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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

誰に似ているのかな? 十五代目

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ウォルト家の麒麟児

 ――バンセイム側の天幕では、次々に舞い込んでくる報告に頭を抱えていた。

「何故だ。何故、数で押しきれない!」
「相手はこちらよりも少ないはずだろうが!」
「待て、すぐに息切れを起こす。ここは領主貴族の兵士たちを無理やりにでも編成して――」

 混乱している原因は、ベイムが統率の取れた反撃に出たからだ。都市内部での戦闘では、いくら冒険者の方が有利と言っても数が違う。数で押しきれると思っていたところで苦戦したのも仕方がない。

 すぐに部隊を編成し直し、装備も交換して突撃させた。なのに、バンセイム側に届くのは自軍の部隊の壊滅という報告だった。

「……まさか、援軍が来ているのでは? サウスベイムがカルタフスから援軍を得たように、ベイムも」

 一人の将軍の言葉を、被害を出して後退してきた領主貴族である伯爵が肯定する。だが、かなり苛立っていた。

「だから報告したではないか! それを無視したのは貴様らだ。四ヶ国連合などたいした数は出せないなどと言ったのを忘れたのか!」

 四ヶ国連合――小国が集まった国だ。総兵力は数万規模になるだろうが、バンセイム側からすれば脅威でも何でもなかった。ただ、ベイムと戦争をするためには、下手に邪魔をされたくない相手だっただけだ。

「たかが数万の援軍でここまで崩されるものか! 他からも援軍が到着している可能性があるはずだ。カルタフスが本気を出せば十万は……」

 すると、総大将が机に握り拳を振り下ろした。

「妄言は止めよ。カルタフスからそれだけの規模を輸送するのが可能か? 確かにベイムにある船を全て使えば可能だろうが、カルタフスは北でバンセイムと睨み合っている。それだけの兵士を他国に派遣する余裕などない!」

 天幕内が静かになった。実際、侵攻前に周辺の状況は調べている。四ヶ国連合とベイムの関係は冷め切っていた。戦争をしてもおかしくないほどに。

 カルタフスも取引があるとは言え、そこまでするとは思えない。

「いずれにしろ、ここで手を拱いているわけには――」

「伝令! ベイム内部で大規模な部隊が侵攻を開始! や、やつら……こちらに仕掛けてくるつもりです!」

 その場にいた将軍や領主貴族――そして、総大将が立ち上がった。すぐに迎え撃つ準備に入るが、その表情は様々だ。

「焦れて出て来たか。野戦ならばこちらの有利! 叩きつぶしてくれる」

「何故だ。何故出て来た……奴らの得意な戦場を捨てて、何故……」

 それぞれがそれぞれの感想を抱きながら、天幕の外へと出た。

 すると、門の前にいた部隊を突破して外に出てきたベイムの騎馬隊。ただ、その数は続々と続いて途切れる気配がない。

 それよりも、掲げている旗が将軍たちには信じられなかった。

「何故だ……何故、カルタフスや四ヶ国連合……それに、ジャンペアまでもが参加している!」

 見た事もない青い丸に銀色の装飾がついた大きな旗が、それらの中央ではためいていた――。





 ベイムの壁の上から、メイに乗って戦場を見下ろす俺は目の前の十万を超える敵を見ていた。

 対して、こちらは十万に届かない数。数だけを見れば多少の劣勢だった。だが、ジャンペアからの増援も到着した今の俺にはこれ以上の時間をかける意味もなかった。

 隣では、肌の焼けたジャンペアの将軍が俺に話しかけてくる。

「ベイムは寒いですな。もっと厚着をさせる必要がありそうです」

 俺は笑いながら。

「確かに、ジャンペアほど南ではありませんからね。さて、それでは俺もいきますか」

 別に俺が先陣を切って戦う訳ではない。そうする必要がないからだ。

 宝玉を握りしめ、引き千切るように取ると右手にハルバードを出現させた。魔力の消費が一番少なく、そして目立つ武器だ。

 そして、左手を掲げるとハルバードに埋め込まれた青い宝玉が光り出す。

「たまにはまともな使い方をしないとな――【セレクト】」

 二代目のスキル【セレクト】で、突撃した味方を指定して俺は自身のスキルを味方に使用した。数が多いので、そこまで強いスキルは使用出来ないが……。

「【フルオーバー】【スピード】」

 初代のスキル【フルオーバー】と、四代目のスキル【スピード】を自軍全体に使用する。魔力が増えたからと言って、万の軍勢に使用するとかなり魔力を消費する。しかし、今の俺には耐えられた。

 ジャンペアの将軍とは、俺を挟んで反対側に立つノウェムが杖を掲げた。

「来ますね。防ぎます」

 ノウェムが味方を守るようにマジックシールドを展開すると、俺のスキルで能力を向上させたのか、敵から放たれた魔法や矢を防ぐ。広範囲をカバーするマジックシールドの傘の下、味方は敵陣に突撃する。

 その突破力は凄まじい。

「ライエル殿も優秀な手駒がいるのですね。あのマクシムという男――ジャンペアでも名前だけなら聞いたことがあります」

 先頭を切り開いたのは、マクシムさんだった。アリアやミランダも参加している他は、ヴァルキリーズも参加していた。

「連合軍ですので、どうしても複雑な陣形は選択出来ませんからね。突撃しか出来ません。本番ではもう少し連携を高めたいところですけどね。……さて、俺も行こうか」

 ノウェムが俺に言う。

「ライエル様、自ら出陣しなくてもよろしいのでは?」

 俺は頷く。

「必要はないな。だが、バンセイム側に俺という存在を知らせるのは大事だろ? それに、だ……必要はないが、成果は多い方がいい」

 メイの腹を軽く蹴ると、メイは前足を上げて駆け出す。壁の上を駆け出す俺を見て、ジャンペアの将軍は少しい驚いていた。麒麟が空を駆けると知っていても、驚いてしまったのだろう。

「このまま真っ直ぐだよね?」

「そうだ。今なら味方が本陣に食い込んで、囲まれる心配もない!」

「……ライエル、なんかセコイよ」

「セコイ? 卑怯と言ってくれ」

 空の上でそんな会話をメイとすると、メイは敵の本陣を一直線に目指した。五代目、そして六代目のスキルが、正確に戦場の様子を俺に伝えてくる。

 ハルバードを振り、天幕の護衛をしていた騎士を斬り捨てた。メイが天幕を魔法で吹き飛ばすと、そこにはバンセイムの総大将がいた。

 馬上でハルバードを担ぎ、総大将を見下ろす。

「馬上から失礼します。ベイムの新しい支配者――ライエル・ウォルトです。貴方たちの首を貰いに来た。さて……降伏を希望される方はおられま……せんね」

 将軍たちは、俺を見ると憤慨しており腰の武器を抜いていた。周囲に兵士たちが集まってくるが、天幕付近に味方が接近しており既に囲むのも時間の問題だった。

 総大将が立ち上がると、近くにあった装飾された剣を手に取った。

「セレス様の兄とは聞いていたが、そうか……貴様が黒幕か」

 周囲の将軍たちも同じだ。俺の名前を聞くと、セレスの名前を口にする。

「……セレスに魅入られたか」

 予想通りだった。軍の中枢もセレスの支配下だろう。そして、セントラルにいる民はもっとも魅入られた者たちだ。俺はメイの背から跳び上がると、ハルバードを振るって総大将に振り下ろした。

 装飾された剣ごと両断し、そのままハルバードを近付いた将軍たちに振るった。周囲が血に染まり、そしてハルバードが魔力を吸収していく。

 周囲の兵士たちが、動けずにいた。

 一瞬の出来事であるのもそうだが、守るべき総大将が戦死したのだ。混乱は一気に広まるだろう。

 そう思っていると、天幕に馬に乗ったアリアが味方を引き連れてやってきた。

「ちょっと! なんでまた前に出たのよ!」

 急いで駆けつけたのか、多少無理をしたアリアは息を切らしていた。

「心配するな。俺は負けん。それより……勝鬨を上げるぞ」

 俺は息を大きく吸うと声を張り上げた。

「バンセイムの総大将は……このライエル・ウォルトが討ち取ったぁぁぁ!!」

 破れた天幕の柱に隠れていた兵士が、こちらをうかがっていたのでハルバードを投げつける。回転しながらこちらを狙っていた兵士を両断すると、俺の手に戻ってきた。

 アリアが俺の勝鬨を広げ、周囲の兵士や騎士たちもそれを連呼する。すると、次々にバンセイムの兵士たちは逃げ出すか投降――そして、玉砕覚悟で突撃してくるのだった。

 俺は、バンセイムの総大将を見下ろした。

「……俺を敵に回した不運を恨め、とても言えば良いのかな?」

 馬から下りたアリアが、俺の周囲を守るように部下に言う。そして、俺の呟きを聞いたのか。

「あんた、絶対に後悔するわよ」





 ――ノウェムは、壁の上から蹂躙されるバンセイムの軍勢を見ていた。

 風が吹き、顔にかかった髪を指で元の位置に戻しながら、紫色の瞳でライエルのいる場所を見ていた。

「ライエル様……ご立派になられましたね」

 初代から七代目までのスキルが記録された宝玉を持ち、そして歴代当主たちの武器を扱う今のライエルは、ノウェムにとって自慢だった。

 ウォルト家というノウェムにとって特別な家を継ぐに、相応しい青年に成長したライエルをノウェムは見ていた。

「自らの足で立ち。そして戦うその姿……ライエル様、ノウェムは嬉しいですよ」

 何万という被害が出た。そんな戦場を見ながら、ノウェムは微笑んでいた――。





 夜。

 ベイム冒険者ギルド――その東支部で、俺は会議室を借りていた。

 バルドアが、俺に現状を報告してくる。

「逃げ出したバンセイムの兵士は数万規模。全てが残存戦力に合流するとは思いませんが、当分は賊の数がとんでもない事になりますね。それに、吸収したベイムの兵士たちが、捕虜であるバンセイムの兵士に暴行を加えています。四ヶ国連合の兵士たちも、ベイム側にはあまり良い感情を持っていないようで……喧嘩が絶えません。あの、ライエル様?」

 バルドアが俺を見て困った表情をしていた。

「なんだ?」

「……いえ、その……流石に、その恰好はどうかと思いまして。その、疲れているのは分かっているので、出来れば部屋に戻って欲しいというか……目のやり場に困ります」

 顔を赤くするバルドアを見て、俺は両隣を見た。

 風呂に入って汚れを落としたアリアとミランダが、下着に近い恰好で俺の横に座っていたのだ。ソファーを持ってきて中央に俺が座り、その両隣から寄りかかってくる二人。

「可愛いだろ。お前も誰か紹介しようか? あ、一人思い浮かんだ。ロルフィスの王女殿下はどうだ」

「止めてください。格違いです。というか、本当にロルフィスをどうするんですか? 四ヶ国連合内部で、ライエル様と婚姻を結びそうにないのはロルフィスだけですよね?」

「ノウェムが拒否したからな。流石の俺も無理を言って嫁にするのは不可能だ。ノウェムには逆らえない。というか、アレは……うん、なんか駄目だ」

「駄目な人を押しつけようとしないでくださいよ! ……はぁ、マクシム殿が早く戻ってきてくれれば」

 俺はマクシムさんを思い出す。親友の兜を持って、一人で酒を持って部屋にこもってしまった。アデーレさんに慰めるようには言ったが、本人たちがどうなったかは分からない。

 バルドアは報告書を見ながら。

「数日後までに部隊を編成して残存部隊との戦闘ですね。ライエル様はどうされますか?」

 俺は寄りかかる二人の顔を見ながら。

「……流石にベイムから離れられないからな。不穏な動きをしている連中は、この段階で潰しておく必要がある。商人共を引き込んでも困るからな」

 バルドアは、俺の意見を聞いて少し安心した様子だった。

「少し安心しました。そんな様子で不安でしたが、やるべき事はやるのですね。流石は、ウォルト家、というところですか」

「綺麗事も嫌いじゃないけどな。理想は常に持っているぞ。いずれ俺は大陸をまとめ、戦争を減らし平和な世界を目指す!」

「……あの、流石にそれは」

「理想は高く! そして、その一歩は俺が踏み出す。綺麗事は嫌いか?」

 バルドアは少し笑っていた。

「子供の頃は好きでしたね。ただ、正直に言うのなら、大人になればそれがいかに叶わぬ理想だったかを思い知らされましたよ。ライエル様は、信じておられるのですね」

 俺はバルドアの顔を見ながら。

「俺だって現状では無理だと思うさ。だが、数百年。あるいは数千年。そんな先のために第一歩を踏み出す!」

 争いがなくなるなどと思ってはいない。だが、平和を求めて悪いとも思わない。

「それに、だ。俺にはそれだけ大きな目標が必要じゃないか? だって、俺ってそれだけ大きな男だから。ほら、そんな俺は世界のために頑張らないと」

 バルドアが、苦笑いをしていた。宝玉内からも噴き出すような声が聞こえてくるが、以前と比べるととても少ない。

「数千年ですか。気が遠くなりそうですね」

 七代目もバルドアの意見に同意する。

『まぁ、初代からライエルまで戦い続けている人生だからな。平和と言われても……緊張状態としか思えんのは事実だ』

 三代目も笑っていた。ただ、馬鹿にしたようなものではない。

『平和ね。ライエルがどんな状態を平和と呼ぶのかにもよるよね。実際、周辺国に火種をばらまいて金儲けをしていたベイムも、平和と言えば平和だった訳だし』

 確かに、そういった平和は違う気がする。

「それだけ時間をかければ、理想も現実になりそうですね」

 バルドアがそう言うと、俺は頷いた。ただ、アリアとミランダを見ながら。

「まぁ、俺のハーレムも日々争っている状況だからな。まずはこんな状況をなんとかしたい。バルドア、何かアドバイスはないか?」

 バルドアは俺を見て。

「……なんでいい話のままでまとめないんですか? 私には良いアイデアなどありませんよ。というか、多すぎですよ。少しは自重してくださいよ。先代聖女様とか、三十代ですよね?」

 俺はバルドアを見ながら、首を傾げた。

「おいおい、愛に年齢は関係ないぞ。それに、俺の愛はむげ――ッ!」

 笑うと、両端から俺は体をつままれた。どうやら、アリアとミランダが起きたようだ。嫉妬するとは可愛いじゃないか。バルドアは左手で顔を覆って。

「取りあえず、確かにライエル様の理想は実現困難というのは理解出来ました。まずは、ご自身の周辺から頑張ってください」

 何故だろう? バルドアに呆れられてしまった。
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