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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

二代目様は苦労人

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第二章エピローグ

 王都に到着した最初の夜。

 俺はボンヤリと窓の縁に座って外を眺めていた。

 月が綺麗であり、眺めていたかったのだ。

 三代目が、俺に声をかけてくる。

『随分と浸っているね。そんなに別れが辛かったのかな?』

 俺は俯いて少し笑う。

 部屋の中を見れば、ノウェムとアリアが同じベッドで眠っていた。二部屋取る事も考えていたのだが、どこも満室で断られた。

 もう一人いるなら、二人ずつで二部屋を取れただろう。

「辛かったですね。認められてすぐに、ですから」

 そう言うと、三代目はからかうような口調を止めた。

『ライエルが覚えてくれるなら、初代も喜ぶよ。それより、最近は少しだけまともになってきたね』

「少し、ですか?」

 相変わらず手厳しい評価に、俺は苦笑いをした。

 ただ、内心ではそれでも納得している。むしろ、俺自身の評価よりも高いと思っていた。

『そう、少しだけだ。でも、確実に成長しているね。初代の行動は無意味じゃなかった訳だ。安心したよ』

 つまり、初代がいなくなりいつまでもウジウジしていれば、ご先祖様たちも許せなかったわけだ。

「……未だに何を目指せば良いのか分かりません。アリアの事も任されましたし、どうにかして面倒を見るつもりです。いずれは離れても、ちゃんと独り立ち出来るようになるまでは」

『おや、ノウェムちゃんのハーレム計画には反対なのかな? 男なら喜ぶところだろうに……ま、気持ちも分かるけどね』

 確かに男ならハーレムを夢見ることもあるだろう。

 だが、実際にどうかと言われると微妙だ。

 ノウェム一人ですら、俺は幸せに出来るか怪しいのだ。

 嫁入り前の家財道具を売り払い、資金を用意してくれたノウェム。

 いつかこの恩を返すことが出来るのだろうか?

「当分は冒険者として世界を見て回ります。そうしている内に答えが出るかもしれませんから……俺は知らないことが多すぎる」

 そう言うと、三代目も同意だった。

『人間なんて知らないことばかりだよ。全てを知ったように感じても、それは間違いだろうね。だから一生学んでいくしかない。本だけでは得られない知識もあるだろうし、僕はライエルの意見に賛成するよ』

「ありがとうございます、三代目」

 すると、三代目が注意してくる。

『おっと、喋りすぎたみたいだ。お姫様が起きてきたから、会話はここまでだね』

 三代目が口を閉じると、アリアが起きてきた。

 上半身を起こすと、首に下げた赤い玉が光ったように見える。

 アリアが声をかけてきた。

「……まだ起きていたの?」

 眠そうなアリアが、無防備な姿をさらしている。目をこすり、俺の方を見てきた。

 もう少し男として見て貰いたいと思いつつ、俺は今までの自分なら仕方がないかと思って割り切った。

 アリアはベッドから出るとこちらに近寄ってくる。

 そして、俺の首飾りに視線を向ける。

「あんたもスキルを沢山持っているのよね? それって、やっぱり家宝的なものなの?」

 青い宝玉を見ながら聞いてくるアリアに、俺は頷いた。

 隠していたと言うよりも、俺の虚弱体質ではスキルの複数使用は難しいと思われていたようだ。首飾りに青い玉を持っていても、使えると思わなかったらしい。

「……ウォルト家の歴代当主が受け継いできたものだよ。大事な家宝だね」

 すると、アリアは近くにあった椅子に腰掛けると、自分の赤い玉を触った。

「そうなんだ。私も持っているけど微妙な扱いよね。……昔は流行ったらしいけど、今は作る技術も失われて生産できないのよね。でも、バランスが悪いから、って見向きもされないの」

 魔具が登場し、それまで使用されていた玉は一気に廃れてしまった。

 それは、任意のスキルを所持させることが出来ないからだ。

 誰かが発現させたスキルを、ただ記憶していくだけの道具として見られている。

 今日のアリアは気分が良いのか、良く喋る。

「フフッ」

「どうしたの?」

「思い出し笑いよ。ロックウォード家の女が受け継いできたこの赤い玉はね、実ははじまりに少し面白い話があるの」

「面白い話?」

 俺が興味を持つと、アリアが話してくれた。

 それは、ロックウォード家に嫁いできた一人の女性から始まる。

「玉が広がり始めたときは、スキルを記憶していない状態の物しかなかったの」

「……そうだね」

 初代が後からそれを知り、後悔していた姿が思い出される。

 ウォルト家の始まりなど、今話せばただの笑い話でしかない。

「それで、嫁いできた私のご先祖様はね、それを持っていたのよ。でも、ロックウォード家も当時持っていたらしいのよ。だから、なんで持ってきたのか分からなかったの」

 その女性が赤い玉を持ってきた時は、ロックウォード家も玉を所持していたようだ。

 同時に複数を使用するのに問題があるため、その玉は嫁いできた女性が持っていたらしい。

「それでそのご先祖様は、ロックウォード家の女に代々引き継ぐようにしたらしいわ。ついでに、その時の失敗談もね」

「それが面白いの?」

「面白いというか、ちょっとした悲哀? 嫁ぐ前にそのご先祖様は、好きな人がいたらしいのよ。その人のために大金を払って玉を買ったの」

 そこまで聞くと美談だ。

 話の流れからするに、嫁ぎ先の旦那と好きな人は違う様だが。

「からかう話じゃないと思うけど」

 そう言うと、アリアは「ここからよ」と言った。

「そのご先祖様はね、随分と口下手だったみたいで、相手に想いも伝えられなかったのよ。しかも、会話も一切したことがないの! 遠くから時々見て、それで満足していたのよ。馬鹿だと思わない?」

 俺はそれになんと言っていいのか分からなかった。

 確かに声すらかけられないのはどうかと思ったが、それを言うとうちの初代も似たようなものである。

「……まぁ、なんというか微妙な」

「でしょ! それで、相手に渡せないまま数年が過ぎて、結婚の話が来て断れなかったのよ。だからその時に買った赤い玉だけは持ってきたの。相手が赤い玉を欲しがっていた情報まで持っていたのに、声もかけられないのよ」

 俺は少し疑問に思った。

 その女性が好きだった男性が気になったのだ。

「相手の男はどんな人だったの?」

「詳しくは知らないけど、その時は開拓に乗り出す若い人が多かったみたい。その人も開拓団を率いて王都から遠くに行ったらしいわ。ご先祖様、それを知って気持ちだけでも伝えるためにこれを買ったのに、最後まで渡せなかったのよ。駄目過ぎるでしょ」

 俺はもしかしたら、と思い聞くことにした。

 ここで似たような男性ならいくらでもいると思いながら、確かめずにはいられなかった。

「そ、その人の名前とか知らないか? 恰好とか!」

 俺が詰め寄ると、アリアが驚く。

「恰好までは流石に……名前くらいなら」

 ここまで興味を持つとは思わなかったのだろう。アリアは少し困惑していた。

 そして、思い出すような仕草をすると、名前を口にする。

「確か……バルジだか【バジル】っていう名前よ。相手は騎士爵家の三男で、身分違いの恋だったみたい。その時のご先祖様は男爵家の娘だったみたいだし、声をかけたとしても無理だったかも。名前は【アリス】ね」

「そう、なんだ……」

 気持ちは通じていたようだ。

 俺は何とも言えない気持ちになる。

 もしもどちらかが声をかけていたら……だが、そうなると俺やアリアは生まれなかっただろう。

 今の話を聞いていたご先祖様たちが、感想を述べる。

 二代目は手短に。

『どっちもどっちだな』

 三代目も――。

『なんというか、本当に『運命』だったのかも知れないね。最後まで知る機会はなかった訳だ……なんと言えばいいのか、初代らしいと言えば、らしいよね』

 四代目は少し悔しそうだ。

『少し悲しいとは思うけど、ちょっと妬ましいね』

 五代目は冷たい。

『ま、縁がなかっただけだろ。あったら一緒になっているはずだ』

 六代目は――。

『身分違いの恋は叶っても幸せになれるかどうか……』

 七代目も六代目と同じだ。だが、少しだけ違う。

『事情にもよるでしょうな。そのアリスという女性に多くの姉妹でもいれば、開拓に出る初代について行けたかも知れません。混乱していた時代を抜けたばかりで、今ほど身分に厳しい時代でもないでしょうから。独立できるなら嫁がせるのも悪くない手段です』

 法衣貴族は、地方貴族と違って兵力をそこまで維持できない。

 王宮から年金を貰い生活しているためだ。

 どちらが優れているとは言えないが、それでもそうした面から地方貴族と繋がりを持つのも大事だった。

(本当に一緒になる可能性はあったんだな……確かに、俺とアリアが出会ったのは、運命かも知れませんね、初代様)

 俺がそう思うと、アリアが声をかけてくる。

「どうしたのよ、急に悲しそうに……確かに悲しいけど、これはロックウォードの女に対する戒めの話よ。ちゃんと気持ちを伝えるようにしなさい、っていうね。でも、建前があるのよ。武門の女らしくあるために、と言う、ね。ただ、本当はこういう乙女の悩みが裏にある……ね、おかしいでしょ」

「……ハハ、確かにギャップが酷いね」

 もう少し早く聞けていればと思いながら、聞いても何もできないことには変わりがないと気が付いた。

 すでに過ぎてしまった事なのだ。

 アリアが、普段と違う俺に疑問を持ったようだ。

「本当に大丈夫? さっきから少し変よ」

「いや、本当に運命ってあるんだと思ってさ」

「運命?」

 アリアが不思議そうな顔をするので、俺は伝える。

「俺の実家であるウォルト家の初代はね……バジル・ウォルトって言うんだよ。好きな人を迎えるために、領主になろうとした人さ」

 それを聞いてアリアは目を見開いた。

「え、それってまさか……」

「当時は声もかけられなかったらしいよ。ただ、土地を得て準備が出来たら迎えに行こうと頑張ったみたいだね」

 本気で一人の女性のために、危険な開拓団に参加して森を切り開いた男の話。

「迎えに来たら好きな女性は嫁いでいたらしいんだ。名前はアリスさんだって」

 それを聞いたアリアが、何とも言えない表情になった。

 そして、しばらくして口を開く。

「なんだろう。なんて言ったらいいのか分からないわ。でも、もしも運命があるなら、こうして出会ったのも何かの縁かもね」

 アリアが苦笑いをして言うと、俺は頷く。

「そうだといいね」

 俺はアリアから視線を外し、月を眺めた。

 綺麗な丸い月を見て、今の話しを初代に伝えられていれば……などと、まだグダグダと考える自分が少し情けない。

 気持ちを切り替え、月だけを見る。

 自然と言葉が出てくる。

「今日の月も輝いているね」

 すると、アリアが何故か顔を赤くしていたのだった。

 四代目が言う。

『こいつやりやがった。無意識でやりやがったぁぁぁ!!』

 五代目が、それに疑問の声を上げる。

『なんだよ、五月蝿いな。月が輝いてどこがおかしいんだ?』

 二代目も同じだ。

『確かに今日の月は綺麗に輝いているな』

 四代目は、そんな俺たちに腹が立っているらしい。

『なんで気が付かないんだよ! ライエル、お前は本が好きなんだよな? 読んだことないか? ないのか!』

 最後に騒がしいと思いつつ、俺はもう寝ると言ってベッドに向かうのだった。

(いや、月が輝いている、のどこが悪いんだ? そのままだろうに)

 だが、今度はアリアがそのまま月を眺め始める。

(アリアも眺めたかったのか? まぁ、いいか……もう寝よう)

「先に寝るよ、おやすみ」

 俺に視線を合わせないアリアは、そのまま小さな声で呟いたのだった。

「お、おや、すみ……」
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