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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないなら開き直ればいいじゃない! 十六代目

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知らぬは……

 地下三十五階。

 ベイムに来て数週間。迷宮に五千人も投入した訓練は、一つの大きな区切りに来ていた。

 時間的余裕がなかったのも大きいが、これ以上は先に進む事が出来ない。数で押すという作戦が通用しなくなってきたのもある。

 だが、一番はある程度の成果が得られたことだった。いくつもの小隊の中から中隊規模を率いられる人材を引き上げることが出来た。

 一般の兵士から小隊長へ、という人材も多く発見できた。それ以上に、ブロア将軍が目をかけていた小隊が成果を発揮したのも大きかった。

 引き上げの準備に入るために、地図上に二号が駒を配置してリアルタイムで迷宮内の動きを再現していたのだが――。

「……凄いですね。ここだけ他とは突破力が違いますよ。この先の階層でも十分にやっていけそうですし」

 俺がそう言って褒めると、ブロア将軍も嬉しそうにしていた。

「これだけの成果が出るとは思いませんでしたけどね。それより、ライエル殿が目をかけていた迷子の小隊も良い感じじゃないですか」

 迷子の小隊。

 迷宮に挑み始めた初期に、中隊から離れて迷子になってしまった問題児の集まりだ。その後も迷子になること、三回。見ていて小隊を解散させた方がいいと判断したのだが、色々とタイミング的にかみ合わず、そのままの小隊で運用していた。

 何かと気にかけてはいたが、ここまで成長するとは思ってもいなかったのだ。

「なんというか、癖が強すぎますね。ブロア将軍が気にかけていた部隊よりも、個性が強すぎると言うか……」

 何気にハーレム小隊だったのもあって、心の中で「もっと俺の気持ちが理解できる同士が欲しい」などと邪な気持ちもあったのは事実だ。だから、個人的に応援はしていたが、ここまで成長するとは思っていなかった。

 ブロア将軍も肩をすくめつつ。

「全員一緒に成長を二回も経験しましたからね。この小隊がここまでになるとは予想外でしたよ。個性が強すぎて、遊撃部隊に回って貰うしかないでしょうけど」

 遊撃部隊と聞いて、恰好いいなどと安易な感想を抱きつつ二号が駒を動かし続ける地図上を見ていた。

 そして、腕を組みながらブロア将軍にたずねてみた。俺から見た今回の迷宮での訓練は、成功と言って良いだろう。目的は達成したので問題ない。ただ、ブロア将軍がどう感じているのか気になったのだ。

「ところで、今回の訓練――将軍は結果をどう評価します? 俺は成功だと思っているんですけどね」

 すると、ブロア将軍はテーブルに両手を置き、体を支えながら地図上から視線を動かさないまま。

「失敗ではないと思いますよ。ただ、成功と言っても……バンセイム最強と言われたウォルト家の軍勢ですからね。戦えるようになっただけでも成功なのでしょうが、勝つ事を考えると物足りません。突破力のある部隊や、意外性のある部隊も得られました。全体的に質も高まったとは思います。ですが、相手は積み上げてきたものが違う」

 何故か、宝玉内の七代目が嬉しそうだ。

『分かっているではないか、この小僧』

 きっと、ウォルト家が評価されて嬉しいのだろうが、今は敵に回っているのだ。もう少し考えて発言して欲しかった。

 三代目は、七代目とは違って少し考え込んでいた。

『圧倒的不利、という状況でもなくなったわけだ。まぁ、いい事だよ。残りは撤収とルフェンスに戻って再編成と訓練だね。イニスちゃんの予想と僕たちの考えから、それくらいでマイゼル君が動き出すのは予想出来たけど……七代目、勝つ見込みはあるのかな?』

 七代目もかつてはウォルト家の軍勢を率いていた。そして、父が動き出す時期も予想をしており、大体の規模や目的もイニスさんの予想から確信を得ている様子だった。

『……マイゼルの性格ではありませんが、現状で我々を倒してルフェンスを奪い返すとは考えられません。それだけの兵力を割くのはウォルト家としても厳しいですからね。飛び地など欲しがらないでしょうし、目的がライエルの首――セレスへの手土産だと考えると、戦って我々を打ちのめしてセントラルに向かう、というところでしょうか?』

 イニスさんの未来予測と、七代目の知識や経験から予想した相手側の目的は――俺の首である。しかも、セレスへの手土産という事だ。

 軍を動かすのに、そんな理由で認められるのが狂っている証拠かも知れない。ただ、狂ってはいるが実力は本物なので質が悪い。

『マイゼルが得意としている陣形はいくつかあります。それに対抗する陣形も用意は出来ますが……問題なのは、特殊な戦場で兵士たちが動揺しないかが問題ですね。普段頼っているスキルや魔具などを使用できない訳ですから』

 そのために、スキルの使用を制限した訓練もしてきている。だが、ウォルト家からすれば付け焼き刃にしか見えないだろう。

 三代目が呟く。

『……ライエルの首を狙いに来るなら、そこを活かして敵を崩す事を考えようか』

 七代目が三代目の言葉を理解し。

『通常なら深追いを避ける可能性がありますね。ただ、セレスに狂っているのなら……可能性はあります』

 皮肉なことだ。ウォルト家の軍勢と戦うのは、セレスのせいだというのに……セレスによって狂わされたウォルト家は、そこが弱点にもなり得た。実力、そして突破力もあるバンセイム最強の軍勢――。

「美味しい餌は俺自身、か」

 俺の呟きを聞いて、ブロア将軍が顔を上げたので俺は首を横に振って独り言です、と言っておいた。

 その場で背伸びをすると、ルフェンスの状況が気になる。

「戻ったら書類地獄なんだろうな。はぁ、向こうは何も起きていなければいいけど」

 などと言うと、ブロア将軍も笑って同意してきた。





 ――ルフェンス王城内。

 王族が使用する脱出用の地下通路。

 水路にもなっており、そんな通路では水しぶきを上げて走る集団がいた。バグディア伯爵家を中心とした貴族の集団で何かから逃げていた。

 騎士の数名が左手に魔法で明かりを用意しており、兵士たちが後ろを気にしながら走っていた。

 先頭付近では護衛に囲まれたレイベルが焦った表情をしていた。

「ふざけるな。ふざけるな……私はただ提案しただけだ。ただの集まりを決起扱いなど――」

 ルフェンス王城にいたバンセイムの貴族たち。主に、ライエルに投降した者たちを集め、親睦会ではないが宴会を計画していたレイベルたち。それまでにも何度か酒盛りをしており、許可を取ったものだった。

 しかし、突如として宴会場である建物を囲まれると、謀反を疑われて拘束されそうになったのだ。元からそのつもりもあったが、周囲に根回しをしており慎重に動いている段階だった。

 今の段階では、謀反など口に出してはいない。ただ、不満を持っている者たちを集め、そして交友関係を広げていた状態だ。

 そこから状況に合わせ、ライエルに取り入るにしても大きな派閥を作ることが出来た。ライエルを倒して独立、あるいはバンセイムへの手土産と色々と考えていた段階だったのだ。

「伯爵、この先から出られるはずです。以前確認した脱出経路では、もうすぐ出口が――」

 宴会に参加するため、まともな武具など持っていない護衛の騎士がそう言うとそのまま倒れてレイベルは水をかぶった。護衛の騎士が動かなくなり、周囲が明かりで護衛の騎士を照らすと数本の矢が頭部や急所に刺さっていた。

 水に浮ぶ護衛の騎士を見て、レイベルが腰の剣を抜く。

 レイベルを守るために前に出た。護衛の騎士たちが通路の出口付近に剣を向けていた。矢が飛んでくるとすれば、そこからしかなかったのだ。

 フード付きのローブを身に纏った集団が、弓矢を構えて通路おくから明かりもないのに出現してきた。そんな集団の中央で光が発生した。魔法による周囲を照らす光で、そこには緑色の髪をしたミランダの姿が浮かび上がる。

 武具を着込み、右手には短剣の刃部分を指に挟んで二本所持していた。

「はぁい。ここから先は行き止まりよ。残念だったわね」

 周囲の黒づくめの集団の後ろには、完全武装の騎士たちが待ち構えていた。バルドアが率いていた鉄砲隊も十数人が存在しており、銃口を向けている。

 レイベルはミランダを見ると。

「……貴様、何をやっているのか分かっているのか? 私を殺せば、他の貴族たちが黙っていないぞ。それに、私は他の――」

「――ライエルの他の婚約者と親しい、とでも言いたいのかしら? おめでたい人ね。私はそんな彼女たちに頼まれたからここにいるのよ。外回りで忙しい、って言うのに迷惑なのよね。まぁ、アリアとかには向いていないでしょうから、自然と役回りは私よね」

 ミランダがそう言って笑うと、レイベルは背筋がゾクリとした。鳥肌に加えて冷や汗が噴き出し、息をのむ。

(この場をなんとしても切り抜けなければ……強行突破は無理か。ならば、降参して油断を誘い……)

 思考を加速させていくレイベルだったが、ミランダの周囲にいた黒づくめの集団が矢を放ってきた。次々に周囲の騎士や兵士たちが倒れていく。

「ま、待ってくれ!」

 すると、護衛の一人が飛んできた矢を斬り落として左手から魔法を放っていた。

「ファイヤーバレット!」

 小さな火球が黒づくめの一人に襲いかかると、ローブを捨てて隠していた容姿が見えた。そこには、ダークエルフの姿があったのだ。

 ソレを見て、レイベルは呟く。

「な、何故だ。お前たちはエルフの女の……派閥で言えば、ノウェムの……」

 ミランダは、興味なさげに言う。

「借りたのよ。忙しい時に面倒を増やすネズミがいるから、駆除して欲しいって頼まれたし。こっちも人手が欲しい、って言ったらすぐに用意してくれたわ」

 レイベルは、決して仲が良いとは言えないライエルの婚約者たちを知っていた。特に、ノウェムとミランダに距離があるのも調べている。なのに、協力しているのが信じられなかった。

「だ、騙したのか。私たちを釣るために泳がせて――」

 ミランダは即答した。

「違うわよ。私はノウェムが嫌いだし、他の連中だって嫌い。でもね、だからってこんな状況で蹴落とさないわ。足を引っ張る事もしないの。だってそうでしょ。ライエルが困るもの。多少五月蝿いネズミなら、餌を与えて放置だったんだけど……あんた、ライエルに取って変わろうとしたんですってね」

 ミランダが無表情になると、右腕を横に振るった。すると、短剣が飛んできてレイベルの前にいた騎士二人の頭部に突き刺さった。

 崩れていく目の前の騎士二人を見ながら、レイベルは少し笑っていた。

「……読み間違えましたよ。知っていれば、本気で口説いたというのに」

 本気だった。嫌ってはいながらも、目標のため、ライエルのために行動し、時には協力できるミランダたちを、レイベルは評価したのだ。そして、想像以上にライエルが油断できない事も知ってしまった。

「知っていれば……まぁ、遅いのですけどね」

 そう言うレイベルに、ミランダは肩をすくめつつ。

「もう少し我慢していれば、私たちの内の誰かが接触したかも知れないのに。残念だったわね、伯爵……貴方は判断を間違えたわ」

 ミランダは、右手を掲げ、そして振り下ろした。弓矢や弾が放たれ、レイベルたちに襲いかかる。

 自分の目の前にマジックシールドを展開するレイベルは、笑いながら。

「だが、この程度で終われるものかよ!」

 そう言って剣の柄を握りしめ走り出すと、後ろからレイベルに付き従う騎士や兵士たちが後を追いかけてきた。
 ミランダは微笑みながら。

「そういうバカなところ、私は好きよ。男の子、って感じで……でも、これでおしまいね」

 ミランダが右手をゆっくりと小指から握ると、通路の壁からいくつもの槍が出現した。まるで最初から罠が用意されていたようだが、それらの槍は全てスキルによるワイヤーで用意されたものだった。

 後続が槍に貫かれ、分断されるとレイベルは数名のみでミランダたちに突撃する形となったのだ。レイベルが剣をミランダに振り下ろそうとすると、ミランダは腰に下げた短剣を引き抜いて右手の短剣でレイベルの剣を受け止め、そして左手に握った短剣でレイベルの腹を斬り裂いた。

 ミランダが左手の魔法を解除したために、周囲が暗くなる。そして、再び明かりが灯るとレイベルは水の上に浮んでいたのだった――。





 訓練を終えた軍勢を引き連れ、ルフェンスに戻ってきた俺は執務室で山のように積まれた書類を見ていた。

 三代目が、その光景を見ながら。

『こういう仕事が増えるから、出世とかしないで手頃な領地を持ってゴロゴロしたいんだよね。まぁ、ライエルはもう引き返せないけど』

 右手を顔に触れると、俺は少し俯く。分かっていたことだが、仕事が多すぎた。ただ、訓練に参加する場合、俺がいた方が良かったのも事実である。

 常時発動していると思われるエクスペリエンスの恩恵があると信じたかったし、冒険者不足で迷宮内の魔物が急激に増加している場合、迷宮の管理という目的もあった。

 全くの無駄ではないのは理解している。

 執務室では、鎧姿の一号と両手で手を握り、互いに力比べをしているモニカの姿があった。

「私がいない間に、チキン野郎に自分を売り込むとは汚い奴ですね」

「ご主人様はお前のようなポンコツでは満足できないのです。さっさとその地位を譲りなさい」

 互いに変な軋む音が聞こえているのだが、大丈夫なのだろうか? 俺はそんなモニカに対して。

「その辺にしておけ。それと、留守中に何か動きはあったか?」

 すると、モニカは一号を蹴り飛ばして姿勢を正して俺の方に笑顔を向け。

「多少の問題もありましたが、ラウノ殿とバルドア殿の活躍で事なきを得ました。不穏分子が紛れていましたが、無事に解決しています。なので、ラウノ殿とバルドア殿に目立つような恩賞を与える準備に入っているところです。チキン野郎が帰ってきたので、訓練が終わって出世する騎士たちと一緒に式典でも開こうかと」

 一大事ではないのだろうか? まぁ、無事に解決して良かった。

「バルドアは有能だよな。ラウノさんにも助けて貰ってばかりだ。この際、式典を利用して騎士に任命するか。で、誰が動いていたんだ?」

 モニカは笑顔のまま。

「バンセイムの一部貴族を中心とした者たちです。良い引き締めにもなりましたよ」

 笑顔でそんな事を言うな。怖いじゃないか。そう思った俺は、肩を回しつつ書類の山積みとなった机へと向かうのだった。

 笑顔で近付こうとしてきたモニカだったが、一号の腕が飛んできてそのまま俺から引き離されていく。

「こ、この劣化品がぁぁぁ!!」

「ここでスクラップにしてやるよ、ポンコツゥ!!」

 俺に迷惑をかけないためか、廊下に出て争い始めたモニカと一号。顔もそっくりなので、もっと仲良く出来ないのだろうか?

 というか――。

「はぁ、うちの女性陣、ってなんでこんなに仲が悪いんだろう」

 そう呟かずにはいられなかった。
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