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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

章タイトルのセンスが欲しいぞ 十七代目

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0(ニヒル)

 三代目が消え去り、宝玉から誰かの声がする事はなくなった。

 首に下げた銀色の首飾りに埋め込まれた宝玉から、今にも誰かの声が聞こえてきそうだ。退屈な書類仕事をしていると、四代目が駄目出しをしてきそうな気がした。三代目はつまらないと言うかも知れない。初代ならどういうだろう?

 二代目はきっと地味なことをしている俺を見て、納得した感じで見守っているかも知れない。五代目は無言。六代目は遊びに行こうと言い出しそうで、七代目はそれを止めそうな――。

「駄目だな、集中が続かない」

 ペンを止めて天井を仰ぎ、そして左手を顔の上に置いた。目を隠すように置くと、今もどこかで隠れて見守っているのかも知れないと思えてくる。

 何度も宝玉内に意識を飛ばした。

 だが、結果は同じだ。誰もいない円卓の間には、俺の椅子と記憶の部屋へと続くドアしかない。銀色の武器が七つ浮んでいる以外には、何も反応を示さない。

 すると、部屋に待機していたヴァルキリー一号が、俺の様子を見てお茶を用意してくれた。

 それを飲むと、以前よりも煎れ方が上手くなっていた。

「美味しいな」

 一号は喜んでいる様子だが、表情は変わらない。最近、またヴァルキリーの調整があり、交互にダミアンとラタータ爺さんのところにヴァルキリーズが通っていた。第一陣が戻ってきていないが、今度はどんな変更があるのか気になるところだ。

「それは良かった。もう、あの駄メイドをいつでもポイできますね」

「……お前ら、なんでそんなに仲が悪いの?」

 駄メイドとは、モニカの事だろう。今は忙しく動き回っていた。

 何やら頼んでいた事以外にも手を出しているようで、リアーヌのところに苦情が来ているらしい。

 主に職人から「笑うオートマトンが追いかけてくるぅ!」などと発狂していそうな手紙が来たらしい。

「ご主人様は一人。なら、メイドだって専属は一人で十分です」

「普通は複数いるよね? 一人しかいないとか、家政婦さんじゃない?」

 元はモニカの姉に当たるオートマトンのコアだったのか、モニカに対して異常にあたりが強いのが一号だ。

 最近では、それぞれ個性が出て来たという報告も受けているが、オートマトンも色々とあるのかも知れない。

 こんな時に興味を持つのは、きっと――。

 そこまで考え、俺は首を横に振った。

「さて、仕事を終わらせるか。今日は予定もあるからな」

 一号は俺を見ながら。

「女狐との会話ですね。ご主人様も趣味が悪い」

「お前ら、ノウェムに恨みでもあるの? というか、なんで全方位を敵視しているの?」

 モニカと同じ金髪のツインテールをかきあげ、反対の腕は腰に当てた一号が俺の向かって言うのだ。モニカとソックリだが、胸だけは真っ平らでそこが違う。

「理由は分かりませんが、こうオートマトン的にイライラします。私のコアが戦えと叫んでいるのです」

「……オートマトン的に、ってなんだよ。というか、物騒だから戦うなよ。命令だからな」

 命令というと、一号が仰け反った。ツインテールが動きに合わせて激しく動く。

「おい、どうした!」

 一号はゆっくりと上半身を起こし、姿勢を正しながら。

「命令という言葉にドキドキしました。簡単に言うなら、興奮しました。表情が表に出るなら、こう……顔が緩んで涎を垂らすくらいに」

「いちいち反応してんじゃないよ! 紛らわしい言い方もするな! というか、涎も出るの!?」

 性能は問題ないのに、オートマトンの性格が凄く問題だ。





 ――リアーヌの部屋。

 そこにはいつも傍にいる三十四号がいなかった。リアーヌ付きのヴァルキリーは、ダミアンのところで調整を受けている。

 その間、別のヴァルキリーが派遣される事はない。どこも手が足りないからだ。そして、リアーヌもそれで納得していた。

 ファンバイユ王国からは、リアーヌの侍女を送るという話も出ていた。しかし、祖国であるファンバイユが今更リアーヌを暗殺しないと思うが、リアーヌは拒否している。

 椅子から立ち上がったリアーヌは、自分でお茶の用意をしていた。

 以前も周りの者が信じられず、自分一人で色々とやっていた。だから、慣れたものだ。

「いたらいたで面倒ですけど、いないと困りものですね」

 そう言って立ったままお茶を飲むと、部屋のドアが勢いよく開け放たれた。リアーヌがノックもしないで入ってきた侵入者を見て、飲んでいたお茶を噴いた。

「おま、ゴフッ!!」

 むせてしまったリアーヌが見たものは、笑顔の三十四号だった。今まで無表情だったヴァルキリーに、表情が追加されたのだ。

「聞きましたよ、リアーヌさん。私以外のメイドなどいらないというデレを見せたとか。嬉しくて一人急いで戻って参りました。おっと、ただし自惚れないでください。私のご主人様はライエル様だけですので。まぁ、リアーヌさんは二番目です。いえ、ヒヨコ様を考えると三番目かな?」

 呼吸を整えたリアーヌは、三十四号を見ながら口元を拭った。

「あ~あ、そんなに汚して」

「誰のせいだと思っているんですか! というか、表情が人間らしいですね。ダミアン教授も、無駄なところにこだわって」

 すると、三十四号は人差し指を横に振りながら、ニヤリと笑った。

「違います。私たちが日々貯めたお金で、色々と改良案を出して実行したのです」

 リアーヌが驚く。

「貯めた? そこまでのお金は払っていないはずですが?」

 三十四号は、暗い笑みを浮かべながら、右手でお金を示すジャスチャーをして。

「ノース、サウス、そしてルフェンスで出している屋台――一部は我々の経営している店なのですよ。大人気で四ヶ国連合に支店を出す計画も」

 リアーヌが叫ぶ。

「なに勝手な事してんだ! 稼げるならもっとこっちにも協力しなさいよ! こっちは火の車なのよ!」

 財政面も預かっているリアーヌからすれば、ヴァルキリーズの意外な才能をもっと早くに知りたかった。

 しかし、三十四号は。

「休憩時間の内職ですから拒否します。どうしても命令したいなら、ご主人様の許可を取ってください。リアーヌさんの助けにはなりたいですが、これだけは譲れません。あ、きつめに命令してくれるように頼んでくださいね」

 頭の痛いリアーヌは、指先で目頭を揉む。すると、三十四号の髪を見た。

「……今日はただのロングなのですね。前は先端を縛っていたのに」

 三十四号が自分の髪を見ながら。

「移動中に破れてしまいました。独自性を出すために、少ないお小遣いで買ったのに、ショックです……まぁ、今は金貨を沢山持っていますが」

 イラッとしたリアーヌだが、自分の髪を縛っていたヒモを解いた。ピンク色に染められた丈夫なヒモは、仕事をするときに自分の髪を縛っていたものだ。

「見分けがつきにくいんですから、これを使いなさい。この辺にはない物です。丈夫ですから、長持ちしますよ」

 三十四号はヒモを受け取ると。

「……そ、そんな物で釣ろうとしても、駄目なんだからね! でも、も、貰ってあげるわ」

 いきなり可愛らしい声を出し、モジモジする三十四号を見てリアーヌは首を傾げた。

「……何がしたいんですか? いえ、何が言いたいんですか?」

 三十四号はつまらなそうに。

「ちぇっ、せっかく表情が出るなら言おうと思っていた台詞なのに、まったく通じないなんて」

 そう言って座って落ち込むのだった――。





 夜。

 ルフェンス王城のバルコニーで、俺はノウェムと話をする事にしていた。

 出向くと、ノウェムは先に来ていた。

 夏という事もあって、外に出ると涼しく感じる。見れば、ノウェムがいくつかの場所に氷を用意して涼めるようにしていた。

 少し緊張している自分に、自分で励ますような声を心の中でかけながらノウェムに近付く。

「待たせたな」

 ノウェムは笑顔だった。

「いえ、時間より少し早いくらいですよ」

 俺はノウェムを見ながら、なんと切り出そうか悩んだ。ただ、伝えておくべきだと思ったので、俺は前置きをせずに。

「宝玉内の歴代当主が、全員消えた。いや、俺にスキルを託して役目を果たしたよ」

 ノウェムは、俺の言葉に少しだけ目を見開いた。

 そして、残念そうな表情で。

「そう、ですか。それは残念です。一度で良いので、お会いしたかったのですが」

 本当に残念そうにしていた。そして、ノウェムは少し自嘲気味に。

「やはり、歴代の方々も私を気味悪がりますね」

 その言葉に、俺は強く否定する。ノウェムを励ますと言うよりも、歴代の当主たちがそんな気持ちで出会わなかったのではないと言いたかった。

「違う! 会わなかったんじゃない。誰とも会うべきじゃない、って……それに、みんなお前の事を頼む、って」

 ノウェムは即座に。

「嘘ですね。フレドリクス様以降、フォクスズ家は家臣のように仕えてきました。ファインズ様、そしてブロード様もそれを不思議に感じることはないはずです。私など、陪臣の娘、程度に思っていたはずです」

 確かに最初はそう思っていた。五代目以降は、ノウェムをフォクスズ家の娘としてみていた。ただ、初代から四代目までは違う。

「初代はお前の事を知った時、凄く慌てていたよ。それに、俺のために嫁入り道具を売り払ったのはみんな堪えたみたいだ。責任を取れ、ってさ」

 懐かしいダリオンでの思い出に、ノウェムは少し笑う。

「そういう事もありましたね。ただ、金銭面でライエル様が負担に思うなら止めてください。私もそれなりに報酬を貰い、そして嫁入り道具程度なら何十と買い直すくらいのお金は持っていますから」

 そういう意味じゃない。そう言おうとしたが、俺はノウェムとの間に明確な線が引かれているように感じた。

 ノウェムが見ているのは、ウォルト家としての「ライエル」だ。俺個人ではない。

「私には歴代当主の方々の記憶もあります。皆、素晴らしい方々でした。一度、お話がしたかった」

 確かに素晴らしい人たちだった。

「照れ屋も多かったんだよ。それに、時期を見誤った。セレスと出会って以降は、逆に疑われると思ったから自重したくらいだ。失敗だった、って言っていたな。最初に打ち明けておくべきだったかも知れない。でも、結局会おうとはしなかったかもな」

 大体、出会えるようになったのは、俺の二段階目のスキルが発現したからだ。その前では、ただの妄言に取られるかも知れない。

 ノウェムが邪神の生まれ変わり? 記憶を引き継いでいると知っていれば、対応も変わってきた。

「意外と駄目なところも多いからな。知っているんだろ?」

 すると、ノウェムの反応に少し変化があった。

「そんな事はありません。皆さん素晴らしい方々です。マイゼル様も、本来はとても優しくお強い方で――」

 少し、違和感を覚えた。ノウェムの口調が強くなっている。

「そうか? 初代なんか粗暴だし、二代目は真面目すぎるというか。まぁ、地味かな? 本人も気にしていたような気がするし。三代目なんか腹黒で――」

 そこまで言うと、ノウェムが一歩前に出て俺の顔を見上げてきた。その瞳には、少なからず怒りの色が見える。

「バジル様は危険な森を切り開き、周辺をほとんどお一人でまとめた素晴らしい方です! クラッセル様は、どんな辛い事にも耐えて頑張ったお人。スレイ様は皆のために命を投げ出し戦った気高き人です! ライエル様でも侮辱は許せません!」

 何故だろう、ノウェムの意見は正しい。正しいが、納得できない自分がいた。

「いや、だって四代目とか金庫の中の金貨を数えるのが趣味の守銭奴だぞ。五代目なんか、家族関係でミスして動物に癒しを求めたし。六代目は家を飛び出した不良で、七代目――お爺様は変態?」

 確かに素晴らしいところもあるが、ノウェムはそれ以外の部分を見ていない。いや、記憶を引き継いでいてもそうした部分は歴代当主たちが見せてこなかったのかも知れない。美化されすぎていて、納得できない。

「訂正してください! マークス様は領地を豊かにするために本当に頑張ったんです! フレドリクス様は、周囲の状況にお一人で頑張って。ファインズ様は確かに家を飛び出しました! けれど、より多くの経験を得て立派な当主になられています! ブロード様に至っては、立派な方でバンセイムも頼ったほどの人物です! 訂正してください! ……お願いですから」

 ――なんとなく、納得できない理由が分かった。俺は、一面だけを見て理解したつもりのノウェムの発言が嫌だったのだ。

 それはつまり、歴代当主の他の一面を見ていないから。他の駄目な部分を受け入れないみたいで、嫌だったからだ。

 確かに初代は粗暴だ。だけど、俺を最初に認めてくれた人だ。純粋な人だ。

 二代目は確かに地味だ。だけど、本当に心配性で――真面目な人だ。

 三代目は腹黒だ。でも、決断力もあり勇敢な人だった。

 四代目は守銭奴だ。それは苦労して統治には金がいると知っていたからだ。

 五代目は家族関係でミスをした。でも、一番自分が傷ついていた人だ。優しい人だ。

 六代目は不良だ。だが、行動力があって、皆を引っ張っていける強い人だ。

 七代目は――変態だ。でも、歴代の功績に押しつぶされそうな中で、強く生きた人だ。

「外側だけ見て、中身を見ていないじゃないか。駄目なのかよ。駄目な部分があるのは許されないのか? 完璧なんて人はウォルト家にいなかったよ!」

 ノウェムが俺の両腕を掴んだ。強く握りしめており、その力は女性の細腕から出ているととても思えない。

「駄目な部分とは何ですか。認めていますよ! でも、そんなに馬鹿にして――どうしてそんな風に!」

「駄目なところも良いところも――俺は全部見てきた。聞いてきた。教えられてきた。だから、全部含めて尊敬している。本当はみんな戦いが好きじゃなかった」

 ――そう思いたい。

「優しくて、それでやりたい事もあったんだ。それなのに周りがそういう状況じゃないから戦って――守って!」

 ノウェムは俺を見ながら。

「誰も戦闘狂がいいとは言っていません。私が言いたいのは、どんな状況でも足掻いて諦めないウォルト家の方々がいかに素晴らしいかを――」

 俺は、ノウェムの手を掴んだ。

「平和を目指すとは言った。だけど、それがどんなものかも分かっていないさ。でも、俺がそう言ったら、目指してもいい、って言ってくれたよ」

 ノウェムは、俺の顔を見て驚いていた。そして、悲しそうな顔になる。

 ゆっくりと俺から離れ、そして涙を拭っていた。

「……そう、ですか。それでも私は」

 俺はノウェムに。

「なぁ、お前の自身の気持ちはどうなんだよ。女神とか邪神とかのノウェムじゃない。先代のノウェムでもない。お前自身の気持ちはハッキリしないのか?」

 ノウェムはゆっくりとバルコニーから去って行く。

「ノウェム!」

「今日は、失礼します。明日も早いので」





 ――ノウェムは、夜の廊下を明かりもなしに歩いていた。

「……私が守らないと。ウォルト家こそが私の求めた……ライエル様を守らないと」

 そう呟くと、今までの大量の記憶――いや、記録が呼び起こされた。ウォルト家を見守ると決意した先代ノウェム。邪神と呼ばれるきっかけとなった、セプテムたちとの決別。

 そんな中で、ノウェムは一人の女性の背中を思い出していた。

 女性は白衣を着ていた。

 長い髪はピンクブロンドで、白衣のポケットに両手を突っ込んでいる。

『ノウェム、私はあんたたちを否定しないよ。けどね、セプテムたちも否定しない。だから、物騒なものはしまいなよ』

 自分は武器を向けているのだろうか? ノウェムは、曖昧な部分を思い出せない。

 今ではノイズが交じり、完璧には思い起こせない。だが、会話が再生され、ノウェムはソレを思い出していた。

『セプテムはね、人は弱いと思っている。思い込んでいる。だけど、あんたもオクトーも、人は強いと思いすぎだよ』

「私は、あの時にどんな返事を――」

 白衣を着た女性は、ノウェムを見ながら。

『なぁ、女神だなんだと言われて悔しいのは分かるんだ。それを演じようとするセプテムが、あんたは許せないんだろ? でもさぁ、私たちもいつまでも人を見守ってはいけないんだ』

 女性の言葉に、ノウェムは。

「黙れ。黙れぇ!」

『私はたいした力もない失敗作だ。あんたらのように何かを生み出す力もない。こんな世界で、生きていけるだけ。あんたたちよりもすぐに体にガタが来る』

 諦めているのに、女性は明るかった。

「私は――最後まで見届けないと。私は悪くない。セプテムが――セプテムが裏切るから――」

 女性は笑顔で。

『私はね、あんたの作りだしたエルフになってみようを思うんだ。見ることしか出来なかった私は、こんな失敗を繰り返さないために伝えていこうと思うんだ』

 失敗。そう、失敗したのだ。人類は失敗した。

「だから、私たちが生まれたんだろうがぁぁぁ!!」

 叫ぶノウェムは、そのまま涙を流してサイドテールを振り乱し、その場に座り込む。

「今更、個人なんてない。私は見守らないと。最後まで見守っていかないと――」

 そして、女性は笑顔でノウェムに告げた。

『ノウェムは、私は歌が好きだ。物語が好きだ。きっと生まれ変わったら……歌を歌うよ』

 すると、騒ぎを聞いたのか誰かが駆けつけて来た。

「ノウェム、どうしたのよ。何かあったの? 泣いているの?」

 心配しているのは、エヴァだった。ピンクブロンドの髪に、エルフの特徴である尖った耳。そして、白衣を着た女性の面影があった。

「……ニヒル、なんで貴方まで」

 エヴァとニヒルの姿が重なった。

 ノウェムは廊下で倒れ込む。

「ちょっと、ノウェム!」

 エヴァがノウェムに声をかけ続けていた――。
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