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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

最終章 ここまで来たぞ 十八代目

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七番目

 ――王宮の外で戦っていたヴェラは、窓を突き破った死兵が動かないのを驚きながら見ていた。

 手に持った銃を握りしめ、いったい何が起きているのか周囲を見る。

 汗ばんだ肌に黒髪が数本張り付いていた。呼吸を整えながら、同じように銃を持つ船員たちに視線を巡らせると。

「どういう事? もしかして、ライエルたちがやったの?」

 窓の外では同様に動かなくなった死兵を前に、困っている味方がいた。しかし、部屋にヴァルキリーズの一体が飛び込んで来た。

「全員、避難を進めて下さい。いえ、間に合わないのですぐに外へ」

 ヴェラが銃をしまいながら。

「いったい何があったの?」

 ヴァルキリーズは、王宮の中の方を見ながら。

「計画通りに進んでいたのですが、少々予定が狂いました。ご主人様たちが対応していますが、我々は撤退をします」

「ライエルたちはどうなるの!」

 ヴァルキリーズが少し間を置いてから。

「生存はしています。しかし、これは命令です。それに、近くにいる方が邪魔になるかも知れません」

 ヴェラの問いに正確には答えず、そのまま全員を避難させるのだった――。





 ――全員が乗り込む大型のポーターが、何台も発進していた。

 その一つにはダミアンも乗り込んでおり、天井で王宮の方を見ていた。ダミアンの隣には、ラタータ爺さんもいる。

 大型ポーターの隣には、ダミアンが操るゴーレムたちがついてきていた。ガタガタと揺れる大型ポーターの荷台から、ダミアンは王宮を見ていた。

「嫌な感じだね。どうにも静かすぎる」

 ラタータ爺さんが、ダミアンの言う嫌な感じというのに賛成していた。ラタータ爺さんも何か感じているようだ。

「いきなり死兵共が動かなくなったら、避難しろと言いやがった。こいつは何かまずい事でも起きたかな」

 荷台にはバルドアも上がってきた。

「ライエル様を置いて避難など!」

 そんなバルドアの腰にしがみつくのは、アレットだ。アレットがバルドアを掴んで逃がさないようにしていると。

「待って! きっと大丈夫だから!」

「そんな憶測で主人を捨てるなど私には――」

 すると、ダミアンの近くにいたオートマトン三体が、異変に気が付いた。王宮の方で光が見えると、ダミアンたちの前に出て盾を構えたのだ。

 ダミアンが、腰を低くする。

「何か来るな」

 直後――白い光が王宮の天井を吹き飛ばしたかと思うと、光が広がって王都……セントラル中に広がっていく。

 王宮に突撃した機動要塞も吹き飛ばされ、空中に投げ出されるとそのまま光にのみ込まれていった。

「こいつは……」

 ラタータ爺さんもその光を見ていると、ダミアンのオートマトン一号が口を開いた。

「城壁を越えます」

 大型ポーターたちが、破壊された城壁から飛び出すと白い光はまるで城壁部分で区切るかのようにそこで止まった。

 城壁の瓦礫が吹き飛んでくるのを、ダミアンは巨大なオートマトンで防ぐ。

 衝撃波で大型ポーターが少し浮き上がった。

 光の発生の後には、土煙が襲ってきた。強い風と砂埃。

 それらが収まり、視界が徐々に確保されていく。そして、そこに広がっていた光景は、完全に瓦礫の山となったセントラルだった。城壁は失われ、かろうじて王宮の一部が残っている。

 ダミアンは、そんな王宮に浮いている何かを見るのだった――。





 白い光にのみ込まれたと思うと、衝撃が収まって俺は前を見た。

 目の前には、ヴァルキリーズが衝撃を抑えるためにバインダーを展開していたはずなのだが……残っていたのは足首だけ、そしてピンク色の編み込まれたような紐が風に流されて飛んできた。一部が焼け焦げているが、それを俺の目の前に立っていたモニカが手に取ると、大事そうにエプロンにしまう。

 周囲を見ると、見晴らしが良くなっていた。天井は吹き飛び、壁はなくなり……セントラルの街が綺麗に吹き飛んで瓦礫が敷き詰められたような空間になっていた。

 そして、曇り空は王宮の上空部分だけが綺麗に開いて、そこから差し込む光の中に宙に浮ぶセプテム――アグリッサの姿があった。

 最初に見た時よりも大きくなっており、両の手足は完全に赤黒い硬化した皮膚に守られているように見えた。背中から尽きだした角のようなものも、更に数を増やして巨大化している。

 空に浮び、俺たちを見下ろしたアグリッサは。

「加減を間違えた。流石はノウェムだ。人を見守るという目的で、人の体に記憶を――そして記録を詰め込んだだけはある。おかげで完全な姿を取り戻しそうだ。まぁ、醜いのでいずれ人の姿になるが」

 俺の方に視線を向けながら。

「この姿ではお前を抱けないからな」

 そう言って笑っていた。たったの一撃で大陸有数の都市を吹き飛ばした。モニカが、俺に言う。

「既に味方の避難は終わっています。無事に避難は済んでいますが……」

 俺は笑いそうになった。

「こんなの、どこに逃げても一緒だな」

 先程の一撃を手加減と言ったアグリッサ。その攻撃に怯む俺は、握ったカタナの柄を確かめた。

「……それでも、ここでこいつを止めないと」

 俺がアグリッサを睨み付けると、アグリッサは喜んでいた。

「これだけの力量差を見せられながら、まだ立ち上がるか! ノウェムが気に入るわけだ。それに、私もそういう人間は大好きだよ。ただ、私ではお前たちを殺してしまうから……相手はこいつらに任せよう」

 周囲を見れば、俺と同じように全員が立ち上がって武器を持っていた。ヴァルキリーズの生き残りも両手に武器を握りしめている。

 ただ、アグリッサは俺たちの相手をする気にはなれないのか。

「もしかすると、一人や二人は死ぬかも知れないが……まぁ、死んだらそこまでだった、という事だな。私のお気に入りだ、倒して見せてくれ」

 アグリッサが巨大な姿のまま、空中で仁王立ちをすると左手で指を鳴らした。周囲――そして、セントラル中に魔法陣のような物が出現すると、そこから鎧を着たドクロの戦士――アンデッドが姿を現した。

 ただ、俺たちの目の前には、大剣を持った鎧姿の――俺の名前の由来でもある、初代の祖父であるライエルが姿を現す。

「人形? それに、周りは召喚か?」

 すると、アグリッサは口元に手を当てつつ。

「ノウェムのように魔物を作るつもりはない。あれはその方が恐怖心があおれるからそういう外見をしているだけだ。まぁ、簡単に言うのなら……これら全てが死兵だ。セレスの時とは違う。私には無尽蔵に死兵を呼び出せる。この世は、生者の数よりも死者の数が多いからな!」

 全てが死兵であるという言葉に驚く。周囲を――王宮の周囲を埋め尽くす骸骨の兵士たちは、ひしめき合って武器を掲げていた。

「六十万を超える兵を集めてくれたんだ。ならば私はその十倍を用意した。六百万だ。手始めにこれで周囲のゴミを一掃する。私が吹き飛ばしても良いが、時間がかかる方が楽しめるからな」

 笑っているアグリッサは、心底楽しそうにしている。俺が上空を見ながら。

「お前、遊んでいるのか!」

 すると、アグリッサは微笑みながら。

「そうだが? すまないな。真剣に相手をするには、お前たちが脆弱すぎる。しかし、滅んでも面白くないわけだ。ふむ、一割は残して大陸――いや、世界中の人口を調整してやろう。一割に到達するまでにどれだけの時間がかかるのか楽しみだよ」

 俺がカタナの柄を握りしめ、一歩踏み出そうとするとアグリッサが言う。唇に指先を当てながら。

「私を見てくれるのは嬉しいが、そうするとお前の先祖が殺しに来るぞ」

 不意に意識を下に向けると、大剣を持った全身鎧の騎士が俺に突っ込んできた。カタナで受け止めようとするが、モニカが俺を押しのけハンマーをぶつける。

「……ムダ、ダ」

 死兵が喋ったのも驚きだが、かつて記憶で見たウォルト家の祖先――アグリッサを倒した英雄の声だった。

「こいつ!」

 モニカがハンマーを手放した。大剣はハンマーを斬り裂いたのだ。

 上空でアグリッサが言う。

「魔具もない。玉も一般的ではない時代の戦士だ。自らを鍛えるのは当然。そして、自身のスキルを極限まで鍛え上げ、技術を磨いてきた戦士の到達点の一つだよ。こいつは強いぞ。何しろ、私を殺したほどだからな!」

 俺はアグリッサが攻撃をしてこない事を確信し、先祖に斬りかかった。アリアが回り込んで槍を突き刺そうとしている。

「……ダメ、ダ」

 片言の言葉でそう言うと、大剣を振って一回転。俺のカタナを弾き飛ばし、アリアの槍も弾き飛ばしていた。

 エヴァが矢を放つと、左手でその矢を握りしめる。

「嘘!」

 エヴァの叫び声を聞いて、エリザがジャンプをした。

「ならば魔法で氷漬けだ!」

 氷の矢が先祖に襲いかかると、上空でアグリッサが笑う。

「以前の私は魔法に優れていた。そんな私を倒すような奴だぞ。魔法などでどうにかなるようなものではないよ」

 言った通りだ。

「ウワァァァアアァァァ!!」

 雄叫びを上げる先祖は、極限まで肉体強化を行ったのかエリザの氷を剣でなぎ払った。風圧、そして鎧から湯気が上がっているように見えた。

「ちっ!」

 グレイシアが炎を出そうとすると、気が付いたのかグレイシアとの距離を詰める。

「早い。――シャッフル!」

 グレイシアの位置をルドミラに変更すると、ルドミラと先祖が刃をぶつけ合った。変幻自在の刃を持つルドミラに対し、愚直な剣筋で弾き飛ばす先祖。ルドミラが距離を取ろうとしていた。

「な、なんだこいつ!」

 ルドミラを使用し、位置取りを行っていた。援護しようとする俺たちの射線にルドミラを持ってきていた。戦いなれていた。

 上空ではアグリッサが笑う。

「世に時々現われる。こいつは勘の鋭い根っからの戦士だ。素の状態で強い。そして、それが私を倒すために力を磨いてきた。ゾクゾクするだろ」

 銀色の銃を取り出し、ルドミラに向かって引き金を引いた。青い魔法の弾丸は、ルドミラを飛び越えて先祖に直撃しようとするが。

「……マズイ」

 そう言ってルドミラから離れ、今度は近くにシャノンのいるミランダを狙った。シャッフルでシャノンの位置をアリアに変更すると、ミランダとアリアが先祖に立ち向かう。

「これなら!」

 ミランダが両手で糸を出現させ、先祖を拘束した。アリアが槍を持って斬りかかったところで。

「フン!」

 糸に巻き付かれた先祖は、力任せにミランダの方を投げ飛ばしてアリアにぶつけた。二人が吹き飛び、糸が消えると今度は俺が先祖に斬りかかった。

 大剣で俺の一撃を受け止める先祖は、俺の顔を見て。

「……カルイ」

 そう言って、俺の腹を蹴り飛ばした。吹き飛ぶ瞬間、何をされたのか分からなかった。希少金属で鍛えられたカタナが破壊され、俺は吹き飛んでいたのだ。

 上空でアグリッサは。

「いくつものスキルを操るのも才能だ。だが……たった一つのスキルを昇華させ、極めた戦士はある種の芸術だよ。とても強いだろう? 今の世の中にはほとんどいないから、新鮮じゃないかな」

 アグリッサの言葉通り、今の世の中にはなかなかいないタイプだろう。魔具で補強することが出来ず、自分にあるものだけで戦う戦士たち。

 かつてアグリッサに挑んだ戦士たちも、そういった人たちなのかも知れない。

 モニカが俺の傍に来ると。

「チキン野郎、外の死兵の軍勢が動き出しました。連合軍に攻撃を仕掛けています」

 ルドミラとグレイシア、そしてエリザが三人がかりで先祖を攻撃していた。戦う事に特化しているような三人が、いいようにあしらわれていた。

 そして、クラーラの方はポーターの応急修理をしている。衝撃で両肩の部分がおかしくなったらしい。ヴァルキリーズも手伝っていた。

「十倍の兵力差はどうしようもないな」

 腹を押さえていると、俺の方にアリアとミランダ、そしてシャノンが駆けつけて来た。俺は空を見上げ、アグリッサの胸元でグッタリしているノウェムを見上げた。

「ライエル、どうするの? まだ隠し球があるのよね?」

 ミランダが、俺の隠し球である初代の最終スキルフルバーストの事を言うと、アリアが難しい表情をした。

「一気に目の前の敵も倒して、空の上にいるアグリッサも倒すのは厳しいわね。ノウェムも囚われているのに」

 アリアも空を見上げていた。エヴァは戦っている三人の援護をしている。

 俺は腹の痛みが引いてくるのを感じた。ミランダが、自分の怪我よりも俺を優先して魔法で治療してくれている。

 シャノンが言う。

「あんなの、どうやっても無理よ。桁違いだもん。周りの魔力があいつに集まって、それで従って……」

 泣きそうなシャノンは、アグリッサがいかに危険か俺たち以上に気が付いているようだった。

 俺は膝を突いた状態から立ち上がる。

「それでも、やるしかない。ここまで来て、アグリッサのコレクションとか絶対に嫌だからな。それに、俺は……ノウェムに言わないといけないこともあるんだ」

 空を見上げ、俺は銃の形状から首飾りに戻った宝玉を握りしめていた。

 モニカは、俺に外の情報を伝えてくる。

「死兵の軍団と戦闘が開始されました。メイ、マリーナがいるので、我々の軍勢は時間が稼げていますが、他は一部が逃げ出しています。この状況では、崩壊していると言うしか」

 連合軍が大量の敵の前に崩壊していく。

 ここまで準備をしてきたが、力を取り戻した女神がこれ程に厄介だとは思わなかった。その前に決着をつけたかった。盟主としても、崩壊する前に勝負をつけたかった。俺個人としても、セレスを倒して全てを終えたかった。

 そして、個人的には――。

「あぁ、これは切り札を使わないとだけだな」

 そう言って、笑うと周りが心配したような視線を向けてくる。個人的な理由で使いたくなかったのだ。使ってしまえば、宝玉はただの玉になってしまう。そして、使えば今まで積み上げてきたものが消えてしまう。

 更には――。

「嫌なんだよなぁ……なんで、俺のスキル、ってこうも使い手を困らせるのかな。最初はスキルの効果を出さないのに魔力だけガンガン奪っていったんだ」

 エクスペリエンス――経験値的なものを大量に得られる常時スキルだが、当初は中途半端に発動して魔力だけを吸い上げるだけの役立たず、だった。

「コネクションは使用する前にキスが必要で……しかもディープな奴だし」

 恥ずかしくなってくると、ミランダが笑顔で。

「ライエル、おかげでキスが上手になったわよね」

 本当に俺のスキルは、どうしてこうも酷いのか? 俺の事が嫌いなのではないだろうか?

「……最後のスキルは、失う者が多すぎる」

 すると、モニカが俺を見て。

「それは事前に確認しておきたいですね。何しろ、ここで命を捧げる必要があると言うのなら、モニカはチキン野郎が生存する道を強制的に選びますよ」

 アリアがモニカに怒りながら。

「あんた、ライエルの気持ちも考えなさいよ。アグリッサのお人形としてライエルに生きろ、っていうの!」

 モニカは。

「それでも耐えていれば、いつかチャンスが来るかも知れないではないですか。チキン野郎を死なせでもしたら、私は私が許せません。倒れていった姉妹たちに顔向けも――」

 俺は、この場にいる全員に。

「いや、命じゃないんだ。なんというか、ある意味において死んだようなものだけど、失うのは命じゃない」

 シャノンは、俺の方を見て口元を押さえながら。

「記憶とか!」

「……それならどれだけ良かったか。いっそ、記憶を失った方が良いかも知れない」

 全員が、俺の方を見て早く話せと視線で語っていた。俺たちの会話が聞こえているルドミラたちも、割と急いで欲しそうだ。俺の先祖を押さえるだけで手一杯のようで……。

 俺は立ち上がって宝玉を握りしめた。

「失うのは……俺の……くっ、使いたくなかった!」

 どうして俺が使いたくなかったのか。それには大きく二つの理由があった。

 一つは、俺の最終スキルが『強制的に一回だけ成長を引き起こす』から、である。成長前に体が痛くなることはない。ただし、そのペナルティーは『今後は成長しない』という条件がついている。

 正直、最後の方はどうでもいい。問題なのは、使ってしまうと成長するという事だ。

「あぁ、もう! 全員、絶対に笑うなよ! いいか、絶対だからな! 笑ったら、これからずっと恨むからな!」

 俺はそう言って宝玉を握りしめた。本当に使用したくなかった二つ目の理由もあるが、俺はここで使用するしかないと思った。

 宝玉を掲げると、俺の周りに青白い光が渦を巻いて風を起こす。アグリッサが目を細めるが、これは発動までに時間はかからない。

「ルドミラ、グレイシア、エリザ……エヴァも手を出すな。下がれ」

 そうして光に包まれる俺は、最後のスキルの名を呼ぶ。

 最終スキル――。

「――【セブンス】発動」

 周囲に優しい風が吹き荒れた。
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