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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

最終章 ここまで来たぞ 十八代目

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終わりと始まり

 銀色の二刀と銀色の大鎌がぶつかり合う。

 火花が散り、互いに向き合うと汗だくだった。ノウェムからは余裕のある笑みが消えて、感情が表に出て来た。

 荒くなる口調。どこか澄ましているような普段のノウェムは、そこにはいなかった。涙が、ポロポロとこぼれている。

「ずっと沢山の記憶があった。私なんてない。私は誰かの代りなんだ、って……なのに、今更……今更そんな事を言うのが、どれだけ私を苦しめるか!」

 ワキザシでノウェム大鎌を支え、カタナで浅く斬ると俺の銀色の武器は確実に斬りたい物を斬り、斬りたくないものは傷一つ付けなかった。

 ボロボロである俺とは対照的に、ノウェムはまだ綺麗な状態だ。服も肌も少しも汚れてなどいない。少し汗をかき、涙を流している程度だ。

 俺の方は血や汗で汚れ、そこに砂や埃がついてベタベタしている。だが、状況は俺に有利だった。

「そう思っているなら、自分がある、って事だろうが! 言えよ……自分の気持ちをちゃんと言えよ! 伝わらないんだよ。俺にはお前の声が届かないんだよ! 俺の事が嫌いなのか? 好きなのか! 好きなんだろ! 好きって言えよ!」

 ここで嫌いと言われると凹んで――いや、駄目だ! 弱気になるな。弱気になると一気に崩れてしまう。

 ノウェムは両手で大鎌を握りしめ、以前よりも動きが鈍くなっていた。ただ、一般的には凄く早いと思われる速度だ。先程より確実に弱くなっている。いや、邪神や女神の力が削がれ、ノウェムに戻ってきていた。

 ノウェムの斬撃を右手に持ったカタナで弾いた。だが、柄の部分で俺の腹をノウェムが突いてくる。

 衝撃に口が開く。

「クハッ!」

 息が強制的に吐き出され、そのまま吹き飛ばされた。瓦礫の上を転がると――凄く痛い。無理をして立ち上がると、そこには大鎌を振り上げているノウェムの姿があった。鬼気迫る表情をしている。

「嫌いなら……嫌いならあんなに……あんなに尽くさない! 大好きだった。以前のライエル様じゃない。今のライエル様が! 一生懸命頑張る貴方が好きだった。でも、私に出来ることなんか……なのに、今になってそんな事を言うから! 前は、見向きもしなかったのに!」

 ノウェムの振り下ろした一撃を避けると、地面に大鎌が突き刺さっていた。体勢を立て直し、二刀を構える。

「いつの話だよ!」

「ウォルト家の屋敷に私が通っていた時です! 貴方は私に見向きもしなかった! でも、それでも……役に立てると思ったから。思っていたのに! 今になって!」

 ノウェムと婚約が決まったときだろうか? その頃は、周りに冷遇され裏切られ、人が嫌いになっていた。ただ、それでも両親には振り向いて欲しくて。

 ……ちょっと待て。

「お前! 自分にも責任あるだろうが! セレスと取引したのを忘れて俺だけ責めるのか! 俺はおかげで人間不信になりかけたんだぞ! いや、なったからな! 責任取れよ!」

「――ッ!」

 ノウェムの動きが鈍ると、俺は笑った。ニヤリと笑うと、ノウェムがハッとした表情になる。だが、遅い。

「その隙――貰った!」

 二刀を斜め上から交差するように振り降ろし、深々とノウェムを斬った。ノウェムの顔が悔しそうに歪むと、俺はノウェムに左拳で殴り飛ばされた。

 宙に浮いた俺は、わざと二刀を手放す。ノウェムが浮いている俺に接近して、目の前に来ると大鎌を構えていた。

「好きだった。だから辛かった。なのに、貴方は――ライエル様は楽しそうで。いつか私はいなくなるから、って自分に言い聞かせて――だからあんなに集めたのに!」

 きっと、ハーレムのことだろう。勝手に集めておいて、辛いとはどういう事だろう? 俺は悪くないと思う。集めたのはノウェムだ。途中で積極的に女性に声をかけたのも事実ではあるのだが。

 振り下ろされる直前に、ワープをしてカタナの位置まで飛んだ。柄を握ると、先程よりノイズがないのに気が付いた。スキルも使い放題だ。

「お前が集めたんだろうが! 俺だけが悪いみたいに言うなよ!」

 ノウェムが空中で振り返ると、大鎌を投げつけてきた。すぐにワープで今度は離れた位置にあるワキザシの位置までワープする。

「だったら……みんなを放り出して、私だけを見てくれるんですか? 私は、他の人がいるなんて絶対に嫌です。嫌だったのに……我慢して集めたのに。いつかいなくなるから、ライエル様が寂しくないように、って!」

「やりすぎなんだよ、馬鹿野郎! それと、今更誰一人として捨てん! ――全員、俺の女だ! 誰にも渡すもんかよ!」

「アアァァァァアァァァアァァァ!!」

 発狂するノウェムを見ながら、俺は周囲に幻影を創り出した。先程よりもやりやすくなっている。幻を素手で攻撃するノウェムに、ワキザシを投げつけて突き刺してやった。

 ノウェムが右手を掲げると、大鎌がノウェムの手に戻ってくる。便利な杖だ。

 俺は、言い訳がましく。

「今更放り出したら俺の人間性が疑われるだろうが! そんな事が出来るか!」

 ……自分で言っていて、既に手遅れなのでは? という疑問が浮んできた。いや、弱気になるな! 大丈夫。まだ、大丈夫だから!

 接近してくるノウェムに、また刀を突き刺す。ノウェムに刺さっていたワキザシを抜き、大鎌を蹴り飛ばすと距離を取るために飛び退いた。

 ノウェムが、大鎌をダラリと下げて俯いていた。

「……私は、本当は嫌な女なんです。ライエル様を独占したいんです。他の女とキスをしているのを見ると……私の中の他のノウェムは言うんです『これで可能性が繋がる』って。でも、私は『もう嫌だ』って……沢山のノウェムに私の意志はかき消されて、私はニコニコしながら見ているんです。嫌なんです。地獄なんです。だから……素直に言う事を聞いてください。私を殺してください。そうでないなら……私がライエル様を……他の女性を殺してしまいます」

 怖っ! 背中がゾクゾクした! だ、だが……ノウェムを殺すなど論外だ。俺も殺されたくないし、他の仲間を殺されるのも勘弁だ。

「全部断る。言っただろ……俺はわがままなんだよ」

 俺の答えを聞いたノウェムが、大鎌をゆっくりと掲げた。そこに魔力が集まってくる。その魔力の濃さ。圧縮され威力が高くなっているのが分かる。

「だったら……一緒に……死んでください!」

 ノウェムがここまで独占欲が強いとは思わなかった。

 魔力の規模を見ると、周囲を吹き飛ばしそうな勢いだ。二刀を構え、耐える体制に入るかワープを使うか考えていると。

「なんと情けない」

 後ろから女性の声が聞こえてきた。懐かしい声は、どこか以前とは違って聞こえる。俺ではなくノウェムの方を見て、両手を広げた。

「典型的な駄目女ではありませんか! 愛している以前に、嫁として失格ですよ」

 そこには、母――クレア母さんの姿があった。俺の方を見ると、少し悲しそうに微笑むのだった。

 そして、咳払いして登場したのは。

「う、うむ。その……女同士の事は置いておこう。ライエル、久しいな」

 父だった。二人が俺の前に出ると、ノウェムが複雑そうな表情をしていた。ノウェムが言い放つ。

「マイゼル様……クレア様」

 母が、ノウェムの魔法が放出されると目の前にシールドを展開した。いや、ノウェムを囲むようなシールドが展開している。吹き飛んだのはノウェムの周辺だけだ。

「……もう、言う資格はないのでしょうけどね。ノウェム、今の貴方にライエルの嫁になる資格はありませんよ。それと、これだけは言っておきます。ライエルを産んだのは私です! 母親失格であったとしても、その事実は変わりません! 譲る気もありませんよ!」

 シールドが解除され、ノウェムが煙の中から姿を現した。大鎌を地面に落として、その場に座り込む。

 父がノウェムを見ながら、少し悲しそうな顔をしていた。

「ライエルを支えてくれた事は嬉しく思う。だから、そんな悲しい事を言うな。言えた義理ではないのは分かっているが……これ以上、ライエルを苦しませないでやってくれ。頼む」

 父の言葉を聞いてノウェムはポタポタと、瓦礫の上に涙をこぼしていた。戦意が大きく削がれている。俺はそんなノウェムを見て。

「いいか、ノウェム。俺は――」

 すると、女性の声がした。豪快で、そしてどこまでも通りそうな声だった。

「ガタガタうるせーな、このガキ共! 結局お前らどうしたいんだよ!」

 振り返ると、小さな子供――二代目の記憶で見たデューイ少年と手を繋いだ女性が、薙刀を担いでこちらを見ていた。薙刀の刃の部分が、大きくて分厚そうだ。絶対に片腕で扱うものじゃない。

 デューイがこちらに手を振っている。俺も小さく手を振ってみた。すると、女傑が俺の方を睨み、薙刀の切っ先を向けてくる。

「それからお前! それもでウォルト家の男か! バジルを見ろ! バジルを! あいつは馬鹿だから、難しいことなんか分からない!」

 女傑の後ろで、初代が不満そうにブツブツと。

「俺はただ、単純なやり方が好きなだけで馬鹿じゃ……」

 そして、女傑が俺に言う。

「ただ、いつも堂々と。そして物事はハッキリさせてきた! 世の中、綺麗事だけじゃないんだよ! ハッキリしな! お前はそこのガキが好きなのか? ソレは何番目の好きだ? 女を数多く抱えるなら、序列をつけろ! みんな等しく愛していますなんて口を聞いたら……」

 睨み付けてくる女傑の後ろでは、五代目の姿が見えた。小声で。

「そもそもハーレム、って平等に愛するとかそんな条件があったような……まぁ、いいか。下手なことを言うと俺まで痛い目に遭いそうだ」

 諦めるな。女傑を何とかしろ。宝玉から出て来た時を思い出せ。あの頼りになる歴代当主たちはどこに行った? お前ら本物か!

 四代目が眼鏡を押し上げながら、少し笑っていた。

「まぁ、自業自得ですね。俺は嫁が一人で良かったですよ」

 駄目だ、いつもの四代目だ。金銭的な問題以外役に立たない。二代目が、俺の方を見ながら首を横に振り。

「諦めろ。母さんはこんな人なんだ。でも、意外と優しいんだぞ。怖い時はとことん怖いけどな」

 その優しさを今見せて! この女傑に優しさがあるとすれば、左手で孫と手を繋いでいる事くらいしかない。

 女傑が薙刀を地面に振り下ろす。六代目は、後ろの方で女性三人に囲まれて青い顔をしていた。

「ですって。序列、って大事よね?」
「言ってやってよ。私が一番だ、って」
「ほら、正直な気持ちを言うだけでいいんだよ」

 六代目は、大きな体を小さくしながら視線を泳がせている。近くでは、囲んでいる妻たちをミレイアさんが冷めた目で見ていた。

「ほ、ほら。今はライエルの問題だから」

 俺に話を振りやがった。いや、戻しやがった。やっぱり、六代目も女性関係では役に立たない。ミレイアさんも六代目が傍にいるので猫をかぶっていて役に立たない。

 いつの間にか、七代目とゼノアお婆様まで姿を現す。二人とも手を振っていた。

「ライエル、喜べ! とても大きなドラゴンを手に入れたぞ! あと、マイゼル……一発殴るからここに来い」

「大きくなったわね、ライエル! お婆ちゃん嬉しいわ。お土産にドラゴンを討ち取ったからね。金色で豪華な奴なの! それとマイゼルとクレア……こっちに来て正座しなさい」

 ……違う。二人とも、今はそんな事はどうでもいいんだよ。お土産とかどうでも……待て、レジェンドドラゴンの奴、お土産扱いだったのか?

 両親が黙って祖父母のところに行く。俺は見送るしか出来ない。二人が何度か俺を振り返ったが……ごめん、今は助けられない。

 女傑が俺を睨み付けているから!

 すると、三代目が頭をかきながら俺の方を見ていた。近くには、凜々しい女性の姿がある。三代目の奥さんだろう。俺の方を見て呆れた顔をしていた。

 三代目は少し考え、そして口を開いた。

「はぁ、ライエル……正直、今の戦いは面白かった。ラストでここまで盛り上がるとは思わなかったよ。らいえるサンでもない、真のベストライエルは……ライエル自身だったんだね!」

 親指を突き立て、笑顔を向けてくる三代目。俺が嫌な気配を感じると、ノリノリで四代目が言うのだ。

「やはり、俺が思うベストライエルは『マーベラス』ですかね。あれは今思えばライエルの全てを表わしているような言葉ですよ」

 五代目が反論する。

「いや、駄目だね。あれは状況もあってのベストライエルだ。睨み合う女性陣の真ん中で、天を仰いで両手を広げる上半身裸のライエル……マーベラスだけだと伝わらないんだ。俺はもう無難に誰にでも伝わる女神に愛された男、で良いと思うんだ」

 真剣に議論しているんじゃねーよ。俺はそれどころじゃないんだよ。六代目もここぞとばかりに。

「ならば俺は『眠り姫にキス』で!」

 七代目が、父を殴り飛ばして清々しい表情で。

「『ファンタスティック』も最高でした。ベイムの象徴を吹き飛ばしながら笑うライエルは格好良かったですね。まぁ、爆薬が足りませんでしたが」

 二代目が、周りを見ながら。

「俺はあんまり知らないから決められないな」

 いや、そんな残念そうにされても困る。初代が俺の方を見ながら、呆れた表情をしながら自分の妻である女傑を気にしていた。

「お前、いったいなにやってんだよ。いいから、早くノウェムちゃんをどうにかしろよ。泣いてるじゃねーか」

 俺はノウェムを見た。周囲では、仲間たちが集まってきている。アリア、ミランダ、シャノン、クラーラ、モニカ、エヴァ、メイ、グレイシア、エリザ、ルドミラ――そしてヴァルキリーズ。

 全員が揃っていた。すると、女傑が俺に言うのだ。

「ここにいるので全員じゃない、っていうから凄いよ。まぁ、皇帝を目指すんだ。これだけ抱えてもやっていけるだろうさ。さて、では答えを聞こうか」

 俺は全員に見守られながら。全員の前で告白する流れになっていた。

 ニヤニヤしている歴代当主たちに加え、歴代の妻たち。……あれ? なんでこんな場所で告白しないといけないの? もっと静かな場所で――。

「……おい、早くしろ」

 女傑が俺を睨む。少年デューイも俺の方を見て。

「ライエル頑張って」

 そう、応援してくれた。なんだろう、こんな無垢な少年の前で告白するとか間違っている気がする。こんな無垢な少年が兄なのに、三代目ときたら……。

「いや~、みんないるからベストライエルを決められて助かったよ。こうなる気がしてたんだよね」

 こいつ! ……はぁ、もう覚悟を決めよう。

 俺は銀の武器を手放した。すると、役目を終えたのか宝玉に戻る。俺の首に下がった宝玉は光を失いつつあった。

「ノウェム。俺はみんなを捨てられない。捨てたくない」

 ノウェムは俯いていた。周りにいる女性陣が、真剣な顔で俺の言葉を聞いている。なんだろう、凄く逃げ出したい。でも、逃げられない。

「でも、屋敷を追い出されてからずっと傍にいたのはお前だ。俺は、お前が好きだ。お前と一緒に静かに暮らすのも悪くないと思っていたんだ」

 ノウェムは顔を少し上げた。

「私は面倒な女です。過去のノウェムの力もほとんどなくしました」

 俺はノウェムの傍による。

「そんなのどうでもいい。正直、過去とか未来とかより、俺は今の現実が重いの! お前がいないと潰れるぞ! いいのか! 大好きな俺が潰れるぞ! もう現状でもみんなの事を背負って限界なの! とうに限界を超えているの! そういう過去に何かあったとか、未来がどうとか……無理だから! そんなに期待されても、俺の出来る事なんてそんなにないから!」

 ノウェムは首を横に振った。

「嫌です。……そんなの嫌です! ライエル様が潰れるのは……嫌です」

 俺はノウェムを立ち上がらせた。

「一緒に旅に出た。そしてここまで来た」

「……はい」

 ゆっくりと抱きつく。ノウェムの肩にあごを乗せ、俺はノウェムを力強く抱きしめた。

「俺と一緒に今を生きよう。お前と生きたい。お前といたい。お前は俺の傍にいろ」

「…………はい」

 泣き出すノウェムに、俺は言うのだ。

「俺の一番はお前だ。邪神でも女神でもない。歴代のノウェムでもない。今のお前だ。ノウェム……愛しています。ずっと傍にいてください!」

 言うと、辺りが静かになった。周囲の女性陣の顔が怖くて見られない。だが、ノウェムは俺の背中に手を回して服を握りしめた。涙を流し、嗚咽を漏らし、泣きながら。

「はい。ずっと傍にいます。私をライエル様の傍に……置いてください」

 抱きしめ合うと、周囲から歓声と口笛が響いた。驚いて周りを見ると、歴代当主たちが呼び出した兵士たちに、味方である俺の本隊が合流していた。

 ……数十万の前で告白とか勘弁して欲しい。分かっていたら、もっと恰好いい台詞を選んだよ!





 ――戦いが終わったセントラルでは、歴代当主の女性陣がレジェンドドラゴンやランドドラゴンの亜種を料理していた。

 初代の妻が、二代目の妻と睨み合っていた。

「ねぇ、何これ? 味しないんだけど?」

「繊細な人に分かる味なんです。ガサツだから分からないんじゃないですか?」

 互いに笑顔で青筋を額に作り、ガンを飛ばしあっている二人。周りでは、忙しそうに宴会の準備が進んでおり、ノウェムたちも手伝っていた。

 シャノンがランドドラゴンの唐揚げをつまみ食いしていると、ミランダが握り拳を落とす。

「……痛い」

 涙目のシャノンが両手で頭部を押さえると、ミランダは呆れていた。そして、周囲を見る。歴代当主や主だった面子に囲まれているライエルは、何やら身振り手振りで激しく何かを訴えていた。

 周囲がそれを聞いて笑っている。

 そんなミランダに、荷物を持ってきたヴェラが来る。セントラルの瓦礫の中から、酒や香辛料を見つけてきたようだ。

「ねぇ、この荷物はどこに持っていくの?」

 怪我をしたメイは運ばれてきた荷物の上に乗っており、マリーナはそんなメイと一緒に酒を飲んでいた。

「このお酒美味しいね!」

「だろ! しかし、見事に瓦礫の山だね。綺麗に吹き飛ばしたもんだ」

 メイが酒に喜び、マリーナは周囲を見渡していた。

「香辛料だけ置いて、酒は配ってくれる。というか、いつまでいるのかしら?」

 ミランダの呟きに反応したのは、クレアだった。歴代妻の中で一番下とあって扱いが悪い。白い布を頭に巻き、エプロン姿だった。きっと、今回の一連の出来事を反省させる意味合いでこき使われているのだろう。

「あら? 嫌味? 嫌味なのかしら? 宮廷貴族、って本当に嫌よね。口だけは良く回るんだから」

 ミランダがピクピクと額に青筋を作っていた。先程からこの調子なのだ。ライエルとの再会に喜んだが、ライエルが複数の女性を抱えている現実を知ってイライラしているクレア。

「まぁ、子供を捨てた親よりマシですけどね」

 ミランダの言葉に、クレアが奥歯を噛んだ。言い返せないから悔しいのだろう。勝ち誇っているミランダを見て、ヴェラはそそくさとその場から退散していく。

 シャノンもついでにヴェラに同行するように静かに逃げ出していく。

 クレアが悔しそうにしていると、センスを持ったゼノアが来た。

「あら、準備が進んでないわね。手抜き? ねぇ、手抜きなの? これだから名ばかりの伯爵家は困るのよね。中途半端でウォルト家に助けて貰ったのに、仕事も手を抜くなんて」

 クレアはゼノアを悔しそうに睨み付けていた。

「……歴史だけしかない癖に。プライドが高いだけだから、反乱を起こしても負けたんですよ」

「酷いわぁ。私、傷ついちゃった。ライエルに慰めて貰ってくるわね。あ、それよりも、親に捨てられた可哀想なライエルを慰めてこなくちゃいけないわね」

「申し訳ありませんでした!」

 ミランダはゼノアとクレアのやり取りを見て思うのだ。

(こうやって嫌な風習は受け継がれていくのね。私も気を付けないと)

 すると、黙々と準備をしているノウェムに、ミランダは視線を向けたのだった。先程から静かに作業をそつなくこなしている。

 クレアが文句を言えない程に完璧で、ノウェムのあら探しをするほどに。

「ノウェム、あんたはいいわね。絡まれなくて」

 すると、ノウェムはミランダに顔を向けた。そして笑顔で言う。

「それはミランダさんが生意気そうな顔をしているからですよ。ライエル様の前では可愛い顔をしていますし、腹だって立ちます。胡散臭いですからね」

 ……ミランダは、ノウェムのそんな言葉に絶句する。そして、続けるようにノウェムは言うのだ。

「それと、これはハッキリしていることなんですけど、改めて言いますね」

「……なによ?」

 ミランダがノウェムを睨み付ける。ノウェムは余裕の笑みを浮かべながら。

「私がライエル様の一番だ。お前らは全員仲良く、二番目の椅子を取り合っていろ」

 ミランダもノウェムと一緒に笑みを浮かべた。

「いつまでもお前の場所が安泰だと思うなよ。いつでも奪ってやるよ。精々、一番目の地位を楽しみなさい。今だけだから」

 まるで女性同士――明るい会話をしているような雰囲気で、二人は火花を散らしていたのだった――。
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