挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないなら開き直ればいいじゃない! 十六代目

287/345

幸せ者のライエル

 ルフェンス王城の中庭で、俺はブロア将軍と話をしていた。

 ベイムの迷宮に挑むための打ち合わせ中だった。

「この時期にベイムの迷宮ですか。しかも小隊長以上を……。まぁ、必要だとは思います。ベイムの軍勢はともかく、ライエル様の軍勢は中隊規模の指揮官が不足していますからね」

 書類の束を持ったブロア将軍には、副官の騎士が横に立っていた。対して、俺の方はヴァルキリーズが両脇に立っていた。

「指揮官クラスの不足が酷い。どうにか短い期間で揃えておきたいんだよ。騎士や兵士は問わない。優秀な者は褒美も昇進も用意しようと思うんだ」

 俺の言葉に、ブロア将軍は理解したのか左手で髪をかく。

「競わせる訳ですか。上手くいけばいいんですけどね。世の中、人の足を引っ張る事を考える連中も多い。競わせ方は注意が必要でしょうね」

 そんなブロア将軍の言葉を聞いて、三代目が俺に言う。

『よし、それが分かっているなら、この件は彼に任せよう。元から人の上に立つ立場の人間だ。色々と仕事を任せ、ライエルは他の仕事を優先だ』

 七代目も嬉しそうに。

『仕事を任せられる人間がいる、というのはいいですな』

 やりたい事は伝えたので、俺はブロア将軍の肩を叩いた。

「では、よろしくお願いしますね、将軍。細かい事はお任せします」

 すると、ブロア将軍が書類に向けていた視線を俺に向けてきた。

「……え? あの、他にも色々と仕事が」

 すると、中庭にノウェムが現われた。

「ライエル様、よろしいでしょうか?」

「どうした。戻ってくるには少し早いな」

 ブロア将軍が何か言いたそうにしていたが、俺はノウェムの方へ近付く。ノウェムの後ろには、背の低い少女――イニスさんがいた。珍しい組み合わせだと思っていると、ノウェムに誰もいない部屋で話がしたいと言われた。





 王城内の執務室に移動し、ノウェムから聞いたのはイニスさんのスキルについてだった。

 宝玉内からは三代目が驚いた声で。

『驚いたね。インフォメーション? そんな便利なスキルがあるだなんて』

 七代目も驚いてはいたが、どこか興奮気味だった。

『このスキルがあれば……ライエル!』

 俺は二人の言いたい事を理解した。イニスさんのスキル――インフォメーションは、情報を与え、そこから未来予測をするというスキルだ。このスキルがあれば、もう俺に怖いものなどない。

 早速、俺は緊急を要する重大案件を聞くことにしたのだ。

 ノウェムが、イニスさんの要求を俺に伝えてくる。

「イニスさんは、協力を対価にラウノさんの待遇の改善を求めています。ライエル様、ラウノさんの騎士任命、共に今後の待遇の約束を――」

「――その前に、聞きたいことがある」

 ノウェムが口を閉じ、イニスさんは執務室のソファーに座って姿勢を正したのだった。俺がなにを言うのか緊張した様子で待っている。

 三代目が真剣な声で。

『そうだね。今の段階でどうしても聞いておきたいことがある。ただ、スキルの精度も知っておきたいね』

 七代目も真剣だ。

『まずは情報を与え、何度か実験をしてみましょう。その結果によっては、迷宮へ挑む期間を調整しなければいけませんからね』

 俺はイニスさんを見ながら。

「……実は、女性問題で悩んでいる。どうすれば上手く解決できるか調べて欲しい」

 真剣に――俺は凄く真剣にイニスさんにたずねるのだった。

 イニスさんは少し間が空いた後に。

「……え?」

 宝玉内からも間の抜けた声が聞こえてきた。三代目など呆れた声を出していた。

『え~、そっち? そっちから聞いちゃうの? ライエル、ちょっと間違っているよね』

 少し怒っているのは七代目だ。

『ライエル、今は冗談を言っている場合ではないぞ。聞くべき事は他にあるだろうが』

 怒られてしまったが、俺から言わせて貰えれば女性問題も緊急を要する重要な問題だ。誰に手を出しても問題しか起きそうにない環境。ギスギスしている人間関係。将来への不安しかない。

 ノウェムが少し困ったように。

「ライエル様、流石にそのような質問は少し……」

 いくら協力を求めてきたと言っても、そんな内情を話していい相手ではない。分かっているのだが、今の俺にはこっち方面もなんとかしたかった。

「悪いがこっちも緊急を要する案件だ。俺は真剣なんだ! 信じていたバルドアは、普通に女性を知っていた。もう、俺の仲間はダミアンやマクシムさんだけ……それなのに、俺は女性問題で周りに相談も出来ない!」

 バルドアは俺の女性関係に呆れているというか、増えすぎた女性を逆にどうやって管理しているのか不思議がっていた。

 ダミアンは数ではなく質を求めており、俺の悩みを理解できていない。

 マクシムさんは――アデーレさんに近付くとガードしてくる。信用すらされていない状態だ。

 イニスさんが呆れつつも。

「あの、ノウェムさんの話を聞いていましたか? 私、ある程度の情報がないと未来予測の精度が悪くなるんですけど。いきなり言われても答えられないです」

 俺は笑顔を作ると。

「大丈夫だ。情報なら提供しよう。なんでも聞いてくれ」

 イニスさんが、ノウェムの顔と俺の顔を交互に見ていた。ノウェムは、溜息を吐くと執務室から出て行く。

「私がいては話し難いでしょうから、外に出ておきますね」

 ノウェムが部屋を出て行くと、俺はイニスさんに必要な情報を教えるのだった。

 これで……もう、俺は女性問題に悩まなくて済む!





「そんな事だと思ったんだよ」

 執務室のソファーに座る俺は、スキルを使用したイニスさんに質問を繰り返していた。ただ、先程までのように期待した感情ではない。

 後ろ向き……後ろ向きの感情だ。

 何故なら、イニスさんに情報を渡してスキルを発動した結果――得られた答えは。

「穏便に済む方法がありません」というものだった。逆に、いかにして被害を減らすのかという後ろ向きの解決策を探すことになってしまったのだ。

「……ルドミラさんを正妻にするとどうなるんですか?」

 イニスさんは部屋の中で淡く光り出すと、少し落ち着いた口調で。

「正妻が決定する前後で、ファンバイユの陣営が激しく異議を唱えるかと。リアーヌ・ファンバイユも表と裏で工作を開始します。カルタフスはバンセイムの次に大国ですが、戦後に約束通りファンバイユが国土を回復すると覆せない国力ではなくなります。抵抗は激しく、二大派閥になる可能性が高いと思われます」

 俺はソファーの上で膝を抱えて座っていた。溜息を吐くと、今度は――。

「なら、誰を正妻にすれば上手くいきますか?」

 イニスさんの答えは。

「結論から言って、誰を選んでも問題が発生します。逆に選んではいけないのは、亜人種であるエヴァ、メイ、モニカの三名です。跡継ぎ問題もありますが、三人がその地位を望んでいません」

 エヴァとメイはともかくとして、モニカの名前を出された俺は微妙な表情になる。

「まぁ、確かにその三人は駄目か。なら、アリアやクラーラは?」

「……根回しをすれば、正妻として認められるかと。ただし、明らかに誰かの傀儡になる可能性が高いと思われます。アリア・ロックウォード、クラーラ・ブルマーは個人としてライエル・ウォルトを支える事は出来ても、帝国の皇妃として問題が出ると予想します」

 俺は二人の顔を思い出しながら。

「まぁ、二人は腹の探り合いとか、そういうのはちょっと無理かな。でも、そういう裏がないから逆にいいよね」

 三代目が少し残念そうに。

『そうなんだよね。クラーラちゃんは裏方でライエルを支えるのがいいよね。はぁ、大きな図書館でライエルと本を読んでいる姿はお似合いだったのに』

 七代目が言う。

『ルドミラとリアーヌを選べないというのが問題ですな。こうなると、派閥を押さえつつ傀儡というか表向きの皇妃が必要になるのでは? もしくは、第三の派閥がいれば』

 俺はミランダの顔が思い浮かんだ。

「なら、ミランダだ!」

「二大派閥を押え込みつつ、皇妃として十分に能力を発揮すると思われます。……が」

「が?」

 途中まで良い感じだったのに、イニスさんがここから落としにかかる。

「自派閥の強化のため、妾を増やす可能性が高いと思われます。グレイシア・ガレリア、エリザ・ルソワースの両名の内、どちらかを自派閥に巻き込みますがそれではとどまらないかと」

「え? 両方を巻き込めないの? 前は仲が良かったんだけど?」

 グレイシアとエリザの二人は、文通をする仲だった。なのに、今では確かに微妙な関係になりつつある。

「……双方を同じ派閥に組み込むのは難しいかと。逆に、どちらかを皇妃にする場合、片方が派閥を立ち上げる可能性も」

 宝玉からは三代目の声が聞こえてきた。

『グチャグチャになるね』

「どうしてこうなる。もっと穏便な方法はないのか」

 イニスさんは俺に対して淡々と。

「全員がそれなりに能力を有しています。本気を出せば、色々と出来てしまうだけの才能を持っていますので。逆に言います。どうして穏便に済むと思ったのですか?」

 俺はイニスさんの問いかけを無視して、次の質問に移るのだった。

「ならヴェラならどうだ!」

 商人の娘だが、なんだかんだと言って優しいところもある。意外とこれは良い案なのではないか? 自分でそう思っていると。

「ヴェラ・トレースは商人の娘です。本人が意識しなくとも、どうしても大陸で引き継ぐ貴族の血を尊ぶ傾向がある中では、悪手となるでしょう。本人がそういった苦労を抱え込み、最後はボロボロになると予想します。そうなると、父であるフィデル・トレースはあらゆる手段を使って復讐を――」

「すみません。駄目ですね。うん、ボロボロになるのは良くない」

 我慢をして苦労を表に出さないで、抱え込まれるのはごめんだ。イニスさんは続ける。

「良いも悪いも関係なく、皇妃が商人の娘ではせっかく削いだベイムの力が増してしまいます。大陸全土で商人たちの権力拡大――それと共に、騎士の立場が下がり傭兵の増加が予想されます。大陸制覇を成し遂げても、帝国の栄光は数代で途絶えてしまうかと」

 金の力が増して、騎士たちが貧乏になる、とイニスさんが言い出した。そのため、領主たちが軍縮――傭兵を頼り、治安の悪化が発生するという。

 七代目が全力で。

『……ライエル、ヴェラだけは止めておきなさい。現状より酷くなりそうだ。まぁ、本人がまともでもがめつい商人共はヴェラの名前を使って好き放題するという訳だな』

 本人がまともなだけに、なんという嫌な未来。ヴェラのためにも正妻の地位だけはないという結果が出てしまった。

 三代目が言う。

『そうなると、残るのはシャノンちゃんだね。いや~、流石にあの子はないかな』

「……もう、一番駄目そうなシャノンはどうよ」

 すると、イニスさんが言う。

「シャノン・サークライですか。彼女が皇妃となる場合、姉であるミランダ・サークライが支援に入ります。目が見えないというハンデを隠すのなら、皇妃としてもやっていけるだけの能力を持っていますね。魔眼持ち……ルドミラ・カルタフスもリアーヌ・ファンバイユも警戒をすると考えられ、派閥争いは静かなものになると予想されます」

 七代目が言う。

『なんと! 今までの中では一番の反応ではないですか!』

 三代目も驚いたように。

『意外だね。あの駄目可愛い子が実は有能だったとは……』

 最後に俺は聞いた。

「なら、ノウェムは?」

 ただ、この問いに対してイニスさんは言う。

「……予想をするには、情報量が少なすぎます。今の段階では、予想すら出来ません。ただ」

 ――ただ。

「――今の段階では、ライエル・ウォルト、ノウェム・フォクスズ共に不幸となる可能性が高いと思われます」

 そんな事を言われてしまった。





 数日後。

 復興を進めるベイムに到着した俺は、五千人規模の軍勢を引き連れていた。ルフェンスの防衛にはバルドアを残し、他にはノウェムを始めとしてアリアやミランダたちを残して来ている。

 何かあってもすぐに負けることはない。

 周囲の瓦礫は撤去され、使用しない場所は未だに手が付けられていない。かつて使用されていた内壁が、今ではノースベイムの全てを収めていた。

 大きく小さくなってしまったベイムは、かつての賑わいはない。だが、復興のために動き出し、結果が見えてくると人々の顔に笑顔が戻ってきていた。

 無事な建物の前では炊き出しが行なわれ、避難民や住む場所のない人々に食事が提供されている。

 そんなベイムに入った俺たちは、どこかベイムの住人たちから距離を置かれている。

 馬に乗ったブロア将軍が、気まずそうに髪をかいた。

「まったく、恨まれたものですね」

 俺は表情を変えずに。

「まぁ、ベイムにとっては初めての事ですからね。余所の人間からすれば、憤慨ものなんですけどね」

 特に、四ヶ国連合の不満は大きい。ザインやロルフィスはベイムのおかげで大きな被害を出しているのだ。

 ベイムが煽り、そして傭兵団に荒らされてきた経験を持つ者からすれば当然の報いらしい。

「尾を引きますね。下手をすると、復興の目処がつけば独立を宣言するかも知れませんよ」

 俺はそんなブロア将軍の不安に答える。

「ベイムは商業都市ですからね。ある程度の権利は認めますよ。ですが、ある程度まで、です。周囲の土地を管理する者は別で用意します」

 そんな俺の言葉に、ブロア将軍はアゴをさすりながら。

「……ベイムを二つに割って、周辺は押さえると。これでベイムは食糧を買うことでしか得られなくなりますね。そんな事をいつ考えていたんです? いや、いつから考えていました?」

 俺は少し笑うのだった。宝玉内の歴代当主たちは、ベイムに到着してからすぐにその財力や権力を警戒していた。言ってみれば、ベイムに来た時から財力などを削ぐことを考えていたのだ。

 少し笑った事で、ブロア将軍は察したのか質問を続けなかった。ただ、俺に対して。

「怖い人ですね」

 俺は一言。

「俺なんてまだまだだ」

 ――としか言えなかった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ