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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないなら開き直ればいいじゃない! 十六代目

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軽率

 ベイム地下迷宮。

 その地下二十階層まで進んだ俺たちは、地上と地下二十階までの補給路を確保しつつ魔物と戦う日々を過ごしていた。

 広い部屋を本陣にして、周囲の部隊から来る伝令を待って指示を出している。

 ブロア将軍が、座りながら溜息を吐いた。

「敵が四方八方から襲ってくる環境下で、まとまった集団を維持するのは大変ですね。それに、地上に送る部隊も大変ですよ。魔物の素材と魔石を回収して、それを地上に運びつつ補給物資をこちらに運んでくるんですから。冒険者はみんなこんな事をしていたんですからね」

 規模が大きく、色々と忙しいだけで基本的には一つのパーティーで全てをこなす。確かに大変だが、ブロア将軍が考えているような大変さとは違うだろう。

「こちらの規模が大きすぎるだけで、本来ならもっと小さな集団で全てをこなしますからね。まぁ、そのパーティー次第ですよ」

 ブロア将軍は周囲を見ながら。

「時間の感覚もなくなって来ますよ。それに、怪我人や成長後の連中を別室で休ませていますが……本当に大変ですね。これなら冒険者に苦労させられるはずです。狭い空間で効果的に戦う専門のような人たちじゃないですか。知っていれば、もっと警戒していましたよ」

 それをされると俺が困ったわけだが、確かに兵士とは戦う戦場が違いすぎた。そんな本陣内に、伝令が駆け込んできた。

「伝令! 第二中隊が階層主を発見しました! 通路はこのような形で――」

 伝令が持ってきたメモを俺とブロア将軍は確認する。それをヴァルキリー二号に渡すと、地図に書き込んでいく。

 俺は地図を見ながら。

「これで地下二十階層もほとんど地図が完成しましたね」

 アゴに手を当てたブロア将軍は地図を眺めながら。

「……せっかく完成させても、一定期間で通路が変更。そのまましばらくすればこの地図も役に立たなくなる。なんとももったいない事で」

 俺は一号に向かって。

「俺が出る。集団で囲めば倒せるだろうが、流石に無理をしすぎたな。少し休ませて、そのまま地下二十一階を目指そう」

 ボスを倒すところだけ貰うような形だが、基本的に冒険者ではない騎士や兵士たちに横取りされたという気持ちは発生しない。むしろ、仕事が減ったという気持ちだろうか?

 左手にカタナを持つと、青い鎧を着た一号が金色のツインテールを少し揺らして頷いた。モニカと容姿が似ており、そして大きな違いは胸が小さい――というか、ない事だろう。

 ダミアンが素晴らしいと言っていた。

「お供いたします」

 ブロア将軍が椅子から立ち上がりつつ。

「出来れば盟主殿には護衛を引き連れて欲しいんですけどね」

 俺は鞘を腰に下げるため、金具に取り付けながら。

「必要ない。それに、この階層ならまだ一人でも何とかなるからな」

 周囲はそんな俺に呆れている様子だったが、何度か階層主――ボスを倒している事もあり、口を出してこなかった。

 ブロア将軍が椅子に座って手で顔を隠しつつ。

「まぁ、そうなんですけどね。こちらにも意地などもあるわけで、頼りないと言われているような気分ですよ」

 俺は少し考えたが、今は周囲に人はいない方が良かった。

「……次からはそうしましょう。行くぞ」

 一号を連れてそのまま部屋から出る俺は、宝玉を触った。三代目が周囲の騎士や兵士たちを見ながら。

『まぁ、面白くないだろうね。けど、切り札は最後まで隠しておいた方がいい。未だに敵か味方かも分からない連中も多いわけだし』

 七代目も同じような意見だ。

『口を滑らせる者は多いですからね。今のライエルならば、この階層ではボスクラスでないと力試しにもなりませんし』

 今は少しでも手の内を隠しておきたかった。スキルが使用できない父相手に、もだ。これから先を考えるなら、自分の手札は隠しておくに限る。

 一号を連れて歩き出した俺は、そのまま最短ルートで迷宮を進むとボスの待つ部屋まで進むのだった。





 ――レイベル・バグディア伯爵。

 彼は、ルフェンス王城内で、ライエルと婚約を発表した、もしくはそういう関係である女性に近付いていた。

 外に出ている女性陣は無理でも、王城内で働いているシャノンやリアーヌは簡単に会う事が出来る。

 それに、メイドとして働いているモニカなど、廊下を探せばすぐに見つける事が出来た。

 リアーヌは自身の執務室からあまり出歩けない。シャノンは王城内で手伝いをさせられており、割とどこにいるのか分かりやすかった。

 そうした女性陣たちに近付くレイベルを警戒するのは、バルドアだった。今も、廊下で他の騎士たちと話をしているレイベルを見つけ、バルドアは近付く。

「伯爵! どういう事ですか。この忙しい時に、訓練に参加せずに女性の下に足繁く通うなど……不貞を疑われる行動は避けてはいかがか?」

 バルドアにしてみれば、ライエルは盟主以前に主君筋のしっかりとした後継者。現在は実家の意向もあって主君として崇めている。そんなライエルのいない間に、女性陣のところに向かうレイベルは不快だった。

 すると、二人の騎士を連れていたレイベルは、肩をすくめながら。

「これはバルドア殿。そのような事をお考えで? 悲しいですね。私はこれでもバンセイムの騎士。しかも王家の直臣たる伯爵家の出。不貞を疑われるなど心外です。それに、その疑惑は盟主殿の婚約者さんたちも信用していないととられるのでは?」

 直臣たる、という部分には、暗に「ウォルト家の陪臣風情」という意味が込められているようにバルドアには感じられた。

「紛らわしい行動は慎むべきではありませんか? それに、訓練に参加しない理由はなんです?」

 寄せ集めの集団の脆さが目立っているのは、規模が大きくなりすぎたからだ。

 ライエルやブロアを欠いたルフェンス王城では、気が緩み始めていた。ブロアは元からバンセイムの将軍で部下たちが揃っており、ライエルに至っては戦場で嫌と言うほどにバンセイムを叩いている。

 二人とも実績があり、吸収された兵士たちも黙るしかない。ただ、バルドアでは他の兵士たちも気を抜いてしまうのだ。

 実績が少ないと言うよりも、ライエルたちの影に隠れて功績が目立たないためだ。同時に、ウォルト家の陪臣という立場もあって周囲の貴族たちからも格下に見られていた。

 レイベルが連れている騎士の一人が、舌打ちをしながら。

「ちっ、陪臣風情が」

 そう言うと、その場が剣呑とした雰囲気を出し始めた。バルドアにも意地がある。

「……敗残兵の分際で、などと言われたいようですね。ライエル様の恩情で生かされたというのに」

 互いに雰囲気が悪くなり、腰の剣に手が伸びたのはレイベルの取り巻きである騎士の方が先だった。

 だが、そんな場所にモニカが現われる。

「バルドア様、リアーヌ様がお呼びです。すぐに執務室まで来るように、と」

 周囲の前ではリアーヌにも「様」を付けて呼ぶモニカ。そんなモニカの登場で、四人は剣の柄から手を離す。

 レイベルがバルドアに対して。

「ご婦人の前で血を見せるわけにもいかないな」

 まるで斬られたのがバルドアであるかのような態度だが、三対一では流石に分が悪かった。バルドアも。

(少し頭に血が上ったか。もっと冷静にならなければ)

 忙しさ、そして挑発してくる相手にバルドアも冷静さを欠いたと反省していると、モニカがレイベルたち三人の背中を見ていた。バルドアは、そんなモニカを見て。

「失礼。すぐにリアーヌ様のところへ――」

 ただ、モニカは言う。

「いえ、嘘なので問題ありません。まぁ、そうするように言われたのですけどね。彼らは放置して頂いて構いません」

 そんなモニカの言葉に、バルドアは真剣な表情で。

「それでは規律が緩みます。実際、彼らの行動は目に余り、このままではライエル様が戻られた時には――」

 モニカは、バルドアに顔を向けると、無表情でこう言うのだ。

「問題ありません。チキン野郎が戻ってくるまでには全て片付きます。バルドア殿には通常通りの仕事をして頂ければ問題ありません。それと、あまり軽率な行動はしないで頂きたいですね。何かあれば、チキン野郎が悲しみますので」

 バルドアは、そう言って歩き去るモニカを見送ることしか出来なかった――。

「放置しても問題ない……まさかな」





 広い部屋だった。

 これまで歩いてきた通路よりも広く、そして天井は高い。壁や天井、そして床に埋め込まれた石がキラキラと光っているが、明かりが足りずにヴァルキリーである一号にランタンを持たせていた。

 大きな部屋の主人である魔物――ミノタウロスを相手に、俺は右手にカタナを持って周囲を走り回っていた。

 人の二倍近くある巨体に加え、足の速さもあって走ってくる壁のように感じた。

「流石にこれだと死人が出るな。ぶつけるにしても、精鋭で固めないと被害が凄い事に――っと!」

 追いつかれ、ミノタウロスの振り上げた大きな棍棒が床に振り下ろされた。床に激突しても棍棒は折れず、床を抉っている。

 ただ、その床も時間が経てばすぐに元通りである。それにしても――。

「木材にしか見えないのに、それって本当に棍棒なのか?」

 疑問を口にすると、ミノタウロスは牛の頭を横に振って口を大きく開けていた。唾が周囲に飛び散り、赤い目が光っているように見えた。

 そんなミノタウロスの体には、いくつもの傷跡がある。俺が付けたのだ。

 宝玉内からは三代目の声が聞こえてくる。

『タフで助かったよ。練習には丁度いいから。さて、ライエル』

 言われた俺は、もう一度意識を集中する。集中して、スキルを発動するのだ。

「……ワープ」

 横薙ぎに振るってきた棍棒を避けない俺は、七代目のスキルを発動させるとその場から瞬間移動を行なってミノタウロスの後ろに移動した。棍棒が床にかすったのか火花が見えたが、ミノタウロスの頭部を見ていた俺はカタナを振り下ろす。

「まだ浅い」

 移動後に攻撃。簡単なようで、とても難しかった。七代目が、俺にアドバイスをしてくれる。

『先程よりもいいぞ。その調子でコツを掴みなさい。まぁ、連続で使用するのは未だに難しそうだが』

 元は七代目のスキルだ。本人からすれば、拙く見えてしょうがないだろう。何しろ、本人以外がスキルを使用すれば、魔力の消費から使用にかかる負荷まで別物だ。

 魔力の消費は大きく、負荷も大きくなる。元は一人の人間の専用スキル。それを無理やり使用していれば、問題が出ない方がおかしい。

 ミノタウロスの首筋から背中にかけて数センチの深さを少し斜めに一メートルほど斬るが、相手はまだ倒れる気配がなかった。

 咆吼し、後ろに回った俺に左手で裏拳をしてくる。

 空中で受け止める形となり、そのまま相手の攻撃を利用して大きく距離を取った。

 すると、俺が着地した位置に先回りした一号が来ていた。背中の翼のようなバインダーを展開しており、俺が動けない場合は守ろうとしているのだろう。

 そんな一号に俺は。

「三番もしっくり来ない。前に四番は試したから、五番をくれ」

「了解です」

 バインダーの一つが開くと、そこにはカタナが数本入っていた。交互に上下逆に保管されたカタナの、五番を一号が取り出すと、俺に渡してくる。

 持っていたカタナを一号に手渡すと、そのまま移動してミノタウロスを引き付けるようにまた追いかけっこを再開した。

 三代目が、俺のカタナを気にしながら。

『微妙に違うものをいくつか用意してきたけど、やっぱり五番がいいのかな? 外から見ていると攻撃が鋭いんだけど』

 使っている中では、確かに五番がしっくりくる。他のも試してはみたが、間違いなく五番で正解だろう。握った時の感触や、斬った時の感触――どれも、しっくりくる。

「戻ったら五番をベースに一本仕上げて貰いますよ。でも、その前に」

 追いかけてくるミノタウロスに振り返った俺は、そのまま相手が攻撃してくるのを待って瞬間移動――スキルのワープを使用した。

 何度も同じような事を繰り返しているため、ミノタウロスも学習したのかすぐに後ろに向かって棍棒を振り回してきた。

 だが――。

「残念だったな。だが、おかげでコツは掴んだ」

 迫り来る棍棒は空振り。少し高い位置に移動した俺は、落下しながらこちらを向いて目を見開くミノタウロスを見ながらカタナを横に一閃――。

 牛の頭が宙に舞った。

 着地をしてカタナを鞘にしまおうとすると――。

「あ、これは違うカタナの鞘だった」

 収まりが悪く、一号を呼んでカタナを預ける事にした。首から血を噴き出すミノタウロスの体が、後ろ向きに倒れると塞がれていた地下への階段が出現する。

 一号は俺のカタナを回収すると、そのまま丁寧に刃から血を拭き取って鞘へとしまった。

「お見事でした、ご主人様」

 俺は一号の顔を見ながら。

「モニカと同じ顔で『ご主人様』……違和感が凄いな」

 モニカと同じ顔。ただ、表情はまだ出ないために、無表情のままだ。しかし、俺をチキン野郎と呼ばないモニカ――違和感しかない。

 すると、一号が言う。

「あのポンコツと一緒にされては困ります。ですが、あのポンコツが嫌いなら私を専属でお側においてもいいんですよ」

 表情は出ないが、やはりオートマトンだ。モニカの同類だった。きっと、オートマトンは壊れていようがいまいが、このような性格なのだろう。

「お前らを作った古代人は、いったい何を考えてこんな性格に……」

 古代人の謎は深まるばかりだ。まぁ、今の俺には関係ないが。
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