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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないなら開き直ればいいじゃない! 十六代目

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ヒヨコ様

「この劣化品共……どう考えても、ヒヨコ様のお世話も私の仕事でしょうに。おっと、馬鹿共が来る前に、手早くチキン野郎の寝室の鍵は交換しておかないと」

 ――夜。

 ライエルの部屋の前でスカートとエプロンの間から工具を取り出したモニカは、鼻歌を歌いながら素早く鍵の交換を行なっていた。

 ヴァルキリーズが急にヒヨコ様――ライエルの子供のお世話で盛り上がっているのを危惧し、こうして動いていた。

 鍵を交換すると、ドアを開けて一言。

「鉄板も仕込んでありますから、そう簡単には突破できません。無理をすればチキン野郎が飛び起きて、夜這いは失敗……馬鹿め、可愛いヒヨコ様たちはみんな私のものだ!」

 笑い出したモニカは、鍵とドアの内部に仕込んでいる鉄板を確認してドアを閉めた。ライエルに交換した鍵を渡すために移動をする――。





 ――ルフェンス王城の壁に張り付いたのは、ヴァルキリー九号だった。

 鍵を交換したと安心しているモニカを、窓の外から見ていたのだ。黒装束に加え、壁に張り付いている姿はいかにも不審者である。

「……精々、そうやって欲張っていれば良いのです。性能は確かにそちらが上ですが……数はこちらが上だというのを理解していない様子。昔の偉い人も言っています。戦いは数なのですよ」

 九号が、ライエルの部屋の鍵に細工をしようと窓に入ろうとする。しかし、窓を開けて廊下に入って着地をすると、同じタイミングで同じように黒装束を身に纏った他のヴァルキリーズたちもドアの前に現われた。

 一人は天井から飛び降り、一人は物陰から現われ――。

「あ、貴方たち!」

 九号が立ち上がって戦闘態勢に移行すると、三十二号が鍵に細工するために持ち出した工具を構えた。

「考えている事は同じですか。しかし、こちらは既にアリアさんも焚きつけているので、後には退けません」

 拳を構えた五十一号も、同じように退けないという。

「こちらとて同じです。三十四号が言うには、ヒヨコ様のお世話は持ち回り制にしてくれるとの事……ここで退くわけにはいかないのです!」

 九号は他の二体を見ながら、提案をするのだった。

「待ちなさい。我々は協力できると思いませんか? ここで争っても意味はありません。お互いのために、協力する事こそ――」

 すると、メイド服姿のヴァルキリーズが三体――その場に駆け込んできた。

「させません!」
「ご主人様のお部屋の前で何をしているのですか!」
「不審者です。排除しましょう。例え姉妹だとしても、こんな変な恰好をした時点で他人です。ライバルは消えるべきです」

 三体目が過激な事をいう中で、黒装束の三体が説得に入る。

「ま、待ちなさい。互いに協力すれば――」

 すると、メイド服を着たヴァルキリーズは言う。

「――残念。私たちはシャノン派です。他の方々がヒヨコ様を得られても、我々は当分先になるでしょう。だから……邪魔をすると決めたのです!」
「駄目可愛いヒヨコ様を得られるチャンスを逃したりしませんよ」
「シャノンさんの駄目さを引き継ぐヒヨコ様……最高だと思います」

「なんと消極的な! 他の者たちの足を引っ張るなど……ちょっとだけ羨ましいと思った自分が悔しい」

 元は優秀なはずであるオートマトンのメイドたちが、とても残念な会話を繰り返していた。互いに工具や掃除道具を構え、ドアの前で固まって動けずにいた。

 そんな様子を遠くで見ていたのは、仕事を終えたライエルだ。遠くからその様子を見て、なにも言わずに執務室へと向かう。

「今日は仕事部屋で寝るか。毛布もあるし」

 そう言って、ライエルが戻らない部屋の前でヴァルキリーズたちは互いに向き合い朝までその体勢を維持するのだった――。





 ここ数日。

 俺は自分の寝室に戻っていない。モニカには新しい鍵を渡され、部屋の前ではヴァルキリーズたちが互いに武器? を持って向かい合っていたからだ。

 聞けば、ヒヨコ様がどうとか言うばかりで……というか、俺の子供がヒヨコ様呼ばわりで決定しているのがおかしい。なんだ? 全員が俺をチキン野郎だと認めているようなものではないか。

 その日から執務室、または違う部屋で眠る日々が続いた。ある時など、ブロア将軍の執務室で眠った事もある。仕事の話をした後に、そのままソファーで寝かせて貰った。

「なんで俺が逃げ回らないといけないんだ」

 愚痴をこぼすと、三代目が笑っていた。

『可愛いじゃない、ヒヨコ様。しかし、確かに放置も出来ない問題だよね。ただ、タイミングが悪いかな』

 ウォルト家が動き出し、王城内も慌ただしいというのに無駄な騒ぎを起こすヴァルキリーズ――絶対にコアが何かしらの影響をヴァルキリーズに与えているのだ。そう思うと、コアに刻まれた制作者である古代人たちの執念のようなものを感じずにはいられない。

 王城内の中庭で、準備の出来た騎士や兵士たちを見ながら俺はそんなどうでもいい事を考えていた。

 ただ、七代目は深刻そうに。

『……出来れば、一人くらい子供もいた方が良かったのだがな。今度の戦は今後に影響するものだ。バンセイムとの決着を付ける上では、正念場とも言える』

 三代目は俺に注意をするように。

『バンセイムとの戦いでは、ね。セレスは別問題だよ、ライエル』

 俺は子供と言われても気恥ずかしさや、色々な問題もあって答えられなかった。すると、七代目が言う。

『ライエル、今夜にでも宝玉内に来なさい。少し話をしよう。お前は色々と特殊な環境で育った。だから理解していないようだが……血を繋ぐというのは、とても大事な事なのだよ』

 七代目の言いたい事も理解できた。宝玉を握りしめ、了解の意を示すと俺は周囲を見た。

 出陣の準備は整い、周囲には主要な面子が揃っている。ノース、そしてサウスベイムからの部隊も合流し、四ヶ国連合からの増援部隊も来ていた。

 カルタフスとジャンペアは参加できないが、それでも準備は整っていた。

 青と白の鎧を装着し、兜を左手に持った俺は空を見上げた。青空には白い雲がまばらに配置され流れている。朝の寒さは、太陽が出たことで少しだけ緩んだ。日の光が暖かく感じた。

 ノウェムが、俺の方に歩み寄ってくる。

「ライエル様、出陣の準備が整いました。既に移動を開始した部隊もあります。我々も急ぎませんと。到着後には演説もありますので」

 今後の予定を話すノウェムに、俺は少し呆れつつも答えた。

「前の日に演説はしたんだけどな。まぁ、それも俺の仕事か。……ノウェム、フォクスズ家も動いている。お前は無理に出なくても――」

 そこまで言うと、ノウェムは首を横に振った。

 何度か下がらせようとしたが、意地でも退かないつもりのようだ。

「ライエル様と共にバイス領を出た時から、私は実家との縁を切っております。父や兄も、私がいたとしても躊躇(タメラ)うことはないでしょう。むろん、私も躊躇いません」

 気持ちの揺らぎなど感じさせない瞳で、ノウェムは俺を見てくる。「そうか」と言って、俺は歩き出した。周囲の主だった面子も俺に続く。

「……家族と戦うのは辛いな」

 誰にも聞こえない声で呟いたつもりだったが、ノウェムには聞こえたようだ。そして、そんなノウェムが言った言葉は――。

「ライエル様ならきっと乗り越えられます。もっと自信をお持ちください」

 ノウェムらしいとも言ったら良いのか、そういった言葉だった。

 記憶を引き継ぎ、ウォルト家に仕えてきたフォクスズ家。邪神と言われたノウェムの力を引き継ぐ一族。

 色々と思うところもあるが、今は前を――父であるマイゼル・ウォルトに集中しようと思った。





 夜。

 ポーターの荷台で横になる俺は、宝玉内へと意識を飛ばしていた。

 七代目に呼び出されたのもあるが、七代目に呼び出された理由が何となく理解できた。話すだけなら一人になれる場所を探せばいい。

 そうでないのなら、七代目が俺に見せたいもの――記憶を見せる時がきたという事だろう。

 円卓の間で待っていた七代目だが、周囲を見ても三代目はいなかった。

「三代目はどうしたんです?」

『席を外して貰った。いや、見守る必要がないと思ったのだろうな。何しろ、わしがお前に見せる記憶は……見た方が早いな』

 そう言って自身の記憶の部屋へと歩き出した七代目を追いかけ、俺も七代目の記憶の部屋へと入った。

 すると、見えてきた光景は、七代目の幼い時の様子だった。

 幼い七代目――ブロード・ウォルトは、涙ぐんでいた。

『……叔母上』

 そこはウォルト家の屋敷の玄関。玄関前に止まっていたのは、豪華な馬車と荷物を積んだ荷馬車だった。荷馬車も天幕が張られた屋根付きだ。しかも、周囲には馬を従えた騎士たちも控えていた。

 荷馬車には何やら大事そうに荷物を載せており、六代目ファインズと、五代目であるフレドリクスも顔を出していた。

 ファインズがブロードの頭を撫でながら。

『そう悲しむな。ミレイアにとってみれば、この縁談は最後のチャンスなんだぞ。いつまでも独り身ではミレイアも可哀想だろうが』

 俺は隣に立つ七代目を見ながら。

「なんか、六代目の物言いが失礼じゃないですか?」

 七代目も頷きながら。

『そうだ。まぁ、こんな事を言っても許される人だったのだよ』

 ミレイアさんは笑っていた。五代目のフレドリクスは、ある程度の距離を取っており話に加わろうとはしていない。

『兄上、それでは私が嫁ぎ遅れの年増に聞こえます。まぁ、事実なんですけどね。ただ、最後のチャンスだというのは理解していますよ。さて、ブロード君』

 ミレイアさんが屈んでブロードの目線に合わせ、金色の瞳でブロードを見つめていた。

『もっと良い人を見つけなさい。私より良い人を。……それと、私のようなひねくれ者には気を付けるように。ブロード君、真面目だから』

 クスクスと笑うと、ファインズが横から。

『どうした? 二人で何を話しているんだ?』

 笑顔を向けてくるファインズに、ミレイアさんは微笑みなら「なんでもありません」などと言っていた。ミレイアさんらしい、とも思えた。

 そして、俺は七代目の顔を見ずに。

「……もしかして、七代目の初恋の人って」

『たぶん、叔母上なんだろうな。この年齢では理解していなかったよ。屋敷にいる時は話し相手だった。父上も忙しかったが、それ以上にわしの悩みを理解してくれたのは叔母上だけだからな』

 周囲の光景が灰色に染まり、そして崩れ去ると違う場面へと移行した。そこでは、ミレイアさんとブロードが庭で何かをしていた。

 的のようなものを用意して、ミレイアさんが一発しか弾を込められない銃を持っていたのだ。

 色を取り戻した場面は、ゆっくりと動き始めた。

『兄上と比べられて辛い、ですか。困ったわね。兄上もブロード君にハルバードを勧めるのは、自分が教えたいからだと思うわよ。自分を超えて欲しいとか、そういった感情は薄いだろうし』

 俯いたブロードは、少しだけ顔を上げてミレイアさんの銃をみていた。

『……父上はそうでも、周りはそうは思いませんから。あの、銃の扱いを教えてくれませんか』

 ミレイアさんが少し驚き、そして何かを言おうとしていた。しかし、止めると首を横に振ってからブロードに笑顔を向けた。

『まぁ、覚えていて損はないでしょうから教えますよ。私くらいになると、こんな事もできるんですからね』

 そう言って的を見ないで銃を構え、発砲すると銃弾が的の真ん中を撃ち抜いた。その後ろの壁に銃弾がめり込んでいる。

『こ、これです。これなら僕も父上のように活躍できます!』

 喜ぶブロードに対して、ミレイアさんは少し困ったように微笑んでいた。

『そこまで気にする必要はないと思うわよ。兄上だって、完璧な当主ではないのだから。ブロード君らしい、ウォルト家の当主を目指した方が私はいいと思うけど?』

 ただ、ブロードはミレイアさんの言葉を聞いても俯いてしまう。

『……一杯勉強もしています。一杯鍛錬も積みました。それでも、周りは父上がいかに凄かったかを言うばかりです。凄いのは分かっているんです。僕も誇らしいです。でも、僕は父のように強くありませんから』

 ミレイアさんが、ブロードを慰めた。

『先代のフレドリクスお爺様は小柄だけど、それでも自分のやり方で――』

『でも、強かったじゃないですか! みんな父も祖父も凄かった、って! ウォルト家は先祖代々……強い家系だ、って。僕……僕は……』

 俺は七代目を見た。すると、七代目は少し照れくさそうにしていた。

『この頃は何をやっても父や祖父――六代目と五代目の背中しか見えなかった。追い抜けない大きな壁に思えたよ。何しろ、周りが褒め称えるのだからな。それに、だ。ウォルト家は大きくなり続けてきた。それがわしには重く感じたよ』

 少しだけ分かる気がした。父であるマイゼル・ウォルトもそうだったのだ。貴族らしく、というのを追い求めていた。

 今にして思えば、追い求めすぎていた。初代から七代目までの記憶と触れ合い、そしてそれらから結論を出した俺とは違う。

 人伝に美化された歴代当主たちの事を聞いて育った七代目は、大きな重圧の中にいたのだ。

『代を重ねる程に重くなる。次に繋げなければいけない。自分はどんな風に語られるのか? 義務や責任は家が大きくなるほどに重く感じた。父上が勝てば勝つほどに、ウォルト家の名声は上がっていく。だが自分は? そう思うことも多かった』

 俺が真剣に聞いていると、七代目はわざとらしい咳払いをしつつ。

『まぁアレだ。なにが言いたいかと言うとだな……ひ孫の顔が見たい』

 俺は口を開けてポカーンとした後に。

「え、それ? 今の話になんの関係があるんです? というか、なにを言っているんですか?」

 俺がジト目で七代目を見ると、七代目が弁解してきた。ジェスチャーを加えつつ。

『いや、だから、ほら! 代が続けば色々とあるが、悪い事ばかりではない。それに、だ。子がいなければ家が滅ぶ』

 確かにそれは思った。だが、いきなり真面目そうな話だったのに、こんな事を言われると誰が思うだろうか?

 すると、七代目が呟く。

『……ライエル、戦えばマイゼルかお前のどちらかが死ぬかも知れない。いや、どちらかが死ぬだろう。それに、マイゼルはゼノアの子。お前が優秀であるように、マイゼルも優秀だ。本来なら、戦う前に子を残しておいた方が良かったのだ』

 俺は七代目に。

「負ければそこで全てを失います」

『それでも、だ。多くの問題がある。だが、子がいなければ継いでくれる者がいない。どんなにお前が偉業を築き上げたとしても、継ぐ者がいなければ歴史に刻まれるだけだ。ハッキリ言おう。正妻や派閥、それらの問題は子が生まれないよりはマシなのだよ』

 俺が答えられずにいると、七代目が言う。

『……正直な気持ち、お前とマイゼルが戦うところなど見たくはない。だが、もう後戻りは出来ない』

 俺と父が戦う事で、危機感を七代目が募らせている様子だった。その様子から、きっと父は強いのだろうと予想できた。七代目が、俺の勝利を危ぶむほどに……。
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