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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないなら開き直ればいいじゃない! 十六代目

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第十六章 プロローグ

 ――薄暗い曇り空。

 雪が降るセントラルは、バンセイム王国の首都でありながら妙に静かだった。道を歩く人々は若者が少ない。特に、若い男が少なかった。雪が降っているから出歩かない、という理由だけで人が少ない訳ではない。

 建物から漏れる光の数も、少ない。王都の大通りであるはずなのに、いくつかの店は戸を閉めて張り紙をしていた。

 窓の外はきっと寒いのだろうが、部屋の中から外の様子を見るセレスには関係なかった。暖房機の魔具を使用し、部屋の中は暖かい。左手に持っているレイピアは、鞘や柄のかざりが杖を思わせる造りになっている。

 柄に埋め込まれた黄色い宝玉からは、ニタニタと窓の外を見るセレスに向けて声が発せられていた。

『度重なる戦に重税。加えてお前のために働く虫共が衰えていくさまはどうだ?』

 黄色の宝玉内には、ライエルの持つ青色の宝玉とは違って意識は一人分しかなかった。セプテムの記憶の一部を引き継ぎ、そして大陸を地獄に落とした【アグリッサ】――その記録が刻まれているのが黄色の宝玉だ。

「凄く楽しいわ。でも、たったこれだけの期間でここまで疲弊するのを見ると……」

 セレスは俯いて悲しそうな表情をする。金色の髪はゆったりとウェーブしており俯いたセレスの表情を隠す。輝くような髪と、悲しそうな青い瞳――しかし、セレスの口角はゆっくりと持ち上がると下卑た笑顔を作り出す。

「……本当に虫よね。バンセイムの首都とか言いながら、この程度で滅ぼうとするんだもの。もっと私を楽しませて欲しいわ」

 アグリッサは少々呆れていた。セレスの今の姿にではない。何しろ、アグリッサも元は傾国の美女などと呼ばれていた。セプテムの辛い記憶を引き継ぎ、自身のために力を振るった存在だ。

『もっと嬲るようにジワジワと痛めつけるのが楽しいというのに。まぁ、お前はまだ若いからな。もっと心に余裕を持つのもいい事だぞ。ただ、バンセイムがこうして滅ぶのは見ていて楽しいものだな』

 日に日に活気を失いつつあるセントラルを見るのは、アグリッサにとっても楽しいようだ。何しろ、かつては敵対していた――だけではない。

 バンセイムはアグリッサの下についていたのだ。つまり、アグリッサに従っていた地方の領主貴族だ。その恩恵を受けながら、旗色が悪くなると寝返ったのである。

 アグリッサとの会話をする時は、城の最上階にある部屋を利用していた。誰も立ち入らせず、二人だけで会話を楽しむ。

 セレスは微笑みながら思いだしたように言う。

「そうだ。もうすぐお父様が領地から戻ってくるわ。歓迎の準備をしないと。お母様は私の傍にいてくれるけど、お父様はお仕事もあるからずっと傍にはいられないし」

 年齢的には両親を疎ましく思う、または父親を毛嫌いする時期である。だが、セレスは両親だけには愛情を持っていた。それは、アグリッサも同じである。

『そうだったな。お前の父は忙しいからな。私の父は末端の宮廷貴族だったが、私のために色々としてくれた……兄妹たちは邪魔だから追い出したが、後宮に入ってからも役職を与えて色々と恩を返したものだ』

 両親は特別――ただし、兄弟や姉妹は違う。セレスとアグリッサに共通した感情だった。それもすべて、女神の記憶が影響している。

「パーティーでしょ、それから贈り物を用意して……お母様にも新しいドレスを用意しないと!」

 嬉しそうに話すセレスの姿は、妖艶と言うよりも子供のようだった。すると、部屋にノック音が聞こえてきた。セレスが許可を出すと、入ってきたのはオートマトンのバートだった。

 執事タイプのオートマトンで、美青年の姿をしている。赤い髪に青い瞳はとても綺麗だ。知らない人間が見かけても、人間と思ってしまうだろう。

「セレス様、バンセイムの東部方面軍が破れました。大敗だったようです。親衛隊も全滅。ブレッド隊長も命を落としたとか。万単位の戦死者が出てしまいました」

 セレスはその報告を聞くと、バートに笑顔で。

「そうなの? でも、今はそんなどうでもいい事は気にしないわ。勝ち負けはどうしてもある、ってお父様も言っておられたし。それより、お父様がセントラルに来るのよ。私に会うために! だから、盛大にお出迎えをしないとね。バート、手配をしてくれる」

 興味がない様子だった。バートは呆れた表情を見せる。こんな事をセレスにすれば、その場で拷問が始まるだろう。しかし、バートはオートマトンだ。仕事も出来てセレスにとってはお気に入りの玩具である。

「そう言うと思っておりましたので、手配はしております。ただ、国庫は厳しい状況ですが?」

 贅沢な暮らし、そして大規模な戦争を続けたことで大国であるバンセイムの国庫は酷い状況だった。だが、セレスは気にしない。

「そんな事よりお父様なの! お仕事とか私に従わない虫共を殺してくれているお父様を盛大に出迎えるのよ!」

 そんなセレスに、バートは言う。

「バンセイムの式典に影響が出ておりますが? 国王陛下以下、王族の方々もセレス様の参加を待望んでおります」

 セレスは首を傾げながら。

「え? そんなの出ないわよ。なんでお父様が来る時にそんな事をするの? 信じられない! ルーファスは絶対に私の寝室に入れないでよ!」

 バートは肩をすくめた。セレスの言葉に反論する。

「一度も寝室に入れた事がないではありませんか。私が知る限り、そしてそれまでもないと聞いています。自分のお気に入りを部屋に入れているのに、よくそんな事が言えますね」

 セレスは怒ったような顔をする。あざとく可愛らしく見えるような怒った表情だ。バートがオートマトンであるから、失礼な態度も許されている。

「だって……あの女から奪ったら興味がなくなっちゃったんだもん」

 宝玉内からは笑い声が聞こえた。

『奪うまでが楽しい。確かによくある話だ。ただ、今の私もどうしても奪いたいものがあるが……そちらはずっと傍に置けそうだがね』

 アグリッサの声を聞き流し、セレスは両親のためにパーティーを開くと言いながら楽しそうに部屋を出て行くのだった――。





『奪うまではいいんだよね……』

 宝玉内からそんな声を出しているのは、三代目だった。

 ルフェンス王国――修繕の進む城の一室は、今では俺の執務室になっていた。元はブロア将軍が使っていたのだが、自分は兵の訓練があるので、などと言って俺に仕事を押しつけた。

 目の前にある書類の山は、ルフェンスとベイムの報告書やアデーレさんの苦情だった。人手が足りない。商人が言うことを聞かない。住人が金に五月蝿い、など最早愚痴でしかない。

 そうした書類などを見ている俺だが、部屋にはモニカすらいなかった。ノースベイム、サウスベイムに分けたベイムの統治。更にはルフェンス――圧倒的な人材不足に頭を抱えたくなった。

 七代目が今になって。

『まぁ、普通は領土問題なども人が多い、とか勝利後に治められると思うから攻め込みますからね。しっかりと家臣団が揃っていれば、縁戚関係を頼って人手を集めて統治も可能なのでしょうが』

 下手に大きな領地を手に入れたために、人手不足が深刻化してきた。

「……奪った後の方が大変とか」

 激戦に続く激戦が終われば、戦後処理やら新しい統治などやることが多かった。しかも、ベイムは商人や冒険者ギルドが支配していた土地――普通に支配層がいて、というような統治になれていなかった。

 ドアが開くと、そこにはヴァルキリーズを二体引き連れて追加の書類を持ってくるリアーヌさんがいた。顔は笑顔だが、少し疲れているようにも見える。

「さぁ、ライエル殿……おかわりですよ。じゃんじゃん処理してくださいね」

 ヴァルキリーズが、書類を置くために用意した机の上に次々に新しい山を作りだしていく。

「あ、因みにこちらが急ぎになります」

 そう言って小さな山を俺の目の前に置くリアーヌさん。俺が顔を見れば、言いたい事を察したのか口を開く。

「言っておきますが、私も簡単に目を通していますからね。必要のないものは除外してこの数です。統治者になったのなら、それだけの責任や義務が発生するのを理解されていますよね? ……それと、大陸全土を支配しようものなら、仕事量はこの程度では済みませんよ。効率の良い統治方法を今から用意されておくべきです」

 リアーヌさんの言葉に頷くしかなかった。宝玉内からは、三代目と七代目の声が聞こえてくる。

『流石に一国の統治を知っているお姫様は違うね。きっと、色んなノウハウとか持っているんだよ』

『真面目な話、後方というか実務の面で人手不足が深刻化しておりますね。ライエル、お前……大陸を手に入れたら、意地でも受け継げる統治方法を用意する必要が出て来たな』

 英雄による国の統治――それは名声もあってやりやすい面もある。ただ、代を重ねようとすると問題が出てくる。

「……俺、このままだと初代と二代目の苦労を同時に味わうんじゃ」

 何もない場所に村を作った初代。

 そして、そんな初代の残した村を整えて後に続くようにした二代目。

 三代目が感心したように。

『良く気が付いたね。二人がいれば、意外と面白いアドバイスをくれたかも知れないよ。まぁ、僕たちだと無理だけど』

 リアーヌが不思議そうな顔をしたので、俺は「なんでもない」と言って下がらせようとした。だが、リアーヌが下がらない。

「そう言えば、こちらに先に入る前に聞いたのですけど。ライエル殿の成長後は随分とギャップがあるとか。新しく元聖女に手を出したと噂で聞きましたが?」

「え、誰に! というか、手は出していない……」

 リアーヌは、書類を置くとそのまま執務室の片付けに入ったヴァルキリーズを見ていた。

「お前ら!」

 二体のヴァルキリーズは、口元に手を当てて。

「ご主人様、ごっこ遊びですよ。ごっこ遊び。メイド服を支給され、テンションが高くなったので噂話を口に出して喋っただけです。たまたま、そこにリアーヌ様がいただけで、それ以外に人はいませんでした」

 無表情の黒髪で赤い瞳をしているヴァルキリーズは、元はモニカの姉妹であるメイド型のオートマトンのコアを使用している。そのため、メイド服になにか強い思い入れがあるようだ。

 リアーヌが鼻で笑いながら。

「私の部屋で急に噂話をしたときは何事かと思いましたけどね。まぁ、全員への連絡事項だそうです。便利ですよね。これ、結構な強みですよ。各地にヴァルキリーズを配置すれば、すぐに情報が手に入るんですから」

 俺はそれを聞いて溜息を吐く。

「俺だから出来ている、という感じだな。これを統治に利用できても俺の代までだ。だから、出来れば使用しないで統治する方法を探したいけどね」

 有能なオートマトンたちだが、問題もある。現在の遠く離れた相手とのやり取りは、俺のスキル【コネクション】を利用して実現しており、そうでない場合はこのようなやり取りは不可能になる。

 また、コアの数は決まっており、量産するにしても現状の数が最大値――ダミアンでもコアは作り出せない。

 リアーヌは俺の顔を見ると、何度か頷いていた。

「次のことをお考えなのはよろしいことですね。もっとも、全ては勝ってからの話ですけど。ただ、流石に戦力だけを考えている時期ではありませんよ。事務職の出来る官僚なども用意する必要がありますね。人材不足ですから、貴族以外から求めても良いかも知れません。有能な人材を探すよりも、数で補う事の方が今の私たちには大事ですので」

 俺は急ぎの書類に手を伸ばし、そしてそれに目を通しながら。

「分かった。教育を進めてくれ。俺に言うという事は、もう準備はしているんだろ? ただ、今後は先に確認を取ってからにして欲しいけどね」

 リアーヌは少し驚いた表情をしていた。

「……面白くありませんね。驚かせようと思っていたのに。あ、そうだ」

 俺はまだあるのかと顔を上げると、リアーヌは真剣な表情で。

「正妻を誰にするのか聞いていませんでした。早めに決めて頂けませんか?」

 俺が唖然とした表情で書類を落とすと、宝玉内から三代目の嬉しそうな声が聞こえてくる。

『そうだよ。こんな話を待っていたんだよ。地味な仕事風景で喜ぶのは四代目くらいだし、僕はこの手の話題を待っていた!』

 七代目も真剣な口調で。

『牽制し合って動けない均衡を崩すのが、まさかファンバイユの姫とは……しかし、ガレリアかルソワース、もしくはカルタフスの女王あたりが動くと思っていました。迂闊だった。意外なところから爆弾が放り込まれた気分です』

 三代目も同じだったようだ。

『僕もだよ。この子はある程度の派閥を作ったら動くと思っていたし。まぁ、ドロドロとしてもいいけど、暗殺だけは駄目だよね。ライエル、そこは注意しておくんだ』

 いや、それをいうと殺さない限りは何をしても許す、と言っているのと同じではないだろうか? というか、最近は慣れてきたのか二人が俺の修羅場を楽しみにしている。

 ……こいつら、最低だ。
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