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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

実は黒いのか? 三代目

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学術都市の図書館

 アラムサースでの方針は、基本的に知識の習得である。

 学術都市が誇る『図書館』には、この世界全ての知識が集まると言われて(学術都市が言って)いた。

 確かに自慢するだけあり、学術都市でも一番の建物だ。増築が何度も行なわれたのか、様式が一定でないので雑多な感じも学術都市らしい。

 主に私塾も開かれ、道場も多いので顔を出すつもりではあるのだが、やはり俺の目的は図書館だった。

 何より――。

『これが噂の図書館か……建物は立派だね。中身にも期待が持てそうだ』

 三代目のテンションが高い。

 基本的に技術や知識を貪欲に求めるご先祖様たちだが、もっとも興味を持っているのは三代目であった。

 今日はノウェムやアリアは、朝から出かけているので俺一人だった。

「貴重な本を見るには、銀貨五枚を預けて会員になる必要があるのか」

 図書館の入口にある掲示板には、はじめて利用する人たち向けに説明が張り出されている。

 一般向けの本を読むだけなら銅貨一枚の使用料で問題ない。

 だが、価値がある本を読む場合は、銀貨五枚を支払い会員になってから使用するようだ。

 それでも、学術都市が余所者には絶対に見せない本も存在している。

「お金を持ってきた良かったけど……」

 銀貨五枚で一生利用できると思えば安い。

 財布から銀貨五枚を取り出すと、受付に向かって会員登録を行なう事に。

 二代目は周囲の雰囲気を観察する。

『随分と若い奴が多いな。これだけの人間が読み書きできると思うと、時代が違うと理解できるぜ』

 二代目の頃には、村に読み書きの出来る領民がどれだけいたのか……。

 今よりも少ないのは確実だ。

 生きていくことに忙しく、今まで蛮族のような生活をしていた者たちも領民にしたのである。

 きっとそういった面で苦労もしてきたのだろう。

 七代目が言う。

『しかし、本当に凄いですな。これだけの建物に本を保管している訳ですか』

 自身で訪れた事がないのか、実際に見ると七代目も感心していた。

 俺は手続きを終えると、そのまま利用できるようになった専門書のある場所を目指す。

 しかし、建物は広いので受付近くの地図を見ることに。

「多すぎても何を読むか決めかねるな」

 今日はどこで本を読むか考えていると、受付から出てきた女の子に声をかける。

「ちょっといいですか?」

「……はい」

 物静かな少女だった。

 背も低く体つきも華奢である。

 女性らしさと言えば、華奢な体に反して服を押し上げている胸だろう。

 紺色の髪をしており、あまり身だしなみには気を使っていないのか髪は手櫛で整えたような感じになっている。

 長さは肩に届くあたりで、毛先がはねバサバサである。

 眠たそうに半目の彼女の瞳は赤かった。

 受付から出てこなければ、間違いなく子供と勘違いしたかも知れない。

 来ている服も、お洒落と言うよりあった物を着ている印象だった。

 シャツに少し短いスカートを履いている。

(……子供の頃の奴とかじゃないよな?)

 失礼な事を考えながら、俺は質問した。

「ここに行きたいんだけど、どこを進めば良いのかな?」

 俺が掲示板の地図を指さすと、彼女はそれを見てから俺の顔を見る。

「……私も行くので案内します。それも仕事ですから」

「そ、そう」

 淡々としている少女を見て、俺はギルドの職員を思い出す。流石に、あの時に対応した職員より態度は悪くない。

 というか、年下に見えてしょうがなかった。

 職員にしては、あまりにも幼く見えて子供に案内されている気分になる。

 廊下を歩く俺は、無言なのが気になり声をかけた。

「それにしても、ここは本が多いね。アラムサースには最近になって来たんだけど、やっぱり外から来る人は多いのかな?」

 そう言うと、彼女は淡々と答えた。

「はい。大体の人が同じ質問をします。私も何度もその質問に『皆さん同じ事を言います』と返事をしてきました」

 それを聞いて、俺は笑顔が引きつった。

 四代目が――。

『こういうタイプは自分の世界を持っているから、ライエルが少し優しくしてもなびかないだろうね』

(別にナンパ目的ではないんだが……)

 女の子に声かけをしていると言い出す四代目に、相手を見ろと言いたい。

 幼い女の子に声をかけてナンパなど、ノウェムに知られたらなんと言われるか……お、応援はされないと思いたい。

 案内された場所に向かうと、そこは農業関係の専門書が置かれた部屋だった。

 中に入ると、少なくない人数が机に座って本を読み、書き写している。

 必死に勉強している様子がうかがえた。

「熱心だね」

「……ここからは私語は慎んでください。人がいない時も、あまり大声を出さないように。休憩を挟むなら、廊下を進めば場所がありますから」

「ご、ごめん。そう言えば、貸し出しはしているの?」

 俺がそう言うと、彼女は首を横に振った。

「貸し出しは原則として禁止されています。中身よりも存在が貴重な本も多いので、そういった品は高価ですから」

 俺は頷くと棚のある方へと向かった。

 彼女は俺の後ろをついてくる。

 三代目が気になるタイトルを告げていくので、俺はそれを手にとって読む事にした。

『しばらくこもっていたいけど、時間がなぁ……ライエル、ペースを落として読んでくれる』

 俺の読むペースは速いようで、歴代当主に本当に読んでいるのかと疑われている。内容は理解しているつもり、なんだが……。

 空いている席に座ろうとする俺は、周囲を見渡した。

 すると、首をかしげた。

「……何をしているの?」

「え?」

 普通に本を手に取り、席に座ろうとしている職員であるはずの道案内をしてくれた彼女は、俺を見て少し驚いているようだ。

(いや、驚いているのは俺なんだが)

 しばらく見つめ合っていると、彼女がそのまま椅子に座って本を読み始めた。

 流石の三代目も驚いたようだ。

『あれ~、これってどういう事?』

 四代目に確認を取ったようだが、本人も困っている。

『俺が知るか。これが仕事とか、休憩じゃないの?』

 俺はそうなのか、と無理矢理に納得して空いている彼女の隣に座り、本を読み始める。

 何かメモを取る物を用意すれば良かったと思いつつ、ページをめくる。

 図書館の中は、誰かがメモを取る時に出る音が聞こえるくらいで静かだった。

 廊下を歩く足音まで聞こえてくるが、集中するとそれらも気にならなくなってくる。

 しばらく本を読みながら、それについて歴代当主が意見を交わし合うのを聞いていた。

『俺の時代にこれがあればぁぁぁ!!』

 叫ぶ二代目に、六代目が言う。

『これ、俺の時代にようやく広まったんで流石に無理かと』

 七代目も同意する。

『しかも、わしの時代では新しいやり方も広まりましたな』

 二代目がそれを聞いて嘆く。

『……お前らなんでそんなに反応が薄いんだよ! 画期的じゃないか!』

 歴代当主で技術に関しても意見が違う。

 三代目までは本当に農業をしながら、生活していたのでこうした農業に関する技術には貪欲だ。

 だが、少し話が違ってくると、途端に理解できないのか口数が少なくなるのも二代目だ。

 それらの意見を聞いて思うのは――。

(五月蝿いな……まぁ、面白いには面白いんだけど)





 手に取った本を読み終わり、時間も来たので本を戻して戻ろうとする。

 だが、俺は自分の隣で本を読んでいた彼女……職員の彼女が、未だに本を読んでいる姿を見て驚いた。

「……仕事はいいの?」

 すると、彼女は本から顔を上げて首をかしげた。

「仕事ですか? いえ、今日は休暇なので……」

 なら、どうして俺の案内をしたのか?

 割と良い人なのかも知れない。

 彼女も読み終わったようで、立ち上がると本を直しに向かった。

 俺も直しに行くと、周囲で座って本を読んでいる面子がだいぶ入れ替わっているのを確認する。

「結構な時間が過ぎたな」

 懐中時計もないので時間は分からないが、本を読んだ量から言えば昼は過ぎている。

 ノウェムには外で食べてくると伝えているので問題ないが、流石にお腹が空いてきた。

 すると、俺の近くでお腹の鳴る音が聞こえた。

 周囲からの視線を感じるが、今の音は俺ではない。

 そして、また可愛らしい音が聞こえる。

「……あの、お腹が空いているんじゃ?」

 流石に本を元の場所に戻し、また新しい本を手に取る彼女に声をかけずにはいられなかった。

 すると、彼女は頷いた。

 三代目が言う。

『ここはお礼に食事を奢っておけば? お金ならあるよね』

 その意見に反対したのは四代目だ。

『勘違いさせるようなことはするなよ! 大体、ライエルは無自覚でアリアに告白したからな!』

 それを聞いた俺の方が驚きだった。

「え?」

 俺が声に出してしまうと、彼女は本を持って席に向かおうとする。

「……はぁ。あの、良ければ、なんですけど」

 俺は、彼女を食事に誘う事にした。

 四代目の声が聞こえる。

『あ~あ、誘ちゃったよ。絶対に勘違いさせるって』

 二代目が言う。

『そういうタイプに見えないけどな』

 四代目は鼻で笑う。

『誰もこの子に、とは言ってないですよ。ノウェムちゃんに勘違いされる、って意味ですよ』

 それを聞いて七代目が言う。

『ふむ……顔は良し、頭も合格なのかも知れませんが、他がどうか怪しいですぞ』

 ウォルト家の家訓。

 それは、嫁選びの基準だった。

 六つの項目をクリアした者を嫁に迎えるという、酒の席の冗談が受け継がれてきてしまったウォルト家の隠しておきたい事実の一つだ。

 七代目は、条件をクリアできないなら、ノウェムがこだわらないと思ったらしい。しかし、四代目の意見は違う。

『……条件に合わない女の子と食事をしたら、ノウェムちゃんはどう思うかな』

 それを聞いて、俺も確かに少しまずいのではなか? と、思ってしまった。

(だ、大丈夫だよな……うん、きっと大丈夫。食事だけだし!)

 自分を安心させつつ、俺は図書館を彼女と出る事にした。





 【クラーラ・ブルマー】。

 紺色の髪に赤い瞳をした少女の名前だ。

 聞けば、図書館で仕事をしているらしい。

 冒険者として登録し、時にはサポートの仕事でお金を得てアラムサースで生活しているようだ。

 図書館から臨時職員の依頼を受け、忙しい時は手伝うそうだ。

 通りにある軽食屋で食事を奢る事にした俺は、彼女から色々と聞くことが出来た。

「元学園の生徒? でも、十五歳だよね」

 俺やノウェムと同じ十五歳の彼女……クラーラは、食後のお茶を飲みながら頷いた。

「飛び級です。基礎を教える学年では普通にあります。教育を受けていた人もいますし、読み書きや計算を覚えるのも個人差がありますから」

 頷くが、そこまで違うのだろうかと、俺は内心で考えていた。

 彼女は卒業後に仕事がなく、図書館の依頼をこなしている冒険者らしい。

 職員になる事も可能だが、本人は忙しいので断っているようだ。

 理由を聞けば――。

「……本を読む時間が減ります」

 という、三代目が同意しそうな理由だった。

 しかも、彼女は支援系のスキル持ちだ。

「スキルを持っているのに、一人で冒険者を? 誰かと組むとかしないの?」

 失礼とは思ったが、俺も仲間を探している身だ。

 アラムサースの事情は知っておきたかった。

 だが、彼女からは意外にもスキルの内容を聞くことが出来た。

「私のスキルは本を読み取る事です。戦闘には役に立ちませんし、この手のスキルは図書館の職員なら数多くの人が持っていますから」

 スキル【リーディング】。

 書物を読み取るスキルで、それが外国語だろうが古い言葉だろうが、翻訳して読み取れるスキルらしい。

 三代目が羨ましそうだった。

『僕もそんなスキルが良かったな』

 すると、六代目が呆れたように言う。

『三代目のスキルが、俺たちの中で一番酷いんですがね……それだけ役に立ちはしましたが』

 三代目のスキルは、七人の中で酷いと評価されるスキルのようだ。

 気になったが、今は聞けないので今度聞くことにした。

「それって凄いスキルだよね?」

「……凄いか凄くないかで言えば、凄いとは思いますけど所持している人が沢山いますから。それに、私はスキルを使って読むのは嫌いなので」

 本は自分で読んでこそ、だという。

 そんな人だから、リーディングというスキルが発現したのかも知れない。

「教えて良かったの?」

 俺がそう言うと、クラーラは問題ないと言いきった。

「私は重要な本を読ませて貰っていませんし、リーディングも万能ではないんです。常に記憶しているわけではありませんし」

 そこまで使い勝手の良いスキルでもなく、持っている人も多いので貴重なスキルではないという事だ。

「冒険者でサポートはどんなことを?」

「……よく聞かれますが、私は基本的に荷物持ちもします。体が小さいので体力がないと思われますが、基本的な事はしますよ。後は魔法でサポートですね。迷宮を照らす、火を用意する。水を用意する。そういった事をしてサポートとして貢献できます」

 体が小さいので頼りなく見えるのが、本人は心外らしい。

 だが、こんな小さな子に重い荷物を持たせるのは、確かに気が引ける。

 よく見れば、顔立ちも可愛らしい。

 髪をセットして服装をそれらしくすれば、化けるかも知れないと思った。

「……ライエルさんも冒険者ですよね?」

「そうだよ。分かる」

 聞き返すと、短く「分かります」とクラーラが答えた。

「私から情報を得たいなら教えます。食事代代わりにいくらでも聞いてください。ですが、私は基本的に戦闘には参加しないサポート専門ですから、教えられることは少ないですよ」

 食事の目的は情報収集と思ったのだろう。

 だから、誘いに乗ったのかも知れない。

「話が早くて助かるよ。悪い人だとは思わなかったの?」

 クラーラは首を横に振った。

「場所が場所ですし、真剣に本を読んでいましたから……騙されたら、私が間違っていただけです」

 あまり執着がなさそうなクラーラを見て、俺は「そう」と呟くだけだった。

 その後は、世間話をして店を出る。

 クラーラは家に帰り、俺も宿屋に戻ろうとしたのだが――。

「随分と珍しいわね」

 声がかかったので振り返ると、そこにいたのはミランダさんだった。

 六代目の言葉を思い出し、俺は少し警戒して後退ってしまった。

 それを見て、ミランダさんはニヤニヤする。

「あの時はそんな感じはしなかったけど、もしかして手が早いタイプ? アリアとあのサイドテールの子
を泣かせないでよね」

 悪戯っ子の笑みを向けてくる彼女は、年の割に可愛らしい人だ。

 警戒心を解いてしまいそうになる。

「違いますよ。図書館で知り合ったんで、食事を……いや、なんでもないです(言い返せない)」

 やっている事はナンパと変わらないと思い、俺は否定するのを止めた。

 すると、ミランダさんは笑う。

「冗談よ。あの子はクラーラでしょ? 有名な子だから、本人は食事だけして終わったんじゃない」

「まぁ、食事だけの約束ですから」

 何を言っているんだと自分で思いながら、俺はミランダさんが手に持っている荷物を見る。

「それは?」

 抱えた茶色の紙袋には、どうやら食材などが入っているようだ。

「あぁ、これ? 食料よ。最近は雇っていた人が急に辞めたから、私がこうして買い出しをしているの。住み込みでお給料も良いのに、すぐに辞めていくのよね」

 困った顔をしているミランダさんを見て、俺は荷物を持とうと提案した。

 手を伸ばし、彼女の抱えていた二つの大きな紙袋に入った食料を受け取る。

「悪いわね。そうだ、ついでに家まで案内するわ。少し歩くけど、いいかしら?」

「構いませんよ」

「……ふ~ん、やっぱり結構手が早いタイプなんだ」

 ミランダさんがからかうように言ってくると、俺は否定しておく。

「違いますよ!」

 そうしてミランダさんの家に向かうのだった。

 五代目の声が聞こえる。

『自分から行くのか? まぁ、何かあっても切り抜けられるだろうが……警戒だけはしておけよ』

 ミランダさんの実家であるサークライ家は、ウォルト家と二代前に婚姻関係があった。

 当人が死んでしまえば、繋がりなど薄れてしまう。

 しかし、何かしらの繋がりがあり、俺に接触したのかも知れない。

(ノウェムやアリアもいないから、丁度良いかもな。危険があれば、スキルで切り抜ければ良いことだし)

 ミランダさんのスキルでの反応は、敵ではない。

 しかし、警戒だけは怠らない事にする。

『さて、警戒しすぎた、という感じならいいんだが』

 五代目の声がいつもより冷たく聞こえた。
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