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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないなら開き直ればいいじゃない! 十六代目

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迷宮の天敵

 ノースベイム。

 かつてはベイムと言えば、ノースベイム一つだけを指した言葉だ。今では瓦礫の山の撤去と復興を続ける荒廃した都市跡だった。

 そんなノースベイムで俺を待っていたのは、目の下に隈を作ったアデーレさんだ。マクシムさんを伴って、俺のノースベイム入りを歓迎――。

「……復興に人手を割くかと思えば、迷宮に潜るとか。いえ、いいんですよ。ライエルさんはいつもそうやって自由で。結果的にそれが良いことに繋がるなら! でも……こっちにも人手を回してくださいよ。クラーラとか。あの堅物のクラーラとか。モニカさんでもいいですから」

 ――してくれなかった。いや、しているのかも知れない。しかし、日々の疲れで俺にあたりが強くなっていた。

 マクシムさんにいたっては、肩をすくめていた。

「悪いな。アデーレ様も限界に近い。出来れば、もっと人手を回して貰えると助かるんだが」

 言われた俺は、アデーレさんとマクシムさんを見ながら。

「……いや、今いる人材で回して貰えればそれでいいですよ? なんで適度に休まないんですか?」

 そう言うと、アデーレさんが。

「休みたいですよ! でも! でも……毎日のように要望という名の文句が私のところに。しかも、どこから手を付けても文句が! 文句が!」

 泣き出しそうなアデーレさんを見ていたのは、俺の隣に立っていたブロア将軍だ。少し不思議そうにしながら。

「まぁ、こちらも早急に部隊編成や訓練をしなければいけませんし、ルフェンスが突破されると復興どころではないんですけどね」

 ハッキリ言えば、人手を回している余裕などない。というか、確かにベイムは俺の庇護下に入ったわけだが……アデーレさんたちが、無理をしすぎである。

「いや、適度に仕事をこなして貰えればいいんですよ。実際、どうやったって無理なんですから。手を抜かないなら、適度な休みは必要ですし」

 宝玉内からは三代目が優しそうな声で。

『あぁ、アレだね。アデーレちゃんは優しい子だね。というか、真面目すぎだよ。復興なんてそれこそ十年、二十年の話だし、もっと心にゆとりを持って欲しいよね。このまま根を詰めすぎても倒れちゃうし』

 現地に来て分かったのだが、頑張りすぎだった。物資なども用意しているし、出来ることはやっている。これ以上の要望はこちらも処理できない。

 実際、ベイムの復興に全部振りした場合、確実にバンセイムに負けるのだ。むしろ、アデーレさんたちを残しただけでも俺は優しい方だろう。

「復興も数年で終わりませんし、十年、二十年を目安にしたものですからね。適度に頑張りましょうよ。手を抜かない感じで。と言うわけで、マクシムさん……アデーレさんを強制的に休ませてください。あ、マクシムさんもついでにアデーレさんと休暇で」

 アデーレさんが休んで良かったのだと知ると、ガクリと肩を落とし……そのまま膝から崩れ落ちた。

「そ、そんな……休んで良かったなんて」

 いや、むしろ休め。トップに倒れられると困るのだ。短期で全てを解決するなど不可能である。

 マクシムさんがアデーレさんの肩を抱いて連れて行く。俺は、ブロア将軍と顔を見合わせた。すると、ブロア将軍は。

「若いですね。真面目で責任感もある。あの子は副官タイプですよ。ただ、トップにすると下が育たない典型ですけど」

 適度に下に仕事を回せないタイプのようだ。以前、俺も注意を受けた。そう言えば……そうやって注意を受けたのも迷宮だった。アラムサースの迷宮で、ギクシャクしながら地下三十階突破という目標を与えられ……。

「これから学んで貰いますよ。大事な文官ですからね。経験を積ませて育って貰わないと」

 ブロア将軍は笑う。

「確かに仕事の出来る人間が多いのはいいですね。こちらが楽を出来ますから」

 七代目がボソリと。

『此奴は典型的な指揮官タイプだな。他に回すと仕事の手を抜く厄介なタイプだ』

 俺は、ブロア将軍から視線をベイムの迷宮入口へと向けた。そこは、地下へと続く洞窟の入口だ。周辺は整えられ、門のように整えられていた。

 かつては見張りや人通りが多く、周囲には出店も多かったのだろう……そういう跡が見えた。今も、出店が数軒営業を再開していた。

「……さて、行きますか」

 ブロア将軍が頷いた。細かな仕事は俺がブロア将軍に投げ、ブロア将軍は部下に投げ……こうして準備が整ったのだ。後は、結果をどれだけ引き出せるか、である。





 ――ルフェンス王城。

 ノウェムは、イニスに護衛をつけていた。同時に、サウスベイムに伝言をヴァルキリーズに預けた。ヴァルキリーズの持つネットワークで、時間をかけずにやり取りが可能となっていた。

 イニスがルフェンスにいること。そして、ラウノには仕事が終わり次第、ルフェンスに来るように伝えて貰ったのだ。

 色々と忙しいノウェムは、そのまま現地に残している工兵部隊に合流するため、ルフェンス王城から出発しようとしていた。

 護衛を伴い、出発の準備をしていると、声をかけてくる人物がいた。

「これはノウェム殿。忙しそうですね」

 声をかけた人物に振り返るノウェムは、自分たちのところに歩いてくる人物を見た。笑顔を作ると。

「これはバグディア伯爵。どうされました?」

 バグディア伯爵。【レイベル・バグディア】は、二十代前半のバンセイムの領主貴族だ。代替わりをしたばかりで、ベイム侵攻が初の大きな戦だった。

 ライエルに負けたことで捕虜となり、協力を約束して今ではラウノやバルドアなどの下で部隊を率いる立場だった。

 ただ――この男、まだ若い、若すぎるライエルを軽視していた。

「少し気になりましてね。盟主殿は迷宮に向かい、美しい女性たちを働かせている。これは盟主殿の立場として問題ではありませんか?」

 優しい口調。そして、正しい事を言っていた。確かに、ライエルの立場を考えるのならば、迷宮などに行っている暇はない。

 それが必要だからやっているのだが、それを周りがどう見るかは別問題だった。ノウェムは笑顔で答えた。

「……それが今後の戦いに必要だから、ライエル様は実行されているだけです。ご不満があるのなら、直接言ってはいかがですか?」

 レイベルは緑色の前髪を指先で触りながら。

「新参の私にそこまでの事は言えませんよ。ただ、女性陣の意見を聞いておこうと思いましてね。バンセイムの貴族は冒険者を見下しています。実際、冒険者に身を落とし、未だに同じ行動を――おっと、そういう意見が多いという意味ですよ? 私の意見ではありませんからね」

 バンセイムの貴族は、どうしても冒険者を格下に見ている。元貴族の冒険者など、彼らからすれば唾棄すべき存在だった。特に上に行くほどにその思考が強くなる。

「ライエル殿は家を追い出され、冒険者に身を落としてそこから這い上がった。そこは評価します。ただ……今の身分で、冒険者のような戦いを繰り返すのはいい事なのでしょうかね?」

 ライエルを持ち上げてはいるが、批判も同時に行なっていた。ノウェムは言う。

「正々堂々と戦う。なる程、騎士らしく大事ですね。次にお会いしたときにでも相談しておきましょう。もっとも、そういう大事な話は会議などで発言されることを望みますが」

 レイベルは笑顔で。

「えぇ、気を付けますよ。私も勝手が掴めていませんので、お許しください」

 そう言って取り巻きの騎士たちを引き連れ、レイベルは歩き去って行く。そんな背中を、ノウェムは無表情で見ていたのだった――。





 ――リアーヌの執務室。

 外を見れば、城壁や復興が進む城下町が見えていた。

 未だに移住してきている人々は少ないが、それでも兵士たちの生活する宿舎も増設されて活気などが出て来ていた。

 そんな光景を見ながら、リアーヌは窓に映る人の姿を見ていた。部屋にはメイド服を着たヴァルキリーが一体。そして、ドアの前には緑色の髪をした青い瞳の青年――レイベルが立っていた。

 伯爵という立場もあり、着ている服装は立派なものだ。リアーヌは振り返ることなく。

「……なる程、ノウェムさんに不自然な動きがある、と。それをわざわざ伝えてきてくださったのですか?」

 レイベルは言う。態度は柔らかく、まるで本当に心配しているような口調。だが、言葉の端に引っかかりを感じるリアーヌ。

「はい。私もこういうのは好きではないのですが、やはりお伝えしておこうと。リアーヌ殿も盟主殿との間に婚約を結んでいるとか。こちらとしても、フォクスズ家の娘などよりよっぽど盟主殿に相応しい存在だと思っていますので」

 リアーヌは口の両端を持ち上げ、少しだけ振り返った。

「あら、そんな事を言ってもよろしいので?」

「立場はハッキリしませんと。それに、私はリアーヌ様こそ妃の地位に相応しいと思っておりますよ。ファンバイユの地よりルフェンスまで来て、盟主殿を支えるその姿は本当に多くの者たちの頭が下がる思いで――」

「――かつて、私を裏切ったのは貴方の国の王太子殿下でしたけどね。回りくどい事は嫌いです。用件を言いなさい」

 レイベルは、途中で言葉を遮られると咳払いをしながら、また口を開いた。

「ブロア将軍は納得しましょう。陪臣騎士のバルドアも、元からウォルト家の騎士。思うところはありますが、認めます。ただ、これから拾い上げる我々の同僚となる騎士が、ただの実力主義とはどういう事か、と。不満を持っている者たちは大勢おります」

 リアーヌは「そうですか」と呟くと、そのままレイベルに体ごと振り返って自分の机に向かい、椅子に座るのだった。

「盟主殿は我々騎士を軽視しているのではないかと。高貴な家に生まれながら、ご理解頂けないのはやはり追い出されるだけの――おっと、これはあくまでも噂ですので」

「えぇ、分かっていますよ。……ただ、勝手に噂をされても困りますね。バグディア伯爵、今後とも私に報告して頂けますか?」

 レイベルは嬉しそうに微笑み、胸に右手を当てた。

「えぇ、喜んで」

 リアーヌも微笑んでレイベルを見ていた――。





 ――ルフェンス王城内廊下。

 レイベルは取り巻きの騎士たちと話をしながら歩いていた。小声で、どうとでも取れる会話をしながらの移動だ。

「レイベル殿、それで本命は誰なのだ」

 年上の騎士に質問をされると、レイベルは少し笑った。

「本命、ですか。正直言って、本命などいません。女性問題はドロドロとしやすいですからね。そこから切り崩していけば、あとはどうとでもなりますよ」

 もう一人の騎士が笑う。その笑顔は、とても清々しいとは無縁の笑みだった。

「期待しているぞ。こちらとしてみれば、どちらに転んでも大丈夫なように保険が欲しいのだから。それにしても、今更迷宮などに向かうとは――」

「――おっと、それ以上は」

 レイベルは、騎士に口止めをすると少し笑うのだった。そして、周囲を見ると誰もいない。

「悪い」

「いえ、誰だって不満がたまるものですから。それが、分不相応な地位の者の下にいれば、なおのことです。まぁ、いない間に少し動きやすくしておきましょう」

 レイベルはそう言うと、一番前を歩き少し笑っていた――。





 ベイムの地下迷宮。

 その地下十五階で、俺は大きな部屋に陣取っていた。周囲には護衛の騎士に加え、連れてきたヴァルキリー一号が完全武装で待機している。

 ブロア将軍が見ている前で、ヴァルキリー二号が次々に駒を動かしていく。それを見たブロア将軍がアゴに手を当てつつ頷いていた。

「……負けるわけです。最初から情報量や情報の精度が違いすぎるわけですからね」

 ベイムに侵攻してきたバンセイムの軍勢を叩いた俺の切り札――それを見て、ブロア将軍は俺のスキルについて一言。

「ある意味、最強ですよ」

 ただ、俺も言っておかなければならない。

「その最強のスキルが、次の戦いでは使えません。今の内に伝令や細かな事を体に染みつくくらいに覚えて貰わないと」

 大きな部屋には、伝令が駆け込んでくる。

「伝令! 第二中隊、魔物の攻撃を受けて前進できません。増援を求めています!」

 その伝令に、ブロア将軍が俺の方を見たので、俺は頷いておく。

 すると、ブロア将軍が。

「増援は予備の第三中隊を送る。それまでは防御主体で防ぎ、増援が到着したら下がらせるんだ。伝令、第三中隊に今の命令を伝えるように。通路は――」

 伝令が命令を受け、部屋にいた伝令も第三中隊に伝令に向かった。

 二号が地図上の駒を動かし、第二中隊が徐々に押し込まれている様子を示していた。このように周囲に見えるようにしておけば、俺以外も作戦を立ててくれる。

 俺はその様子を見ながら、危険があった時だけ口を出せば良かった。

「第二中隊は脆いな」

 ブロア将軍が他と比べて脆いのを最初から知っていたのか、頷いて説明してくれる。

「優秀な人材が多いのですが、かみ合わないとでも言っておきましょうか。ただ、かみ合えば部隊として優秀になると考えています」

 ブロア将軍がそう思って編成をしたのなら、俺は口出しをしてはだめだろう。

「任せます。ただ、どうしても駄目な場合は別の方法も考えてください。すり潰すことは出来るだけしたくありませんからね」

 ブロア将軍は頷く。

「なんとか結果を出してみますよ。さて、また状況が動きますね。……第三中隊の一部が迷子になりましたね」

 二号が動かす駒が、第三中隊の集団の一部が迷宮内ではぐれた様子を再現していた。

 宝玉内では七代目が少し呆れていた。

『……ついていくだけも出来ないとは。練度が低すぎる』

 三代目は大笑いだ。

『かみ合わない優秀な集団。迷子の集団。問題児が多いね。うん、うん! こういうの、思った通りにいかないから面白いんだよね』

 ブロア将軍が額に手をやりながら。

「……連れ戻させます」

 俺は特になにも言わずに地図上の駒の動きを見ていた。二号が俺の見ている光景を再現しているだけなのだが、次は何をするべきか考えていた。

「すぐに命令を出せない場合、出す指示も変えた方がいいか」

 スキルが使えれば、すぐに第三中隊を送り出し、第二中隊が苦戦する前に合流させることが出来た。ただ、伝令が持ってくるのは事が起きた後だ。しかも時間も経過している。

「……数日したら、駒の配置も使用しない方がいいな」

 常に最新の情報が得られるという状況ではなくなるので、今後は控えて訓練をする事にした。二号は、俺の呟きを聞くと仕事がなくなり残念そうにしていた。
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