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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

章タイトルのセンスが欲しいぞ 十七代目

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泣くほど不味い

 ルフェンス王城の会議室で、俺はリアーヌから報告を受けていた。

 ブロア将軍やバルドア、それにベイム方面からはアデーレさんも来ており報告を受けている最中だ。

「ルフェンスは元からバルドア将軍が復興を進めていましたので、予定よりも順調といったところです。予定の二割増しは確実ですね」

 二割増しとは、食糧関連だ。大軍勢を動かすためには、いや――人が動くためには食糧が必要だ。そのため、急いで村の再建や復興、更には開発を推し進めたのだ。ルフェンスは元から計画もあったので進み具合が良好だった。

 ただ、ここまで順調なのはリアーヌの能力もあったためだろう。視野も広く物資の確保や輸送なども任せきりだった。

 ブロア将軍は報告書を見ながら感心した様子で。

「よくここまで。ハッキリ言ってしまえば、ゴタゴタしていたので二割減でも驚かないつもりでいたんですけどね。まぁ、盟主であるライエル殿が開拓などに詳しいのも幸いしました。流石は領主貴族というところですかね?」

 現場での経験が乏しいと思われていた俺だが、ブロア将軍はその評価を改めたようだ。

 しかし、宝玉内からは三代目の声が。

『まぁ、今までも色々と教えてきたけど、僕がいるからその辺は楽だよね。こう見えて、僕は実際に畑仕事も領地開発もしているし』

 三代目は領地が広がっていく時の当主であり、開発関係にも知識や経験があった。助言を受け、現地にも出向いて助言を貰って対応をした。

 俺はブロア将軍を見ながら。

「将軍の方はどうなんですか?」

「こちらは順調ですね。元から部下たちもいるので、手柄のある者たちや実戦経験者も多いとあって後は訓練と士気の高さを維持する必要がありますけど。まぁ、食糧確保のために大部分には農作業をして貰っている状況ですけどね」

 大きく三つに分けて、交互に農作業と訓練を行わせていた。

 ただ、ベイム方面に関しては微妙だった。全員の視線が、アデーレさんに集まった。アデーレさんは、俯き加減で。

「ベイム方面はあまり良くありません。目標の八割に届けば良い方です」

 バルドアが、アデーレさんを見ながら。

「八割ですか。人手もかなり割いていると思うのですが?」

 責めているわけではないだろうが、それでもアデーレさんからすれば責められているようなものだろう。

「こちらでも注意や指導をしてはいるのですが、どうにも個人という意識が強すぎまして」

 自分たちを優先しようとして、意見がぶつかりその結果として遅れが出ているようだ。もっと協力すれば予定通りだったはずなのだが、応援を派遣してもどこに派遣するかで揉めているらしい。

 バルドアが少し呆れていた。

「アデーレ殿、言いたくはありませんがもう少ししっかりして頂きたい」

 バルドアからすれば、トップであるアデーレの責任だ。ただ、ベイム方面は事情が少し違う。俺がアデーレさんをフォローしようと口を開きかけると、リアーヌが先に口を開いた。

「ベイムは統治方法が独特でしたからね。これまで会議で色々と決めていたようで、アデーレさんが指示を出してもその癖が抜けなかったのでしょう」

 バルドアが少し理解できないのか。

「会議であれば我々も」

 リアーヌは、微笑みながら。

「私たちとは少し違いますね。絶対的な君主がいないために、それぞれの主張の調整に時間をかけている感じです。私でも難しいですし、予定の八割というのはむしろアデーレさんだからこそ、だと思いますよ」

 リアーヌが俺を見ると、俺は頷く。アデーレさんも、安心した様子だ。

「バルドア、ベイムは特殊だよ。そんな中で、アデーレさんはよくやっている」

 バルドアはアデーレさんを見ながら。

「失礼しました。どうにもベイムという土地を理解していなかったようです」

 アデーレさんは首を横に振りながら。

「目標を達成できなかったのは事実ですので」

 すると、リアーヌが報告書を手に取り頭の中で計算したのか、食糧に関して。

「現状保有している食糧ですが、買い付けも色々と限界ですね。どこも求めているばかりですから。この計算で行くと……やはり長期で戦うのは厳しいでしょうね」

 大軍勢を維持するには、それだけの食糧が必要だ。

 そして、今の俺たちには長期戦を行えるだけの体力がなかった。

 俺はリアーヌを見ながら。

「どの程度なら戦える?」

「現状のまま上手く行けば、三ヶ月はなんとか戦えます。ただし、それが限界です。ハッキリ言えば、二ヶ月以内で勝負を決めて貰わないと今後が大変です。三ヶ月を超えれば、引き返すだけの食糧程度しか残りませんよ」

 アデーレさんが報告書をテーブルに置きながら。

「……バンセイムでは、この時期に人手を集めて働き手が不足しています。食糧危機は目に見えていますね。セントラルにどれだけの食糧が残っているかも疑問です」

 すると、三代目が俺に対して真剣な声で。

『ライエル、進軍ルートは慎重に選ぶんだ。下手をすると、食糧不足で大変な村をいくつも通ることになる。そうなれば……村を見捨てた場合、ライエルは民を切り捨てたと言われるよ。出来るだけそういった村は避けて進軍するんだ』

 俺が指先で宝玉を掴み、転がそうとすると三代目が強い口調で。

『遊びじゃないんだよ。施しをして食糧がない、なんて間抜けな理由でセレスに負けるつもりかい? ライエルが負ければ、今後何十年、数千万単位で人が死ぬんだよ』

 少し間があってから、俺は宝玉を握りしめた。そうして、会議の場で

「……進軍ルートは最短距離よりも、食糧の減りを押さえるルートを選ぶ。セントラルに食糧がない最悪の場合も考えないとな」

 アデーレさんが首を傾げ。

「え? あの……最短ルートを選んで頂かないと食糧が」

 そこまでアデーレさんが言うと、ブロア将軍が真剣な顔つきで頷いていた。

「なる程、食糧不足の村は回避する訳ですか。調べさせないといけませんが……嫌なものですね」

 ブロア将軍は理解したようだ。リアーヌも同じ様子だった。

「距離と食糧の消費、それらを考え最良のルートですか。確かに、飢餓に苦しむ村を見捨ててしまえば、ライエルの評価に関わります。兵の士気にも影響しますね。自分たちは大陸を救うために戦うというのに、目の前の民すら救えないと」

 バルドアが目頭を揉みながら。

「……理屈はわかっていても、目の前でそれを見れば流石に」

 アデーレさんが何かを言おうとしたが、リアーヌが視線で黙らせた。

 俺は全員に。

「ラウノさ……ラウノに調査させます。進軍ルートの情報を得ておく必要もありますからね。ここ数ヶ月で大きく変ってはいないと思いますが」

 こうして、会議は終了するのだった。





 ――会議終了後。

 アデーレはリアーヌの隣を歩いていた。リアーヌの斜め後ろには、ヴァルキリー三十四号が控えている。

 アデーレは歩きながら。

「ライエルさんの名声のためには、わざと最短ルートを避けるよりも食糧を分け与えながらセントラルを目指すべきです」

 リアーヌは、歩く速度を変えずにアデーレの意見を切り捨てた。

「調査次第ではそういう選択肢もありますね。ただ、領主不在や代替わり、戦争に負けた混乱と多くの男手を失った東部は、どう考えても食糧危機が迫っていますよ」

 街道が整備されている場所には、街や村などが多い。街や村が多いから整備がされるという側面もある。都市であっても同じだ。

 そのため、街道を使用する事を考えれば、やはり多くの街や村を通ることになるのだった。

「ですから、助けなければ――」

 リアーヌは淡々と。

「目の前の弱者を助け、勝たなければいけない戦いで負ける要因を増やしますか? もしも最短ルートを進ませたいのなら、それが可能な状況を作ってから進言するのが筋ですよ。綺麗事だけを言うなら、誰にでも出来ますからね」

 会議中にアデーレをフォローしたリアーヌだが、今はアデーレの意見を聞こうとはしなかった。アデーレは言う。

「味方には東部出身の兵士たちがいます。下手に見捨てれば、禍根が残ります」

「助けないとは言っていません。食糧が許す限りは助ける。優先するべきは勝つ事です。手段を選んでいるのではありません。勝つための手段がそれだけだというだけです」

 アデーレは歯を食いしばっていた。

「……悔しいなら解決策を出しなさい。無能で許される立場ではありませんよ。それと、ライエルを恨むなら筋違いです」

「分かっています」

 アデーレは、そう言うと足早にリアーヌの前を歩くのだった。

 三十四号がそんなアデーレを見ながら。

「まったく、悪役みたいですよ、リアーヌさん」

 リアーヌは溜息を吐きながら。

「なりたくてなってはいませんよ。助けられるなら助ける。ソレが無理だから助けないというだけです。優先順位を間違えてはいけません。それに、解決策や代案がなければただの戯れ言です」

 質の悪い冗談でしかないというリアーヌに、三十四号はたずねた。

「では、解決策があれば」

「検討した後、採用するか判断をします。もっとも、食糧生産は無理をしていますからね。ついかで送ることも考えてはいますが、それでも足りないのが現状ですからね。まぁ、アデーレさんがどうするか期待しましょう」

「自分では動かないので?」

 リアーヌは三十四号に振り返りながら。

「……そんな時間があると思っていますか?」

 三十四号は首を横に振り、黒髪を揺らす。

「ありません。リアーヌさんは睡眠時間を削ってお仕事をしていますからね。私も頑張ってサポートをしますよ。ついでにヒヨコ様を早く――」

 リアーヌは、無言で歩く速度を上げた。ほんのり頬が赤くなっていたのを三十四号は見逃さなかった――。

「脈ありですね。これは、ヒヨコ様をこの手に抱ける日も近いかも知れません」





 ――会議を終え、ベイムに戻る頃にはアデーレは目の下に隈を作っていた。

 色々と考え、やはりリアーヌの言うとおり諦めるしかないのかと肩を落としてベイムの中心部になりつつある元東支部のギルドに顔を出した。

 そこでは、今日も忙しそうに部下たちが働いていた。

 すると、ギルドの庭の方から何やら匂いがした。食事の用意をしている、というよりも何やら実験をしている雰囲気だ。

 そこでは、自分を支えてくれるマクシムがヴァルキリーと向き合っていた。

 ヴァルキリーから何やら受け取ると、マクシムは嫌そうな顔をしてそれを食べる。すると、険しい表情で。

「……多少はマシだが不味い。不味すぎる」

 ヴァルキリーが、そんなマクシムの素直な感想に。

「多少は下処理をしたのですけどね。見た目は美味しそうなのに」

「俺は訓練で山に入った時に、先輩の騎士に勧められて食べてからは、トラウマものだったけどな。美味そうにも見えないぞ」

 そこには、芋が用意されていた。ヴァルキリーが見つけてきたのは、どこにでも生息する芋のようなものだった。芋のようなもの、というのは自然でも生息できるほど逞しい種類なのだが、栽培方法が違う。変異種のようなものだ。

 ただ、凄く不味い。食べる物がなく、山に入ってそれを探して食べたのが嫌な思い出、という者も多い。

 中には、これを食べるくらいなら飢えた方がいいという者までいた。もっとも、本当に飢えれば食べるのだろうが。

(飢えないと食べられないわよね。そこら辺に沢山あるけど、邪魔だから処分しないと……飢えないと食べられない?)

 アデーレは走ると、そのままマクシムが持っていた芋を取り上げた。

「お、お嬢様! いけません。そんな不味いもの! しかも、か、間接――」

「いいからください! はぐっ!」

 芋にかぶりついたアデーレは、口の中に広がる何とも言えない不味さに少し感動した。

「……不味い。けど、食べられる」

 涙を流したアデーレを見て、マクシムがオロオロとしだす。

「す、すぐに口直し的なものを用意します! おい、何かないのか!」

 近くにいたヴァルキリーにマクシムが言うと、ヴァルキリーは無表情だが嫌々という感じで。

「持ってくればいいんですよね? まったく、せっかく作ったのに不味い、不味いと……興奮するじゃないですか」

 マクシムはヴァルキリーに。

「お前ら、本当に頭のネジとか取れてないか? ダミアン教授に直して貰ったらどうだ」

 ヴァルキリーはマクシムに対しておちょくるような構えを見せた。ファイティングポーズのつもりらしい。

「失敬な! 私たちはこれが普通です」

「余計に酷いわ! ……って、アデーレ様!」

 アデーレは、泣きながらその不味い芋を食べていた。そして、確信する。

「大丈夫。これならなんとか食べられる。だから、調理方法を教えて。これなら、最短ルートで進軍できる!」

 マクシムは、アデーレがなにを言っているのか理解できなかった。ただ、ヴァルキリーの方は理解していたようだ。スカートの端をつまんで綺麗にお辞儀をすると。

「人の役に立てるのなら喜んで。ついでですから、教える際に作った料理はマクシムさんが処理を――食べて貰うという事で」

 マクシムはアデーレに振り返りながら。

「お、お嬢様が作るのなら、このマクシム――どんなに不味くても完食して見せます!」

 ヴァルキリーがヤレヤレと首を横に振りつつ。

「アデーレさんが作る必要はありません。私が作って、マクシムさんが食べる。それだけです」

 青い顔をするマクシム。ただ、アデーレは泣きながら芋を食べていた。通常なら食糧としてみられないその芋に、アデーレは感動を覚えていた。だが、凄く不味い。

「不味い。不味いよ」

 周囲からは、なんとも不気味な光景に見えるだろう。

 こうして、アデーレは戻ったばかりだが急いでルフェンス王城へと戻るのだった――。
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