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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

初代様は蛮族

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七人のご先祖様

 夜、廊下に出て椅子に座って寝てしまった俺は、知らない部屋でご先祖様たちに会っていた。

 どうしてこのような状況になったのか? 自分でも理解できなかった。

「というか……」

 部屋の中央には大きな丸いテーブルがあり、それを囲んで俺たちは座っている。椅子は大きく、背もたれの部分が俺の頭部を超えていた。

 高級感のある室内に相応しい椅子なのだが、どこか現実感がない。部屋の至る所に、青く丸い玉が装飾として埋め込まれていた。

 テーブルの中央にも青く光っている玉が存在する。

『お前が教育を間違ったんだろうが!』
『わしじゃない! 大体、ウォルト家は男系で、しかもライエルが跡取りで正式に決まっていたんだ! 絶対にわしのせいじゃない! もしもその場にいたら、息子を殴り飛ばした!』

 蛮族スタイルの男と、俺の祖父が喧嘩をしてつかみ合っている。

 一見すると蛮族スタイルの男の方が優勢だが、周囲の反応は冷めたものだった。二人を放置して、俺の話に戻る。

 狩人のような恰好をした男が、俺に先程の説明を求めた。

『五月蝿い二人は放置して話を続けようか。そうなると、ライエルは九代目になる予定だったが、妹に負けて跡取りでなくなって家を追い出された。ここまででもかなり問題あるんだけど、この際はいいとして』

 次に進もうとするのだが、そこに蛮族スタイルの男――地方貴族ウォルト家の初代として、開拓団を率いた【初代 バジル・ウォルト】が口を出してくる。

『良くないだろうが! 年下の女の子に負けるのが次の当主だ? ふざけるな!』

『この蛮族が! わしの孫に何を言ってくれてんだ!』

 祖父が初代を殴り飛ばすが、周囲の雰囲気は冷めたものだ。

 しかし、冷めた感じで狩人風の男――【二代目 クラッセル・ウォルト】が軽く流した。

『問題はそこじゃないから。二人とも座ろうか。……さて、普通なら女の子に当主を継がせないのが俺たちの意見だね。少なくとも、俺は優秀だろうが女の子を当主にはしないし、そうするように教えても来なかった』

 二代目の意見に、その隣に座っている三代目――【三代目 スレイ・ウォルト】も同意する。

 下級貴族が着るような服を着て、どこか軽薄な感じがする人物だ。

『そうだね。実際に僕も当主になったし、息子の【マークス】も娘はいたけど当主だもんね』

 三代目のスレイは、ウォルト家でも初の戦死者だ。だが、伝え聞いているイメージは、王の撤退で殿を努めて成功させた義将である。

 万の軍勢を、たった一人で防いだと言われる男だった。

 ただ、目の前の人物からはそういった印象をまったく感じない。

『あんたは引き継ぐ前に戦死しただろうが! そのせいで俺がどれだけ苦労をしたと思っているんだよ!』

 こちらも貴族が着るような服を着ている。だが、二代目と同じで苦労人のオーラが出ていた。

 【四代目 マークス・ウォルト】は、ウォルト家が男爵家となった時の当主だ。

 そして、五代目が溜息を吐いている。

 【五代目 フレドリクス・ウォルト】は、ウォルト家でも一番の好色家だ。妻に加えて、妾が四人もいたらしい。

しかし、イメージとは違ってそういう軽薄そうな感じではない。

『はぁ、誰だって苦労はしますよ。僕だって苦労はしたんですけどね』

 すると、赤い髪をしたワイルドな六代目が頷いた。【六代目 ファインズ・ウォルト】は、伯爵家となるために汚い手段も取ってきた人物である。

 父が、六代目のイメージがあって、ウォルト家に不利益が出ていると愚痴をこぼしていた。

『ですな。だが、娘を当主にした理由が剣術の勝負とは……ブロード、お前は本当に教育に失敗していないよな?』

 【七代目 ブロード・ウォルト】が、俺の祖父になる。

『息子は親の目から見ても優秀でしたからな。それに、わしが最後に覚えてる限りでも、ライエルは次期当主で、セレスはあくまでもウォルト家の女子として教育していたはずですが……』

 目の前にご先祖様たちがいて、そして俺を前に言い争っている。これだけでも理解できない状況だ。

 二代目が俺の話を聞き、結論を出す。

『ぶっちゃけるとさ……あり得なくね?』

 その砕けた言葉に、周囲も賛同する。

『ですね』
『そうだな』
『あの馬鹿息子……殴り飛ばしてやる』

 そして、話は俺に戻ってきた。今度は、二代目と同じように苦労人のオーラを出して眼鏡をかけている四代目が俺に聞いてくる。

『そこが気になるんですよね。だって、ライエルが負けたにしても実力が分からない。そのセレスって子は、そんなに才気に溢れていたのかい?』

 セレスの事を聞かれ、俺は下を向く。思い出したくもないが、説明しなくてはいけないのだろう。

(どうせ説明するなら、ここで済ませておくか)

 そう思い、俺はセレスの事について説明した。

 二つ下の妹で、なんでもこなす事。それも、俺が何百時間とかけて得てきたものを、数時間で習得するという事を――。

 そして、一番重要なのは――。

「妹は完璧なんです。勉強もそうですが、それ以上に雰囲気とでも言えば良いのか……」

『雰囲気? それに完璧ってなんだよ。当主が女っていうのは、結構な不利になるんだが? それを補うだけの何かがあったのか?』

 蛮族姿でテーブルの上にあぐらをかいて座る初代が、俺の話に食いついてきた。

「……誰もが惹き付けられるんです。両親だって、最初は俺の事を見てくれていました。けど、十歳を超える頃から雰囲気がおかしくなって――。それで、屋敷の雰囲気も段々とセレス中心に」

 そこまで言うと、初代は黙り込んで考え込んでいた。

 そして、四代目がその場を仕切って会話を始める。

『つまり、ライエル以上に才能があったのを周囲も認めていた、と? その辺はどうなの、七代目のブロード君』

 祖父が首をかしげる。

『いや、確かに孫ですから可愛かったですが、そこまでかと言われると……。やっぱりあり得ませんな』

 祖父が否定する。俺も同意見だ。祖父が生きている頃には、屋敷内の雰囲気も普通だったのだ。

 妹とも特別に仲が悪かった事もない。

 そして、五代目が口を開く。

『七つか八つの頃から雰囲気が変わりだした、ね。ならスキルでも発現したのかも知れないな。早ければそれぐらいの時期に発生してもおかしくない』

 その意見に、三代目が否定的な事を言う。

『どうかな。発現しても気がつかない場合が多いよ。発現しても、実際に使えるようになるのは早くても十歳くらいだし。そうなると、期間的に厳しいかな? ライエル自身もスキルが発現しているのに、今は気がついてないようだし』

 【スキル】――それは、この世界に生きる人間が、神に与えられた魔法とは違う恩恵の一つだ。

 一人につき一つが原則とされており、そのスキルを磨き上げて戦ってきたのが人間である。

 もっとも、それを技術で再現する事は可能であった。何しろ、俺が貰った玉も歴代の当主がスキルを――。

(ちょっと待てよ。あの声が聞こえてきたのは、ゼルの小屋で世話になったときだよな? それから、しっかり聞こえるようになったのは……玉を貰った時からだ)

 気がついて顔を上げると、ようやく気がついたのかと三代目が口にする。そして、俺にスキルが発現している事も告げてきた。

『まだ形が整っていないけど、玉が反応してスキルを保存している。だから玉に記録された僕たちが反応できたわけだし』

 意外と物知りな三代目に、俺は自分がどんなスキルを発言したのか確認した。

「あの、俺のスキルっていったい?」

『それは分からないかな。でも、青い玉は【支援系】のスキルを発現させるから、支援系だと思うよ』

 スキルには大まかに三種に分けられる。

近接戦を主体にしたスキルである【前衛系】。これは赤い玉が発現させるという。

黄色の玉には【後衛系】と言われるスキルが。

青は支援系らしい。

 それら三種に分類されるスキルだが、かつては玉によってある程度まで方向性を決められたようだ。

 ウォルト家が、支援系のスキルを発現してきたのは、青い玉を持っていたかららしい。

「……そうなると、俺も支援系なんでしょうか?」

『不満そうだね。でも、僕の時は支援系が人気だったよ』

 三代目が俺の不満そうな顔を見て言う。

今の時代は、やはり高火力を意識して後衛系のスキルが好まれている。

 だが――。

『わしの時は前衛系と支援系で、後衛系は不遇でしたな』

 祖父がそういうと、二代目も疑問を持ったのか首をかしげる。

『俺の時は、支援系は不遇だったよ。時代によって違うのかね?』

 すると、脱線した話題を四代目が戻す。

『とにかく、セレスという娘が何かしらのスキルを発現し、そのためにウォルト家が判断を誤った線は可能性が低い、と。そうなると、ライエルに本当に当主としての器がなかった事になるね』

 俺は、そう言われると言葉も出なかった。必死にやってきたが、頑張ってきたから当主に相応しいという事はない。

 伯爵家となったウォルト家を率いるに相応しい才気がないと言われれば、それまでである。

 だが――。

『でも不自然すぎるね。受け答えを見るに、そこまで酷いわけでもない。今では頼りになる家臣だっているんだし、ライエルが頼りなくても男の子なら当主に選ばれるのが普通だよね。仮にセレスという娘が才気に溢れても、当主にするとデメリットが多い』

 五代目が、淡々と女の子を当主にするのはデメリットがあると言う。実際に、女性が当主をしている家もある。

 だが、理由は代理や、家のしきたりであるというのが主な理由だ。女系の家が、男子を当主にする話だって珍しくないが、逆はあまりに聞いた事がない。

 何しろ、事が起これば当主は戦争に出る事もある。

 そんな場所に女性を出す家は、少なかった。いないとは言わないが、それでも少数派である。

『ブロード、家臣団はどうだ? セレスを祭り上げて乗っ取りを謀る家はあるか?』

 六代目の意見に、祖父は考え込む。

『ないとはいいませんが、家臣とは身分が違います。結婚して乗っ取るのは無理があります。一番格のある家でも男爵家のフォクスズ家ですが、あそこは昔からそういった事はありませんし……』

 すると、二代目が反応する。

『え? フォクスズ家が家臣? え! えぇぇぇ!!』

 そして、考え込んでいた初代も、立ち上がって慌て出す。

『フォクスズってあれか! 隣の領地のフォクスズ家か!? オヤッサンの家じゃねーか!』

 オヤッサン? 俺は訳が分からなかった。

 昔から、フォクスズ家はウォルト家の家臣。陪臣と呼ばれる立場にいる。男爵位は得ているが、実家であるウォルト家の領地を与えられている形だ。

 四代目もオロオロとしていた。

 しかし、五代目は――。

『それが何か? だって、陞爵して周囲の領地を貰ったんですよ。移動を渋ったフォクスズ家に、うちが領地を与えた形を取ったんですから家臣になるのは当然の流れでは?』

 だが、これに二代目が怒鳴る。

『冗談を言うな! 俺たちがどれだけ兄貴たちに世話になったと思っているんだ! お前ら、フォクスズ家が隣の領地じゃなかったら、今頃いなかったんだからな!』

 どれだけに世話になったかを力説する二代目に、四代目も驚きながら五代目に尋ねる。

『どういう事? 俺は言ったよね。とてもお世話になったから、付き合いは大事にするように、って!』

 それに、五代目は淡々と答える。

『えぇ、だからファインズには陞爵の手続きもするように言いましたし。したよね?』

 五代目が六代目に確認を取ると、六代目は頷いた。

『まぁ、しましたね』

 俺は、このやり取りを聞いて思った。

(なんかすごくややこしい。というか、段々声が遠のいて……)

 すると、ここにはいない人物の声がした。

「ライエル様?」





「ライエル様、もう終わりましたよ」

「え……うん」

 目を覚ました俺は、ガタガタと揺れる椅子に座って眠っていたようだ。疲れていたのか、ぐっすりと眠っていたらしい。

 体を拭き、頭を洗ったノウェムがそこに立っていた。

「お疲れだったんですね。下着はお湯で洗って干しています。明日には乾くはずですよ」

「あぁ、悪いね」

 立ち上がると、足下がフラフラする。ノウェムが俺の体を支えて部屋まで連れて行ってくれる。

(今までの事は夢だったのか?)

 そう思っていると、初代の声がした。

『ちょっと待って……この子の苗字って何? なんか気になっていたんだよ。雰囲気がなんとなく……』

 すると、祖父の声がした。

『随分と大きくなりましたが、フォクスズ家の次女です。まさかライエルの婚約者になっているとは思いませんでした。だって家格が違いますし』
『なぁぁぁぁぁ!!』

 初代が叫び声を上げる。凄く大きな声だが、ノウェムには聞こえていないようだ。

「……夢じゃなかった」

 俺が呟くと、ノウェムが首をかしげる。

「どうしました、ライエル様?」

 しかし、それ以上に疲れが酷い。先程よりも疲れており、歩くのも億劫だ。ここまで疲れているとは思いもしなかった。

 ノウェムにベッドまで連れて行かれると、俺は横になってそのまま眠りにつく。最後に聞こえてきたのは、ノウェムの優しい声だった。

 俺が横になると、毛布を掛けてくれる。

「お休みなさいませ、ライエル様」
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