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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

章タイトルのセンスが欲しいぞ 十七代目

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常識

 ――ミランダは、兵士たちが整列している光景を機動要塞から見下ろしていた。

 用意された壇上には、ライエルが鎧姿で立っている。身振り手振りを加え、裏ではエヴァがスキルで演奏を行いつつ、声を届かせるというスキルでライエルの声を、二十万を超える兵士たちに届けていた。

「ここまで来るにしては、随分と早かったわね」

 大きな要因の一つは、ライエルが運に恵まれた事だ。いや、チャンスとも言っていいだろう。

 準備している者にとって、ピンチとはチャンスでもある。絶望的な状況下で、ザインの奪還をきっかけにライエルは勢力を拡大してきた。

 かつては、どこか優秀な育ちの良い子供だったライエルが、今では大軍勢の前で演説を行っている。

「……利口であれば、バンセイムが疲弊しきるのを待って攻め込むのが上策だ。労せずして我々は勝利できるだろう。苦労して今戦う事もない」

 いきなりこの侵攻作戦を否定するライエルの言葉を聞きながら、ミランダは周囲を見ている。ライエルの近くに並んでいるのは、共に初期から戦ってきたノウェム、アリア、シャノン、クラーラ、エヴァ、メイだ。モニカは裏で仕事をしていた。

「だが、こうしている間にも血が流れ続ける。そして、放置すればバンセイムは大陸中に死をばらまくことになる。俺はそれが許せない。悪を放置し、勝てるまで待つというのが正義と言えるだろうか! いや、断じて正義などではない! 大陸を救うため、平和をもたらすため! 俺はいかに困難な戦いであろうと挑むことを決意する! 諸君。勇敢なる兵士諸君! 諸君たちの力を俺に貸して欲しい! 正義のため、大陸を悪逆非道のバンセイムから救うため、俺に命を預けて欲しい! この戦い、勇敢なる兵士諸君の働きにかかっている!」

 自分たちは正義であると宣言し、そして大陸を救うという大義名分を用意した。セレスの悪逆非道は、誇張せずとも広まっている。

 それに、時間がないのはライエルも同じだった。時間をかければ、確かに兵力をもっと整えられる。それだけ精強な軍勢を揃えられる。

 しかし、戦いに勝つよりも、セレスという存在は危険すぎた。戦いに勝つよりも、ライエルはセレスに勝つ事の方が困難だと考えていた。

 要塞を動かすヴェラは、室内の窓からライエルを見ていた。並んでいる軍勢には、グレイシア、エリザの姿もある。

 関係者が並ぶところには、ザインからセルマにアウラ、ガストーネの姿もあった。ロルフィスからはアンネリーネに宰相であるロンボルトが。商人たちの姿もあった。フィデルがつまらなそうにしている。

 リアーヌやアデーレもその列に並んでいた。

 そして、別で軍勢を率いるバルドアとマクシムも、鎧姿で並んでいた。

「この戦いは歴史に残るだろう。勇敢なる兵士諸君。勝って英雄の列に名を連ねよ! 正義は我らと共にある! 女神は我らに微笑んでいる!」

 ミランダの隣に立っていたシャノンは、兵士たちから見えないところにいるので欠伸をしていた。

「よく言うわね。セレスがアグリッサに取り込まれるのを恐れて、出来るだけ早く攻め込もうとしているのに。それに、勝てるから攻め込むのよね?」

 収穫が終わって落ち着いた時期だ。兵士を多く集められる時期でもあり、戦うなら都合が良い。それはバンセイム側も同じだ。

 ただ、疲弊したバンセイムでは、まともに抵抗できるのはセントラルくらいであるというのがライエルたちの集めた情報からの推測だった。

「間違いなく勝てると思うと油断するから、油断すると危ないって言うのよ。危機感があれば必死に動くからね。大軍を揃えたら絶対に勝つ、って訳でもないし」

 ミランダが並んだ兵士たちの顔つきを見た。正義と聞いて、やる気を見せている。実際、彼らは自分たちが正しいと思っている。そう思わなければ、戦えない。家族のためになら戦える。しかし、遠い場所で家族のためになるか分からない戦いでは意味を見いだせない。

 大義名分は必要だ。それが、いかに幻であったとしても。

「いかにも少数で大軍を相手にしてきました、みたいな顔をしているから腹が立つの。だって、絶対に有利な条件でしか戦わないし」

「そんな状況を用意するのがライエルや私たちの仕事でしょうに。まぁ、愚痴はここまでにしなさい」

 ライエルが、腰に下げたカタナではなく見栄えの良い装飾された大剣を掲げていた。兵士たちがライエルの声に合わせ、叫び声を上げる。

 空気が揺れ、熱気が朝の寒さを吹き飛ばしそうだった。

「――全軍、進軍せよ!」

 ライエルの声は、エヴァのスキルによって兵士一人一人に届くのだった――。





 ――ライエルたちが進軍する中、リアーヌは後方での仕事もあるのですぐに城に戻ることになった。

 ただ、三十四号はライエルの護衛もあって今回はリアーヌと一緒ではない。馬車の前で、三十四号はリアーヌと話をする。

「私がいないからといって、砂糖を多めに入れないようにしてくださいね」

 リアーヌは、そんな三十四号の物言いに、額に青筋を浮かべながら。

「最後まで本当に失礼な人ですね」

 三十四号は口元に手を当てながら。

「残念。オートマトンでした」

 笑う三十四号を見て、リアーヌは溜息を吐いた。

「早く戻ってきなさい。こき使ってあげますよ」

 すると、三十四号は笑顔になる。普段のメイド服ではなく、青い鎧姿に背中には翼のようなバインダーを背負っていた。ヴァルキリーズのために馬型のオートマトンも用意され、三十四号の隣には機械仕掛けの馬もいる。

 バイクでは風情がないと、馬にこだわったヴァルキリーズ。

「ツンデレですか? 残念、その程度では我々にとってご褒美にしかなりません。嫌と言われても駄目になるまで尽くしてやりますよ」

 三十四号は、長い黒髪の先端部分をリアーヌに貰ったピンク色の紐で結んでいた。

「……はぁ、なにを言っても喜ぶとは幸せな人ですね。まぁ、こき使える人がいるのは良いことです。裏切らないのがいい」

 リアーヌの物言いに、三十四号は口元に手を当てながら。

「ご主人様に牙をむけば、話は違いますけどね。大丈夫ですよ。ヒヨコ様だけは私が責任を持ってお育てします。もう、母のように、姉妹のように、そして恋人のように……はっ! そっちの方が楽しいのでは?」

 何やら不穏なことを口走る三十四号の頭を、リアーヌが叩いた。

「いいから行きなさい! 戻ってきたらその性格を矯正してあげますから」

 三十四号は馬に乗ると、笑顔で。

「それは無理です。これがスタンダードですから」

 そう言ってリアーヌと別れるのだった――。





 進軍する俺たちだが、基本的に本隊は十万の軍勢だ。

 バルドアとマクシムさんが五万を率いて別ルートから進軍しており、後ろを突かれないように主要な場所は制圧しながら進む。

 ただし。

「砲撃開始!」

 機動要塞の三階部分には、動かすための機械が揃っていた。そこにヴェラや、トレース商会の船長に船員がいて、機動要塞を動かしている。

 要塞から突き出た大砲の砲身が火を噴くと、機動要塞が揺れた。

 ヴェラの命令で動く機動要塞からの砲撃で、バンセイムにある砦の一つが容易に外壁を破壊された。

 魔法の使用できる騎士が数名程度しかいないような砦では、相手にもならない。すぐに白旗が上がると、俺は制圧を命令する。それだけで、部隊が動いて砦を制圧してしまうのだ。

「やることがない」

「黙って座っているのも仕事ですからね。まぁ、部下にとっては手柄の稼ぎ時です。あんまり出しゃばらないでくださいね」

「分かっています」

 ブロア将軍も近くにいて、椅子に座っていた。

 本隊から一万を割いて、アリアやミランダに預けて未だにハッキリしない領主に軍勢を差し向けていた。

 近くにいたモニカは、揺れる要塞内で器用にお茶を煎れて俺に差し出してくる。

「ミランダさんからの連絡です。エリザさんと共に目標の街を制圧したと。囲んだだけで降伏したそうです」

 ブロア将軍もお茶を受け取りながら。

「でしょうね。進軍開始からここまでたったの数日で到着。逆らえば踏みつぶすような勢いですから。降伏した領主たちはどうされるおつもりで?」

 俺はお茶を飲みながら。

「爵位は格下げで騎士爵。開拓地送りですね」

「大陸の隅の追いやるわけですか。恨まれますよ」

 俺は少し笑いながら。

「もう沢山恨まれています」

 すると、モニカが俺に言う。

「アリアさんの方が苦戦しているようです」

 俺は眉を動かした。

「グレイシアもつけていて苦戦? 優秀な人物でもいたか?」

 アリアに任せた場所は、一万の軍勢を相手に出来る規模でもない。何か問題が発生したのかと思っていると。

「いえ、降伏のために交渉をしているようなのですが、相手と話が通じないと。相手の要求は領地の安堵、そしてチキン野郎の勝利後に相応しい爵位を希望するそうです。それが出来ない場合、徹底抗戦も辞さないと」

 ブロア将軍が納得した表情で。

「あぁ、いますね。周りの状況が見えていない領主というのが。確か、準男爵家で寄子だったような」

 俺は宝玉に手が伸びたが、途中で手を握って耐えた。

(すぐに頼ろうとしているな。駄目だな、俺も)

 歴代当主たちの言葉を思い出す。

「アリアに任せると伝えろ。俺が出ても良いが、これも経験だ。どうにもならない状況なら連絡しろと言え。それと、いつでも増援として二万を送る準備をしろ」

 ブロア将軍が言う。

「交渉の得意な人をつけるべきでしたね」

 俺は笑顔で。

「まぁ、これくらいはやって貰わないと。それに、俺たちもこの先で手強い相手が待っていますからね」

 ブロア将軍が嫌な顔をした。

「あぁ、例の領主貴族ですか。寄子の態度がこれなら、寄親も酷いかも知れませんね」





 ――そんな交渉を任されたアリアは、グレイシアと向き合っていた。

 ヴァルキリーからの返答が「任せる」というもので、アリアとグレイシアが頭を悩ませているのだ。

 グレイシアが、視線を泳がせながら。

「ど、どうする? 私はこの手の交渉ごとは力でどうにかするが、数千で攻め込んで力を見せるか?」

 アリアも困っていた。自分よりも脳筋なグレイシアが、戦場以外でここまでポンコツだとは思わなかったのだ。一国を率いていたのだから、交渉ぐらい得意だと思っていたが、そうでもなかった。

「いや、駄目でしょ。降伏はすると言っているし、一応は交渉をしないと」

 ただ、グレイシアが怒鳴る。

「だったら、あの要求を受け入れろと言うのか! 他は領地没収、しかも拘束させているのに、奴らだけ領地を安堵させるのか! 攻め込んだ方が早いだろうが!」

 数百の兵士しかいない領地なのだが、どうにも強気だった。

「私だってなんであんなに強気なのか理解できないわよ!」

 すると、天幕に騎士が入ってきた。

「あの、交渉役の者がまだ来ないのかと五月蝿いのですが」

 アリアとグレイシアが、騎士に振り返ると騎士が「ひっ!」という声を出した。慌てて二人とも表情を穏やかなものにすると、騎士を下がらせる。

 アリアは言う。

「と、とにかく現実を教えないと」

 グレイシアは嫌そうな顔をしながら。

「相手と話が通じるとは思えないがな。こちらを見下してくる奴だぞ」

 まさかこれだけの軍勢を率いているのに、相手が強気で出てくるとは思わなかったアリア。まだ、グレイシアが言うように戦いになった方が良かったと思うのだった――。





 ――一方、ミランダの方は。

 天幕で椅子に座り、鎧姿で足を組んでいた。

 目の前には準男爵がいて、なんとか領地の安堵を申し出てきている。最初から交渉役など挟まないで、領主を呼びつけていた。

「……こちらとて、寄親の意向には従うしかない。事情を考慮して頂きたい」

 ミランダは笑顔を領主に向けた。

「こっちは進軍しながら攻め滅ぼしても良いのよ? それに、そちらは正式にバンセイム王家につくと宣言しているのよね? 敵対すると言っておいて、流石にそれはないんじゃない」

 準男爵――領地規模的に数百人の兵士を抱えている領主だが、近隣で一番大きな領主がバンセイム王国派だったのでライエルたちに敵対していた。しかし、蓋を開けてみると寄親は救援に来ず、本隊数十万。しかも一万の兵士に取り囲まれてしまった。

 寄親や他の寄子をかき集めても、この地方で一万の兵を出すのはまず無理である。

「……領地没収。家名を残したいなら、騎士爵からやり直しなさい。開拓地送りで許してあげる。それが嫌なら最後の一人になるまで戦うのね。もっとも……領民はどちらを選ぶかしら?」

 ミランダの言葉に、領主は青い表情をした。領民からすれば、領主が変更になるだけで助かるのだ。

「貴方が今までどれだけ領民に慕われているか、試す良い機会じゃない。戻って準備をしなさい。それくらいは待ってあげる」

 領民に慕われていれば、もしかすれば徹底抗戦をされる可能性もあった。しかし、そんな事はないと事前調査でハッキリしている。

「領民に殺されないといいわね」

 笑顔で領主に言うミランダ。

 近くにいたエリザは、そんなミランダを見て冷や汗を流していた。

 領主が騎士たちに天幕から連れ出されていくのを見送ると、近くにいたヴァルキリーが一言。

「これで目標としていた領地全てを制圧しましたね。報告しておきます」

 ミランダは立ち上がると、ヴァルキリーに聞く。

「それで、アリアの方はどうなの?」

「……交渉中でまったく進んでいませんね。相手がどうやらゴネているみたいです」

「アリア、なにをやっているのよ。まったく……」

 エリザが不思議に思ったのか、ミランダにたずねる。

「これだけの軍勢だ。寄親だって自分の領地に引きこもるだろうに。なんで救援に来てくれると思うんだ?」

 ミランダはエリザの方を見ながら。

「救援に来なくても、今までは勝つ方に鞍替えして生き残ってきた訳よ。これまでそれが普通だったから、没収と聞いて焦っているのよ。ほら、領地を奪っても管理する人間は必要でしょう」

「いや、確かに必要だが、そうなるとこの辺の管理者がいなくなって危険じゃないか?」

 ミランダは笑顔で。

「大丈夫。ここは後で報酬として与える土地になるから。ほら、出せる報酬とか少ないからこの辺は犠牲になって貰おう、って。運が悪かったのよね。まぁ、運が悪い、って上に立つ人間には致命的だから。ここは綺麗にいなくなって貰いましょう。いつまでも地方ルールが通用すると思っている方が悪いわ」

 エリザは、ミランダには逆らわないようにしようと思うのだった――。





 ――一方、アリアの方は。

「領地の没収など論外! 我々の力なくして統治が可能とお思いか!」

 強気である交渉役の騎士は、髭を生やした中年の男だった。声が大きく、何度説明してもアリアたちの言う事を聞かなかった。

「大体、女子が軍勢を率いるとは、何事か! 貴殿らの人材不足は目に見えており、こちらが協力しなければ領地の管理もままならぬ! そのような相手に、苦労して治めてきた土地を明け渡せるか!」

 言っている事全てが間違ってはいない。ただし、これだけ強気だが、相手は負けた立場だった。

 グレイシアがイライラしながら。

「ならば戻って戦の支度をせよ。口で言って駄目なら、戦場でハッキリさせてやる」

 すると、交渉役は。

「こちらは降伏すると言っている! 降伏した者を攻撃するとは、貴様らそれでも騎士か! 常識もない賊と同じではないか!」

 アリアは、交渉役に。

「降伏する奴の態度じゃねーんだよ! いいか、こっちの条件は領地や財産の没収だ。責任者である当主の助命はしてやる、って言ってんだよ!」

「なんたる非常識! 戦争の流儀も知らないと見える。そのような者に、領地は明け渡せん。もっと上の者を呼べ!」

 バンセイムという国は大きかった。それ故に、小競り合いではない領地同士の戦争になると、どうしても寄子のような小さな領地まで全てを奪うと統治に問題が出ていた。バンセイム国内では統治方法が似通っており、勝てば周囲の寄子を含めて全てを奪う、または一部を寄子ごと奪う事になっていた。

 滅ぼす場合もあるが、降伏すれば受け入れるのがバンセイムの常識でもあったのだ。ただし、国内ルールであって、ベイムや他ではそんな事はしていない。

 しかも、交渉役も領主からなんとしても条件を引き出せと言われているのか、命懸けで必死だった。

 ビキビキと額に青筋を浮かべる、アリアとグレイシアの二人は交渉役を切ってしまいそうな雰囲気だ。

「抜くか! 交渉役を斬って捨てるなら、貴様らの盟主も底が知れるな! さぁ、殺せ! 殺してわしの首を晒すがいい!」

 すると、ヴァルキリーが溜息を吐いた。

「はぁ、お二人ともこちらへ。ご主人様より伝言があります」

 アリアとグレイシアが、ヴァルキリーに耳打ちされると交渉役に向き直った。アリアが、少し不安に思いながらも。

「……あんたとあんたの家族の命は保障するわ。それと、陪臣よね? 今なら開拓地に送り込むことになるけど、騎士爵と支度金くらいの用意はするわよ。開拓地送りだけど、直臣扱いは保障するわ。もしも人質になっているなら、人手を出して救出してあげる」

 交渉役の男が、目を見開き、顔を真っ赤にした。怒鳴るのかと思っていると。

「……あの、娘は嫁いでいまして、そちらの家にも口利きをして頂きたく。嫁いだ家は、私もお世話になっておりまして。そうすれば、すぐにでもこちらの方で受け入れの準備を整えます! 他の者たちも説得できますから!」

 すると、アッサリと折れた――。
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