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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

章タイトルのセンスが欲しいぞ 十七代目

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帰還

 ――ライエルたち本隊の侵攻が開始されると、カルタフスも動いた。

 国境を接しており、以前から小競り合いも多い土地だ。

 侵攻となればすぐにバンセイムも反応を示す。

 バンセイムの拠点では、本格的に侵攻を開始したカルタフスを前に騎士が口を開けて砦の上からその光景を見ていた。

「……馬鹿な、何故カルタフス以外の旗が見える!」

 カルタフスの周辺国家の旗。

 そして、これまでに見た事のない軍勢を前にして、砦の責任者である騎士はすぐに伝令をセントラルに向かわせることにした。

「セントラルに増援を要請させろ。この砦では長く持たんぞ!」

 伝令が急いで走ると、川を挟んで対峙する両軍。

 しかし、準備の出来ていないバンセイム側はすぐに人手を集めても万にも届かない。

「東部でゴタゴタしている時に、カルタフスの女王が動くか……だが、こちらは東部が負けたと言っても、まだ西部、南部に数十万規模の軍勢が。セントラルにしても、まだ余力がある!」

 周りの騎士や兵士たちに聞こえるように言う指揮官は、自分の言葉で周りを安心させようとした。

 ただ、北部を守る砦に伝令が駆けつけた。それは、西部のファンバイユが動き、レズノー辺境伯が裏切ったという知らせ、そして南部ではジャンペアを始めとした国家が動いたという知らせだった――。



 ――ルドミラは、馬上から川を挟んで向かい合っている砦を見た。

 幾度もその砦に攻め込み、または守ってきた。奪い合ってきたカルタフスとバンセイムの象徴のような砦だ。

「さて、伝令が届いている頃だと思うが」

 すると、ルドミラの隣にいたヴァルキリーが声をかけてきた。

「わざと進軍を遅らせることに意味があるのですか? それに、随分と消極的に見えますが」

 ルドミラは、そんなヴァルキリーを見ながらクスクスと笑う。

「戦わずして勝つ方が良いに決まっている。少し遅れれば、増援が来ないことを知った上に、バンセイムが全方位から攻撃を受けていると知れ渡るんだ。敵の士気はがた落ちだろうさ」

 ヴァルキリーは前を向きながら。

「合流に遅れた場合、言い訳はそれでよろしいのですか?」

 ルドミラは白い高価そうな毛皮に、全身を覆う黒い革製の鎧を着ていた。肩には長剣を鞘にしまった状態でかけている。

「北部がセントラルに一番近い。一番乗りをして、兵をすり減らすのはごめんだ。それに、合流するタイミングは大事だろ。こちらが先に崩れては、連合の士気に関わる」

 自分たちの利益も求めつつ行動するルドミラは、しばらくしてバンセイムから交渉を目的とした使者が来るのを見てニヤリと笑っていた――。





 ――西部では、レズノー辺境伯が素通りさせたファンバイユを中心とした軍勢が西部に侵攻を開始していた。

 周辺の男爵や子爵、領主貴族たちは寄子を集めて徹底抗戦の構えを見せるが、まさか国境を預かるレズノー辺境伯がファンバイユを素通りさせるとは思わなかったのだろう。

 準備が間に合わず、合流する前に各個撃破にあっていた。

 ファンバイユはこれを機にかつてウォルト家に削られた領地を取り戻そうと意気込み、レズノー辺境伯は、新しく与えられる領地に攻め込んで領地の確認をしていた。

 そして、男爵家の一つである屋敷をバウリス・レズノーが占拠して、そこをレズノーの軍勢の拠点にしていた。

 辺境伯の前に連れてこられた男爵が、縄で縛り上げられ横たわる。

「辺境伯! 分かっているのか! これは明確な裏切り行為ではないか!」

 バウリスは、目の前の男爵を見ながら。

「先に裏切ったのはバンセイム王家だ。それに、跡取りだけではなく、嫁や孫まで差し出せなどと……貴様、家族を人質に取られ、なんとも思わないのか!」

 男爵はバリウスを睨み付けながら。

「貴族の習いではないか! 過去になかった訳ではない! 家族の情に流され、国を裏切った国賊が!」

 しかし、バリウスは揺るがない。

「権威なき国家になど、誰が忠誠を誓うものかよ。今のバンセイムに、それだけの価値がないと言うだけのこと。お前たちが時流を見誤ったのだ」

 すると、バリウスの部下が駆け寄ってきた。

「バリウス様、屋敷内を探索しました。ご指摘通り、既に愛人を囲っていたようです。子供もおり、男爵の子で間違いない様子」

 バリウスが、男爵を見下ろす。

「……家族が無事でないと知っておきながら、自分は跡取りを用意していたか。家族を売ったな、貴様」

 男爵は少し気が狂ったような笑みを作りながら。

「それがどうした。血を繋ぐのが我々の責務だ。人質に取られた連中が無事ではないというのは知っていた。だがな……それがどうした! お家の安泰のためなら、いくらでも家族だろうが切り捨てる。それが我々貴族だ!」

 バリウスは、息子、そして息子の嫁と孫の顔を思い浮かべながら。

「ふん。だが、この男爵家も終わりだ。貴様は名誉の戦死を遂げたことにしてやる。家族が生きていれば、こちらで面倒を見てやろう。お前に捨てられた家族が憐れだよ」

 男爵が連れて行かれると、バリウスは左手で顔を覆った。

「バリウス様」

 部下が心配していると、バリウスは言う。

「……奴の言うことも正しいのだろうが、それでも息子の無事を願う自分がいる。望み薄なのだが、生きていてくれれば……いや、知るのが怖い。息子がどうなっているのか」

 部下である騎士も、その場で俯く。

 残虐非道なセレスだ。自分に心酔している者でも平気で手にかける女である。

 バリウスは、部下たちに。

「今は先に進む。合流が遅れればそれを理由に領地が削られる可能性もある。急いで次の目標を制圧しに向かうぞ」

 部屋を出て行くバリウスに、部下たちが付き従う――。





 ――南部。

 ジャンペアはバンセイムを挑発すると、すぐに山へと逃げては誘い込んでいた。

 自分たちの得意とする戦場でしか戦わない姿勢を見せていた。周辺国が動き出し、四方から攻め込まれている状況が知られたのかバンセイム側には焦りのようなものも見えている。

 すぐにジャンペアを倒し、他の救援に向かいたいのだろう。

「舐められたものだね」

 ジャンペアの国王であるジュールは、鎧の上に白い布を肩にかけ腰回りにまいていた。金で装飾されており、目立っている。

「陛下、このまま南部の兵を引き付けておくだけですか?」

「それが約束でもあるからね。平地では流石に向こうの方が有利だ。まぁ、背中を見せれば襲いかかるつもりではいるが……もっとも、先に敵の方が崩れるかも知れないな」

 南部にいる領主貴族たちが、大陸の動きを聞いて鞍替えを考える事は十分に考えられた。

 実際、戦っていても消極的になりつつあるバンセイムを見てジュールはあごを手で触りながら。

「さて、本命である盟主殿は、今はどの辺りかな」

 ジュールがそう言うと、近くにいたヴァルキリーがジュールの言葉に答えた。

「既にバンセイムの直轄地を目の前にしています。最後の領主貴族と向かい合っているところですね」

 ジュールはそれを聞いて。

「東部は前に負けた上に、兵士を吸収されたからね。抵抗らしい抵抗もなし、か。そうなると、こちらでしっかり南部の兵士を釘付けにしないとね」

 そうは言いながら。

(出来れば南部の領主共を従えて救援に駆けつけ、恩を売っておきたいな。そうすれば、アレの嫁ぎ先に困らない。国内には置いておけないし、厄介だからなんとか押しつけ――預けたいんだが。ルドミラ殿も失敗した様子だし、こちらでも動かないとな)

 ジュールは、いかに問題のある腹違いの妹を押しつけるか考えつつ、次の作戦を考えるのだった――。





 ――約、十九万の軍勢が、バンセイムの直轄地を前に最後の領主の都市を囲んでいた。

 ライエルの本隊であったが、今は動きを見せていない。

 ここまで快進撃できたために、息切れ――という訳でもなく、休憩を取りながら相手との交渉をしていた。

 対応しているのは、バルドアやマクシムだ。

 伯爵家の使者が来て、なんとも言えない表情で汗をかきながら現状を説明していた。

 天幕の中、使者は二人を前にして必死に言い訳を行っているように見える。

「こ、こちらも不思議でして、いったい何が起こっているのか……た、確かにそちらと矛を構えましたが、急に青い光の粒が降ると正気に戻ったと言いますか」

 ライエルが出て行く前。

 周辺のセレスの魅了を解除していた。そのため、好戦的だった伯爵家が急に消極的になったのだ。

 バルドアは、相手の気持ちを理解しながらも。

「少し落ち着かれてはいかがです。そんな状態ではろくに交渉も出来ません。戻って気持ちの整理をすることをお勧めします」

 使者は、そんなバルドアに対して。

「し、しかし! これだけの大軍勢を前に落ち着いてなどいられません。既に内部では不安の声が高まっており――」

 マクシムは腕を組みながら。

「それはそちらの都合であって、こちらの都合ではない。内部を落ち着かせ、方針が決まればまた交渉を再開しよう。まぁ、期間を設けないといけないな。取りあえず、一週間したらまた来てくれ」

 肩を落とす使者を見て、心が痛む二人。使者を追い返すと、二人は溜息を吐いた。バルドアは、汗を拭いながら。

「これで時間稼ぎと、治安活動をしないで済みますね」

 マクシムも同意見だった。

「すぐに乗り込んでしまうと、管理とか大変だからな。ライエル殿がいない状態で進軍もできない。それに、都市の中で兵士たちが暴れても困る」

 二人は、なんとかライエルが不在であるのを隠しつつ、使者を追い返して時間を稼いでいた。

 バルドアは、顔を上げながら。

「……なんとか、ライエル様の里帰りが実現しましたね」

 そう、悲しそうに言うのだった――。





 宝玉内の歴代当主たちの記憶の中で、俺は屋敷を何度も見て来た。

 ただ、こうして現実で見るとまた違った感想があった。

「色々と細部が違うんだな。時代の流れは、屋敷にもある訳だ」

 屋敷の正門を抜けた場所にある噴水には、石像が置かれていた。だが、宝玉内で見た石像の形とは違っていた。

 隣にいたノウェムは、表情を変えずに。

「……マイゼル様とクレア様が夫婦喧嘩をした時に、破壊されました。修繕はしましたが、前のものは見飽きたと、マイゼル様が」

 夫婦喧嘩……なんとも、父もウォルト家らしい一面があったようだ。

 周囲を見ると、膝から崩れ落ちて手で顔を隠す使用人の姿があった。武器を手に取り、自らの命を絶とうとした者には連れてきた騎士たちが取り囲んで押さえつけている。

 南西に位置するウォルト家の領地に、俺は来ていた。

 少数で乗り込んだのだが、連れてきたウォルト家の騎士や兵士が手引きしてくれたので容易には入れた。

 そして、そこからは宝玉でセレスの呪縛から解放だ。

 アリアとミランダが、俺の前に来る。

「ライエル、連れてきたわよ」

「ウォルト家の執事さんは過激よね。遺書なんか書いていたんだから。立ち直りが早いというべきか、直情的というか」

 俺は屋敷の執事を前にして。

「……ゼル爺さんの小屋はどうなった?」

 執事は俯いた状態で。

「申し訳ありません、若様……申し訳……」

 俺の後ろにいたシャノンが、俺の服を引っ張る。

「ライエル、今は駄目よ。もう、本当に絶望しているみたい。休ませてあげないと」

 言われてもっともだと思いながら、俺は周囲に言うのだ。

「自害は許可しない。これは命令だ。それと、特に罰は考えていない。見張りをつけるが、今日からしばらくは休め」

 歩き出すと、エヴァとメイが屋敷を見渡す。

「なんか、解放された、って感じじゃないわね。凄く悲しそうというか、こっちが悪い事をしているみたい」

「それより、僕はあっちの方が気になるかな。ほら、来たよ!」

 こちらに向かって駆けてきたのは、一人の騎士だった。顔立ちは美形の部類だが、可愛いと思える童顔の騎士だ。

「出ていけぇ! ウォルト家の面汚しがぁぁあぁぁ!!」

 鬼気迫る表情で、腰の剣を抜いて俺に斬りかかってきた。慌てて飛び出した護衛の騎士が斬られ、俺の前に出るとエヴァとメイが前に出る。

 それを手で押しのけて俺は腰のカタナを抜いた。最終的に鍛え上げた希少金属のカタナは、青白い光を放っていた。

 鞘から抜いた勢いで斬りつけると、騎士の剣ごと相手を斬り裂く。

 カタナを振って血を落とすと、俺は相手を見た。

「見ない顔だな」

 屋敷にいた騎士が、弱々しい声で。

「……セ、セレス様のお気に入りの騎士でした。セレス様が王都に行ってからは、相手にされず。毎日のように独り言を」

 心からセレスに忠誠を誓っていたのだろう。セレスの呪縛ではなく、本当に忠誠を誓っていたのだ。

「そういう奴もいるか。分かった。護衛の騎士の手当を。それから、武器は全て回収しろ。逆らえば斬って構わない」

 指示を出し、俺は宝玉を受け取った場所へと向かう。





「……ゼル爺さん、ただいま。ごめんな。俺……間に合わなかったよ」

 焼け跡すら残らないその場所は、今では小屋のあった部分だけ芝がない状態だ。

 かつて、ここで俺は宝玉を受け取った。

 ゼル爺さんがいなければ、今頃ここにはいないだろう。

 エヴァが、俺たちに近付いてくる。

「ライエル、連れてきたわよ。ゼルさんの家族よ」

 俺は振り返ると、ゼル爺さんの家族を見た。孫も大きく、息子や娘はもういい年だ。ひ孫の姿もあった。俺は簡単に事情を話して家族にお礼を言う。

 その後すぐに戻ってきたグレイシアは、頼んでいたものを買ってきてくれたようだ。

「今はこれくらいしかないようだ。まぁ、この季節だからな」

 花束を受け取った俺は、それを小屋のあった場所に置く。

 エリザは、周囲を見ながら。

「本当に隠れたような場所にあったんだな」

 クラーラは俺の方を見ながら。

「私たちに見せたかった、というところですか?」

 俺は、そんなクラーラに首を振って否定をする。

「そうじゃない。本当は見せたかったんだ。俺は大丈夫だ、ってね。本当は、一流の冒険者になってゼル爺さんに恩を返すつもりだったんだよ。それが、間に合わなくて……」

 モニカは普段の茶化すような口調ではなかった。

「命の恩人ですか。ならば、我々にとっても恩人も同じですね。狂っていた屋敷内で、よく意識を保って生活していたものです。辛い事も多かったでしょうに」

 すると、ゼル爺さんの息子さんが。

「父は、かつて冒険者ギルドが裏切って領内で暴れ回ったときに怪我をしました。兵士から騎士になれる手前だったので頑張っていたと聞いています。先代様は不在で、なんとしても守り切ろうと戦ったらしいのですが……先代様の期待に応えられず、それを悔しく思っていたそうです」

 ゼル爺さんにそんな過去があるとは知らなかった。

 ただ、俺は七代目がゼル爺さんを傍に置いた理由を知っていた。

「いや、お爺様はゼル爺さんに感謝していたよ。期待に応えてくれていた。それに、俺の命の恩人だ。何か困れば俺に言え。ゼル爺さんの家族を守るくらいさせて欲しい」

 ゼル爺さんの家族は、首を横に振った。

「父も、その言葉を聞けただけで十分でしょう。それに、私たちは家も財産もあります。先代様から随分と良くして頂きました」

 俺は七代目も気を使っていたのだと思いながら。

「そうか。なら、何かあれば言ってくれ」

 そう言って、また小屋のあった場所を振り返る。

 小声で。

「……一流の冒険者にはなれなかったけど、許してくれるかな、ゼル爺さん」
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