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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

最終章 ここまで来たぞ 十八代目

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青の玉を胸に

 ――サウスベイム。

 昼を過ぎてしばらくすると、エアハルトがギルドに顔を出していた。依頼された仕事が終わり、報告をするために戻ったのだ。

 依頼されたのは、サウスベイム周辺の見回りである。多くの兵士たちが出払っていた。そのため、人手不足を補うためにギルドの冒険者にも依頼が出されている。

 カウンターにはリューネが受付の仕事をしている。エアハルトを見ると手を振ってきた。

「お仕事ご苦労様です」

「おう、終わったよ。というか、何か情報は来てないの? 出発してしばらく経っているのに、噂が聞こえてこないからさ」

 噂――当然だが、セントラルでの戦争のことだ。根も葉もない噂なら聞こえてくるが、正確なものはエアハルトの耳には届いていない。

 元から情報を集めるのを得意としているわけではない。パーティーメンバーの一人が、そういった情報を集めているのだ。

 だが、そんなメンバーも、未だに正確な情報は手に入れられなかった。まだ戦争は続いているのか? それとも勝ったのか? 負けたのか? エアハルトも気になっていた。

「流石に情報は入ってきていませんね。ヴェルキリーズでしたか? 全部かき集めていましたから、連絡を取る手段がないみたいです」

 エアハルトは書類をリューエに手渡すと、アゴに手を当てた。

「そうか。まぁ、すぐに終わるものでもないのかも知れないけど、やっぱり気になるな」

 大陸の運命を決める戦い――そう言われている。ただ、実際問題として、遠い場所での戦争だ。

 周囲は気にしてはいるが、自分の生活を送っていた。

 リューエがエアハルトと話をしていると、ギルドにマリアーヌが駆け込んできた。息を切らしており、ギルドの中にいた職員や冒険者たちの視線が集まる。

 マリアーヌは、呼吸を整えると笑顔で言うのだ。

「勝ったわよ! 連合軍が勝利。バンセイム王国を打ち倒したらしいわ! 一部の軍勢が戻ってきているみたいなの。それで、ようやくこっちにも情報が届いたの! もう、ルフェンスには軍勢が到着しているみたい」

 それを聞いて、ギルド内の雰囲気が一気に明るくなった。エアハルトは、リューエが抱きついてきたので、驚きながらも取りあえず周りの雰囲気もあって抱きついて喜び合うのだった。

 それを、マリアーヌは嬉しそうに見ていた――。





 ――ルフェンスの王城には、リアーヌの下にヴァルキリーの一体が出向いていた。

 三十四号ではない。

 黒髪と顔は同じでも、髪型や服装の微妙な違いでリアーヌには違いが理解できていた。

 三十四号がリアーヌに会いに来ない。そして、木箱や手紙を持ったヴァルキリーが自分に会いに来れば気が付いてしまう。

 リアーヌは、椅子から立ち上がるとヴァルキリーの下まで歩く。そして、差し出された木箱と手紙を受け取った。

 ただし、手紙は実家であるファンバイユからのものだった。手紙を後回しにして、リアーヌは木箱を開ける。すると、そこには編まれたピンク色の紐があった。リアーヌが渡した物だ。

「……これだけ戻ってきても意味がないのに。あの子、最後まで馬鹿でしたね」

 姉妹である目の前のヴァルキリーも頷いていた。

「はい、馬鹿でしたね。ただ、役目を全うしました。褒めてあげてください。そして、これだけは大事そうに持っていましたよ。一緒に燃え尽きるのは嫌だったのだと思います。最後の言葉を預かっています……『ヒヨコ様の衣装は揃えておきました。タンスを見てください』だそうです」

 リアーヌは笑っていた。笑って、おかしいのかお腹を両手で押さえていた。そして、三十四号がしまい込んでいたと思われるタンスに近付いて開けてみた。

 そこには、赤ん坊用の衣類から、子供用の衣類まで揃っている。

「本当に馬鹿な子……そんな先の事ばかり気にして……」

 リアーヌの涙が、その衣類の一つにこぼれた。涙を拭うと、ファンバイユの手紙を開く。そこには、娘を心配する内容が書かれていた。

 同時に、正妻はノウェムで決定した事が書かれている。リアーヌは笑っていた。

 ヴァルキリーがそんなリアーヌを心配して。

「自棄を起こさないように。それに、三十四号も――」

「――自棄? そんな事をしている暇はありませんよ。それに、あの子の最後のメッセージも受け取りましたからね。まぁ、正妻の椅子は奪われてしまいましたが、私だって側室の一人。ここから巻き返す可能性はゼロでもありませんよ。まぁ、急いでセントラルへ向かおうと思いますけどね」

 ヴァルキリーは言う。

「衣類を揃えているのが、メッセージですか?」

 リアーヌは涙を拭い、ヴァルキリーに向き直って言うのだ。

「えぇ、子供の顔が見たかったあの子の事です。早く子供――ヒヨコ様の顔を、という催促ですよ。あの子は見られませんけどね。でも、貴方たちは見たいのでしょう?」

 すると、目の前のヴァルキリーは姿勢を正した。

「――七十一号です。リアーヌさんを支援している派閥に属しています。その役目、是非とも私に!」

 キリッ! とした表情で言うヴァルキリーに、リアーヌは微笑むのだ。

「そう。これからよろしくね、七十一号さん。さて、まずはこのタンスを運ぶ手配を。大事に運ぶように。それと、セントラルへ向かう準備を――」

「その事なのですが、セントラルは瓦礫の山になってしまいました。機動要塞も破壊されてしまったので、新しい都を用意する必要があるそうです。既に場所は見つけていると」

 リアーヌが溜息を吐いた。悲しんでいる暇がない。

「機動要塞にいくらかかったと思っているのか。まぁ、勝ったのならいいでしょう。これからいくらでも回収できますし。なら、少し準備をしてから向かいましょうか。忙しくなりますね。でも……新しい都ですか。面白そうでもある」

 リアーヌがやる気を見せる中、静かにノウェムに対して闘志も燃やしていた。

「それに、本気で寵愛を受けるのを狙っても良いかも知れませんね。早く子供が欲しいですから」

 ヴァルキリーもしきりに頷いていた――。





 ――ノースベイム。アデーレの執務室。

 勝利報告と現状を説明する書類を受け取ったアデーレは、頭を抱えていた。

「セントラルの都が瓦礫の山……。機動要塞は吹き飛んで大破。なんでこんな事に……セントラルの都は、歴史だってあったのに! それに、あの機動要塞の費用だって凄く高かったのに! だからあんな兵器嫌だったのに!」

 涙目のアデーレを前に、ヴァルキリーはやる気がなさそうにしていた。アデーレはライエルの嫁ではない。つまり、ライエルの子を産まない。

 結果、ヴァルキリーズには優先順位の低い相手だった。長い黒髪を指先で弄るヴァルキリーは、溜息を吐いていた。

「……それより、早く準備をしてくれませんか? 文官が足りないのでアデーレさんを呼んでくるように言われているんですけど」

 アデーレが自分の机を両手で何度もバンバンと音が鳴るほどに叩く。

「なんでそんな態度なんですか! それに、勝てば良いとかおかしいです! もっと被害の少ない勝利をですね――」

「あ、それは流石に無理でしたよ。まぁ、報告はこちらにまとめていますので、読んでおいてください」

 ヴァルキリーが鞄から取り出したのは、今回の報告書だった。紙一枚にビッシリと小さな文字が書き込まれていた。

 それも半端な数ではない。

「……要約されたものはありませんか?」

 ヴァルキリーはやる気なさげに。

「セレスに勝った。アグリッサが出てノウェムに負けた。ノウェムはご主人様に告白されて降伏、以上です。あ、なんか金色のドラゴンが黒幕というか、強敵だったという流れになっているようですよ」

 アデーレがバンバンとまた机を叩きながら。

「もっと詳しく! そんな事を言われてもまったく分かりません!」

 ヴァルキリーは「え~」という声を上げ、本当に嫌そうにするのだった――。





「都市開発? メイドたる者、それくらい出来ないでどうしますか。場所決めから設計まで、このモニカにお任せください。チキン野郎に相応しい都を用意してごらんに――」

「俺さぁ、正直言って機能重視でも良いの。でもさぁ、流石にみすぼらしいのは違うと思うし、威厳のある感じがいいな。ほら、金箔とか予算的にきついけど、豪華に見えるならそっちの方がいいし」

 周囲には数多くの天幕が張られていた。外に出て大きな机を囲んでいる俺たちは、モニカが選んだその場所に都を置く事にした。

 冗談ばかり言っているモニカだが、選んだ場所は確かに都を置くに相応しい場所だった。問題があるとすれば、下準備や基礎工事が面倒な事だろう。

 治水やその他諸々――今まで都が置かれなかった理由があったのだ。ただ、この場にはある意味においてスペシャリストたちが揃っていた。

 ノウェムが俺を見て頷きつつ。

「ライエル様の時代だけではなく、今後の発展も考えた計画にしましょうか。そのためには基礎が大事ですね。任せてください。力の大半は失いましたが、このノウェムがライエル様のために都をプレゼントいたしま――」

「そういうの、良くないよね? 兵士が沢山いるし、仕事を与えたいんだけど? ほら、他の軍勢も帰ったし、俺たちだけ十数万も抱えるのはきついし」

 構い過ぎて人を駄目にしたセプテムさんのような事を言うノウェムを、ミランダが笑って見ていた。ノウェムがわざとらしく咳払いをしている。

「ちゃんと戦後を意識しないとだめよね~。食糧の問題だってあるけど、仕事のない兵士を抱えるとか厳しいし。でも、あの金色のドラゴン」

「レジェンドドラゴン」

 俺が名前を正確に伝えると、ミランダも言い直す。可哀想だから、名前はしっかり覚えてあげて欲しい。一応、今回の戦いでは最後に立ちはだかった強敵という位置づけになっているのだ。

「うん、レジェンドドラゴンの魔石とか素材とか、価値が知れ渡るのには時間もかかるからお金の問題もあるのよね」

 ダミアンが、眼鏡を指先で押し上げながら。

「素材としては凄いと思うけどね。利用方法とか思いつくのはまだ先かな」

 ラタータ爺さんも持ってきた素材の一部を見ながら。

「……正直、一体しか出てこなかったのになんでこんなに素材があるんだ? 三体か四体分はあるんだが? まぁ、しばらく扱えば何に向いているかわしとダミアンで調べられるのは確かだ」

 ダミアンは余りやる気が感じられない。

「もうさ、僕としてはこのロスしている時間が勿体ないんだ。理想の女性を追い求めたいのに、僕はどうしてこんなところで都市開発なんかに関わっているんだ?」

 俺はダミアンに対して。

「ばらまく素材の一部が、お前の研究費になるからだよ。高値で買い取るような人が出てくる使い方を探してね」

 ダミアンは笑顔で。

「任せてくれ。僕の研究費のためだ。これは僕にとっても重要な問題だね!」

 言いくるめた俺は空を見上げた。今日は天気も良い。

 不意に右手が宝玉に伸び、握りしめるが反応はない。本当にタダの青い玉に戻ってしまったようだ。

 いずれ宝玉へと蘇る事はあるのだろうか? それとも、このまま玉であり続ける方がいいのか?

 ……駄目だな。まだどこかで歴代当主たちの声が聞こえてきそうな気がする。

 すると、シャノンが俺を見ていた。

「ライエル、あんた寂しそうね。おっと、違うと言ってもこのシャノン様には分かるのよ。何しろ、ミレイア曾お婆さまから受け継いだこの瞳には、なんでもお見通しなんだから!」

 ビシッ、とポーズを決めるシャノンを見て、笑ってしまった。悲しんでいる暇などない。全てが終わるのは、俺が死ぬときだ。

 それまで歩き続けるしかない。前に進み続けるしかない。

「まぁ、新都は基礎工事をしっかりしよう。将来のためだ。その後は……十分な機能があればいい。春を過ぎるまでには何らかの形で建国を宣言したい」

 未だに気は抜けない。どこかの軍勢がこの時を狙って攻めてくるかも知れない。馬鹿はいないと思いたいが、そんな馬鹿に討たれては笑えない。

 すると、モニカが俺の方を見て。

「おっと、チキン野郎。ルフェンスのリアーヌさんが、新都建設に必要な道具や資材を運んでくれるそうです。良かったですね。どうやら正妻が決まった事にお祝いを言っているようですよ」

 ニヤニヤしているモニカ。

 俺は顔を逸らした。正妻の話が出ると――まぁ、皇妃なのだが、全員の視線がノウェムに集まる。

 手を頬に当てて、少し首を傾げるノウェムは挑発的な視線を周囲に向けていた。ミランダがすぐに反応するので、俺はシャノンと一緒に退散する。

「ちょっと! あんたがなんとかしなさいよね!」

「馬鹿野郎! 俺が出来るのはみんなが爆発しないように気を配ることだけだ。爆発した後は知らん! 俺は勝つ見込みもない戦いには挑まない男だ!」

 シャノンと一緒に逃げる俺は、逃げた先でアリアとエヴァに出会うのだった。珍しい組み合わせだと思っていると、二人が話をしていた。

 真剣に話をしているので、物陰から二人を覗く。

「初代の奥さん? まぁ、凄い人だったわよ」

「そこのところを詳しく! お願い、私は一族の歌をまとめる義務があるのよ。見ていて分かったわ。ウォルト家は面白い、って! だから、もっと知りたいの! まったく、ライエルがもっと早くに色々と打ち明けてくれれば良かったのに」

 どうやら俺の一族のことを真剣に調べているようだ。割と誇張するエヴァが真剣になっているのが少し怖い。

 すると、一緒に隠れているシャノンが言う。

「そう言えば、クラーラも何か真剣に考えていたわよ」

 クラーラも動き出している。それを思うと、本当に気が重くなってきた。クラーラとエヴァ、変な対抗心を燃やさなければいいのだが。

 すると、シャノンが俺を見ながら。

「大変よね。奥さんが沢山いると。また増えたのよね? まぁ、これからも頑張ってね。あ、私も奥さんの一人だけど、毎日ノンビリできるようにしてくれれば他は文句を言わないわ」

 俺はシャノンのホッペタをつまんだ。

「おい、後半は考えてやらんでもないが、前半の増える、ってどういう意味だ!」

 シャノンが頬をつまんでいる俺の右手を外そうともがきながら。

「だ、だって! みんながやっぱり、一人だとノウェムには対抗できないとかなんとか言って! ルドミラがジャンペアの国王に連絡を取っているし、他にも打診が来ているからライエルも知っていると……」

 俺はシャノンの頬を解放すると、ヨロヨロと後ろに下がった。

「あ、有り得ない。今でも十人を超えているんだぞ。馬鹿なのか! 馬鹿なんだろ! お前ら、本当は俺が嫌いだろ」

 すると、シャノンがニヤリと笑う。

「今頃気が付いたのかしら? そう……私たちが狙っているのは、ライエルが精神をすり減らしてやせ衰えていく姿よ!」

「や、やっぱりか! 貴様、そんなに俺の事が嫌いなのかぁ!」

 騒いでいると、俺たちのところにヴェラがやってきた。俺とシャノンの会話を聞いても驚いていなかった。

「仲が良いわね。それと、私は一時的に戻るからクラーラを貸してくれない? 荷物の運び込みもあるし、クラーラの輸送隊を使わせて欲しいんだけど」

 俺はヴェラに向かって。

「半分残してくれるならいいよ。こっちでも使う事もあるし。しかし、こうなると本当にポーターがいなくなったのが痛いな」

 移動速度だけを考えれば、ポーターはとても速かった。タイヤという車輪も特注なら、魔鉱石で動力炉を持っていたポーター……大事な仲間を失ってしまった。

 シャノンも涙ぐむ。

「うぅぅ、ポーター……あの荷台の快適さが恋しいよぉ」

 今は天幕の中での生活が続いている。俺も、ポーターの荷台が懐かしい。ヴェラは悲しんでいる俺たちを見て。

「……まぁ、付き合いの長い相棒的な存在だったのよね? 私で言うと船かしら? なら、一度戻るから、何か欲しい物はある?」

 すると、俺は思いついたのだ。笑顔でヴェラに向かって。

「優しさが欲しい!」

 そう言った。俺の嫁を増やすとか考えている酷い嫁たちがいるのだ。俺は優しさを求めても良いと思うんだ。すると、ヴェラが真剣な表情で考え出すと。

「優しさ……包容力的な? そういう女性なら受け入れてくれるのかしら?」

「……え?」

 俺が困惑していると、ヴェラは説明してくる。

「あ、違うのよ。私は嫌なんだけど、ギルド側から正式に国の管理下に置かれるにしてもやはり誰かを送っておく方がいいんじゃないか、って話が出たのよ。ほら、ライエルって女好きの印象が強すぎて……」

 誤解だ。全くの誤解である。周りに女性は多い。確かに多いが、世間から見られている印象が、現実の俺とかけ離れている気がした。

「……断る方向でお願いします」

 ヴェラは頷く。

「分かったわ。お父様にもそう伝えて置くから。まぁ、お土産はこっちで選ぶから、期待していてね」

 ヴェラが去って行くと、シャノンが俺のズボンをつまんで引っ張った。

「なんだよ?」

「あんた、絶対に大変な事になるわよ。今の内にしっかりみんなに言わないと、取り返しがつかなくなるわよ」

 俺もそう思った。宝玉を握りしめると、歴代たちの呆れたような、そしてこの状況を楽しむような声が聞こえてきそうだった。

「分かった。すぐに伝えておこう。も、戻るぞ」

「え、嫌よ。一人で戻りなさいよ」

 俺は笑顔でシャノンを引きずり、ノウェムとミランダがいる戦場に向かうのだった。
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