挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

最終章 ここまで来たぞ 十八代目

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

330/345

蘇る女神

 ――セレスは、宝玉を丸呑みにした。

 喉を通るときに抵抗があるかと思ったが、そんな事はなくまるで溶けるように胃に収まる。丸呑みにする際に上を向いていたが、ゆっくりとライエルたちに視線を戻した。

 高密度の魔力で作り出された炎が周囲で渦巻いてセレスを守っていた。自決用に用意していたスキルだが、人とは思えない魔力を持つセレスが何年もかけて用意した炎だ。

 ライエルたちでは手が出せないだろう。

 何しろ、王都を吹き飛ばすほどの威力を、今は自分の体を守るために使用しているのだから。

 アグリッサがセレスに与えたスキルで、元から邪魔者を排除するために用意した炎だ。

『セレス、もういいな?』

 アグリッサの声は優しかった。セレスは頷く。

「えぇ、もういいわ。だって、約束だからね」

 セレスは思い出す。あの日のことを。

 それは、セレスが六つの時だった。セプテムの記憶を引き継ぐセレスは、アグリッサと同じように人間に虐げられた記憶を色濃く受け継いだ。そんな記憶を引き継いで生まれたセレスは、両親以外はゴミとしか思えなかった。

 誰もが触れば消し飛ぶ五月蝿い虫、程度の認識だ。セレスにとって、自分が気に入るか、そうでないかが虫の価値を決める。そう思っていた。

 だが――。

(あいつだけは許さない。絶対に許さない)

 兄であるライエルは、セプテムの記憶全てを受け継いでいた。そして、その記憶を引き継ぎながらも、自分という存在を確かに持っていた。

 過去を振り返られないなどと言いだし、自ら記憶を封印する事もしていた。

 有能だった。セレスを超えていた。

 そして、セレスが過去の虐げられた記憶を持つセプテムたちのように――ライエルは周囲に優しかった。両親の期待に応え、そして誰からも愛されていた。

 セプテムの力などに頼らずとも、ライエルは周りから愛されていた。

 陰と陽のように、ライエルが強く輝けば、セレスの闇が強くなった。

 そして、普段は明るい表情に隠し、セレスはライエルを憎み続けた。憎しみが増したのは、ライエルがそれに気付いてなお――セレスに優しかったことだ。

 炎越しに、セレスはこちらを見て手が出せないことに悔しがっているライエルを見た。

 かつての笑顔とは違うライエルを見て、セレスは気持ちが晴れやかになる。

 ライエルに優しくされ、劣等感にさいなまれ、そうして祖母の死後に見つけた宝玉が語りかけてきた時は運命を感じた。

 祖母の部屋に入り、何か面白いものはないかと探し回っていた。周囲が悲しんでいるのを見て気持ち悪いと思っていた。セレスにとって、祖母もその程度だったのだ。

 何しろ、祖父母もセレスの異常性に薄々だが気が付いていたから。

 つまらなかった。葬儀を抜け出し、そして厳重に保管されている箱を見つけ出した。

 それを開けると――。

『ふむ、ゼノアではない。孫のセレスか? 大きくなったな』

 黄色の宝玉を見つけたセレスが、アグリッサと出会った瞬間だった。そこから、全てが動き出したのだ。

 そして、アグリッサが求めたのは、セレスの体。それも、別に強く求めたのではない。アグリッサにとって、セレスは可愛い子孫だ。アグリッサにとっても価値のある存在だった。

 炎の向こうでは、自分を苦しめた存在たちが慌てていた。

 セレスは両手を広げる。

「――さぁ、絶望しなさい。私はそれを地獄で見ていてやるわ」

 自分が消えるというのに、セレスは最後まで笑っていた――。





 セレスが最後に笑って両手を広げると、体が膨れあがって血を噴き出し吹き飛んだ。

 肉片が周囲に散らばるかと思ったが、周囲の炎を吸収して血肉が集まり球体を作り出す。赤黒い球体が脈打つと、俺は銃を構えて発砲した。

 全員が即座に魔法に矢、そして大砲で攻撃をするが……。

 赤黒い球体が弾け、そしてそこから血に濡れた裸の女性が姿を現した。

 長い金色の髪は、血に濡れるがそれでも輝いて見えた。髪の間から見える紫色の瞳も宝石のような輝きだ。

 白い肌に美しいからだ。大きな胸に腰のくびれや――そこで、俺は首を横に振った。全員も見惚れており、声をかける。

「気をしっかり持て!」

 すると、血濡れの女性――二十代半ばか後半か。それぐらいの年齢の女性が、俺の方を見て口の端を上げた。

 玉座近くにいた女性は、俺が全員に声をかけるため振り返るとその瞬間には俺の隣にいた。

「見惚れるくらい許してやれ。それと、はじめましてと言っておこう、ライエル」

 気配が全くなかった。セレスの視覚情報も共有しているのに、分からなかった。飛び退こうとするが、女性は追いかけてこない。

 俺の方を見て微笑んでいた。

「そう怖がるな。私はお前に好意を抱いているよ。こんな事は本当に久しぶりだ。そうだな……お前の先祖が、私に止めを刺すときくらいの興奮だよ」

 話の流れから、俺の先祖が止めを刺した相手――それは、アグリッサだ。

「ミランダ!」

 他よりもすぐに立ち直ったミランダが、アグリッサにスキルで糸を絡めた。裸のアグリッサが縛り上げられるが、ミランダの糸でもアグリッサの肌に傷をつけることは出来なかった。

「こいつ、なんて硬いの!」

 すると、アグリッサは笑う。笑いながら、ミランダの糸を切っていた。

「酷いことを言う。これでも柔肌だぞ。確かめさせてやろうか? 流石にノウェムが選んだだけはある。可愛い奴が一杯だ」

 セレスとは違い、先程から好意的な態度だった。だが、それが逆に怖い。先程も、本気になれば俺を殺せたかも知れない。なのに、それをしなかったのだ。

 出来なかった、などと楽観的な考えは禁物だろう。

 ノウェムが俺の前に出た。杖を構えているが、その杖が大鎌の形を取り、ノウェムが最大限の警戒をしている。

「アグリッサ――いえ、セプテム!」

 すると、アグリッサの表情が曇った。

「その名で呼ぶな。私はアグリッサだ。セプテムなどと言う馬鹿の名で呼ばないで欲しいな。まぁ、馬鹿はセプテムだけではないだろうが」

 後半、ノウェムに挑発的な態度を向けたアグリッサ。すると、ノウェムが今までにない速度でアグリッサに接近し、大鎌を首目がけて振るう。

 それを、アグリッサは左手で掴んで止めた。

「やれやれ、そう怒るなよ。せっかく蘇ったんだ。それにしても、この魔力の活性化した臭いも久しいな。戦場の臭い。外でも戦っているのだろうな。いいなぁ……人が死んでいくと思うとゾクゾクするよ。やはり、体があってこそ感じるものもある」

 頬を染めるアグリッサに恐怖を覚え、俺は周囲に指示を出した。

 コネクションで繋がった仲間が動きだし、ルドミラとグレイシアがアグリッサを挟み込むように攻撃をかける。

 スキルで強化しているのだ。その速度も威力も通常以上なのだが――。

「ほう、女神の末裔か。よく見れば他にも揃っている。ライエル、お前は凄いな。意識しないで集めたか、それとも運命か――まぁ、それはいい」

 周囲に散らばった血液が膨れあがり、大きな腕となるとルドミラとグレイシアの攻撃を防いだ。

「こいつ!」

 グレイシアが炎を出すと、アグリッサはグレイシアを見ながら。

「おぉ、熱い、熱い。流石に女神の血を引くだけはある。だが、それだけだな。コレクションの一つに加えてやるから黙っていろ」

 三人を吹き飛ばし、アグリッサは自分を守る腕を消した。背伸びをすると、今度はモニカとエリザが攻撃を仕掛ける。

 クラーラは吹き飛ばされた三人を回収しに向かい、ミランダはガタガタと震えるシャノンを抱きしめていた。

「オートマトン。懐かしいものを蘇らせたものだな。まぁ、私を嫌っているのだろうが」

 モニカを見て珍しそうにするアグリッサ。モニカは、巨大なハンマーを振り降ろしながら。

「貴方は女狐以上に危険だと、私のコアが言っています。消えなさい!」

 そんなハンマーの一撃を手の平で受け止めるアグリッサは、反対の腕でエリザの振り抜いた杖を握る。氷で刃を作っていたが、アグリッサが触れると氷が簡単に砕けてしまった。

 アグリッサは残念そうに。

「残念だな。お前たちは優秀だ。それに、人間たちの残した貴重なものだから、傍に置いておきたいのだが……まぁ、ライエルが私のものになれば従うだろう」

 アグリッサが俺を見ると、モニカとエリザを吹き飛ばした。アリアが俺の前に出るが、アグリッサはアリアを越えて俺の前に来た。

「なっ」

 俺の頬に手を触れるアグリッサは、俺の顔を見ながら。

「いいな。私の血を引いているから、お前は実に愛おしく感じる。しかも血縁としても遠い上に、お前は強い。セレスから全てを奪われても、その器に違う力を満たしたか。セレスはお前を嫌っていたようだが……私はお前が気に入った」

 意外に語られるよりも良い人なのではないか? そう思ってしまいそうになっていた。俺は首を横に振って離れようとすると、ノウェムがアグリッサに杖を振り下ろす。

 すると、アグリッサは溜息を吐いた。

「はぁ……ノウェム、邪魔をするな」

 ノウェムの顔が見た事のないほどに怒りに染まっていた。

「セレス様を殺しておいて、貴様はぁぁぁ!!」

 大鎌に姿を変えた杖が燃え上がると、アグリッサがノウェムを投げ飛ばした。しかし、ノウェムがアグリッサに斬りかかる。

 先程よりも動きが速い。まるで――ノウェムが徐々に変わっていくようだ。

「セレスが望んだことだ。そもそも、お前も私たちのやることを利用したじゃないか。ライエルに私の血が入っているのが嫌で、それを抜き取るためにセレスを利用したくせに」

「黙れぇぇぇ!!」

 ノウェムの紫色の瞳が光っているように見えた。ノウェムから魔力があふれ出し、そしてその力は――アグリッサと同じ物に見えた。

「人を超えるか。面白い。ベースが優秀だったからな、以前の私だと思うなよ」

 挑発するアグリッサに、ノウェムが激高していくのが分かる。繋がっているラインから、ノウェムの感情が処理しきれないほどに流れ込み。

「ッ!」

 俺は胸を押さえた。

 ノウェムとのラインが強制的に切られたのだ。すると、シャノンが叫ぶ。

「ノウェムを止めて! アグリッサは――アグリッサの狙いはノウェムよ!」

 俺たちが一斉にノウェムとアグリッサに接近するが、少し残念そうにするアグリッサが、すぐに笑顔になる。

「残念だ。お前たちが絶望する姿も愛でようと思ったのに、聡い子がいたか。だが、遅かったな」

 ノウェムから魔力が噴き出し、魔力の嵐が謁見の間に吹き荒れた。端から見れば部屋の中に風が吹き荒れているだけに見えるだろう。だが、俺たちの目にはシャノンが見ている魔力の流れも見えている。

 俺はノウェムの姿を見ながら。

「ノウェムが……変わる」

 人から違う何かに変化しているように見えた。人の姿をしているが、激怒し、憎んでいるアグリッサと同じ何かに――そして、アグリッサの周りに赤黒い巨大な手の平が二つ出現した。

「セプテムゥ!!」

 激怒しているノウェムには、アグリッサしか見えていない。

「セレスを私に殺されて激怒したか! ライエルの前では澄ましているようだったが、やはりお前はそうでなくてはなぁ! あの時と同じだ! 私を殺したあの時と! お前は何も変わっていない!」

 激怒するノウェムを見て、笑うアグリッサ。俺たちは嵐に吹き飛ばされ壁際に吹き飛んだ。ヴァルキリーズが俺たちを受け止めると、巨大な手の平がアグリッサとノウェムを包み込む。

 包み込まれたアグリッサとセプテム。そして、赤黒い球体がまたしても作られると、その中からアグリッサが姿を現した。

「なんだ。なんなんだよ、こいつ――」

 目の前のアグリッサは、巨大化していた。女性の姿なのは変わらないが、大きさにして四メートルは超えていた。そして、胸元には首をダラリと下げたノウェムの姿が。

 両手両足には、血管が浮き出て硬化した赤黒い手足に変わっていた。背中には翼とも言えない、角のような何かが何本も突き出ていた。

「――馴染まないな。もうしばらく時間がかかるが……流石にノウェムだ。全ての記憶を引き継がせていたか。これで私の失った部分も綺麗に埋まったよ」

 巨大化したアグリッサは、俺たちを見下ろした。そして、表情が笑みを浮かべ。

「どうした、ライエル。そんなに私を見て」

 俺はカタナを抜いて構えた。

「ノウェムに何をした!」

「怒るな。ただ、融合しただけだ。私の血肉になって貰う。まぁ、こいつはこれだけの事をされても仕方のない奴だよ。聞きたいか? ノウェムが何をやったのか。知りたいか? 女神と呼ばれた存在がなんだったのか?」

 俺はアグリッサの胸元を見た。ノウェムがまだ無事なのはスキルが教えてくれる。だが、いつまでも無事とは思えない。

 アリアがアグリッサを見上げながら。

「女神? これが……」

 すると、アグリッサがアリアを睨み付けた。

「あぁ、そうだ。この醜い姿をかつて人は女神と敬った。人が創った我らを崇めたのは人だ! そして、私たちは神になった。だから……これから行う虐殺は、神が決めた神罰だよ」

 アグリッサがゆっくりと腕を上げると、シャノンの代わりにミランダが叫ぶ。ラインで繋がっている全員に向けて。

「全員をすぐに避難させて! 何かに隠れるだけでも良いから!」

 流れ込んでくる魔力の流れ、そしてシャノンが魔力の流れから読んだ結果に俺は驚愕した。

「全員をすぐに――」

 全員とは、この場にいる俺たちではない。セントラルに侵入した俺たちの軍勢全てだ。

 ただ、アグリッサは笑う。

「お前たちには手加減をしてやらないといけないな。だが、もう遅いぞ」

 振り上げたアグリッサの手から放たれた光が、全てを吹き飛ばそうとしていた。その威力はセントラル全てが有効範囲だ。

 ポーターがすぐに俺たちを庇うような位置に来る。ただ、それでは足りないとヴァルキリーズが前に飛び出してバインダーを全面に展開。

 全てが光に包まれた時、聞こえたのはアグリッサの声だ。

「大陸中を血で染め上げ、今度は私が世界を支配する番だ。ノウェム、お前は特等席でその光景を見せてやるよ! そこでお前が愛した人間が滅びるのを見ているが良いさ!」

 俺は、宝玉を握りしめた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ