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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないなら開き直ればいいじゃない! 十六代目

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マイゼル・ウォルト

 ――ウォルト家の屋敷。

 そこにはグレーの髪をオールバックにした男がいた。手入れをした髭を指でなぞりながら、セントラルから来た手紙を見て微笑んでいる。執務室にある立派な机に手紙を置くと、今度は握りつぶされた報告書の方に鋭い視線を向けた。

 夜になって部屋をたずねてきた家臣である【ベイル・ランドバーグ】に視線を向け、ウォルト家の現当主である【マイゼル・ウォルト】は呆れた口調で。

「東部方面軍が敗北したのは聞いていたが、規模は予想以上だ。セントラルのセレスやクレアからの報告では、逃げ延びることが出来たのはごく僅か……あのウォルト家の面汚しにいいようにやられおって!」

 苦々しい表情をしているマイゼルに、ベイルは真剣な表情のまま。

「よろしいのでは? ウォルト家を追放された者でも、それだけの力量はあると知らしめた訳ですから」

 マイゼルは背を椅子の背もたれに預け、不満そうな表情をしていた。

「馬鹿を言うな。セレスが王太子殿下の妃になったというのに……あの面汚しは、どこまでもウォルト家の邪魔をする。一刻も早く排除するべきだ。裏切り者もいるようだからな。理由をつけてルフェンスに進軍する」

 ベイルはそんなマイゼルに反論した。

「マイゼル様、セントラルではセレス様がマイゼル様の到着を心待ちにしております。あまりお待たせるのも」

 マイゼルは笑い出した。その笑みは、どこまでも自信に満ちていた。

「嬉しいことだ。可愛い娘が私の到着を心待ちにしているのだからな。だが、手土産もなくセントラルに行くのも父としてのプライドが許さないのだよ。セレスには少し遅れると伝えておく」

 ベイルはマイゼルの決定に変更がないと知ると、返事をした。

「現状、出陣の回数が増えております。それに冬場とあって動員できる数にも限りがあります。動かせても数万規模になります」

 マイゼルは自信満々に。

「ポーターだったか? アラムサースでセレスがウォルト家に持ってきてくれた技術もある。後方支援も整っている。寄子や関係のある家にも動員させろ。セレスの喜ぶ顔を見たさに、必死になる連中などいくらでもいる!」

 ベイルはそんなマイゼルに対して、意見を言う。

「それでも五万に届くかどうか、ですな。ルフェンスにはそれなりの数がいると思われますが? 間諜の類いも潜り込むのに苦労している様子です。もう少し待ってみてはいかがです?」

 マイゼルは口ひげを指先で撫でながら。

「ウォルト家の家宝を使ったのだろうさ。それだけの事だ。だが、私にはスキルなど関係ない。少し調子に乗っているようだが……私の前では無意味だ。アレが持ち出したウォルト家の家宝も取り戻しておくとしよう。アレ自体に玉としての価値はないが、大事な家宝だからな。老いぼれが隠し持って、アレに渡したのが原因だ。まったく、父上にも困ったものだよ」

 マイゼルがそう言うと、ベイルも同意した。

「ブロード様もお亡くなりになられる前は……ゼノア様が先にお亡くなりになり、気が滅入っていたのかも知れません」

 七代目、ブロードの話が出るとマイゼルは天井を見上げた。

「あの厳しい父が耄碌(モウロク)する姿は憐れだったよ。私に『目を覚ませ』などと……なにを言いたかったのか」

 二人はしばらく沈黙する。最後に、マイゼルが口を開いた。

「……準備を急がせろ。アレの首は無理でも、勝利をセレスに届けてやりたい」

 どこまでも、セレスとライエルの扱いに差があるマイゼルだった――。





「父上の事ですか? いえ、その……あ、あまり記憶がなく」

 曖昧な返事をしているが、実際はほとんどの記憶を俺は失っている。そのため、父であるマイゼル・ウォルトに関して、知識がかなり不足していた。

 バンセイム最強まで上り詰めたウォルト家の現当主――。

 そして今は、セレスの敵を無慈悲に滅ぼしている。

 宝玉内。

 円卓の間で、俺は七代目である祖父と向かい合っていた。三代目は邪魔をしないためか、自分の記憶の部屋に引きこもっている。

 七代目は少し――いや、かなり難しい表情をしていた。

『……ライエル、お前もわしの孫だが、マイゼルは息子だ。だからこそ言える事がある訳だが』

 父の記憶は本当に少ない。僅かに残っている記憶の中の父は、冷遇される前は本当に優しかった。厳しくもあったが、優しさも確かにあったのだ。

 冷遇されてからの態度を考えれば、それがよく分かった。

『マイゼルは宝玉を重要視しなかった。何故か分かるか?』

 俺は首を傾げた。確かに、俺が手にしてから青い玉は青い宝玉となった。それでも、歴代当主たちが残したスキルはどれも破格と言える性能を持っていた。

 父がそれを知らない訳もなく、どうしてゼル爺さんが持っているのを調べなかったのか? その気になれば、いくらでも調べて探すことは出来たはずだ。

「よく考えると不思議ですね。家宝にこだわりがなかった……というのもおかしいですから。ウォルト家に誇りを持っていましたし」

 ウォルト家の誇り――そのため、父の祖父である六代目ファインズが、汚いことをしてきたのを嫌がっていた。

 ならば、どうして父は宝玉を手にしなかったのか?

『マイゼルには宝玉が必要ない。いや、正確には装飾品という価値しかないのだ。マイゼルは宝玉のスキルを扱えないからな』

「扱えない? 父に何か問題があったのですか? そんなふうには見えませんでしたけど」

 父も歴代当主と同じように立派な人だった――と、思う。セレスによって狂わされる前は、良き領主になれるように心がけていた。

 七代目は父について語ってくれた。

『いや、優秀だった。そして、優秀であるからこそ、マイゼルは青い玉が使用できなかったのだ。マイゼルは……スキルの使用を阻害するスキルを持っている。それも、自分のスキルが強すぎて、魔具の使用すらできないほどに』

 俺はそれを聞いて、どうして父が宝玉にこだわらなかったのかを理解したのだった。





 ――ロルフィスの王城。

 アンネリーネは、ロルフィスに配置されたヴァルキリーの一体を前にして玉座から腰を浮かせてしまっていた。

「い、今なんと?」

 謁見の間には他にも主だった面子が揃っており、メイド服姿のヴァルキリーを囲む形でルフェンスに送り出した一団の報告を受けていたのだ。

 ヴァルキリーは無表情で淡々と告げる。

「ですから、ご主人様の家臣であるバルドア・ランドバーグ様と、貴国の騎士団副団長、アレット・バイエ様との間で婚姻が成立しました。両国にとって素晴らしい結果になった、と。バルドア様はご主人様の側近。このままいけば出世は間違いなく、現状では格違いはあってもいずれ立場は逆転――」

「そうではありません! どうして! 私に相談もなく、アレットが結婚などしているのですか! こちらに相談があって当然ではないですか!」

 周囲もアンネリーネと同じような事を呟く。

「た、確かに。副団長の婚姻など想定外だ」
「だが、利益もある」
「それでは現状は変わらん! ザインもガレリアも、ルソワースも盟主に嫁を出している。しかるべき地位の人間を、だ! 確かに利益はあるだろうが……これ以上の事をすれば、周囲から反発が来るではないか」

 ヴァルキリーは周囲の反応を、赤い瞳を動かしながら見ていた。

 ロルフィス側からすれば、一番良いのはアンネリーネがライエルに嫁ぐ事だ。しかし、王位が空いてしまうので、アンネリーネはロルフィスに滞在。子供が出来れば跡取りに、という状況が望ましかった。

 勝手と言われればそこまでだが、ロルフィスにも事情はある。婚姻もしていないのに、ここまで協力して来た事を疑問視する声も出て来たためだ。

 国外の状況を考えれば、連合脱退などすればその瞬間にロルフィスは崩壊する。それは分かっているが、国内問題も放置できなかった。

 宰相であるロンボルトは、頭部から汗を流しながら言う。

「……アンネリーネ様との婚姻は認められないと? その理由は教えて頂けないのですかな?」

 ヴァルキリーは淡々と。

「双方のためを思えば、こそです。それに、バルドア殿はご主人様とは遠い縁戚関係。不満を述べられた場合、ご主人様自身がロルフィスになにも思わなくとも、周りがどう思うか」

 六代目の弟妹たちが、ランドバーグ家にも嫁いでいたのだ。そのため、ライエルとバルドアとは縁戚関係にある。主従の関係であり、血縁者という意識が薄いだけで周りから見れば拒否するのも問題だった。

 ライエル側の態度に問題もあるが、ロルフィス側にも問題が多い。双方、ガタガタで、このまま話を続けても泥沼状態だ。

 ロンボルトはヴァルキリーに。

「……アレット・バイエの婚姻を認めましょう。祝いの言葉は後で正式に書面として用意させます」

 ヴァルキリーはスカートを指先で持つと綺麗なお辞儀をした。

「ありがとうございます。貴国の度量の深さに感謝を」

 ただ、アンネリーネだけは。

「おま、お待ちなさい! 宰相、私の結婚はどうなるのですか! 国のためにも必要だと言ったのは貴方ですよ!」

 騒ぎ出すアンネリーネを前にして、ヴァルキリーズは思うのだ。

(爆弾処理終了です、と伝えておきますか)

 ヴァルキリーズに爆弾扱いを受けるアンネリーネは、そのまま謁見の間からロンボルトやお付きの者に連れて行かれるのだった――。





 夜。

 ルフェンス王城内にある寝室で、俺は椅子に座って窓から夜空を見上げていた。部屋の中は暖かいはずなのに、どうにも芯から温まる感じがしない。

 宝玉のチェーンを右手に持ち、持ち上げて月の光に照らされた青い宝玉を見た。

「……アンチスキルか。厄介だな」

 スキルの使用を阻害するスキル。簡単に言えば、俺の優位性を簡単に失わせることが父には出来たのだ。

 スキルによる情報の伝達。そして周囲の地形把握に加え、敵の位置を確認。スキルによる能力向上もあったからこそ、寄せ集めの集団でも戦えてきたのだ。それが奪われた場合、地力というものの差が出てしまう。

 個々では優秀な人材がいても、全体として見れば父が持つウォルト家の軍勢の方が意思統一から連携まで上である。

 練度、装備、加えて経験の差――色々な条件を考えると、スキルが使用できないというのはかなりの問題だった。特に、宝玉に魔具のスキルが干渉して使えなくなった時、モニカは俺とのラインが切れている。

 モニカの活躍は期待できなかった。

「こうしてみると、かなり頼ってきたんだな。スキルがなかったら、今の俺は――」

 弱気なことを言うと、宝玉内から三代目が声をかけてきた。

『随分と弱気だね。確かにスキルのおかげでライエルは戦ってこられた。だけど、それだけでもないと思うよ。大軍を動かす場合、能力も必要だけどそれ以外にも必要なものも多い。スキルだけあっても、今の状況は作れなかっただろうさ』

 七代目も俺に言う。

『そうだ。もっと自信を持ちなさい。スキルだけではない。お前の力があったからこそ、ここまで来られたのだから』

 言われて少し嬉しかった。宝玉を右手に握りしめると、俺は呟く。

「それにしても、スキルの阻害……歴代の武器も使用できないとなれば、厄介になりますね。こっちは厳しい状況なのに」

 逃げ出した兵士たちが賊になっており、人員を割いて討伐を行なっていた。その数はとても多い。

 更には、かき集められたベイムの兵士たちは多くが志願兵で、一般人に戻ってしまった。全員が残られても支えきれず、四ヶ国連合の兵士たちも帰郷を始めている。

 三代目は、少し考え込んでから。

『……信用できる兵士を集め、主軸を早急に用意した方がいいね。状況によっては、こちら側の兵士たちは裏切るだろうし』

 取り込んだ多くの兵士たち。その中から、信用できる者だけを集めて精鋭を作る必要がある、と三代目が言う。

「今から鍛えてどこまでやれるか……それに、敵が来たら対応も」

 七代目が笑いながら。

『ライエル、もっと大きな視野で考えなさい。何も兵士の中から信用できる者を普通に鍛える……などと、普通の考えを持っていないだろうな?』

「違うんですか?」

 三代目が笑う。

『もう、今まで冒険者としてやってきて、なんで気が付かないかな? こういう時に利用するなら、便利なものがあるじゃない』

 俺は三代目の言葉にハッとして。

「迷宮ですか! いや、でも……基本的に、冒険者と兵士とは求められている技能が違うと思うんですけど」

 実際、ベイムの兵士たちがそうだ。冒険者を主軸としながら、バンセイムの軍勢に数の力で負けていた。そして、人間同士の戦いになれていなかった。

 七代目は言う。

『個々の技量を上げつつ、小隊単位で連携を高めるには丁度いいではないか。それに、だ。ライエル……お前の常時発動しているスキルは、有効だと思わないか? 最悪、指揮官とその補佐を育てるだけでもいい。というか――』

 三代目が七代目の説明を引き継いだ。

『迷宮内を自分たちの軍勢で戦いたい。大量に兵士を投入し、冒険者のマナーを無視して行動できるのは今しかないからね』

 俺が考え込むと、七代目が言う。

『部隊の伝令や動かし方の訓練にもなる。ライエル、他の者に経験を積ませると思ってやったらどうだ? お前がサポートをすれば、大きな被害も出す事はない。短期間でサクサク成長させ、軍の強化を図ろうではないか。ついでに足りない指揮官クラスを補充できるぞ』

 俺は二人の意見に従う事にした。

「分かりました。でも、俺が参加する場合、あまりここを空けられませんよ」

 三代目が笑いながら。

『大丈夫。ライエルのスキルも成長後から急激に強くなっているから。五代目やミレイアちゃんのおかげかな? さぁ、ウォルト家式、軍隊強化を始めようか! 楽しくなってきたね!』

 ……そう言えば、近場で手頃な迷宮はベイムの管理している迷宮だけだ。今にして思えば、俺はそんなベイムの迷宮に入るのははじめてだった。
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