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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

誰に似ているのかな? 十五代目

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魔人薬

 目を覚ますと、天幕の隙間から光が差し込んでいた。

 外から聞こえてくるのは、未だに戦い続ける味方と死兵となったバンセイムの軍勢の声だ。一晩中――戦っていたのかと思うと、正気を疑うしかない。

 いや、最初から正気ではないのだろう。これがセレスに魅了されるという事ならば、本当に狂っているとしか言いようがなかった。

 上半身を起こし、両手で顔を覆う。

「……モニカ」

「なんでしょう!」

 俺の天幕に入ってきたモニカは、お湯の入った桶を持って身支度をする準備を整えていた。頬が赤くなって、興奮しているように見えるのは気のせいだと思いたい。

「支度をする。それから、全員を集めろ。……俺も前線に出る」

 モニカはすぐに準備を開始した。桶を用意していた木箱の上に置くと、昨日の内に磨いていたのか武具の準備も整っていた。

 ベッドから起き上がると、モニカに状況の報告を頼んだ。

「今はどんな状況だ」

 モニカは準備をしながら、俺に報告してくる。時間がないので、俺に説明しながら準備を続けるのだろう。

「現状、優勢である事に変化はありません。ですが、このまま数日が過ぎれば形勢は逆転するものと思われます。被害も想定していた数を超えています。このまま行けば、計画に支障が出るかと」

 何もしなくても勝つ、という状況ではないようだ。ならば、動かなければいけないし、そのための力も五代目から受け取った。

 力を受け取るよりも、アドバイスを受け取りたいと思う俺はやはり精神的に弱っているのだろうか?

 首を横に振ると、俺は溜息を吐いた。

「どうかされましたか? このモニカに不満でも? なんという贅沢なチキン野郎。言いなさい。全力で直すのですぐに言いなさい!」

 必死な様子のモニカを見て、俺は少しだけ笑った。

「なんでもない。いつも通りだ。お前は最高だ」

 すると、モニカは黙って俺を見ていた。

「……もう、もう一回お願いします! こう、不意打ちだったので録音や録画が間に合わなかったので、出来れば今の笑顔でもう一回。いえ、保存はしているのですが、もっと最高の状態で保存をしたいんです!」

 また訳の分からない事を言うので、俺はアゴに手を当てながら考えた。結果、モニカの要求には応えない事にした。

「悪いな。言わない方が面白そうだから言わない」

 モニカが白いエプロンを噛んで、悔しそうにしていた。

「そうやって(モテアソ)ぶんですね! 残念でした! 悔しいけど、こんな状況ですら楽しめるモニカを甘く見ないでください! もっと弄んで!」

 相変わらず、高性能なのに残念なのは変わらないモニカだった。





 早朝、身支度を調えて戦場を前にした。今日は、メイが麒麟の姿で俺を背に乗せると言うので、馬具を装着させて乗っている。

 周囲にはマクシムさん、アリア、ミランダ、グレイシア、エリザ、マリーナさん――後方支援として、ノウェム、エヴァ、クラーラ、バルドアを配置している。突撃後、ノウェムたちが魔法関係の対処、そして援護をしてくれる事になっていた。

 急造で作られた門を前にして、俺たちは突撃の準備を整えその時を待っていた。マクシムさんが、馬に乗って俺の横に来る。

「ライエル殿、今日は個人的な頼みがあってきました」

「会議の時に言えば良かったのでは?」

 マクシムさんは、真剣な表情をしていた。そして、淡々と言う。

「かつて、技を競い合った友がいます。私は奴と何度も戦い、負け越していました。黒い鎧を身に纏い、馬上で振るう槍捌きは見事でしたよ。人馬一体、というやつでしたね。そんな友を殺して、鎧を身につけている奴がいます」

 俺は前を向きながら。

「聞いています。ブレッド・バンパー……俺も顔見知りですよ。少し、いや。かなり出世欲が強かった印象がありますね」

 マクシムさんが、額当ての位置を調整しながら。

「譲って頂けませんか? もちろん、出来ると判断した時で構いません。こちらも無理な状況なら諦めがつきます」

 正面の門の前に騎士たちが一斉に魔法を放って敵兵士たちを吹き飛ばす。衝撃がこちらにまで伝わると、門の向こうに土煙が上がるのが見えた。

 銃声、そして矢が次々に放たれると旗が大きく振られた。

「状況次第ですけどね」

「それで結構です!」

 門が開いていくと、俺たちは武器を構えて突撃の準備に入った。宝玉を握りしめ、そして蛇腹剣を思い浮かべた。銀色の細工が液状になって膨れあがると、右手に銀の剣が出現した。禍々しい姿の蛇腹剣だったが、少しだけ禍々しさが消えている。刃には細い線が入っており、引っ掻くようなトゲが沢山ついていた。

「ライエル殿、その剣は?」

「……この場に適した武器ですよ。では、行きましょうか。突撃せよぉ!!」

 銀の蛇腹剣を掲げると、メイが駆け出した。誰よりも早く門を抜けると、土煙から傷つきながらも前進を止めない兵士たちが飛び出して来た。槍を突き出し、俺に向かって飛び込んでくる。

「邪魔だ」

 蛇腹剣をメイの首に当たらないように振り抜くと、刃は細く青い線に繋がれた状態で剣が分離して周囲の敵を斬り裂いていく。

 意志があるように斬り裂いていく姿は、まるで蛇腹剣が生きているように見えた。柄を握っていると、声が聞こえてきそうだ。

『次。次だ! もっと斬らせろ! もっと殺せ!』

 今度は突き出すように振るうと、剣先が真正面にいた騎乗した騎士たちを一直線に三人を串刺しにした。そのまま横に振るうと、騎士たちごと蛇腹剣は横に移動して兵士たちの首を飛ばしていく。

 一振りで複数を斬り伏せていく蛇腹剣は、確かにこの状況に相応しい武器だった。

「メイ……味方を巻き込まない位置まで突撃して貰おうか」

「任せて!」

 メイが駆け出すと周囲に紫電が発生した。その紫電を蛇腹剣が纏って周囲に振るうと巻き込まれて吹き飛ぶ者、紫電を纏った蛇腹剣によって斬り伏せられ、かすっただけでも動けなくなる者と様々だった。

 そしてメイが空へと駆け出すと、俺はメイから跳び降りて蛇腹剣を最大まで引き延ばして振るう。

 伸びる度に、剣の部分までが数を増やし、誰も逃がさないと言わんばかりに猛威を振るっていた。鎧や肉に骨を問答無用で斬り裂いていく。

 周囲に血が舞う光景は、戦場でも有り得ない光景だった。今の一振りで、一体何人の人間が死んだ? いったい何人殺した?

 そんな考えが浮んだが、それでも俺の体は蛇腹剣を振るう。まるで、何かに取り憑かれた気分だった。

 運良く逃れて腕を失うだけで済んだ者が、笑いながら槍を杖代わりに立ち上がっていた。彼の後ろには次に突撃する兵士たちが槍を持って構えていた。

「次から次に来る」

 すると、上空から雷が降り注ぐ。周囲に落ちた雷は、上空でメイが発生させようだ。それでも、兵士たちは弓矢でメイを狙い、槍や剣を持って俺に向かってくる。味方の死体を踏み越えて、恐怖すら感じていない兵士たち。

「……悪いが謝るつもりもない。恨みたければ恨め」

 蛇腹剣を振るうと、またも多くの人間が斬り裂かれていった。その場で回転するように剣を横に振るい、伸びた剣が青い糸をたぐって元の姿に戻ると周囲にまたしても動かなくなった兵士たちが横たわる。

 すると、馬に乗ってやってきた騎士たちがそうした兵士たちを踏み越えながらやってきた。

「邪魔だ、退けぇ!」

 全身鎧。そして、手に持った大きなハンマーは自慢の武器なのかも知れない。それを大きく構え、俺に振り下ろそうとしていた。

 宝玉からは、七代目の声が聞こえてくる。

『アレだけの大きな得物を持って、下半身だけで馬を操るか。騎士として、相当鍛えてきたのだろうな』

 きっと優秀な騎士だったのだろう。だが――。

「邪魔だ」

 剣を距離が離れているのに上段から振り下ろすと、蛇腹剣が伸びて相手を馬ごと両断した。すると、回り込んだ騎士たちが俺の左右から槍を持って突撃してくる。

 伸びきった蛇腹剣を水平にして剣が縮むのを待つと――。

 左右の騎士二人の首が飛んだ。戻るついでに、首を斬り裂いたのだ。

「……本当に戦場では頼りになるな。だけど、初代の武器と同じで魔力をよく消費する」

 消費はする。だが、その補充を、この蛇腹剣は斬り伏せた相手から奪っていた。この能力――。

「ミレイアさんだな。相変わらずえげつない」

 ――頼りになるのだが、何故か自慢気なミレイアさんの表情が思い浮かんだ。すると、騎士を引き連れた黒い鎧を着た男が現われた。

「ライエル! 貴様、よくもノコノコと私の前に現われたな!」

 周囲の兵士たちが群がるのを止めたと思えば、ブレッドが登場してきた。憤慨しているのは理解していたが、余裕がなさ過ぎる。

 宝玉内の三代目も、笑っていた。

『グリフォン退治の時の子だよね? また、駄目な方に成長しちゃって』

 七代目が三代目にたずねた。

『あの様子なら駄目な方に行くことは分かりきっていましたが?』

 三代目は溜息を吐く。

『いや、可能性はゼロじゃないからさ。あそこから這い上がって、もっとまともになれるチャンスもあったのに、ってね。でも、ライエルの前に出たら終わりだ。もう倒すしかない』

 三代目の倒すというのは、殺すという意味だ。

「……随分と良い鎧を着ているな。偉くなった気分はどうだい?」

 少し煽ってみると、効果てきめんだった。左腕を上げると、そのまま振り下ろしてきた。周囲の騎士たちが俺に向かって突撃してくる。ただ、その騎士たちはスキルを発動していた。

「馬鹿が! これだけの数を前に単騎駆けなど愚か者のすることだ! すぐに踏みつぶして、貴様の首を敵に見せ――」

 俺は勝ちを確信している様子のブレッドを見ながら、微笑んでやった。そうする方が、ブレッドには頭にくるだろう。

「勝てると思ったからここにいる。そして、今もその気持ちは揺るがないな」

 蛇腹剣を振るうと、周囲の死体から魔力を吸い上げていた。ミレイアさんが、宝玉の力が増していると言っていたが、歴代当主たちの武器にも影響が出ているらしい。

 禍々しい蛇腹剣の剣先が、まるで蛇のような頭部になった。銀色の禍々しい蛇が、柄から伸びてその姿を現すと――。

「喰らい尽くせ」

 一言で、周囲へと襲いかかった。巨大な銀色の刃が蛇の姿を模し、周囲に迫った騎士や兵士たちを巻き込んで殺していく。銀色の体にかかった血を吸収し、消費する魔力を減らしていた。

 ブレッドは、周囲の味方がいなくなると明らかに狼狽する。ブレット以外を狙わせており、俺の指示通りに蛇腹剣は動いた。

「な、なんだ。なにをしたぁぁぁ!! 卑怯だ! そうやってお前たちは、強力な武器を持って! 私のような生まれが貧しい者は、お前たちの踏み台にされて! ここまで来て……ここまで来てぇ!!」

 後続から味方の兵士たちが来ると、ブレッドは下がろうとしていた。セレスに魅了されていないのかと思ったが、どうにもそれとは違う。七代目が呆れていた。

『まったく。生まれを理由にして結果がこれか。ライエルの糧にもならん奴だ』

 俺は蛇腹剣を元の姿に戻す。ソレを見て、ブレッドは俺が疲れたと思ったのか、退くのを止めた。

「そ、そうだ! そんな攻撃を何度も行えるわけがない! 勝ちだ。あれだけ余裕を見せておきながら、お前は負けるんだ!」

 周囲に押し寄せる騎士や兵士たち。だが、俺は蛇腹剣を振らなかった。

「違うな。もう必要がなかったんだ。お前、俺が中央で暴れていたのは、一人で全員を相手にするからだとでも思ったのか? ここで混乱が起きれば、ぶつかっている前線に影響が出るだろうに。それと、お前の相手をするのは俺じゃない」

 俺の周囲に雷が落ちた。メイが空から地味に攻撃を続けており、更には俺の後方から炎と氷が前方に向かって騎士や兵士たちを飲み込んでいく。

 そして、馬に乗った一人の騎士が俺を通り過ぎた。周囲の砂を巻き込みながら前進し、騎士や兵士たちを吹き飛ばしながら自身や馬に砂の鎧を纏わせていた。

 後ろから味方が来ているのは、五代目や六代目のスキルで分かっていた。勢いが弱まった突撃など、今の俺たちには意味がない。

 ブレッドに突撃したマクシムさんは、砂の鎧を纏った姿で跳び上がるとブレッドに槍を振り下ろして馬上から落とした。

「……立て。お前の相手はこの俺がする」

 ブレッドは、馬から落ちて剣を杖代わりに立ち上がると、黒髪を乱していた。兜が脱げており、マクシムさんを見て周囲に声を張り上げ。

「な、何をしている! こいつを殺せ!」

 周囲に助けを求めるが、マクシムさんは敵の攻撃を受けてもまったく怯まない。砂の鎧が剣や槍を通さないからだ。

 背中から砂の腕が出現すると、周囲の兵士たちを砂の武器で斬り伏せていく。

「俺は見た目で武芸一辺倒だと思われがちだがね。魔法も得意なんだよ」

 明らかに魔法の使い方を間違っている気もするが、本人がそれでいいのなら魔法が得意ということで良いと思った。





 ――ブレッドは、目の前の騎士を見ていた。

「さぁ、構えろ」

 マクシムは、バンセイムでも有名な騎士だった男だ。ブレッドは、マクシムの一撃を受けて、自分では勝てないというのを理解した。理解するだけの実力は持っていた。

 周囲に目を向けると、他の敵を相手に味方が戦っており自分を助ける者が少ない。そして、そんな味方もマクシムの前に斬り伏せられていく。

「ま、まだだ。これだけの死兵を相手に、お前たちがいくら頑張ったところで……」

 直後、前方で動きがあった。巨大なゴーレムが出現したのだ。獅子の頭部を持ち、鎧を着て背中から複数の腕を生やしていた。手にはそれぞれ武器を持っており、周囲をなぎ払っていたのだ。

「あ、あれは……」

 口を開けたままのブレッドを見て、マクシムが槍を突き出してきた。ブレッドは転がるように避けると、騎士や兵士たちがマクシムに群がって斬り伏せられていく。

 マクシムは、ブレッドの顔を見ながら。

「本来なら、このような戦いは避けたかったんだがね。奥の手を見せるのも不満だが、何よりも我々は戦争をしている。寡兵で大軍を破る戦いはしない方針だったんだよ」

 ブレッドは、地面に座り込みながら後ずさりしていた。

「ふ、ふざけ……手を抜いていたとでも言うのか!」

「いや、違うな。全力を出す相手がお前ではなかったというだけだ。誇れよ。お前はライエル殿たちに本気を出させた」

 ブレッドは、その言葉を聞いて地面を叩いた。何度も、何度も。

「お前らはそうやって……そうやって下の者を見下して! 家柄も才能も……持っている奴がそんなに偉いのか! ならば、そんなお前たちに勝つのは、何も持っていない私しかいない!」

 ブレッドは、セレスから受け取っていた薬を懐から取り出し、瓶に口をつけた。飲み干すと、マクシムを笑いながら見ていた。マクシムは、ブレッドの隙を突かなかったのだ。

「そ、その余裕が命取りだ。この【魔人薬】は、ザインから流れてきたものを研究した完成品! お前たちは、この私を怒らせ――おこら――せっ!」

 ブレッドの皮膚が紫色に染まっていくと、血管が浮き上がって血が噴き出した。赤かった血が紫色、果ては緑色に変色し、次第に体が大きくなり着ていた衣服や鎧が弾け飛んでいく。

 マクシムは、ブレッドを見ながら一言。

「お前たちの切り札か? だが、憐れな姿だな」

 砂の鎧から見えるマクシムの表情を見て、ブレッドは自分の姿がどうなっているのか分からなかった。自分の両手を見ると、酷く膨らんでいた。紫色になっており、血管が太くなって脈打っている。

 体を見ると、どんどん大きくなっていた。しかし、その姿は――。

「なんだこれは……なんなんですか、セレス様ぁぁぁ!!」

 紫色の芋虫の頭部に、人の上半身のような何かがくっついている姿。とても成功しているとは思えない魔人の姿がそこにあった――。
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