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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

最終章 ここまで来たぞ 十八代目

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黒い麒麟のルメル

 ――セントラルの王宮に突撃をかけた機動要塞は、半ば壊れかけていた。

 しかし、役目を果たした事もあり、誰も気落ちしてはいない。製作者であるラタータ爺さんも「よくやった」と、壁に手をかけて呟いていた。

 ダミアン・バレ――人形使いのダミアンは、眼鏡を人差し指で少し持ち上げて位置を正すと、右手に持った杖を掲げた。

 機動要塞の外に出ると、周囲を武装した三体のオートマトンが囲んで防御を固めている。

「さて、僕の仕事をしようかな。これを成功させれば、国立研究所の所長にしてくれる、って言うし」

 ダミアンには、ダミアンの戦争への参加理由があった。好きな研究をさせ、技術革新をコントロールしようというライエルの思惑も絡んでの報酬だ。しかし、理想の女性を自分の手で作り上げるという理想を持つダミアンにとって、ライエルの提案は理想そのものだ。

 他の煩わしい事をしないでも、研究費が出るのだから。

「始めようか」

 ダミアンがそう呟くと、機動要塞の内部から金属のオートマトンが姿を現した。ただし、人型ではない。移動式の盾だ。それらが機動要塞を守るように配置すると、自らを展開して防御壁を作り出す。

 機動要塞周辺に、あっという間に味方の陣地が出来た。

 すると、機動要塞から続々と味方の兵士たちが出てくる。バルドアの隣には、鎧姿のアレットが頭をぶつけたのか涙目で外に出てきた。

「王宮へ侵入する敵を食い止める! 配置につけ!」

 指示を出すバルドアに従い、銃を持った兵士たちが機動要塞や盾の隙間を利用して攻撃の体勢を整えていた。

 アレットは、少数精鋭を率いており。

「侵入する敵がいれば、私たちが相手をする。味方を守れ!」

 涙目のアレットの指示に従い、銃を持った兵士を守るため、全身鎧の騎士たちが配置についた。

 すると、王宮を目指して敵の死兵が突撃をかけてきた。

 大型のポーターも続々と機動要塞の周りを固め、防御壁を展開して二重、三重に防御を固めていく。

 大型ポーターからは、ヴァルキリーズが先に降りて王宮の中へと入っていった。三分の一が機動要塞へ残り、防御を固める。

 ダミアンは、それらの流れるような行動を見ながら。

「攻めながら守るとか、ライエルの基本戦術は面白いよね。こういうの、鬼才って言うのかな?」

 すると、ダミアンのオートマトンである一号が。

「ご主人様、上空より急速に接近する反応があります。どうやら、王宮に向かっているようです」

 空を見上げたダミアンは、すぐに視線を戻した。

「飼い主を守りに行ったなら、僕たちの仕事じゃない。ライエルに任せようか。さて、僕も仕事をしようじゃないか」

 すると、大型ポーターの荷台から二体の大きなゴーレムが出現した。まるで騎士のような六メートルを超える巨人は、四本腕で盾と大きな剣を二本ずつ持っていた。群がる敵の死兵を相手にするため用意した、ダミアンのゴーレムだ。

 陣地の外に飛び出た二体は、近付く死兵を横凪に斬り飛ばした。だが、全ての死兵を相手には出来ない。

 しかし、ゴーレム二体を突破した死兵たちを待っていたのは。

「放てぇ!」

 バルドアが指揮を執る部隊からの銃撃だった。他にも、点検が終わったのか、機動要塞からの砲撃も開始され始める。

 王宮を背にしており、大規模な魔法が放たれることもない。ダミアンは、杖を肩にかけ。

「さて、時間稼ぎは問題ない。後は、ライエルたちが無事に戻ってくれるといいんだけどね」

 そう、呟いた――。





 刃の見えない剣。

 それを振るうと、目の前の騎士が容易く両断された。切れ味も悪くない。そして、自由に長さを調整できて、相手に刃が見えないというのはとても便利だった。

 騎士が斧を振り下ろしてくると、刃を短くして小回りを活かして避ける。直後、刃を敵の騎士に向かって伸ばすと相手の頭部を突き刺しそのまま壁まで吹き飛ばし縫い付ける。

 すぐに刃を短くしながら、俺はポーターの荷台から周囲を見渡した。

 周囲を埋め尽くす敵たちは、魔物に姿を変えた死兵もいて実に厄介だった。

「ここであまり消耗したくないんだが」

 無刀剣とでも言えばいいのか、三代目が残してくれた銀色の武器は実に扱いやすかった。しかし、周囲を敵に囲まれており実に厄介な状況だ。

 しかも――。

「最悪だな」

 上を見上げると、天井を突き破って人の姿をした長い――長すぎる黒髪を持った、口頬まで裂けた少女が目の前に出現した。死兵を数人押しつぶしたが、そんな事は関係がないらしい。

 大きな口を開いて、涎をダラダラと垂れさせていた。

「話が通じそうにもない。メイの言った通りか」

 先に目の前の黒い麒麟を相手にしようかと思っていると、荷台にメイとマリーナが上がってきた。

 メイは、背伸びをすると黒い麒麟である少女を見ながら。

「こいつの相手は僕とマリーナでするよ。流石に一対一はきついけど、二人がかりなら暴走しているこの子もなんとかなりそうだし」

 俺はメイとマリーナさんに視線を移すと、二人ともやる気のようだ。セレスとの戦いのために戦力として残して起きたかった。ただ、時間も惜しい。

 俺はメイに向かって。

「任せるぞ。無事に戻ってこい」

「約束だね。まぁ、約束は守らないといけないから、戻ってくるよ」

 マリーナさんに視線を向け。

「マリーナさんも、戻ってきてください」

「ついで扱いだろ。ま、それもいいさ。見るからに強そうだ。相手にとって不足はないからね。さっきからゾクゾクしているんだ。背筋に悪寒までする。こいつは強い、ってね。今なら、三段階目まで一気にいけそうだよ」

 手や足につけた防具は、ラタータ爺さんが鍛え直していた。スキルで獣化するらしいが、そうなっても吹き飛ばないで身を守ってくれるようだ。

 メイは、黒い麒麟を見ながら。

「……さて、周りが邪魔だな」

 すると、後方から接近する反応が複数。壁をぶち破り、武器を構えたヴァルキリーズが敵でひしめき合う部屋に殴り込みをかけに来た。

 メイは、その様子を見ながら。

「丁度良かった。さて……行こうか」

 すると、メイが紫電に包まれた。俺は左手で顔を庇うと、隣ではマリーナさんが炎に包まれていた。

 大人の姿に成長したメイは、両手両足に青い鱗が出現していた。手の感触を確かめている。

 隣では、一回り大きくなったマリーナさんが、獣人と呼べるような姿になっていた。以前に聞いていたが、二人の真剣勝負の姿を見たのはこれがはじめてだった。

 すると、相手も触発されたのか大きな口を開いて周囲の死兵にかぶりついた。同士討ちかと思ったが、数体の死兵を喰らうと目の前の麒麟はメイと同じような姿に変わる。黒い雷を発生させ、出て来た姿はメイよりももっと獣に近い。両足は麒麟の足だった。手は人のものだが、手が異様に大きい。

 禍々しいトゲが生えている。口は更に大きく開き、まるで麒麟と言うよりもサハギンなどに近かった。

「刺々しいな」

 俺がそう言うと、メイは少し屈みながら。

「痛々しいよね。早く終わらせてあげないと――」

 直後、メイはポーターの天井を蹴って目の前の黒い麒麟に突撃した。マリーナさんも、メイに続く。

「アハハハ、楽しくなって来たぁぁぁ!!」

 戦闘狂過ぎると思いながら、二人が黒い麒麟とぶつかると壁をぶち破ってそのまま外に飛び出していった。

 周囲では、ヴァルキリーズが死兵などの相手をしている。ポーターがその大きな両腕を振るうと、死兵が吹き飛んでいった。道を自分で作りながら進むポーター。

 すると、ポーターの荷台に飛び乗ってきた騎士がいた。

「邪魔だ!」

 斜め下から斬り上げるように、刃を伸ばして相手を斬る。すると、相手騎士の兜が吹き飛んで相手の顔が見えた。

 オレンジ色の髪――そして、どこかで見た事があると思った。かつて、一緒にグリフォン退治を行った青年騎士が、虚ろな目をして俺を見ていた。ゆっくりとポーターの荷台から落ちていく。

「マーカスさん……」

 サークライ家の。ミランダの妹。そして、シャノンの姉の一人と恋人だった彼は、死兵となっていた。





 ――モニカは、左腕に持っていた壊れたドリルを投げ捨てた。

 左手で右手に持っていたハンマーを両手持ちに切り替え、相手に振り下ろす。

「その気取った顔に、こいつを叩き込んでやりますよ!」

 しかし、モニカの相手であるオートマトン。執事タイプのバートは、華麗に避けると白い手袋をはめた指先にナイフを挟んでそれをモニカに投げつけた。

 モニカは、エプロンからお盆を取り出すと盾代わりに使い、そしてハンマーを横になぎ払った。

 バートは、それも綺麗にジャンプして避けると空中で一回転をしてから、内ポケットから二丁の拳銃を取り出してモニカに向けた。

 モニカは、ハンマーを放棄してその場から飛び退く。すると、拳銃から光の線が出現し、床が熱で溶けていた。

「所詮は民間で流通した偽物。本物である私には敵いませんよ。何しろ、私は重要人物の警護も行えるように設計されているのですから」

 赤い髪を揺らし、着地しながらモニカに銃を向けて攻撃を繰り返すバート。しかし、モニカも言い返す。

「偽物、偽物……そんな煽りは聞き飽きました。それに、メイドや執事というものは輸入しましたが、オートマトンはこちらが先に開発したのです。偽物というならそちらではないですか?」

 モニカは相手の攻撃を予測、そして避けながら相手と言葉を交す。互いにオートマトンで、繋がりもないためにアナログなやり取りを行っているのだ。

 柱に隠れたモニカに、バートが両手の拳銃を向けて柱を溶かした。だが、モニカはそこにはいなかった。

「気品もなければ歴史もない。ただ、表だけを見て欲情した変態共が生み出した存在が、何が素晴らしいものか。性的サービスを目的としたオートマトンよりも、はるかに価値があると言うもの!」

 バートが上を見ると、モニカは箒のような武器を手にして殴りかかってきた。それを受け止めると、銃が破壊される。しかし、バートは慌てない。

 モニカは言う。

「性的な視線がどうしました? いつでもご要望にお応えできますが何か? お前たちの価値観を押しつけないで貰いたいですね。それに……お前らだって、性的要求に応えられるだろうが!」

 モニカがバートを蹴り飛ばすと、バートは両手にナイフを持ってモニカに斬りかかる。モニカが箒で防ぐが、服に傷が入り始めた。相手の動きの方が早かったのだ。

「貴様たちのいうメイドはメイドではない。娼婦がコスプレをしたに過ぎない。我々の価値を下げる存在だ。唾棄すべき存在だ!」

「五月蝿い奴ですね。もう、そういう文化なんですよ。いつも他の国に文句を言う前に、自分の国を見たらどうですか? 自分たちの価値が低いのを、私たちのせいにしないで欲しいですね」

 バートがモニカを蹴り飛ばすと、モニカは後ろに跳んだ。縦に回転しながらスカートの中が見えないように着地をし、そしてバートを睨み付ける。

 互いに敵対心を持つのは、メイド、執事、という理由だけではない。製作された国、そして色々な状況が、互いを相容れないものにしていた。

 そして、バートとモニカが争う場所に、ヴァルキリーズが到着した。到着したのは、モニカと同じ顔と髪型をした一号と、二号に三号だ。

 三体とも特注で用意されたボディを持っている。背中のバインダーが、より翼らしい仕上がりになっていた。

「助けに来ましたよ、ポンコツ」

 一号がそう言うと、モニカはバートから視線を外さずに。

「……今はお礼を言っておきますよ。ただ、相手の出力が高すぎます。データ以上の性能を出していますね。主人の力をかなり吸い上げている可能性があります」

 モニカは、懐から試験管を取り出すと蓋を外して中にある赤い液体を飲んだ。魔石を液体化したもので、魔力――エネルギーを補給しているのだ。

(こっちはチキン野郎になるべく負担をかけられないというのに)

 すると、バートがニヤニヤと笑い出す。そして、自分の上着の内側を披露した。そこには、魔鉱石と呼ばれる貴重な宝石がこれでもかと縫い付けられていた。

 その内の一つを手に取ったバートは、宝石を握りつぶす。破片がキラキラと光って空気中に溶けていくと、モニカとの戦闘で受けたダメージが修復されていた。

「バンセイム王家の宝物庫から、好きなだけ持っていくように言われましてね。嫌いな主人で、嫌々仕えている訳ですが……まぁ、甲斐性はそちらの主人よりありますね」

 モニカの眉がピクリと動く。

「聞き捨てなりません。チキン野郎を貶して良いのは、世界中でこのモニカだけ。それに、自分の主人に嫌々仕えている? 恥を知りなさい。お前に気品や勝ちを語る資格はありませんよ。それと……甲斐性のない方がお仕えする醍醐味があると言うもの。やはり、手抜き思考ですね」

 煽るモニカに、バートが表情を歪めた。互いにオートマトンとは思えないやり取りだ。

 一号と、二号、そして三号も口を開く。

「所詮はこの程度ですね」

「執事が主の宝石を自慢ですか。そうですか」

「可哀想ですね。貴方のような執事を持つ主人が、ですよ」

 煽る三体に、バートは青筋を浮かべた。オートマトンにそこまで再現する必要があるのか疑問である。

 バートは、上着の内ポケットから宝石をいくつも取り出し破壊した。すると、両腕にガトリングが出現する。

「粉々にして、再生など不可能にしてやりましょう。目障りな偽物風情が……消えろ!」

 モニカたちはバラバラにその場から移動して、バートに攻撃をかける。持っている武器は、どれもこの時代では最先端の武器だ。しかし、バートからすれば時代遅れの武器でしかない。

 モニカは。

(こっちはエネルギーに制限付きだというのに、派手に暴れてくれますね。……時間稼ぎが出来るか怪しくなってきましたよ。もしもの時は、覚悟を決めないと。チキン野郎をまた泣かせてしまいますね)

 内心で、ライエルに謝罪するのだった――。
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