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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

誰に似ているのかな? 十五代目

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サンドジャイアント

 ――バンセイム精鋭部隊と戦うマクシムは、砂の鎧【サンドアーマー】を纏って目の前の光景を見ていた。

「ぜれずざまぁぁぁあぁぁぁぁ!!」

 紫色の巨大な何かを前にして、マクシムは槍を握り直した。周囲にいた敵味方関係なしに巻き込んで潰していき、大きくなる紫色の芋虫は、頭部の部分がかろうじて人だった名残を残し、それがかえって不気味さを増していた。

 マクシムは周囲の味方を下がらせる。

「こいつは俺が相手をする! 味方は下がれ!」

 敵兵士はこんな状況でもマクシムにかかってきた。血走った目。そして、もう助からないというのに兵士たちは喜んで戦っていた。

 マクシムは、槍を振るって周囲の敵兵士を切り伏せると左手を掲げた。

「……薬に頼らずとも、人は強くなれるというのに」

 技を磨く、武器を持つ、スキルを発現させる、魔法を覚える――強くなる方法などいくらでもあるとマクシムは思えた。それは事実だ。

 だが、制御出来ない力など無意味であり、本物の強さではないというのがマクシムの持論だった。

「お前に見せてやろう。どうして俺がバンセイムで名が知れ渡ったのか、を」

「あがぁぎゃあぁぁぁああぁぁぁ!!」

 すでに人語を話すことすら出来ないブレッドを前に、マクシムは周囲の土煙や砂――地面などから土を吸い上げて大きくなっていく。

 マクシムの発現したスキルは【サンドアーム】――それを独自に改良した後衛系の魔法だった。二段階目で【サンドアーマー】――砂の鎧を纏い、三段階目では【サンドジャイアント】――砂の巨人を作り出すのである。

 鎧を纏った武人の姿――そんな砂の巨人が、一歩踏み出すだけで敵兵士は潰され吹き飛ばされていく。

「ある意味、多くのスキルが到達する最終段階だよ。別に、そんな薬に頼る必要はなかったな」

 砂の巨人が大きな槍を構えていた。紫色の化け物は、口から緑色の液体を吐き攻撃する。地面に液体が落ちると、刺激臭と煙を発生させていた。

 生身にかかればきっと危険だろうが、今のマクシムは砂の中にいる。外の光景を見るために巨人の首元にいるが、容易にガード出来た。

「お返しだ!」

 槍を横に振るうと、紫色の化け物がバンセイムの兵士を巻き込みながら転がった。体に傷がつくと、緑色の液体が噴き出してバンセイムの兵士たちを溶かしていく。

「ふむ、直接攻撃をすれば体液が噴き出す、か。迷惑な化け物だな」

 マクシムは砂の巨人に槍を掲げさせた。

「本来なら、魔法で吹き飛ばす方が良いのかも知れないが……悪いが、利用させて貰うぞ。恨むなら、そんな化け物にしたセレスを恨むんだな」

 掲げた槍は、まるでドリルのような形状になって回転する。それを化け物に向かって突き刺すと、マクシムは自身や味方を守るために砂の盾を前方に展開した。

 突き刺さった槍が回転して、化け物の液体が周囲へと飛散する。

「ギャブガァァァァ!!」

 紫色の化け物が動かなくなり、周囲に緑色の液体をバンセイムの兵士に浴びせた。周囲ではマクシム以外にも炎、氷、獅子の姿をした巨人が戦場で破壊と殺戮を振りまいている――。





 巨人が戦場を支配する光景を見て、俺は蛇腹剣を肩に担いでいた。

 メイに回収して貰い、空からの光景を眺めていたのだ。周囲を見ながら。

「モニカ――隠れている一団がいる。そこに部隊を回せ」

『発見しました。突撃ばかりをかける者たちではありませんね。しかし、ここまで来ると、最初から切り札を切るべきでしたね』

 モニカの意見も正しくはある。だが、人の身でこれだけの事をして、その反動がない訳がない。

 魔力の急激な消費、そして貴重なスキル保持者――しかも三段階目の到達者たちが、すぐに後方へ下がることになる。

 指揮官という人材が少ない俺たちにとって、それはとても大きな問題だ。

「それが出来ないからこんな事を……まぁ、これでバンセイムが危険だ、って四ヶ国連合もカルタフスも気付いてくれればいい」

 モニカがすぐに指示を実行に移すと、俺は空の上で溜息を吐いた。メイが下の様子を見ながら。

「便利だよね。それにしても、ライエルはフレドリクスから沢山のものを受け取っていたんだね」

「沢山? スキルとこいつか?」

 銀色の蛇腹剣を軽く持ち上げると、メイは首を横に振った。

「違うよ。それもだけど、他にも沢山だよ。今も上からスキルで全体を見て指示を出している。強い人間、ってさ。どうしても自分が前に、って人が多いから」

 メイの言葉を聞き、俺はメイの言いたい事が理解出来た。メイは、俺が五代目の教えを受け継いでいると言いたかったのだろう。

「そうか……少しは、俺もみんなに近づけたのかな」





 ――ベイム。

 連日のベイムの猛攻をしのぎ、相手に疲れが見え始めるとバンセイムの将軍たちは天幕で会議を行なっていた。

「さて、では結果を聞こうか」

 将軍の一人が立ち上がると。

「略奪した船で夜襲をかけましたが、やはり港にも冒険者を配置していました。海上での戦闘もそうですが、中には海中で活動出来る冒険者もいるようで作戦は失敗です。しかし、これでやつらは壁だけに戦力を割けなくなりました。なんでも、かなりの戦力を港に移したとか」

 総大将があごを触りながら。

「……理解出来ないな。バンセイムに海上戦力はないに等しい。失敗して実力差はハッキリしたはずだ。何故、ベイムは港に戦力をそこまで割いた?」

 参加していた領主貴族の一人は、そんな総大将の疑問に答えた。

「それがベイムですよ。商人の力が強く、決定権は彼らにあります。自分たちの船が襲われると思ったのでは? 私も何年も前にベイムを訪れましたが、その時も驚かされることばかりでしたよ。何しろ、王がいない。商人たちの集まりで方針を決定しているというのですからね」

 その場にいる全員が、ベイムに関しての知識は持っているが正確に理解していなかったことを思い知らされた。そして、総大将が呟く。

「なる程、ここまで来て悪手ばかりを打ってくる訳だ。これだけの規模の戦争の経験もなく、冒険者に頼る軍事力。舐められたものだな」

 領主貴族たちが、総大将を見ながら。

「総大将、こちらもそろそろ本気を出してはいかがですかな?」
「やつらの力は把握しております。こちらは早く流れ込みたいのですよ」
「忙しい時期が来る前に、戦争を終わらせておきたいですからね」

 領主貴族たちの兵力も、バンセイム本軍の兵力も大半は領民だ。領民を兵士として使うと言うことは、それだけ領地に人手――特に、働き手である男手がいない事を意味していた。

 彼らにしてみれば、今後の領地経営もあるために早期に戦争を終わらせたかったのだ。

 総大将はセントラルの宮廷貴族。立場も違い、領主貴族たちのように領地を持って統治しているわけではない。

「ふむ、確かにこれ以上は厳しい、か。本格的に寒くなれば戦うにしても被害も大きくなる。薪なども大量に必要となるなら……急いだ方が良いのだろうな」

 領主貴族たちは、総大将の態度に少しばかり腹を立てている様子だ。何しろ、兵力の維持などは総大将の仕事ではないからだ。

 領主貴族たちにしてみれば、総大将は何も分かっていないように見えていた。もっとも、総大将からすれば、領主貴族の軍事力など減っている方がいい。何しろ、総大将はセントラルの宮廷貴族だ。

 あまり領主貴族が力を持つのをよく思わない。

(攻め込めば、略奪目当てに此奴らが先に入り込んで勝手にすり減ってくれる、か。ならば――)

「よろしい。ならば、大規模な魔法はこちらで用意をしよう。突撃に関しては――」

 総大将の言葉を前に、領主貴族たちが名乗りを上げた。

「それならば私にお任せを!」
「貴様の兵力では頼りない! わしが相応しい!」
「そう焦るな。ベイムの富は莫大だと聞くからな」

 すぐに略奪のことを考える領主貴族たちを、将軍たちは冷めた目で見ていた。総大将は、領主貴族たちに。

「ベイムの代表的な商人に関しては、こちらに任せて貰いましょうか。交渉もあるのでね。それ以外は好きにしてくれて構わんよ。おっと、出来れば宿泊するような建物は破壊しないで貰おう。ベイムに入ってまでテント生活は嫌なのでね」

 天幕内。バンセイム側は余裕の表情で笑っていた。

 だが、これには勝算があっての事だった。ベイムにいる冒険者の多くが、迷宮内での戦闘に特化している。それは、同じ規模、多少の差を覆すだけの力を冒険者たちに持たせた。

 ただ、限られた狭い場所での戦闘に特化してきたのだ。

 しかし、戦場に出る騎士たちは違う。実力のある者たちとなると――。





 ――夜が明ける前。

 タニヤはギルドの制服を着て忙しく東支部のギルド内で動き回っていた。

 交代で休憩に入る冒険者たちの世話もあるが、食事の手配や人の配置。本部からの指示に、ギルド前に集まる避難民への食事の用意。

 ギルド職員たちも慌ただしく働いていた。

 怪我をした冒険者は少ないが、それでも日に日に全員の顔から明るさが消えていた。当初こそ、バンセイムの腰抜けなどと笑っていた冒険者たちが終わらない戦いを前に心が挫けかけていたのだ。

「交代の時間が来るわ。食事の用意は出来ている?」

 職員に話しかけると、職員は大量の荷物を持っていた。

「で、出来てはいるんですが、その……ギルドの外に匂いが漏れて、避難民の方たちが自分たちにも寄越せと……仮設した厨房ではそんなに大量に食事を用意出来ませんから、待って貰う様に言っているんですが」

 ベイムに溢れた避難民たち。元からベイムに住んでいる住人たちと揉め始めており、ベイム内部の空気は悪かった。

 すると、職員がタニヤのところに走ってきた。

「タニヤ! 幹部が呼んでいる。なんでも至急来て欲しいそうだ」

 今まで話していた職員に、冒険者たちを優先するように伝えるとタニヤは幹部の部屋へと向かう――。





 ――幹部の部屋では、目の下に隈を作った幹部がタニヤに現状を報告してきた。

「サウスベイムの要求を拒否することが決まった」

「今更ですか? 交渉から戻ってきて、既に数日が過ぎています。議会は何を話し合っていたのですか?」

 タニヤの言葉は怒りを含んでいたが、幹部は咎めない。

「……現状、バンセイムが港からの襲撃に失敗した事で、議会ではこのまま長期戦になると言う考えが大半を占めた。そうなれば、バンセイムは残り一ヶ月もしない内に引き上げることになる」

 大軍勢の維持にもかなりの物資が必要だ。同時に、バンセイムの兵士は領民であり、戻れば自分たちの仕事もある。領主たちが引き上げると、ベイムの商人たちは判断した。そして、この状況が続けばベイムを守り切れるとも。

「冒険者たちの中には、一向に崩れないバンセイムに危機感を抱いています。日に日に士気が下がっており、このままでは先にベイムが――」

 タニヤの訴えだが、最後まで聞かせる事は出来なかった。話している途中、部屋が揺れたのだ。小さな揺れだが、地震とも違うそれにタニヤは危機感を抱いた。

「――なにかが、おかしい。少し見て来ます」

「どうしたのかね? 確かに揺れたのは驚きだが――」

 タニヤは幹部に外の様子を見てくると言って、窓から外へと飛び出し近くで一番高い建物に飛び移った。

 そこから壁の方を見ると、黒い煙が上がっていたのだ。徐々に外が明るくなってくると、何が起こったのか見えてきた――。





 ――バンセイムの軍勢は、大規模な魔法をベイムの壁に何発もぶつけていた。

 冒険者たちのシールドなど数で押しきって何発も何発も放っていた。ここに来ての大攻勢により、ベイムの冒険者たちはシールドが間に合わなくなっていた。

 何発かの魔法が壁に激突するが、表面が削れる程度だ。

 ソレを見て、総大将は呟く。

「随分と頑丈だな。まぁ、それならそれでいいんだが」

 直後、総大将は周囲に指示を出した。その指示を聞いた周囲の部隊は、魔法を壁ではなく壁の上で防衛をしている冒険者たちに狙いを定めた。

 雷、炎、氷、水、岩――数々の魔法が壁の上部に降り注ぐと、マジックシールドを展開出来ない冒険者たちが吹き飛ばされていく。

 少数の冒険者たちが残ったが、そんなのは問題ではなかった。

「さて、派手な魔法はこういう使い方もある」

 バンセイムの魔法使いたち――つまり、貴族たちが抵抗出来なくなったベイムの壁に魔法で階段を用意する。高い壁に大軍を送り込むため、幅の広い階段が用意された。土が盛り上がり、大きな階段が出来るとそこに前もって準備していた軍勢が階段を駆け上がっていく。

 壁の上では冒険者たちとバンセイムの騎士や兵士たちが戦うが、数の力で囲んで倒していた。

 総大将はその様子を見ながら。

「……ふむ、随分と呆気ないな」

 ベイムの大きな門が開いていくのを見ながら、そう呟くのだった――。
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