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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

章タイトルのセンスが欲しいぞ 十七代目

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野芋

 会議を行うと言われ、集まったのは食堂だった。

 厨房から良い匂いがしており、アデーレさんが自信満々でルフェンス王城に戻ってくるとすぐに準備が進められていた。

 集められたブロア将軍が、呆れ顔で。

「急な呼び出しが食糧関係と言われれば、確かに出ないわけにはいきませんけどね。でも、もう少しこちらの都合もですね」

 愚痴をこぼしている理由は、訓練で出かける直前だったためだ。急遽、部下に押しつけ――任せ、こちらに来たらしい。

 バルドアは、そんなブロア将軍を引きつった笑顔でなだめている。

「しかし、食糧問題を解決できるなら、それだけの価値はありますから。しかし、どんな食材を探してきたんでしょうね?」

 俺もソレが気になった。リアーヌの方は、自信満々のアデーレを見て少し安心している様子だ。

「解決策を見つけてきたのですね」

 すると、アデーレさんが頷く。

「えぇ、多少の問題はありますが、そのあたりの解決策も考えてきました。味はともかく、栄養は豊富だと判明しています。ちなみに、芋なので芽さえ処理すれば毒の心配もありません」

 モニカの方で毒の有無を判断したようで、食材であるのは間違いないらしい。バルドアがアゴに手を当てながら頷く。嬉しそうだ。

「多少の味の問題は目をつむりましょう。栄養価が高いのはいいですね」

 すると、バルドアの傍にいた騎士――いや、嫁であるアレットさんが笑顔で頷いていた。ルフェンスまで理由をつけてちょくちょく顔を出してくるあたり、この人の嬉しさや不安が見て取れる。

 バルドアに、変な虫が寄ってこないか気になっているのだ。正直、バルドアは顔も良い上に腕も立つ。女性など黙っていても寄ってくるから、余計に不安なのだろう。

「騎士だと酷いときは、山の中で食える物を探せとか言われるからな。食糧が豊富な場合ばかりじゃない。食べ物の用意があると言うだけで、私も安心だ」

 リアーヌが、アレットさんを見ながら。

「貴方、ロルフィスの副団長ですよね? そちらも食糧に問題が?」

 アレットさんが、少し困った顔をしながら。

「遠征もそうですが、距離的にかなりのもの。こちらは今まで近隣での戦争が主体だったので、その辺のノウハウも不足していまして。まぁ、そのせいで食糧が足りているのか私たちでも判断が……今回は、お、夫の意見を聞きに」

 チラチラとバルドアを見ているアレットさん。すると、バルドアが笑顔で。

「ならば、後で私の部屋でその辺の話をしましょう。良いお茶が手に入ったので、丁度良かった」

 宝玉内からは、三代目がバルドアの対応を見て。

『ライエルもこれくらいやれれば……いや、血の雨が降るな』

 やはり、俺の修羅場を楽しんでいる。そんな時、厨房からエプロンをした――食堂のおばちゃんスタイルのヴァルキリーが出て来た。調理をしたのはヴァルキリーのようだ。まぁ、ヴァルキリーは料理も上手だ。少し期待してみる。

 そして鍋と、取り分ける皿を持ってきているのだが……。

「用意が出来ましたね。さぁ、食べてください」

 自信満々のアデーレさんだが、鍋の中を見て俺は思った。

「芋ですか? 見た目も悪くない。でも、芋は計画に入っていたような?」

 皿を受け取ってフォークを芋に突き刺すと、先程まで笑顔だったバルドアとアレットさんの顔が見る見る青くなっていく。リアーヌの方は。

「そうですね。種類が違うのかしら? それなら多少は食糧事情も改善しそうですけど。良い匂いですね……オブフッ!!」

 芋を口の中に入れたリアーヌが、お姫様が出してはいけない声を出した。そして、宝玉内からは三代目が大慌てで。

『の、野芋じゃないか! こんなものをどうして!!』

 野芋? 俺が首を傾げ、食べようとするとバルドアがアデーレさんに。

「ど、どういうつもりですか! こんなものを出して! あ、ライエル様は食べないでください。これは駄目です。人の食べ物じゃありません!」

 鬼気迫る表情で、俺から皿を取り上げたバルドアは、そのままアデーレさんに詰め寄る。アデーレさんも真剣な表情で。

「食べて頂ければ分かります! 普通に不味いですから!」

「不味い物を自信満々に出したんですか!」

 普段のバルドアと雰囲気が違うと、アレットさんが首を横に振って手で拒否を示していた。

「無理。これは無理。腹が減りすぎて虫を食べたとしても、私はこの野芋だけは絶対に嫌だ。先輩の冗談で食べさせられたが……私でもキレて先輩の騎士を殴ったからな」

 青い顔で拒否をするアレットさん。ただ、ブロア将軍は芋を食べながら。

「むっ! 凄いですよ、この野芋! 普通に不味い!」

 驚愕していた。俺も気になってヴァルキリーから芋を受け取ると食べてみた。リアーヌは口元をハンカチで隠して、涙目だった。アデーレさんを睨んでいるように見えるのは、気のせいだろう。

 口に入れると、いきなり体が拒否を示した。しかも、噛むと苦みというか粘り気というか、もう何というか酷い。土を食っている感じだろうか? 体がこれを食べ物と認識しない。なんとかのみ込むと、俺は次を食べる気がしなかった。

「これ、酷すぎません?」

 すると、アデーレさんがキレ気味に。

「それでも栄養は豊富なんです! これでも下処理をしっかりしてマシになったんですよ!」

 バルドアが怒鳴る。こんなバルドアを初めて見た。

「ふざけるな! 絶対に嫌だ。わ、私は二度とこれを食わないからな! 絶対だからな!」

 ここまで体が拒否反応を示す食べ物をはじめて食べた。リアーヌは、涙目のままむせながらも意見を言う。

「……栄養や味のことは置いておきましょう。餓死寸前の人間にとっては、食べられるだけでもきっとマシですから。それで、これは数を確保できるのでしょうね?」

 アデーレさんを見る目が凄く厳しいものだった。すると、アデーレさんではなく、ブロア将軍が笑顔で。

「大量に確保できますよ。畑に植えればすぐに芽を出しますし、場所によっては山の中で大量に発見できます。これで美味しかったら、食糧事情はすぐに解決なんですけど」

 俺はブロア将軍を見ていた。普通に噛み、そしてのみ込んでいるのが不思議に思える。

「将軍は平気そうですね」

 ブロア将軍が笑いながら。

「アハハハ……昔、上司のミスで山の中で遭難しましてね。これしか食糧がなかったんです。もう、食べないと生きていけないし、だけど食べたくないし……最悪でした。それを思えば、まだ食べられるだけマシですよ」

 ただ、バルドアとアレットさんは、それでも嫌なのか。

「それでも私は絶対に嫌です」

「私も無理。絶対に無理!」

 ただ、リアーヌは立場的に味だけで判断しないようで。

「……大量に手に入るなら、ありですね。まぁ、三ヶ月で決着がつかないなら、強制的にこの野芋ですか? これが食事になると思ってください」

 二人の顔色が悪なった。

 三代目が、感心しながら。

『凄く不味い芋を、普通に不味い芋にしたのか。これって革命じゃないかな?』

 俺はそんな革命は嫌だ。すると、食堂のドアの隙間から、ノウェムが中を覗き込んでいた。そして、何故か悲しそうな顔をして、落ち込みながら部屋から離れて行く。どこか申し訳なさそうな顔をしていたのが気になった。





 食糧問題が多少解決した頃。

 俺は用事があってサウスベイムを訪れていた。武具の関係もあるが、必要なものが足りているかを確認するためだ。

 サウスベイムの職人たちは、ほとんど連日のように忙しく働いていた。そのおかげで、武具に関しても目標の数を確保できそうだ。

 モニカと一緒に、サウスベイムの街を歩いているとヴェラと出くわす。

「あら、今日はこっちだったの?」

 ヴェラがそう言うと、サウスベイムのトレース商会の商館前には、大量の荷物が届いていた。樽が山積みされており、荷馬車を使用して次々に運び込まれていた。

「酒でも買ったのか?」

 そう言うと、ヴェラは少し笑って首を横に振った。黒いツインテールが揺れると、モニカがムッとした表情になり、露骨に自分もツインテールを揺らしていた。どうでもいいので放置していると、ヴェラが説明してくれた。

「ちょっと遠くに出ていたのよ。見てみる?」

 そう言って、樽の蓋が開けられた。そこには、小麦が入っていた。

「これは」

 ヴェラは肩をすくめつつ。

「少し足を伸ばすと気候が違う土地があるのよ。味というか食感も違うのよね。少し種類が違うみたい。でも、十分に食べられそうだから買ってきたのよ。必要でしょう」

 俺はヴェラの顔を見た。

「……え! くれるのか!」

 ヴェラは腕を組んで頷く。

「当然。ま、投資と思っておくわよ。大事なお客様だから、絶対に勝って貰わないといけないからね。私はこれくらいしか出来ないけど、無事に戻ってきなさいよ」

 俺はヴェラの笑顔がとても眩しかった。問題解決のために、不味い芋を持ってきたアデーレさんも悪くはない。だが、まともな食糧を持ってきてくれるヴェラには敵わない。

 俺はヴェラの手を握り。

「あ、ありがとう。本当にありがとう」

 涙を流すと、ヴェラが逆に戸惑った。

「え? あの……え? たいした数じゃないわよ。全体として見れば少ししかないし。そこまで泣かなくても」

 俺は首を横に振り、そのままヴェラに抱きついた。

「そんな事ない! ヴェラは最高だ!」

 これで不味い芋を食べなくていい、なんて事にはならないだろう。だが、ヴェラの優しさが心にしみた。

「こ、こら! みんな見ているから!」

 腕の中で暴れるヴェラ――そして、屋敷の窓からは、身を乗り出したフィデルさんが顔を真っ赤にしてこちらを見ていた。鬼の形相だ。

 それを見たのか、三代目が笑う。ただ、いつもと少し違うのは。

『うん、ライエルは愛されているね。これなら大丈夫だ。もう、大丈夫』





 その日の夜。

 久しぶりに宝玉内に顔を出した俺は、三代目の言葉が気になった。

 円卓の前には、いつも通りニコニコした三代目が椅子に座っていた。

『どうしたんだい』

「いや、その……三代目、あの」

 俺の慌て様を見て、三代目はなにが言いたいのか気が付いたのか笑顔のままだった。

『あぁ、昼のことを気にしていたの? 随分と成長したね。前は人と話しても興味がなさそうにしていたのに』

 困ったように髪をかく。確かに、最初の頃は酷かった。人の気持ちというのが理解できず、人を傷つけた事もある。

「前は何というか」

『でも、僕の気持ちに気が付いたんだろ? なら、成長した、でいいじゃない。ライエルは、僕がいなくても大丈夫そうだし』

「周りには支えて貰っています。でも、三代目にもまだ支えて欲しいというか」

 三代目は椅子の背もたれに背中を預けながら。

『僕のスキルはいらないのかな?』

 欲しいかどうかで言われたら、正直に言って扱いが難しいので三代目の助言の方がありがたい。

「三代目の助言の方がありがたいと思うのは事実です」

『嬉しいことを言うね。けど、駄目だ』

 三代目は椅子から立ち上がると、自分の記憶の部屋へと歩いて行く。こちらを振り返ると、笑顔を向けてきたので俺も三代目の記憶の部屋へと向かう。

 三代目の記憶の部屋へと入ると、そこには初代から三代目が過ごした屋敷の光景が広がっていた。

『いつまでも補助がいるようでは、補助に頼り切っているのと同じだからね。独り立ちの時だよ、ライエル』

 屋敷から見える光景は、実にのどかなものだった。三代目の過酷な時代にあって、まるで別世界に見えた。

 ウォルト家の準男爵家時代。複数の村を保有し、三代目が当主として手腕を振るい――そして、長い戦いの続く時代。

 三代目も、戦争で命を落としていた。その働きから義将と呼ばれ、バンセイムの歴史に名を刻んだが、本人はそんな事を望んでいなかった。

 のどかな景色を見るに、三代目はもっと平凡に生きたかったのかも知れない。ただ、それが出来なかったのだ。俺と違い、甘えることなど出来なかったのだろう。

「甘える時期は終わり、ですか」

『そうだね。もっとも、僕からすれば補助が必要には見えないよ。ライエルは、この二年と少しで随分と成長したからね』

「……歴代当主と比べると、恥ずかしいですけどね」

『そうかな? 僕は、歴代の中でもライエルは苦労してきたと思うよ。頑張ってここまで来たんだから、もっと自信を持ちなよ』

 照れくさく思いつつ、俺はとても寂しく感じた。

 別れの時がいつかは来ると思っていたが、いざとなると躊躇ってしまう。ただ、タイミングを逃すのは駄目だというのは理解している。二代目や、五代目の時で学んだ。

「本当にこれで一人になりますね」

『一人? 違うよ。ライエルには支えてくれる恋人――いや、沢山の嫁と周りの人たちがいるじゃない。純粋に一人、っていうのは世の中にはそうはないよ。死ぬ時くらいかな?』

 恋人を沢山の嫁と言い直した三代目。分かって言っているから質が悪いのだ。

「色々と面倒事を押しつけられた気もしますけどね」

『選んだのはライエルだけどね。まぁ、僕は楽しかったよ。未来を見ることが出来たからね』

 三代目は、俺との出会いを語る。

『最初はこんなに駄目な子で大丈夫かな? って思ったよ』

「……ハッキリ言いますね」

『うん。こういう時に嘘を吐いてもしょうがないからね。ただ、今は思うんだ……僕は、僕たちは、ライエルに出会えて良かった、って』
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