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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

二代目様は苦労人

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ウォルト家のはじまり

 成長を実感し、痛い自分をノウェムやアリア……そしてご先祖様に見られた俺は、初代との約束通りに宝玉内の会議室に訪れた。

 普段と違い、初代が自分の部屋の前で立っている。

 そして、今日は二代目が椅子に座っていた。

「珍しいですね、二代目」

 そう言うと、二代目は短く返事をする。

『あぁ』

 初代は笑顔だった。

 また二人でいつものように喧嘩でもしたのだろうか? そう思った俺は、何があったのかを聞く。

「また喧嘩ですか? 今度は何を言い争ったんです」

 初代は首を横に振る。

『いつも喧嘩ばかりするかよ。少し昔話をしつつ、言いたいことを言ったんだよ。ほら行くぞ、ライエル。おっと』

 自分の部屋を開ける初代だが、最後に二代目に声をかけた。

『後の事はよろしくな、クラッセル(二代目)

 すると、二代目は右手をヒラヒラさせただけだった。このようなやり取りは珍しいと思いつつ、俺は思う。

(いつも喧嘩ばかりなのに、珍しいな)

 そう思いながら、初代と一緒にドアをくぐるとそこには古い街並みが広がっていた。

 石畳は崩れているところもある。

 どうにも様式が古く、ウォルト家のバイス領の方が発展しているように見えた。

 そして、人までも歩いて日常の生活をしていた。

 だが――。

「触れない?」

 いきなり真正面に来た人を避けようとしたら、壁に肩が触れる。

 しかし、感触はなかった。

『ここは俺の思い出というか、記憶の中だ。触れるものは限られているし、こいつらにいくら話しかけても無駄だ。ほら、さっさと行くぞ』

 雑多な感じのする表通りを歩き、初代について行く。

 見たことがない場所なのは間違いない。

(昔の実家なのか? いや、それにしては初代の記憶と言うから規模がおかしい。雑多な感じだけど、街とか都市くらいの規模かな?)

 領地の規模的に、初代の時代で実家はここまで発展していないはずだ。

 初代の後ろを歩いていると、表通りから徐々に細い道に入る。

 そこでは四階から五階の建物が、空を狭くするほどに建ち並び、通路は細かった。

 臭いはしてこないが、道も汚い。

「どこですか、ここ?」

『あ? 王都のセントラルだよ。二百年くらい前かな?』

 そう言われ、俺は驚く。

「二百年前!」

『驚くなよ、俺が生まれたのは王国歴で五十年くらいだぞ。今は三百年だったか? それくらいでもおかしくないだろうが』

「た、確かに」

 セントラルに来たことがなかったが、こういったところなのかと思いながら道を歩く。

 すると、通りを抜けた辺りに一軒家が建ち並ぶ区画があった。

「ここは?」

『俺の実家だ。あっちは近道だから通っただけ』

 そう言われて俺は――。

(ここに王都で法衣貴族をしているウォルト家が……今はまったく関係がない、って聞いていたけど)

 独立し、関係は絶っていると聞かされていた。

 もっとも、相手も法衣貴族と言っても、地方貴族である伯爵家のウォルト家に親戚面はできないだろう。

 何しろ、ウォルト家は王都で騎士爵だ。

 貴族といえども、役職も持たない末端である。

「ここに何をしに? というか、見せたいものでもあるんですか?」

 俺がそう言うと、初代は黙って頷いた。

 そして、視線の先を見る。

 そこには、赤い髪をした女性……アリアを、少し離れたところから大きな荷物を持って覗いている青年がいた。

 年の頃は二十手前だろう。

『……あれが俺だ』

「え、嘘!」

 驚いたのも無理はないと思う。何しろ、初代の若い頃は好青年に見える。髪も整っており、髭も生やしていない。

 初代の特徴である蛮族スタイルでもなかった。

『嘘じゃねーよ! あんな風に、時々見かけるアリスさんを見ては、俺はいつか騎士爵家の三男坊から出世して、彼女を迎えに行くと心に決めてたんだからな!』

 意外にも純粋なところがあるらしい。

 そうして場面は移り変わる。

 そこでは、若い頃の初代が壁に貼られた開拓団の募集を見ていた。

 そして、若い初代は叫ぶ。

『これだ! これで出世して、アリスさんを迎えに行ける!』

 嬉しそうに駆け出す若い初代。

『この時だったな。安売りされていた青い玉を買ったのは。他のは高いのに、人気がなくて安かったんだよ。というか、俺らの時は魔具なんてなかったし、スキルと言ったら玉を買う事くらいしかなかったんだ。後でスキルを記憶してないと意味がない、って知ったけどよ』

 宝玉を買った理由が、人気がなくて安かったから――。

 相変わらず、とんでもない理由だった。

『何もないよりはマシか? しかっし、本当は赤いのが欲しいんだけどな』

 安く売られている青い玉を手に取り、手の出せない金額である他の赤と黄色の玉を見ている若い初代。

 初代は、そんな自分の姿を見て苦々しく思っているようだ。

『これが間違いだったのかも知れないな。もっとも、俺には選択肢なんかなかった。法衣貴族で騎士爵家の役職無しなんて、年金で生活する金食い虫だ。俺はそんな実家が嫌になって、いつかは独立して立派になる。……そう思っていたんだけどよ』

 場面がまたしても入れ替わると、今度は数年時間が飛んだようだ。

 セントラルの酒場で、前よりもワイルドになった若い頃の初代が泣きながら酒を飲んでいる。

「……何があったんですか?」

『……セントラルに一時的に戻ってきたんだよ。村の形がなんとなく出来たから、アリスさんに結婚を申し込もうと思ってな』

 結果は、俺が知っている通りだろう。

 アリアのご先祖様であるアリスさんは、ロックウォード家に嫁いだのである。

『もう、本気で何もかもが嫌になっていたな』

「そんな気がします」

 目の前で酒を飲んでいる若い初代は、泣きながら酒をなんども注文していた。

 初代が、結納金代わりに持ってきた金を、そのまま飲み代に使ったとボソリと呟くのを聞いて頭を抱えたくなる。

(いきなりそんな事をしても駄目じゃないか。最初に話を持って行くか、渡りを付けておかないと……というか、身分差がありすぎて門前払いだろ)

 身分違いの恋。

 運命など一ミリも交差しないまま、初代の初恋は終りを告げる。

 そうして今度は場面が一転し、のどかな風景が広がっていた。広がっていたが、そこでは熱い戦いが繰り広げられている。

 蛮族スタイルの若い初代が、同じような毛皮を着込んだ蛮族と殴り合っている。

「……なんですか、これ?」

『ん? あぁ、これはアレだ。元からいた王国に従わない連中の縄張りと、俺の領地がかぶってたんだよ。そうなると、誰のものか決めないといけないだろ?』

「いや、そんな殴り合いで決めるのを当たり前みたいに言われても……あ、勝った」

 若い初代が殴り勝ち、そのまま雄叫びを上げると周囲の蛮族たちが膝をついた。

 戦っていた男も、初代の前に膝をつく。

『懐かしいな。この時はもう考えるのが嫌で、ただ仕事をしていた時だ』

 そうして時代は進み、今よりも少し老けた初代が外で酒盛りをしていた。

 そこで叫ぶ。

『俺が嫁に迎えるのは、美人で健康で、丈夫! そして、頭が良くて肌の綺麗な奴だ! それ以外は興味がない! これはウォルト家の家訓だからな!』

 酒を飲んだ勢いで、とんでもない事を言い出した。

 初代は自分の姿を見て、溜息を吐く。

『この時はあれだ……もう、結婚とかしたくなかったな。アリスさん以上の女がいるなんて思えなかったしよ』

「あんた、本当に酷いな。これのせいで歴代当主が結構苦労するんですよね?」

『……お前、酒の席で言った事を真に受けると思うか?』

 そう言われたが、宴の席で話を聞いていた領民は、その発言を真剣に捉えている様子だった。

 誰々の娘なら条件は満たせないか?
 俺の娘は頭が悪い。
 俺の妹は頑丈じゃない。

 などと、真剣に話し合っている。

 そうした中で、一人まともそうな男性がいた。初代よりも年上で、額に手を当てて困った表情をしていた。

 服も他の領民より立派で、貫禄のある人物だ。

『あ、この人が『おやっさん』な。近くに領地があって、俺に色々と教えてくれた人だ。結局、この人が伝を頼って女房を連れてくるんだよ』

 『おやっさん』というと、この時代のフォクスズ家の当主だろう。

 俺はまともそうなおやっさんが、初代のせいで苦労しているのを見て申し訳ない気持ちになる。

「この時からフォクスズ家に頼っていたんですね。俺たちウォルト家は、どれだけ世話になったんでしょうね」

『良い人だったぞ』

 嫌味を言ったのに流され、俺は溜息を吐く。

 そして場面は切り替わると、少し広がった村が燃え上がっていた。

 記憶の中の初代は大剣を持って目の前の魔物……灰色の皮膚を持ち、強力なアゴ、そして大きな前足を持つドラゴンの亜種と向き合っていた。

 手にしている大剣は、長さだけでも人一人分はある。

「あの剣は……」

 俺が宝玉を握りしめたときに出てきた剣に、似ているとすぐに理解した。

『村にこんなでかい魔物が来てよ。男手かき集めても無理そうだった。だから俺が前に出たんだよ』

 大剣を持った初代は、スキルの名前を叫ぶとそのまま魔物と戦い始める。

 自分の倍以上ある魔物を、力任せに振り回した大剣で斬り、吹き飛ばす。

 その姿は、本当に一人の英雄だった。

『フルバースト……俺の切り札だ。自分の能力を二倍にも五倍にもしやがる』

「え? そんなにですか? 俺の時はそこまではなかったような? でも、そんなに能力を引き上げて、反動とかないんですかね?」

『は? 知るかそんなの! デメリットなんか無視だ。無視!』

 初代らしい意見に、俺は苦笑いする。

『普段から魔力をため込んで、使用するときに一気に爆発のきっかけにするんだよ。ため込んでいた分だけ、能力を引き上げてくれる。俺なら一ヶ月かそこらで二倍から三倍だが、お前ならもっと早いだろうな』

 初代と俺では、保有している魔力の量が違いすぎた。

 その血に魔法使いの血を取り入れた五代目以降は、本当の意味で魔法を使用できる貴族になったのだ。

 そうしていると、最後にドラゴンの亜種の首を切り落として初代が勝利した。

 そんな初代に駆け寄る子供がいる。

 ――たぶん、二代目だ。

『……この時かな。こいつに父ちゃん凄ぇ、とか言われてその気になったのは。それまで父親らしいことは何一つしなかったし、女房にも楽をさせてやれなかった。だから、俺はこいつらに何かを残そうと思ったんだよ』

 子供時代の二代目は、父の勇士に憧れる少年だった。

 そして、時代はまたしても進む。

 そこは更に広がった村だが、俺が思った感想は――。

「これは……でたらめじゃないですか」

『……』

 初代は黙る。

 畑仕事をしている記憶の中の初代に、成長した二代目が怒鳴っていた。

『いい加減にしてくれよ! こんなでたらめに畑を広げて……そのせいで領民の間で喧嘩も起きているんだ! 少しは考えてくれよ!』

 そして、その光景から時間がまたしても進むと、屋敷の中に俺たちはいた。

 初代が住んでいた屋敷は、今のウォルト家と比べるのもおかしいほどに質素だった。

 初代が鍬を持って外に出ようとすると、その横を黙って二代目が通り過ぎる。

 互いに視線を合わせることもしていない。

『……間違ったんだよな。俺は少しでも何か残してやりたかったんだが、結局残ったのは領地の問題だけだった』

 無計画に広げた畑に、領民同士の問題を初代は自身のカリスマや腕力で黙らせていた。

 誰よりも働いたのが領主である初代――バジル・ウォルトであり、そして村を救った英雄には誰も逆らわない。

 だが、その不満は二代目に向いているようだった。

『少しでも食べられるように、ってよ。森を切り開いて畑を広げて……気付いた時には、問題ばかり残していた。誰も俺には文句を言わない。だが、その文句が二代目であるあいつに向かったんだよ』

「初代……」

『昔は最後まで無視だったけどな。ここに来て、あいつが俺に文句を言ってきた時は……正直、嬉しいもんだった。親子喧嘩とか二代目がガキの頃しかやってなかったからよ』

 普段の喧嘩腰の初代と二代目のやり取りは、二人にとって以前よりもマシだったようだ。

 初代も二代目も不器用なのだろう。

 そうして、場面は初代がドラゴンの亜種と戦う場面に戻る。

『俺の時代は混乱から立ち直って、これから生活が豊かになる、って時だった。戦争で潰れた村も多かったが、開拓に乗り出してよ。だけど食料は少ないし、食べるにも困るのは珍しくもない』

 厳しい時代だったのは聞いている。

 ウォルト家も開拓村で厳しい時代があったと、まだ優しかったときの父が話してくれた。

 そんな村を率いた初代は偉大だったとも言っている。

 理由はともかく、本当に偉大な人だった。

『ライエル、お前は食うに困ったことはあるか?』

 正直に言えば、ない。

 俺は家族とは距離を置かれていた時でも、食事は出ていた。

 追い出されても庭師のゼルが、そしてノウェムがいたので飢えることはなかった。

(きっと、怒るんだろうな)

 贅沢と言えば贅沢だろう。

 食うに困った初代からすれば、追い出されても飢える心配のなかった俺は、見ていて気持ちの良いものではない。

 それなのに、ナヨナヨ、クヨクヨしていれば怒鳴りつけたくもなる。

「……ないですね。俺は飢えたことがなかった。お腹が空いた経験はありますが、そんな時でも食事はできましたし」

 何か言われると身構えたが、初代は振り返ると笑っていた。

『そうか。それならいい。俺の子孫は食うに困らないわけだ。なら、俺のやってきた事もまったくの無駄じゃないわけだ! 最後に良いことを聞いたぜ!』

 笑顔の初代は、そう言うとどこから取り出したのか大剣を俺に差し出してくる。

 それは、銀色に輝くあの時の――。

 赤いオークを一撃で斬り伏せた大剣だった。

『最後のスキルを教えてやる。使わせた時はバタバタしていたから、しっかり教えてやらないとな。スキルの名前は【フルバースト】。普段ため込んだ魔力を一気に解放し、爆発的に能力を上げるスキルだ。目の前のあいつと戦ってみろ』

 初代は、ドラゴンの亜種を指さした。

 飛ぶことも出来ず、ドラゴンと少し似ているだけの魔物だが、ドラゴンはドラゴンだ。

 危険な相手である。

「え? でも、魔力を貯めてなんかいませんよ」

 そう言うと、初代は俺の頭に手を置いた。乱暴にかき乱すと、そのまま力が溢れて来る。

『俺にもできたんだ。お前ならもっと上手くやれるさ……行ってこい!』

 そう言って俺の背中を平手で打つ初代。

 ヨタヨタと前に出ると、先程まで止まっていた記憶の中のドラゴンが、動き始める。いつの間にか、記憶の中の初代は消えていた。

「まったく、いつも突然なんですよ。振り回されるこっちの身にもなってください!」

 大剣を持って駆け出すと、そのまま大剣を振るう。

 どう考えても振り回せそうにない大剣だったが、スキルの効果なのか簡単に振り回せた。

(こんなスキルがデメリット無しで使用できるとか、もう卑怯としか言いようがない)

 大きな前足で俺を踏みつぶそうとするドラゴンに、俺は後ろに下がって魔法を使用する。

『ファイヤーバレット!』

 指先から火の弾が次々に撃ち出されるのだが、その一撃一撃は非常に強力だった。

 ドラゴンにぶつかると爆発し、巨体を怯ませるばかりか後ろにまで押し返す。

 そうして、二発目の魔法を使用する。

 威力を確かめる意味合いもあった。スキルで能力が底上げされ、どれだけの威力になるのか――。

「ライトニング!」

 紫電がドラゴンに襲いかかると、周囲が急激に明るくなった。

 魔法による光だったが、普段以上の攻撃力に俺自身も驚く。

 想像以上だった。

「これは……扱いに慣れないとまずいな」

 下手をすると味方まで巻き込みそうな威力に、俺は冷や汗を流した。そして、走り出すと飛び上がる。

 黒焦げになったドラゴンが、俺を探すために首を左右に振った。

 しかし、その時俺がいたのはドラゴンの頭部――その真上である。

 大剣を振り下ろし、首を吹き飛ばした。

 初代と同じとどめの差し方である。

 そして、スキルの効果が切れると大剣が非常に重く感じられ地面に突き刺した。柄を握りながら、体重を預ける。

「やっぱり……きついですね」

 そう言うと、初代が歩いてくる。俺を見て笑っていた。

『そこまでやれれば問題ねーよ! 流石は俺の子孫だな』

 俺は呼吸を整えると、そのまま預けていた体重を戻して大剣を担ぐように持つ。

 初代は右手を上げた。

 俺はなんとなく察すると、同じように右手を上げる。大剣は左手に持って地面に突き刺しておいた。

 そのまま、初代と共にハイタッチを力強くおこなう。

 手が痺れるが、気分は良かった。

『ライエル、お前……目標は決まったか?』

 そう言われ、俺は初代との今までの会話を思い出した。答えずにいると、初代は笑顔で「まぁいい」と呟いた。

『お前がこれからどうするか決めろ。どこかで独立してもいい。村を興して領主になってもいい。冒険者で名を残してもいい。ノウェムちゃんと静かに暮らすのも悪くないかもな。俺としては、アリアちゃんも気にかけて欲しいがよ。それと……セレスにだって挑んでもいいんだぜ』

 セレスに挑むと聞いて、俺は胸を鷲掴みにされたような気分だった。

 恐怖がよみがえる。

 初代はそんな俺に、期待していような口ぶりだった。

『きっと止められる奴がいるなら、お前かも知れないな。ま、お前の自由にしろ。後の事は他の連中に聞けばいい』

「え?」

『俺の役目はこれで終りだ。伝えたい事は伝えたし、お前なら後を任せても大丈夫だろうからな。俺なんかより、よっぽど頼りになる』

 何を言っているのか理解できなかった。

 いや、俺は認めたくないだけなのかも知れない。初代がこのまま俺の前から去ることを。

 そして、俺は初代を引き留める。

「待ってくださいよ。まだ俺には初代の……バジル・ウォルトの助言が必要なんです! いつもみたいに勘で俺を助けてくださいよ。初代の勘は凄く頼りになるんですよ!」

 泣きそうな声になっていた。

 自分でも、どうして泣きそうなのか分からない。

『俺には知識も技術もない。それにな……勘なら二代目も相当なものだぜ。何しろ、あいつは俺の息子だからな。おっと、お前も子孫だったな!』

 ガハハハ、と笑う初代はもう思い残すことはないといった印象だった。

『しょせん、俺たちはスキルの残した記憶だ。本人は死んでる。宝玉の中のスキルそのもの……全てを伝えたら、こうなるんだよ』

 伝えたら消えてしまう。いなくなってしまう。

「知って……いたんですか?」

 俺の声は、震えていた。

 初代は首を横に振る。

『いや、なんとなく、だな。分かるんだよな……あいつらも薄々感づいているみたいだし、詳しいことはあいつらに聞け』

 俺は初代に手を伸ばすと、初代は言う。

『もう、俺のスキルはお前のものだ。好きに使えよ、ライエル……そして、負けんなよ』

 何に負けるな、と言ったのか?

 それを聞こうとしたが、声が出る前に周囲の光景が一変した。





 宝玉内のいつもの部屋で、俺は今まで初代の部屋のドアがあった場所に手を伸ばしていた。

 テーブルに足を乗せた二代目は、俺に声をかける。

『泣くな、みっともない』

「え?」

 言われて顔を触ると、俺は泣いていた。

『全部伝えたんだ。役目を終えたんだよ』

「で、でも! 宝玉なんですよね? だったらなんでこんな形なんですか! 伝えるだけなら、玉だってできますよ。わざわざ出てきて、消えるって意味が分かりませんよ!」

 俺の叫びに、二代目は淡々と答える。

『……玉は全てを伝えない。それこそ、スキルの全てを把握しなければ、使用させるのは一部だけだ。俺たちはお前にスキルを教えるためにここにいる。こうして存在している。知っているか? 俺たちの記憶は最後に玉に触れたところで終わっているんだ。つまり、次の代に玉を渡した時点までの記憶しかない』

 それを聞いて、俺は唖然とした。

 俺にスキルを教えるためだけに、ご先祖様たちがここにいる。いや、スキルがご先祖様たちの姿を模しているとも言えたからだ。

『お前と問題なく話せた事もおかしかったんだ。俺たちの使っていた言葉は少なくとも二百年前のものだぞ。お前が古い本を読んで読みにくい、って言ったのに、こうして俺たちは普通に会話できる。なんでだと思う?』

 二代目の考えに、俺は答えを出した。

 そうしなければ意味がなかったのだ。

 俺にスキルを伝えるために、ご先祖様たちが俺に言葉をあわせている。時代が違えば、微妙にしゃべり方も違ってくる。

 それは、昔の書物などを見れば明らかだ。言い回しや、流行った言葉……言葉は移り変わっていくのに、こうして問題なく会話できる。

 それは、宝玉が俺に伝えたいことがあるからだ。

 ――それが、宝玉の役目だから。

『気付いたか? そうだよ。俺たちはお前にスキルを伝えるためだけに存在している。使用方法を教え、そして効果的な方法まで含めて、な』

 俺は、握った大剣が手元からなくなっている事に気がついた。

 そして、大剣は今まで初代が座っていた場所に浮かんでいる。

 椅子はなくなり、ドアもなくなり……テーブルの上に、かつて初代がそこで座っていた場所に浮かんでいた。

 銀色の大剣は、鍔に青い宝玉が埋め込まれている。

 その大剣こそが、初代が俺を認めた証でもあった。

「なんで……だったら、なんで俺にこんなに……伝えるだけなら、それだけでいいじゃないですか! どうしてここまで関わって、それで悲しい思いまでしないといけないんですか!」

 最初は嫌だった。

 口うるさく、迷惑なだけだと思ったこともある。

 だが……色々と教えてくれた。

 俺を認めてくれた。

 なのに――。

 俺がその場に崩れ落ちると、二代目が言う。

『俺たちだってそうしたいよ。けどな……記憶ばかりか、心まで記録しやがった。放っておくこともできないだろうが。それに俺たちは初代に……バジル・ウォルトにお前の事を任されたんだよ』

 放置できなかった、と二代目が言う。俺は、どう答えて良いのか分からなかった。

 情けなかった。

 最後まで、俺は初代に目標を言うことも出来ず、情けないまま別れてしまったのだ。

「……また会えますか?」

『……お前の次の所持者がいれば、会うのは可能だろうな。今度はお前も俺たち側だが。けど、俺たちが今の記憶を覚えているかは知らない。覚えているメリットが少ないだろ。使い方やスキルの名前を教えれば良いんだから』

 結局、俺は二度と初代に会えないのだ。

 宝玉に記録される俺は、俺のスキルであって本当の俺ではない。

 二代目が言う。

『そもそも、こうして会えているだけでも奇跡だ。青い宝玉を俺たち一族が受け継ぎ、こうしてお前が引き継いだ。ライエル、お前は悲しむな……むしろ、誇りに思え。あの人に……俺の親父に認められたんだ。胸を張れ』

 そう言われた俺は、現実世界で目を覚ます。





「ライエル様、大丈夫ですか?」

「……ノウェム?」

 ベッドで横になっていた俺に、ノウェムが心配そうに顔を覗き込んできた。

 別々の部屋に寝ていたはずなのに、ノウェムは俺の部屋にいる。

「うなされていたようです。いや、その……泣かれていたようなので来てみたのですが」

 俺は顔をぬぐうと、涙を拭いた。

 無理矢理笑顔を作ると、ノウェムに微笑みかける。

「大丈夫だ。少し悲しい夢を見たんだけど、今はスッキリしているよ」

「悲しい夢ですか?」

 ノウェムが首をかしげると、俺のために水に濡らしたタオルを差し出してくる。受け取り、顔を拭くと俺は自分に言い聞かせた。

(いつまでも泣いていたら、本当に初代様に怒られるからな。俺はもう、バジル・ウォルトに……地方貴族であるウォルト家の祖に認められた男なんだ)

 今にして思えば、蛮族スタイルで横暴なところもあった。

 だが、頼りになる人だったのは間違いない。

 そして、皮肉にも俺を一番嫌っていながら、最初に本当の意味で認めてくれた人でもある。

(俺は、あの人に認められたんだよな)

「何か温かい飲み物を用意しましょうか?」

 ノウェムが心配そうにしているので、俺は頷いておく事にした。

「そうだな。一緒に何か飲もうか」

「はい」

 そう言ってノウェムが準備に向かうと、俺はノウェムに声をかけた。

「ノウェム……ありがとうな」

 すると、ノウェムは少し不思議そうにしていたが、笑顔で頷いてくれた。

「今日はどうしたんですか、ライエル様?」

「いや、伝えておきたい気分だったんだ。深い意味はないよ」

 ベッドから起き上がり、俺はノウェムと一緒に台所へと向かうのだった。
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