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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないなら開き直ればいいじゃない! 十六代目

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初の共同作業

「中央部隊の右翼が後退します。左翼も後退させた方がいいかと」

 モニカの声を聞きながら、俺は前方で必死に耐えている味方を見ていた。ブロア将軍の指揮する中央は強固だ。だが、中央の軍勢――その右翼と左翼は崩されていた。

 ウォルト家の激しい攻撃に加え、粘り強さも見せられては地味な戦いが続いていた。左翼や右翼は後退しており、中央が突出した形で戦が続いて十日目に入ろうとしていた。

 野戦では珍しいが、こちらはある意味で籠城戦をしているような状況だ。今は耐えるしかなかった。

「伝令を出す。このまま後退させて、怪我人は後方へ送れ」

 後方へ送った部隊や兵士たちは、そこで再編を行なっている。次々に増援が来ても、今は増援よりも怪我人の方が多かった。

 モニカは俺に向かって言う。

「……チキン野郎、撤退を進言します。これ以上は無駄かと」

 俺は拳を握りしめた。





 ――ウォルト家の陣営。

 天幕の付近では戦場を見渡すマイゼルの姿があった。戦場はマイゼルたちに大きく傾いているように見える。

 後方から次々に増援が来たとしても、それ以上の敵が下がっているので直に相手が力尽きるのも時間の問題でしかなかった。

 なのに、どこかマイゼルは気に入らなかった。

「妙だな。初日ほどの手強さを感じない」

 椅子に座って呟くと、副官でもあるベイルがマイゼルの意見に対して。

「二日目で戦意を大きく削がれたのでは? それに、右翼ではフォクスズ家同士で戦っております。派手にやり合って後退を続けており、左翼の敵も下がって中央が突出していますから」

 マイゼルは頷きながら。

「ある意味で要塞だな。それを作ったがために、陣形の変更が困難。加えて身動きが取れなくなったか。それは分かっているのだが、どうしも引っかかる」

 臨機応変に陣形を変えては戦い、そしてマイゼルの指揮下で命令通りに動く軍勢。バンセイム最強は伊達ではなく、本当に軍勢が一つの生き物のようだった。

 そのため、勝利も近いと誰もが思っていた。思っていたが、マイゼルはなにか引っかかりを覚えていた。フォクスズ家のジェラードがいれば助言をしたかも知れないが、今は右翼で自身の娘と戦い離れられない状況だった。

 ベイルがマイゼルの不安を感じ。

「確かに、別働隊が敵に撃ち破られましたが、全体を見れば小さな問題でしかありません。このまま敵を押し込めば敵は自分たちが築いた陣地から出て逃げることになります。そこから追撃戦に入れば勝利など容易いのでは?」

 マイゼルはアゴに手を当てながら頷いた。

(そうだ。確かにそれでいい。だが、初日にあれだけこちらの手の内を読み、対応してきたのにこの戦い振り……兵士を命令通りに戦わせるのは確かに難しいが、それならもっと早くに崩れても良かった)

 野戦ではなく、まるで敵の砦でも攻めているかのような感覚に、マイゼルはふと父の顔を思い出した。

(……そう言えば、父は城や砦を攻め落とさせたら右に出る者がいなかったな)

 何故、今……父の顔を思い出したのか? マイゼルは少しだけ気になっていた――。





 夜。

 撤退を開始した自軍を見ながら、俺は夜空を見上げていた。

 すると、エヴァが近付いてくる。

「星を見ている時に悪いんだけど、色々と報告があるわ。敵の遊撃隊か偵察か分からないけど、そういった連中を追い返しておいたから」

 エヴァはエルフであり、足腰は並の兵士などより強い。しかも、ダークエルフたちを率いており、そのダークエルフたちは森に住むエルフだ。闇夜に強い上に足が速くこうした仕事が得意だった。

「……悪いな。忙しい仕事を押しつけて」

「いいわよ。見返りは求めるし。協力しているダークエルフたちも、ライエルのためというより自分たちのためでもあるから」

 俺は少し笑った。

「ま、そうでないと逆に疑わしいからな。サウスベイム付近の森に関して、だろ? しっかり管理をするならくれてやるさ。ただし、閉鎖的すぎるのは駄目だ」

 エヴァは肩をすくめると、俺をジト目で見ながら。

「今時、引きこもってばかりじゃ生活なんて出来ないわよ。サウスベイムも近いし、交流は必要なの。でも、良かったの? サウスベイムの事を考えたら、水場とかあの辺は切り開いて開発した方がいい、ってアデーレが言っていたけど?」

 アデーレさんが言うには、エルフにくれてやるならもっと他の森でも良かったそうだ。サウスベイムの発展に足かせになる可能性があるため、というのが理由らしい。

 俺からすれば、サウスベイムにも足かせが必要だった。

「いいんだよ。ベイムだけを見れば問題だけど、大陸全体を見れば必要なんだから。それに、俺は約束を守る男だからな」

 エヴァはそんな俺の言葉を聞いて。

「出来る約束しかしないわよね? まぁ、それならいいわ。里長が気にしているみたいだから、確認しておきたかったのよ」

 誰もが自分の利益を求めて行動する。それを悪いとは言わない。だが、人を使う場合は、相手が何を求めているのか知らなければいけない。

 皇帝など目指さなければ、そんな事に頭を悩ませる必要などなかったのだろう。ただ、引き返す事もできなかった。

「……エヴァ、少しいいか?」

「なに? 今は休憩中だからいいわよ」

 俺はエヴァに振り返って言うのだ。

「少し、七代目――ブロード・ウォルトについて話をしたい。ほら、歌のために情報提供だ」

 笑顔で言うと、エヴァは少し笑った。嫌そうと言うよりも、面白そうという感じだ。最初はご先祖様自慢と思っていたようだが、歴代当主の良いところも悪いところも聞けるとあって、エヴァは楽しそうだった。

「いいわね。いつか完成させてあげるわよ。でも、そうなると残りは……今戦っているライエルのお父さんと、三番目の人よね?」

 俺は頷いた。

「あぁ、そうだ。三代目はまた今度にでも話すよ」





 ――それはライエルが戦場に向かっている日の事だった。

 七代目の記憶の部屋で映し出されている光景は、マイゼルとクレアが赤ん坊を抱いている姿だった。クレアは疲れた表情をしているが嬉しそうで、マイゼルは目の下に隈を作っていた。

『でかしたぞ、クレア! しかも男の子だ!』

 マイゼルは喜んでいた。そして、クレアも同じだ。男の子を産めたというのは、それだけ意味があった。

『はい! でも、今はこの子が無事に大きくなれればそれだけで……あぁ、本当に生まれてきてくれてありがとう、ライエル』

 ライエル――それは、ライエルが生まれた時の光景だった。老いたブロードと、ゼノアもその場にいて感動していた。

『わ、わしの孫か。こんなに可愛らしいなんて。し、しかし、孫もウォルト家の子! 厳しく育てねばならんぞ!』

『……貴方、孫のために色々と買い揃えておいて、そんな事を言われても説得力がありませんよ。なんですか? 三歳くらいまでの玩具や服まで買って。そういうのは家族に相談してから買うものですよ』

『ゼノア、そんなに怒らないでくれ。ほら、たまたまセントラルに行ったら売られていてだな』

『……商人たちは孫が生まれると聞きつけ、貴方の目に留まるようにしているのですよ! まんまと騙されて』

 ブロードとゼノアが話をしていると、生まれるまで一睡も出来なかったのかマイゼルがその場に倒れた。部屋の中にいた女中やブロードたちが大慌てで。

『マイゼルゥ! しっかりせんか!』

 ブロードが肩を両手で掴んで前後に揺らすと、ゼノアがブロードの後頭部を叩いた。

『落ち着くのは貴方です! 私のマイゼルになんという事を……すぐに部屋に運びますよ』

 クレアも赤ん坊を抱きながらアワアワと慌てていたが、抱かれている赤ん坊だけはのんきに小さな欠伸をしていた。

 ライエルがそんな光景を見ながら、少し悲しそうに笑っていた。

「なんか、今から思えば少し驚きですね。こういう時もあったんだな、って」

 すると、ブロードが指を鳴らした。直後、周囲の光景は灰色に染まって違う場面を映し出す。

 そこはウォルト家の屋敷で、小さなライエルが走り回っていた。そんなライエルの周りには、無骨そうな騎士たちがいて――。

『若様お待ちください!』

 笑いながら走り回るライエルに、女中や騎士たちも追いかけていた。すると、まだ若い頃のベイルがライエルを捕まえ、そして抱き上げた。

『ライエル様、みなを困らせてはいけませんよ』

『べいゆ!』

『アハハハ、ベイルですよ、ライエル様』

 舌足らず。しかし、二歳にもなっていない子供だと思えば、走り回っているのは凄い事だろう。七代目が、ライエルに笑いながら話をした。

『この頃のお前は成長が早かった。元気で駆け回り、それに好奇心も旺盛で屋敷を走り回っていたよ』

 ライエルが恥ずかしそうにしていると、周囲の光景を見て少し悲しくなった。屋敷の人間たちが、自分に向かって笑顔を向けていたのだ。

『……わしが生きている時は、確かにお前は跡取りだった。そして、誰からも期待されていた。そして、お前にはそれだけのものがあった』

 七代目がライエルに振り向いた。

『さて、ライエル……本題に入ろうか』

 ライエルと七代目が向かい合うと、周囲の光景が時を止めて灰色に染まって崩れ去っていった――。





 ――翌日。

「敵部隊、本陣を捨てて逃走を開始しております!」

 伝令の言葉に飛び起きたマイゼルは、すぐに装備を着用しながら命令を出す。

「追撃の用意をさせよ! 抜かった。夜の内に逃げ出すとは……だが、このままルフェンスまで攻め込めばたいした問題でもないか……いや!」

 部下たちが急いでマイゼルに鎧を着せていくと、準備が整いマイゼルが天幕から外へと出て行った。

 部下たちが急いでマイゼルの下に集まってきていた。

「マイゼル様、敵はまだ逃げ切れていない様子です」

 ベイルが近付いて報告をしてくると、マイゼルは叫んだ。

「私の馬も準備しろ。このまま全軍で追撃をかける」

「し、しかし! マイゼル様まで追撃に出られなくとも」

 ベイルの言葉に、マイゼルは言い返す。

「これだけ用意周到な敵だ。領地に戻れば防御を固めているかも知れん。深追いする訳にもいかん。負けるとは思わんが、こちらの被害も大きくなる。追撃をかけ、その後は撤退だ」

 これ以上は危険と判断したマイゼルは、ライエルが防御に偏った陣形を好むと思っていた。実際、戦ってみても攻める姿勢があまり見られない。そうなると、領地ではかなり準備をしているかも知れない。

「あまり離れすぎて私のスキルが届かなくなれば、逆にこちらが危うい。敵はスキル特化である事を忘れるな。なに、軽く当たるだけだ。護衛はお前たちに任す」

「はっ!」

 マイゼルの命令の下、軍勢が追撃のために動き出した。馬が用意され、マイゼルが跨がると敵陣へと先発隊が入り込んで柵などを破壊していく。抵抗がない防御のための柵や板が破壊され、燃やされていく。

 そして、ウォルト家の軍勢は追撃戦を開始するのだった。砦を突破して追撃に出た部隊が見つけたのは、逃げている敵の部隊だった。

 一箇所に逃げていくのを遠目に見た軍勢は、そこに向かって動き出す。幸い、抜け道もないので相手が囮という事はない、という指揮官の判断で軍勢が移動を開始。

 マイゼルも護衛に守られながら先へと進んでいた。

 だが。

「おかしい」

 マイゼルは、周囲の光景を見てそう呟いた。徐々に狭まる道はわざわざ用意されたものだった。加えて、逃げている敵がまるで悲壮感が感じられない。それに少なかった。

 近くにいたベイルに向かい、マイゼルは言う。

「退くぞ。これ以上は危険だ。それと、マジックシールドを展開させておけ」

 ベイルが命令を出そうとした瞬間だった。火薬の爆発した懐かしい音が聞こえてきた。空気を揺らすような音は、父であるブロードを思い出させる。更に、マイゼルたちの後方で爆発が起きた。

「何事だ!」

 マイゼルが振り返ると、味方が馬の制御が出来ないのか止まらない様子だった。これでは立ち止まって方向転換をすれば倒れてしまう。振り返るだけで済ませると、そこに見えたのは小高い場所に陣取った二つの部隊が銃でマイゼルたちの後方に発砲しているところだった。

「銃だと!」

 マイゼルが叫ぶと、ベイルも叫んだ。

「マイゼル様、お気を付けください――奴ら、大砲まで持ち出しております!」

「大砲だと。その程度がなぜ防げん!」

 マイゼルの疑問に答えられる者たちはいなかった――。





 ――隠れ潜んでいた部隊。

 その二つの部隊は、敵が通る道を挟むように配置されていた。そして、射線が交差するように銃を発砲している。

 味方を撃たないようにするため、そして敵は交差する射線上にいて身動きが取れないでいた。マジックシールドは展開しているが、ベイムから持ってきた大砲や改良した銃で攻撃を加えていく。しかも大量の弾丸の雨だ。

 徐々に防ぎきれなくなり、被害が大きくなっていた。

 そんな部隊の一つを指揮しているのは、目出度く結婚する事になったアレットだった。

 ライエルから部隊を借り、夫となるバルドアから指導を受けて銃を持つ部隊の指揮を執っていたのだ。

「見たか、バンセイムの兵士たち! これが私とお……夫! との共同作業だ!」

 すると、部隊の副官がアレットの傍で溜息を吐いた。バルドアが連れてきたランドバーグ家の従士であり、この度目出度く騎士に取り立てられた男だ。そんな男がアレットの傍にいるのは、アレットが主人の妻になるから、である。

「奥様、今率いている兵士はバンセイム出身の者が多いんですから、発言には気を付けてください」

「す、すまない! い、いや、そういうつもりではないんだが」

 副官が首を横に振りながら、再び前に視線を向けた。

「上手く分断は出来ました。騎馬隊も音に驚いた馬が言う事を聞かないみたいです。急に止まれないで、この先に進んでしまいましたね」

 アレットは、わざとらしく咳払いをしながら、姿勢を正した。

「そうだな。計画通りだ。敵は銃や大砲を軽視しているからな。それを利用して挟み撃ちに――」

「違います。上手く運用しないと効果を発揮できないんです。今だって思ったほど相手を倒せていませんからね」

 マジックシールドを展開しており、思ったほどのダメージを敵に与えていない。ただ、奇襲としては大成功だった。混乱するウォルト家の軍勢は、徐々に立ち直り始めアレットやバルドアの部隊へと兵を派遣し始めた。

「来るか!」

 アレットが剣を抜こうとすると、馬に乗ったエリザが杖を肩に乗せながら。

「お前たちは攻撃を続けろ。敵は私たちが近づけさせない」

 反対側では、バルドアをグレイシアが守っている。そして、それはライエルたちにとって好都合だった。

 分断された突出した部隊に、ライエルが率いる主力部隊が突撃をかけようとしていたのだ。

 エリザは言う。

「このまま敵を分断させておく。敵の大将の首が取れれば、この戦いは我々の勝ちだからな。それに……ライエルの邪魔はさせないよ。さぁ、始めようか」

 エリザが杖を向かってきた敵に向けると、氷の矢がエリザの周りに発生した。その数は数百を超えており、一斉に放たれると向かってきた敵のマジックシールドを貫通して次々に敵に突き刺さる。

 ライエルたちの反撃が始まった――。
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