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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

誰に似ているのかな? 十五代目

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死兵

 ――ブレッドは、整備された街道を避けて軍勢を目標の場所まで進ませていた。

 しかし、サウスベイムまで近付いたと思えば、見えたのは四万を超える敵が、準備をして待ち構えている姿だった。

 戦場は昼になり、到着した精鋭部隊やかき集めた領主たちの兵士たちは疲労困憊だった。連日の襲撃や騒音によって満足に休めなかったのだ。地味に馬まで逃がされ、荷物を運ぶ際には人にやらせて更に疲弊している。

 そんな状況下、ブレッドは自分の周囲を見た。レダント要塞で近づいて来た準男爵の二人――そして、ついてきた騎士爵たちも部隊ごといつの間にか理由をつけて部隊から抜けていたのだ。

 最悪なのは、貴重な物資を持ち逃げしたことだった。矢に加えて予備の武具。だが、それでも戦えないほどではない。いや、むしろブレッドにはこの劣勢を跳ね返すだけの力があった。

 何故なら、ブレッドが引き連れている精鋭たちはセレスに絶対の忠誠を誓った者たち。セレスのために命を投げ出す者たちだった。

 この程度の数の差、そして不利な状況ですらその突破力で容易く撃ち破るだろう。しかし、ブレッドに許せない事があった。

 傾斜をつけまるで要塞のように防御を固め、そこから見下ろしていたのは白と青の色をした鎧を着たライエルだったからだ。

「……お前が仕組んだのか! この私を騙して……お前がぁ!!」

 ブレッドの怒りは凄まじい。裏切った準男爵たち以上に、ライエルの手の平の上で踊らされていたことが許せなかった。何故なら、ブレッドにとってライエルは憎むべき対象そのものだったからだ。

 伯爵家と言うだけで憎かった。しかも、追い出された無能と聞いて更に馬鹿にした。しかし、過去にはグリフォンを倒し、その手柄に興味がないように振る舞っていた。自分たちがどうしても欲しかった功績を譲られたのだ。

 まるでおこぼれを貰っているような――いや、実際にブレッドは今の地位を得たのは偶然だった。偶然、セレスが倒し損ねた騎士を横から突き刺しただけだった。

 黒い鎧は、その騎士が身に付けていた鎧だ。馬に乗り馬上で槍を振るう勇敢な騎士――ブレッドの憧れの騎士だった。その騎士に近付きたくて鎧を直して着込んでいた。

 ライエルとは対照的な色合いである鎧を着ているブレッドは、腰の剣の柄に手を伸ばす。疲弊はしているが、目の前の敵を見て戦意は一向に衰えない精鋭部隊。

「出来損ないの無能がぁぁぁ!! この親衛隊長――ブレッド・バンパーがお前に真の騎士というものを教えてやるぅ! 突撃せよぉぉぉ!!」

 作戦などない。ただ、目の前の敵に向かって突撃するという選択肢を選んだブレッド。確かに愚策だった。だが、それは精鋭部隊を持つが故にもっとも成功率の高い戦い方だったのだ。

「うおぉぉぉ!!」

 全員が懐に忍ばせていた薬――それを手に取り、蓋を開けると固形状の塊を全員が噛み砕いて飲み込んでいた――。





 急場で用意した防御柵には、弓矢に銃、魔法を越えて突撃してくる兵士によって一つ目が突破されていた。

 三万を超える数の部隊が突撃してくる光景は圧巻だったが、今はそんな事を言っていられない。俺はその光景を見ながら呟く。

「なんだ……こいつら、いったいどうなっているんだ!」

 銃を構えた部隊に喜んで前に出る兵士たち。そんな兵士たちを盾にするように後方の兵士たちが柵へと押し寄せて取り付く。槍で突かれ、剣で斬られても柵を突破する事しか考えていない様子だった。

 致命傷を負ってもすぐにしなない兵士たちは、こちら側の兵士に掴みかかって味方のために隙を作っていた。あげく、味方ごと犠牲にするような戦い方を平気でしてくるのだ。

 その突破力は異常というしかなかった。

「……恐怖がないのか」

 前方に配置した部隊には、敵部隊が血だらけになりながら柵を突破して襲いかかっていた。しかも笑いながら戦っているのだ。

 宝玉内からは五代目が舌打ちをしていた。

『ちっ……ライエル、部隊を下がらせろ。こいつら、想像以上にまずいな』

 五代目が想定していた以上の危険度だったのか、俺は部隊を下がらせる事にした。そのための隙を作るために、投入するのは二人だ。

「グレイシア、エリザに出て貰う。絶対に兵士を近づけさせるな! 吹き飛ばせばいい!」

 本来なら、敵の足が止まった時に投入する予定だった二人の部隊を、前方の部隊が後退するための時間を稼ぐために投入することになった。

 馬に乗った二人は、両脇からそれぞれが部隊を率いて味方の救援を行なっていた。魔法が敵に放たれると兵士たちが吹き飛ばされていく。

 だが、その光景を見ても前に進むのを止めない敵。魔法によるシールドを展開して被害を押さえてはいたが、それを突き破る二人の魔法をまったく恐れていない。

 グレイシアの青白い炎に焼かれていく兵士たちを。その隙間を飛び越え、駆け抜けて火達磨になりながらも前へと進んでくるのだ。

 エリザの氷によって凍った敵兵士たちは、後ろから突撃してくる兵士たちが気にする事なく前進して砕いていく。

 ただ前に――ただ、目の前の敵を殺すという意思を持つ敵部隊を前に、俺は握り拳を作った。

 疲弊しているはずなのに夜になっても突撃を止めない敵軍勢。普通なら、圧倒的に有利な状況下で、俺たちは精神的に追い込まれていた。





 夜。

 最前線では未だに戦っている中で、俺は少し下がって主だった面子を集めていた。

 天幕の中で、敵を実際に目にした主要メンバーに意見を求める。

「こちらが数の上でも押している。敵の被害はこちらよりも大きい。だが、精神的にこちらが押し込まれている。なんとかしたい」

 俺の意見を受けて、マクシムさんが腕を組みながら。

「何度か敵兵士と戦いました。ですが、あれは本当に死兵です。三万を超える軍勢が死を覚悟で突撃するなど……この程度の数の差、そして地の利を覆されるかも知れません。敵の被害は未だに万に届いていませんし、届いたとしても心が折れない。その前に、こちらがこれ以上被害を出し続けると……」

 先にこちらの心が折れると、マクシムさんは最後まで言わなかった。だが、それは戦場に出た全員が理解していた。突破力のある軍勢だと思い準備してきたのだが、まさかあそこまで異常だとは思わなかった。

 いや、異常だけなら問題ないが、全兵士が間違いなく一定の実力を持つ精鋭だったのだ。

 敵の多くを倒したグレイシアも、浮かない表情をしていた。

「バンセイムの兵士は全員があんな感じなのか? 異常だぞ。受ける被害のことなど考えず、ただ前進してくるとは……」

 エリザも同意見だった。

「ここで死ぬつもりなのは理解出来た。だが、それをあれだけの数が実行出来るというのは確かに異常だな。セレスと言ったな。本当に危険だよ」

 俺は内心で、精鋭部隊にセレスが何かしたのかと考えた。確かに死兵は脅威だ。だが、ここまでの突破力というのが理解出来なかった。

 すると、天幕にモニカが入ってきた。

「失礼します。チキン野郎、お伝えしたいことがあります」

「なんだ?」

 俺はモニカに視線を向けた。モニカは背筋を伸ばし、いつものように冗談を言う事もなく。

「……バンセイム側の兵士たちですが、一種の薬を飲んでいることが分かりました。解析の結果、興奮状態になるもののようです。魔力関係の解析は私の専門外ですが、ダミアン教授曰く、擬似的にスキルを使用している可能性があるそうです」

 全員が目を見開いた。そんな薬があるなど、ベイムでも聞いたことがない。そして、そんな便利な薬があるのなら、どこの国もその薬を求めるだろう。


 ただ、モニカは言う。

「同時に、強い毒性を持っている模様です。スキルの効果は一割から二割程度も得られていないものと考えられますが、使用後は確実に体が適応出来ずに死亡します。薬の材料には魔物の素材が使われている可能性が高いようです」

 魔物の材料を使用して薬を作るのは聞いたことがあった。だが、モニカの口調からは薬として使用出来ないものを使用して、命を縮めて戦争をしているという事だった。

 俺の視界に入っていたノウェムの表情が歪み、歯を食いしばっていた。

「……死亡するまでの時間は? 一日か二日か?」

 モニカは首を横に振った。

「いえ、少なくとも三ヶ月はかかるだろう、と。文字通り、彼らは死ぬことが決まった兵士たちです」

 宝玉内からは、三代目と七代目の声が聞こえてきた。

『……やってくれるね。まさかそこまでするのかい。精鋭部隊を使い捨てか』

『三万近い兵士たちを最初から殺すつもりとは……』

 三代目の声はいつもよりも低く、そして怖かった。五代目は、何か考え込んでいたが、俺に言う。

『ライエル、少し時間を作れ。すぐに終わる』

 ミレイアさんが驚いた声を上げた。

『父上!』

 五代目は言う。

『止めるな。今がその時だ。……俺の生き方にも、どうやら意味が出て来たな』





 ――ベイムからサウスベイムに船が到着していた。

 トレース家が管理していた船で、乗り込んできたのはロランドとジーナだった。ベイムからのギルドの幹部を連れて来た二人は、サウスベイムに救援を求めにやってきたのだ。

 サウスベイムに用意されたトレース屋敷で、フィデルとヴェラは三人を前に交渉を行なっていた。

 机を挟んで向かい合い、互いに椅子に座っていた。ロランドとジーナは目を伏しており、ギルドの幹部は必死に現状を訴えていた。

「フィデル殿、ベイムの窮地を救って頂きたい。そこのお嬢様はライエル殿の恋人と言うではないですか。これは、トレース家がベイムに戻ることが出来るチャンスですぞ!」

 相手はライエルにベイムの救援を行なわせれば、冒険者としての復帰と優遇、そして巨額の報酬を約束してきた。同時に、トレース家に対してベイム追放処分を解くと言ってきたのだ。

 ヴェラは黙っていた。しかし、フィデルは違う。笑顔で対応していた。

「それはいい。ベイムに戻れれば以前とは比べものにならないが、こちら以上にしっかりとした地盤がある。商売もしやすいでしょうな」

 笑顔のフィデルを見て、幹部は笑顔になった。だが、フィデルは真顔になると。

「……しかし、私が失ったベイムでの地位だけ元に戻っても意味がない。古くから取引をしていた商人、顧客は既に多くが離れた。それら全てを元通りに出来ると言うのかね?」

「そ、それは難しいと。ですが、こちらも精一杯の努力を――」

「――努力するのは当たり前だ。それで? 君はそんな当たり前の事を評価して貰えると思っているのかね?」

 相手が困っていると、ヴェラはジーナとロランドを見て口を開いた。

「……港で噂は聞いているわ。あんたたち、随分と周りに良いように扱われたわね。トレース家の規模をベイムでも中堅クラスにして何がしたかったの?」

 ジーナはヴェラに対して。

「そんなに一番になりたかったの! それを維持するために、私は好きでもない相手と結婚なんかしたくなかった! ただ、ロランドと身の丈に合った商家で生きたかっただけよ!」

 ヴェラはジーナに対して。

「あんた、今の言葉を働いてくれている部下に言えるの? あんたはもう、商家で働いている部下たちを守らないといけない立場なのよ!」

「ふ、二人とも、そこまでです」

 幹部がジーナをなだめると、もう一度フィデルに言うのだ。

「もう時間がありません。ライエル殿を呼び戻して頂きたい。ベイムには彼の力が必要なのです」

 フィデルはテーブルに両肘を置き、手を組んで口元を隠しながら。

「……悪いが、それは出来ないな」

「フィデル様!」

 ロランドが勢いよく立ち上がった。故郷であるベイムが火の海に包まれても良いのかと、責めているような瞳だった。だが、それを言わないだけの理性は残っていたようだ。

 フィデルは鼻で笑った。

「ふん、私に決定権はない。ここはベイムとは違う。全てはあの小僧が仕切っている。そして、今は代理で――」

「――失礼しますよ」

 ピンク色の髪をなびかせ、周囲に黒髪のメイドを配置した女性がドアを開けて部屋に入ってきた。女性は、三人を前にして挨拶をした。

「サウスベイムの管理を任されたリアーヌと申します。苗字は……いずれはウォルトになるので、言っても仕方がありませんね」

 フィデルはギルドの幹部に向かって。

「ここはベイムと同じような統治をしていない。よって、いくら私に頼んでも無理だ。だが、機会は用意した。この場で願い出てみてはどうかな?」

 フィデルとヴェラが席から立ち上がると、ヴァルキリーズがメイド服を着た恰好でリアーヌを三人の前に座らせた。リアーヌは、前のめりになると微笑んで。

「時間の無駄ですからはじめましょうか。それで、貴方たちは我々にいったいどれだけの事をしてくれるのですか?」

 幹部は慌てながらも。

「そ、それは先程も言いましたが、ライエル殿の冒険者への復帰と――」

「――却下。今更冒険者の地位など欲しくもありません。交渉以前の問題ですね。すぐに戻って伝えなさい。……全てを差し出せ。金も地位も、名誉も土地も権利も! 全てを差し出し、今後はベイムの全てがライエル・ウォルトの前に跪け、とね。分かったかしら? さぁ、戻って伝えてきなさい。こちらは交渉なんかしないわよ。条件をのむか、それとも拒否して滅ぶのか。好きな方を選びなさい。こちらはベイムなんか滅んでも良いの。むしろ、滅んでくれた方がいいわ。だって……追い出したのはそちらではないですか?」

 幹部が何かを言おうとすると、ロランドがリアーヌに対して。

「それは分かっています。ですから、ベイムも最大限の待遇を約束して――」

 リアーヌは椅子の背もたれに背中を預けつつ。

「――最大限がその程度ならベイムはたいした事がありませんね。自分たちで守れなければ滅ぶしかないのですよ。世の中は簡単ですからね。弱ければ滅ぶのですよ。周囲を侮って協力を得られないのも、かつての味方が裏切ったのも貴方たちの責任です。責任者が責任を取るだけで終われば良いですね」

 リアーヌの笑みを前に、三人はこれ以上の交渉を断念した――。
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