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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

実は黒いのか? 三代目

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迷宮攻略の前に

『改心できなければ、シャノンの目は潰しておく必要がある』

 そう言われた俺は、気持ちの整理がつかないままにメモを手にアラムサースを歩いていた。

 昼を過ぎ、屋敷でシャノンと顔を合わせていると気まずいので、クラーラに教えて貰った私塾の場所を探しているのだ。

「流石にやりすぎなんじゃ……」

 考えがまとまらないのは、悪戯程度で目を潰す必要があるのか? という点である。

 シャノンにとっては、見えなかった目がスキルによって見えている程に周囲をとらえることが出来るようになっている。

 目を通してスキルが発動しているので、目を見えなくする……潰してしまうと、スキルがあっても周囲の情報を感じることが出来なくなる。

 それが五代目たちの言い分だった。

 悩んでいる俺に、六代目が言う。

『まだ悩んでいるのか? 気持ちは分かるが、あの子にとってもアレは過ぎたものになり得る。ミレイアがシャノンの姉のような性格だったからこそ、俺も親父もその能力を持っていても安心できたんだ』

 優しい人だったようだ。

 ドライな性格をしている五代目が、不要と思いつつもミレイアには手を下さなかった事からも、ミランダさんのような損をする性格なのだと理解できる。

 五代目は――。

『あのまま放置しておけば、悪戯ですまなくなるぞ。今の内に将来の怪物候補は潰しておくべきだ』

 俺は小声で聞き返した。

 通りには人が多く、俺が声を発しても誰も見向きもしない。

 大きな通りには、私塾の看板がいくつも掲げられていた。

 謳い文句も様々である。

 怪しいものもあれば、目を引く看板もあった。

「怪物候補ですか? セレス並とは思えませんけど」

 俺の正直な感想に、五代目に甘いと言われた。

『相手がスキルを使用すれば感知し、そして魔力の流れに触れられる。今は離れた所から悪戯程度だが、ミレイアはその気になれば人の心だって操れた。あの子は優しかったから、その力を心に傷を持つ連中に使って癒していたんだよ。分かるか? あの悪戯娘には過ぎた代物だ』

 六代目が言う。

『治療の一環で知り合ったのが、当時のサークライ家当主だ。ミレイアに惚れてそのまま結婚まで話が進んだ。俺と親父も手元に置いておきたかったが、ミレイアの幸せを考えて送り出したんだぞ』

 当時を思い出したのか、少し声に悔しさが混じる六代目。

 しかし、五代目はいつも通りだ。

『文官で名門と言われるサークライに嫁いだから、結果的にウォルト家としてもよかったと思うがね。セントラルの法衣貴族と付き合いが出来るのは、大きいからな』

 こっちは相変わらず、といった感じだった。

 五代目らしいと言えばらしいのだが――。

 六代目は言う。

『本気になれば手が付けられんぞ。三代目のスキル教えたのも、シャノンに対抗するためだ』

 過ぎた力を持つシャノンを、なんとか改心させるのが俺の勤めらしい。

 目が見えている訳ではないが、それでも普通に生活できるシャノンが見えないふりをしているだけでも不気味だ。

 知られたくないと思っている、とも考えたが俺たちへの悪戯も日に日にエスカレートしている。

 今は三人とも外に出ているので問題ないが、誰かと残すと本気で危険かも知れない。

(精神に触れられるのか? いや、魔力を通して触れるのか……どっちにしても、俺がなんとかしないと目を……)

 やりたくない、と言うのが正直な気持ちだった。

 だが、ご先祖様たちはやれ、という。

 潰せとは言わない。だが、改心させてなんとか潰さない方向に持って行け、無理なら可哀想だが……。

 という感じだった。

(なんで俺がこんな事で悩まないと……)

 どうしてこんな事になったのか?

 今から屋敷を出れば、シャノンの意識は俺たちから外れるのだろうか? そうなった場合……ミランダさんは無事なのだろうか?

 そんな考えが浮かんできては、俺は悩み続ける。

(そもそも……あの子がセレスみたいになるなんて、想像できないんだが?)

 俺の知っているセレスは、本当に化け物だった。

 怪物と称した初代が言うよりに、存在するだけで周囲が巻き込まれていくあの感覚……離れてみれば異常だと気が付くが、その場にいると不思議とも思わなかった。

 ただ、シャノンがそのような怪物には見えない。

 危険と言われれば危険かも知れないのだが、俺にとっては警戒しすぎている様に感じるのだ。

(五代目や六代目は、もしかしたらシャノンにミレイアさんの影を見ているのかも知れないな)

 俺にとって、本当に気にしなくてはいけないのは、その魔眼と呼ばれるスキルを使いこなしていたミレイアさんのような気がする。

 そして、彼女に似ているのは――。

 考え込んでいると、三代目の声が聞こえてきた。

『ライエル、ここじゃないか?』

「……そうみたいですね」

 大きな看板を掲げた剣術の道場が見えた。

 クラーラに聞いた、私塾を開いている元冒険者がいる場所らしい。

 室内からはかけ声が聞こえてくる。

「踏み込みが足りないぞ!」
「はい!」
「そんな事で迷宮を生き残れると思っているのか! 声を出せ!」
「はい!」

 かけ声が聞こえてくると、俺は道場を覗いた。

 ここは前衛をやっていた剣士が開いた道場のようだ。

 二代目が道場を見て一言――。

『……え~、あれが地下五十階に届いた剣士? なんか弱そうじゃないか?』

 三代目も同意するが、少し意見が違う。

『見た感じはそうだけど、実は実力を隠しているとか? 同じ剣士として気になるね。ただ、どうしてもあんまり強くは……』

 四代目は。

『基本的に道場剣術だね。いや、悪いとは言わないけど……五年前の話だから、実戦から遠のいて腕が鈍ったのか?』

 五代目が。

『ライエルが戦えばよくね?』

 六代目……。

『ですな』

 七代目……。

『道場破りですか。若い内にやってみるのも良いかも知れません。ライエル、そういう事だから……』

「……なにがそういう事だから、だよ。お前ら道場に恨みでもあるの? なんで道場破りなんか」

 つい口に出してしまうと、近くにいた道場の門下生と目が合った。外に出てきたところで聞かれてしまったのだ。

「ど、道場破りだぁぁぁ! 先生!! 来ました! 道場破りです!」

 駆け込んでいく門下生の背に手を伸ばした俺は、口とパクパクとさせ聞こえないのを分かっていて言い訳を言う。

「い、いや、あの……違うんですけど……」

 三代目の声が聞こえた。

『これで逃げられないね、ライエル。ほら、覚悟を決めて実戦で鍛えた剣術を見せてやるんだ! 道場剣術なんかに負けるな!』

(……俺も外に出るまで、道場剣術を学んでいたんだけど?)

 慌ただしくなる道場を見て、俺はその場から駆けだした。

 逃げたのである。

 六代目が言う。

『なんだ、やらんのか? つまらないな……こういうのは結構楽しいぞ』

 走りながら、俺は叫ぶ。

「全然楽しくないよ! 何が悲しくて道場破りなんかしないといけないんだ! こっちは色々と教えて貰うつもりだったのに!」

 道場から飛び出してきた門下生たちが、逃げる俺を追いかけてくる。

 その表情は、血が上っているのか顔が真っ赤だった。

 このままでは、言い訳をしても許して貰えそうにない。

 四代目のスキル【スピード】を使用し、走る速度が上昇した俺は追っ手から逃れるとしばらく身を潜めるのだった。





 屋敷へと帰る前に、メモに書かれていたもう一件の私塾へと向かう。

 そこでは、魔法使いがスキルを得て使用できるようになった調合を教える場所であった。

 こうした調合などで力を発揮するスキルを持つ人は多く、学術都市はその手のスキルを持つ人が多いのか生徒は結構な数がいた。

 眼鏡をかけ、ローブを纏った男性が俺にお茶を勧めてくる。

「ハーブのお茶です」

「ありがとうございます。それであの……迷宮で最下層まで行った時の話を聞きたいのですが?」

 用件を伝えると、授業が終わるまで待ってくれるなら話すと言われたのだ。

 俺は教室で待たせて貰い、話を聞きながら時間が過ぎるのを待っていた。

「その手の話は多いですからね。ただ、私は役に立てないと思いますよ? 行くには行きましたが、当時の私はサポートでした。魔法で周囲を照らす、または治療を行なう事でパーティーに貢献していたんです」

「いえ、雰囲気とか注意する点を聞きたくて……道場の方では、道場破りと間違われて話を聞けませんでしたし」

 そう言うと男性はクスクスと笑い始める。

 俺が不思議に思っていると、事情を説明してくれた。

「彼は当時荷物持ちがメインでした。ただ、戦闘にも参加していたので弱いという訳ではないですよ。実際に腕も立った。ですが、パーティーの主力ではなかったんです」

 聞けば、主力メンバーはアラムサースを離れてベイムへと向かったらしい。

 人数で言うと五十名近い大所帯だったようだが、迷宮ではサポートが重要とあって実際に主力として戦ったのは十五名もいなかったようだ。

「今は傭兵団でも率いているかも知れません。冒険者よりも実入りが良い場合が多い。それに、各地で小競り合いが増えてきましたし」

 男性は少し悲しそうな顔をして言う。

「私の作った薬も飛ぶように売れていきます。なので、生徒も集まるわけですが」

 苦笑いをしている男性に、俺は迷宮で気をつける事を聞いた。

 男性が言うには――。

「迷宮は場所によって違います。特にアラムサースでは十階毎に魔物のボスが行く手を阻みます。十階、二十階のボスは討伐されていることが多いのですが、三十階以降は討伐されずにそのままという状態です」

「復活するんですよね?」

「えぇ、一週間から十日程度でね。ただ、気をつけないといけないのは討伐されずに残っているボスです。長い時間をかけて、彼らは強くなっていく。ただでさえ強力なのに、力を蓄えるんですから厄介ですよ」

 俺に忠告してくる男性は、そのまま冒険者として気をつける事を言ってきた。

「貴方も迷宮に挑めばスキルを発現するかも知れません。もう持っているかな? でも、スキルで強くなった時は注意してください。自分の力が増したと感じるスキルが多いですが、それで失敗する冒険者は多い。“スキル”“成長”、その二つが冒険者を狂わせることもありますから」

 優しそうな男性は、そのまま笑うと「まぁ、先輩からの忠告と思っておいてください」と言った。

 七代目が言う。

『ふむ、良い冒険者のようだな。大方、元のパーティーとは意見が合わずにアラムサースに残ったのだろう。クラーラは人伝に聞いて内容を詳しく知らなかったのだな』

 別にクラーラは悪くないし、貴重な情報を貰えたので俺としてはありがたかった。

「すみません、最後に一つ聞きたいのですが」

「なんですか?」

 最後に聞こうと、俺は男性に聞いてみた。

 一応はダミアン・バレの依頼を受けているので、確認をするつもりだったのだ。

「四十階層のボスを倒す程度の規模となると、どれくらいのパーティーが必要ですか?」

 男性は少し考え、そして微笑む。

 学術都市の七傑の依頼だと、気が付いたようだった。

「ダミアン・バレの依頼を受けているんですか? 私たちの時には五十人近くで挑んで、ギリギリだった気がします。君がどれだけ強いのか、そしてどれだけ優秀な仲間を持つのかによって話は変わりますが、基本となる六人では地下十階を超えるときつくなるでしょうね。才能があっても六人では地下二十階が限界でしょう。強さと言うよりも、戦闘を継続するという意味でも難しい。無理をすれば可能ですが、冒険者としてそれでは失格です」

 強ければ良いのではない。

 稼がなくては、冒険者として意味がないのだ。

 魔物を倒して素材や魔石を諦めるなら、男性は地下三十階のボスまで行けるのではないだろうか、そう言っていた。

 俺は男性に話を聞けたので、お礼を言って私塾を出る。

 置かれていた販売されている薬も購入し、男性に「無理はしないように」と念を押されるのだった。





 屋敷へと帰る道すがら。

 俺は誰もいない通りで新しく得られた五代目のスキル【ディメンション】と六代目のスキル【スペック】を試していた。

 より立体的な地図が頭に浮かぶと、都市で動き回る反応が細かに分かる。

 次の曲がり角の向こうにいるのは、男性二人組。

 年齢は十代前半で遊んでいる。

 より複雑な情報を得られるようになった俺は、スキルの使用方法を確認していた。

「情報量が一気に増えたな」

 良いこともあるのだが、同時に頭の中に沢山の情報が流れ込んでくる。

 慣れるまで時間が必要だった。

 六代目がアドバイスをしてくる。

『下手に応用であるスキルを使い続けるな。場合によっては平面で確認するだけでもいい。魔力の消費も馬鹿にならんからな』

 俺は言われた通りにするつもりだ。

 だが、今はスキルの使用を試しているので、このまま歩き続ける。

 曲がり角を過ぎると、やはり二人で子供が遊んでいた。

(……このスキル、実は相当凄いんじゃないか? 六代目は、絶対に詳しい内容を言うなと言っていたけど、少し分かるな)

 併用した使用方法を考えついたのは、六代目である。

 そして、それがどれだけ凄い事かを理解していたのも、六代目だ。

 もっとも、それに気がついた五代目も凄い。

 感覚で知るよりも、地図で確認しないと気が付かないこともある。

 五代目のことだ。

 きっと効率重視で、統治するにも戦争をするにも、このスキルが有効だと思ったのだろう。

 二代目が俺に言う。

『さて、ライエル。覚悟の方は決まったか? もっとも、まずはシャノンが目が見える証拠を掴まないといけないが』

 説教をするにしても、シャノンの化けの皮を剥ぐ必要があった。

 ミランダさんに事実を教えるためにも、必要な事である。

(家主の妹に言いがかりを付けていると見られても面白くはないからな。本当は関わらないのが良いんだろうけど……ミランダさんにはお世話になっているし)

 ノウェムやアリアが、基本的に家事をこなしている。

 学園で勉強に忙しいミランダさんは、二人に凄く感謝をしていた。

 だが、冒険者として仕事をしている俺たちからしても、戻った時に食事の用意があるのは違う。

 すぐに休める上に、凄く安心する。

 ミランダさんのお世話になっている部分も大きかった。

 俺たちが出て行けば、またシャノンは使用人を次から次に追い出してミランダさんを困らせるのだろう。

(……改心させないとな)

 俺は、いかにシャノンを改心させるかを、考えるのだった。
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