します」

 別れてしまったものを、また一つに――。

 彼女が捨ててしまった黒い感情を、しっかりと認識させる。

「…………私、醜いわよ」

「安心してください。もっと醜い奴がいます(妹であるセレスがね)」

 ゆっくりとミランダさんが顔を上げてくる。

 乱れた髪が顔に張り付いていた。

 そして、髪の間からハイライトの消えた瞳が俺を見ている。

「どうなっても知らないわよ。ずっと押し込めてきたのに」

「いつか表に出てきましたよ。その時は大惨事になります。それなら、今から認めて上げてください。もう一人のミランダさんが、守って上げるべきです」

「守る?」

 押し込めた感情を悪いものとして扱ってきたのだろう。

 だが、俺に言わせると、それも人間だ。

 悔しく、悲しくて、誰かに見て貰いたかった自分……恥ずかしいが、それも俺の一部だった。

 いや、大半だった。

 だが、その悔しさを糧に頑張ってきたのだ。

 ――報われた訳ではないが。

「拒否されてばかりでは、あれだけ歪んでも仕方ありませんよ」

 右手でミランダさんの肩に触れると、宝玉が光り始めた。

「……確かに、ね」

「それに、俺は貴方を受け入れますから」

 どんなミランダさんでも、それがミランダさんだと俺は受け入れる。

 そういうつもりで言った言葉だ。

 だが――。

「え、今なんて……」

 彼女が青く光ると、そのまま横に倒れる。

 精神的にかなり消耗したのだろう。

 俺も、スキルを使用して少し疲れた。

「明日もあるのに……はぁ、寝るか」

 これで少しはシャノン対策が進んだと思いたかった。

 六代目は呟いた。

『俺は……分かっていなかったのか』





 ――見張りの交代時間。

 ノウェムは座っていた場所からゆっくりと立ち上がる。

 周囲では睡眠薬で眠っているダミアン、クラーラ、アリア……。

 それに、ミランダとライエルも眠っていた。

「……医術関係と聞いていましたが、薬の量は適量でしたね。これなら明日はみなさん起きるでしょう」

 クラーラとは一緒の当番だったのだが、ノウェムは眠らせておく事にした。

 毛布をクラーラに掛けてやる。

 杖を持ったノウェムは、ミランダの元に向かった。

 髪が汗で顔に張り付いている。

 酷く疲れている様子だった。

 杖を握りしめるノウェムは、ミランダの隣で横になっていたライエルが動いたので手の力を抜く。

 杖を握りしめていた手を離すと、今度は掌を凝視した。

「何故、こんな反応をしたのでしょう? それはそうと、このまま起こすのも……」

 ライエルも疲れたのかぐっすりと眠っていた。

 その表情を見て、ノウェムは微笑む。

 すると、今度は顔に手を触れてみた。

 首をかしげるとそのまま見張りを継続することにした。

「先程の戦闘で疲れているようですし、ここは私が見張りをしておきますね」

 先ほどの戦闘中。

 ノウェムは眠ってはいなかったのだ――。





 全員が起きたのは出発時間を軽く過ぎた辺りだった。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

「もういいですから」

 苦笑いする、ノウェム。

 起きてからノウェムに謝り続けるクラーラを見た俺は、注意することも出来ない。

 何故なら、俺も眠って見張りを寝過ごしたからだ。

 ノウェムになんで起こさなかったのかとたずねても、疲れていそうだったので、と返されるだけだ。

 それ以上に責めるのは、眠っていた俺の立場からだと言い辛かった。

「いや~、ぐっすりだったね。うん、まるで睡眠薬でも飲んだ気分だよ!」

 大声で笑うダミアンは、久しぶりにぐっすり寝たので気分が良かったらしい。

 いったいどんな生活をしているのか問い詰めたかったが、説明が面倒そうだったので止めておく事にした。

 アリアも気まずい感じで静かに食事をしている。

 ミランダさんは――。

「ごめんなさいね、ノウェムちゃん!」

 ――明るく元気だった。

 まるで昨日の出来事が嘘のようだったが、三代目が言ってくる。

『開き直ると楽なもんだよ、実際』

 五代目はそれを聞いて疑問に思ったようだ。

『……そうする事が出来るなら、な。いや、俺も開き直りだったのかも知れないが……』

 何か思うところがあるようだ。

 二代目は――。

『前より元気だな。いいじゃん。これならシャノンの改心も手伝ってくれるだろうさ』

 四代目も同意見だ。

『実にいい笑顔だね。手伝ってはくれそうだけど……あの笑顔の裏ではあんな感情が眠っていると知ると、やっぱり女の子は怖いよね』

 実感がこもっているだけに、俺はかけてやる言葉が思い浮かばない。

(それを考えると、ノウェムって完璧だよな)

 俺は少しだけ四代目に自慢したい気分になる。

 七代目はいつも通りだ。

『まぁ、これで後はダミアンの依頼だけに集中できますな』

 六代目は元気がない。

『……そうだな』

 いつまでもこうしてはいられないので、俺は食事を終えると片付けに入った。

「もう、クラーラもその辺にしておけよ」

「駄目です。私のようなサポートは、こういう時にしっかり働かないと駄目なんです」

 いつもよりキビキビとした感じで言ってくるので、彼女なりの仕事への入れ込みなのだろう。

 俺は「お、おう」と言いつつ片付けに戻った。

 すると、ミランダさんの側を通った時に――。

「昨日はありがとう、それと……これからもよろしくね、ラ・イ・エ・ル・君」

 一瞬だけ、あの時の――彼女の笑顔をミランダさんが浮かべたのだった。





 三十階層ボスの間。

 大きな空洞のある筒を担いだオーガが、俺の目の前に立っていた。

「まるで大砲みたいだな。それにしても、ここは厄介なものを持っている魔物が多い」

 全員を下がらせた俺は、一人でオーガと向き合っている。

「本当に大丈夫なんだろうね~」

 ダミアンが疑いつつも後方で待機していた。

 俺を見て舐められていると思ったのか、オーガは担いでいた筒を振り上げた。

 俺は宝玉を握りしめる。

「……【フルバースト】」

 呟くと、宝玉の装飾であった銀色の金属が膨れあがり、俺の右手に大剣を握らせた。

 初代が使っていた大剣に似ているが、徐々に俺の扱いやすい形に変わってきている。

「悪いんだが時間がない。一撃で終わらせて貰う」

 両手に持った大剣を、腰だめにして横に振り抜く体勢に入った。

 振り下ろされる金属の大筒に合わせて、俺も大剣を振るう。

 衝撃波が起き、そのままボスの間の壁までオーガを吹き飛ばした。

 着ていた金属の腹巻きやら籠手やらを、大筒ごと斬り割いて壁まで吹き飛ばしたのである。

 両断された大筒が二つに分かれ、そのまま地面に落ちた。

 俺はスキルを解除する。

「……これ、逆に一撃で仕留める以外は厳しいな」

 大剣を元の形に戻すと、失った魔力を考えてまた悩む。

 本当にもう一度くらい、俺は成長しておかないと宝玉を使いこなせないかも知れない。

 俺の戦い方を見ていた仲間が、寄ってきた。

「流石ですね、ライエル様」

 ノウェムはいつものように俺を褒めてくれる。

 アリアは――。

「それ、もっと頻繁に使えないの?」

「……使えたら使うよね? そういう事だよ」

 冷たい対応には、こちらも冷たく、である。

 まぁ、仲間同士なので出来るやり取りだ。

 クラーラは俺の宝玉を真剣な表情で見ていた。

「希少金属ですね。それもかなり高価な代物ですよ」

 ミランダさんは、笑顔で拍手をしていた。

 しかし、いつものようにただ明るいだけではない。

 前よりも親しみやすかった。

「これで教授の依頼も達成ね。さぁ、教授はライエル君に魔法を教えてくださいな」

 ダミアンとの約束では、三十階層を突破すれば魔法を教えて貰う約束だった。

 だが、ダミアンは俺を見て言う。

「約束だから守るよ。ついでに一言だけいいかな?」

「何か?」

 俺を真剣に見るダミアンは言う。

「君は、そのままだと駄目になるよ。ま、僕の知ったことじゃないけどね」

 そう言われた俺は、言い返すことが出来なかった。

 何故だろう?

 そして、二代目も同意する。

『……だろうな』

 順調に進んでいるダミアンの依頼だったが、俺はまた新しい問題に直面したようだ。
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