挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

章タイトルのセンスが欲しいぞ 十七代目

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

318/345

ウォルト家の嫁

 ウォルト家の屋敷で目を覚ますと、俺は自分の部屋を見渡した。

 軟禁生活が続いた自室には、大量の本が置かれていた。そう、置かれていたのは事実だが、今は何もない。

 俺が屋敷を追い出されると、荷物は全て処分されたようだ。ベッドはあり、壁一面の本棚は空っぽだ。

 首に下げた宝玉に手を伸ばし、握りしめる。

 バルドアが言うには、ウォルト家にはまだ予備兵力がある。それをセレスに取り込まれるのも、後方から襲撃されるのも防ぐために俺に向かって欲しいと言ったのだ。

 本音では、里帰りをさせたかったのだろう。周囲の領地や寄子の領地までポーターで移動して宝玉の新しい能力――父のスキルと似たなにか、でセレスの魅了を解いて回った。

 ただ、解放されて誰もが喜ぶ、という訳でもない。

 俺も微妙な気分だ。

 そう思っていると、部屋のドアがノックされた。

「チキン野郎、周辺の領地から続々と人が集まってきています」

 ベッドから起き上がり、俺をチキン野郎と呼ぶモニカに状況を報告するように言う。

「領地周辺から、ね。屋敷の方はどうだ」

 モニカは肩をすくめながら。

「自害しようとする者が多いですね。それに、屋敷の外にいる家族が自害したという報告も受けています。息子や娘の不始末を償うという遺書が出て来ています」

 俺に隠さず何でも報告してくるモニカ。だが、それで良かった。

「もう一度、自害は許可しないと伝えろ。特に罰も考えていない。あれはセレスの能力によって操られていただけだ」

 俺にしてきた仕打ち――それを思えば、自害するという者もいた。それが驚きだった。

 解放されて無事に終わり、ではないのがなんとも嫌なところだ。

 モニカは俺の方を見ながら。

「ミランダさんとも話をしましたが、罰を用意する方がいいのではないでしょうか。自責の念に駆られ、自ら命を絶つのを防ぐことが出来ます」

 俺はモニカの意見を聞きつつ。

「……本当に面倒だな」

 帰ってきたが、心休まる気持ちにはなれなかった。かつて、俺を温かく迎えてくれた屋敷は、セレスから解放されても戻っては来なかったのだ。

 こうして現実を見ると、俺に申し訳ないと思っている人間が多いこと分かった。ただ、嬉しいという気持ちは、今はない。

「俺は、ここに戻ってきてはまずかったかも知れないな」

 すると、モニカが俺の方を見ながら手を二回叩いた。

「それで、こちらに顔を出した人たちへの対応はどうされます?」

 俺は右手で顔を隠しながら。

「会わないわけには行かないだろう。バルドアの実家にも出向いておきたいが」

 戻ってきても忙しいと思いながら、俺は上着を手に取ると羽織って部屋を出るのだった。





 ――シャノンは、ウォルト家の屋敷で散歩をしていた。

 広い屋敷だ。加えて、五代目の時に子供が多く、別館には子供部屋用の屋敷が用意され、しかもその後は客を招く際に使用されていた。

 別館を歩くシャノンは、後ろを歩くエリザの言葉を聞いた。

「……うちの城よりなんか豪華だ」

 シャノンは、ミランダに聞いていたことを思い出しながら。

「ウォルト家はバンセイムで一番の領地を持っているし、下手な国よりは大きいから仕方ないんじゃない? あ、あった」

 シャノンは散歩の目的地であるある部屋に到着した。

 そこは別館の中でも客室としては使用されていない部屋で、先代である七代目が残していた部屋であるらしい。

 鍵を持っていたシャノンが、ドアを開けると中には壁に銃がかけられていた。

 それは、ミレイアが使用していたものだ。

 一発式で、弾丸を装填して放つタイプ。しかも、銃身にはナイフがついている。いくつも用意されているが、どれも手入れがされていないのか錆び付いていた。

 エリザはソレを見て。

「同じ銃がこんなに。だが、どれも使えそうにないな」

 シャノンはその中で、状態の良い物を探していた。探して、そして手に取る。

「う~ん、こいつは持って帰ってみようかな? 大事な形見というか、曾お婆さまのものだし」

 エリザはシャノンを見ながら。

「なんだ、血縁だったのか?」

 シャノンは重たい銃を持ちながら。

「曾お婆さまがウォルト家の出身なのよ。サークライ家とも先代くらいまでは付き合いがあったらしいの」

 エリザは納得したのか、頷いていた。

「持って帰って直して貰うわ。一個くらい、あっても良いと思うし」

 シャノンはそう言って、エリザと一緒に部屋の中を見て回った。埃が積もっており、年に何回も掃除をしていない様子だった。

 屋敷の者に聞いてみたが、どうやらマイゼルの代で部屋を保存せずに客室にすることを考えていたらしい。しかし、客室も揃っているので急ぐ必要もなく、いつの間にか誰も入らない部屋になったようだ。

 シャノンはそんな部屋を見ながら。

「なんか、忘れられたみたいで寂しい部屋ね」

 そう言うのだった――。





 ポーターの荷台。

 そこで長椅子に座る俺は、隣に座るミランダと話をしていた。一番遠くにノウェムが座っており、話せる距離にいない。

 俺を避けているのが、誰の目から見ても明らかだった。ただ、俺の言うことを聞かないわけでもない。

 どうにも微妙という言葉では足りない程の、距離感が出来てしまった。

「ライエル、聞いているの?」

「え、あ? ……聞いていませんでした」

 正直に謝罪すると、ミランダが溜息を吐いた。長椅子に座り、足を組み替えると膝の上で手を組んでいる。

「向こうで色々と聞かれたんだけど、ライエルの中で正妻は決まっているのか、って話よ。しかも、ウォルト家の屋敷で家訓がどうとか言われてね。聞いてはいたけど、本当にあんな家訓を守ってきたの?」

 ウォルト家の家訓とは、初代が酒の席で言った嘘だ。それが代々引き継がれ、家訓として残ってしまったのだ。

「……俺も聞いたときは子供だったから、どこまで本気なのかはちょっと分からないな。まぁ、優秀な人を嫁にしましょう、って事だろ? というか、あの家訓はもういらないんじゃないか、って……うっ!」

 そんな話をしていると、ノウェムの視線が俺に突き刺さる。初代が残した家訓を捨てるというのを聞いて、とても悲しそうにしていた。

 ミランダは気が付いている様子だが、あえて気付かない振りをしていた。

「別に残しても良いわよ。私はクリアしているんでしょう?」

 ミランダは、俺を下から覗き込むように見上げてきた。

「う、うん。たぶん」

 すると、前に座っていたアリアがミランダを見ながら。

「ノウェムが許可を出せば安心だ、って屋敷の人も言っていたわよ。なら、クリアしていない奴の方が少ないんじゃないの?」

 確かに、ここにいる面子のほとんどは、ノウェムが合格を出したメンバーだ。ノウェムが強く拒否をしたのはロルフィスの王女殿下だろう。

 シャノンは、エリザと一緒にあやとりをしていた。それを、グレイシアがボンヤリと眺めている。

 シャノンはエリザに勝ち、ガッツポーズをしながら俺の方を向いた。

「そう言えば、気になっているんだけど」

「なんだ?」

「ウォルト家の奥さんたち、ってどんな人? ほら、当主に関してはライエルがエヴァに教えているからいくらでも聞けるけど、ウォルト家の女性がどんな人なのかまったく分からないんだけど?」

 改めて聞かれると、確かに不明な部分が多い。時に厳しく、時に優しい姿を宝玉内で見ることはできた。

 だが、俺は歴代当主の奥さん――ウォルト家の女性たちを詳しくは知らないのだ。

 エヴァも興味が出て来たのか、前のめりになりながら。

「それ、私も聞きたいのよね。優秀な女性を迎え入れる、って事はみんな優秀なのよね?」

 俺は腕を組みながら、考える。

「たぶん、そうだろうな」

 シャノンはポーターの荷台を見渡していた。天井の上にいるメイ。ポーターを操作するクラーラはこの場にいない。モニカは編み物をしながら。

「誰であろうと、ヒヨコ様を産んでくれるなら私たちにはそれ以上でも以下でもありません」

 ――普段通りだ。シャノンは、ポーターの荷台にいる面子を見ながら。

「でも、流石にこの面子より濃い事もないわよね」

 すると、ミランダも周囲を見ながら。

「そうね。ウォルト家始まって以来じゃないの?」

 そう言って笑っていた。みんな「確かに」などと言って笑っている。ただ、俺はこの空間にいて思ったのだ。

 ―― 全員が全員、自分を濃いとは思っていない。自分は違うと思っているんだろうな ――

 と。

 ただ、俺がノウェムの方を見ると、ノウェムは俺から視線を逸らした。いや、俺からと言うよりも、なにか答えたくないような感じだ。

「ノウェム、お前なら少しは知っているんじゃないのか? ……ほら、フォクスズ家にもいくらか言い伝えくらいあるだろうし」

 意地悪のつもりで声をかけると、ノウェムが慌て出す。邪神の力で記憶を引き継いでいます、などと周りには言えない。だが、こうやって聞けば怪しまれないだろう。

 ノウェムは、何故か普段よりも視線が泳いでいた。

 その様子を見て、エヴァが何かあると思ったのだろう。

「何か面白い話でもあるの? ウォルト家の当主も色々とあるくらいだから、その妻もきっと色々とあるのかしら? それとも、夫に振り回されて大変だったとか?」

 周囲の視線は、聞きたいのか期待に満ちていた。ノウェムも、はぐらかそうとするが駄目のようだ。

「わ、私はそこまで詳しくありません。それに、奥様方は優秀な方を迎えるというウォルト家の家訓に相応しい人たちばかりだったと聞いています。ですから、その流れをライエル様の代で終わらせないように――」

 シャノンがニヤリとしながら。

「ノウェムが動揺したわ。きっと何か知っているわよ」

 駄目なところが多いシャノンだが、こうして人の感情を読み取れる。それを聞いて、ミランダが面白そうに。

「一人だけ知っているのは狡いわね。教えなさいよ」

 モニカだけは興味がなさそうに編み物をしていた。

「フフッ、これでヒヨコ様がダース単位で生まれても衣類には困りませんね。それに、どう考えても毎年のように数名から数十名が生まれてくる。もう、お世話しまくりじゃないですか」

 次々に赤ん坊用の衣類を用意するモニカは、涎を垂らしていた。

 こいつだけは何があってもブレないと思う。

 すると、ポーターが急に止まった。

 全員が体勢を崩すと、ノウェムが真っ先に声を上げる。

「何があったんですか、クラーラさん!」

 こいつ逃げたな、という視線をノウェムは無視しながらクラーラを呼ぶ。すると、クラーラが運転席から出て来た。

「いえ、苦しんでいる人がいたんですけど。いたんですけど」

 どうにも要領を得ない。

 荷台のドアが開けられ、外に出るとメイが苦しんでいる人を前にして構えていた。地面に転がり、苦しんでいる人は――顔の半分が膨れあがり、右手が異様に膨れあがっていたのだ。

 苦しがってはいるが、不気味だった。

「ウグゥゥルゥゥゥ!! ラ、ライエルルゥゥゥゥ!! コロスゥゥゥ!!」

 まるで獣のうなり声だ。

 腰のカタナを抜くと、降りてきた仲間が手に武器を握っていた。相手の様子が明らかにおかしいためだろう。

 そして、ドアから顔を出したシャノンが叫んだ。

「え、なによこいつ……生きてない上に、魔物がくっついて……中から出て来て」

 思い出したのは、ブレッドが薬を使って魔物のようになった時の光景だった。

 人の形は、肉が膨れあがってそこに毛が生え、もう人とは呼べない姿になっていた。

 近くの林からは、同じように不気味なうなり声が聞こえてきた。

 俺は周囲を見ながら、スキルを使用する。

 こちらに明確な敵意を持つ反応が、いくつもある。だが、先程まではなかった。急に出現したのだ。

「……そう言えば、進行方向にも反応なんてなかったぞ」

 どこから倒れている人間が出て来たのか? スキルでとらえられない人間はいるが、スキルで隠れているというのがほとんどだ。

 そんな人間が、俺たちを囲むほどにいるとは思えない。

 騎士たちが、魔物に変わった男を取り囲んでいた。

「お下がりください、ライエル様!」

 急に俺たちのところに飛び出して来て倒れ込んだ男が、魔物に変わるとまるで獣が人の姿になったような姿になっていた。

 モニカが、敵を見て呟く。

「魔物と言うよりも、まるで怪人ですね。ですが、チキン野郎の敵なら排除しましょう」

 取り囲んだ騎士たちが武器を魔物に突き刺そうとすると、魔物が跳び上がった。軽く、数十メートルを跳び上がると、同じように林から跳び上がった魔物たちが俺に目がけて降りてくる。

 柄を握り直し、迎え撃とうとすると空に一人の女性が舞い上がった。

「ノウェム」

 普段持っている家宝の杖を振るうと、巨大な鎌になって魔物全てを斬り裂く。そうして地面に着地し、俺の前に降り立ったノウェムや俺たちに血の雨が降り注いだ。

「ノウェム、お前――」

 手を伸ばすが、俺はその手が止まった。顔を上げたノウェムの瞳が、これまでに見た事がないほどに淀んでいたからだ。

 そして、ノウェムが呟く。止まった俺の手を見て。

「……無理をしないでください、ライエル様。自分でも、不気味だというのは理解していますので。ただ、今回のような事は許せなかっただけです。次からは自重します」

 そう言ったノウェムは、笑っていたがとても怖かった。目が淀み、そしてぎこちない笑みと血で真っ赤に染まったノウェム。

 俺は、声をかける事ができなかった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ