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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

誰に似ているのかな? 十五代目

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最悪な男

 ――ベイムに流れ込む避難民の数は、日に日に増えていた。

 厳重に固める門の前には、助けを求める一団が今日もやってくる。ソレを見た門の周りを警備している若い冒険者は、握り拳を作った。

「どうして放置するんだ! 俺たちが向かえば、バンセイムの卑怯者たちにベイムを好き勝手にさせなかったのに!」

 それは正しくもあり、間違ってもいた。

 ベイムには確かに実力のある冒険者たちは多い。一人一人を比べると、並の兵士以上の実力を持つ者も多かった。だが、戦場という場所を経験したことがない冒険者たちは正確に理解していないのだ。

 そんな若い冒険者と一緒に組んでいたのは、冒険者を引退することを考えていた四十代の男だった。特にこれといって優れたことない冒険者だが、それなりに色々と経験を積んできていた。

 金欲しさに戦場にも出ており、その時に色々と経験していた。若い冒険者たちを率いるようにと言われ、いくつかのパーティーのまとめ役をギルドから言い渡されている。ただ、そんな男から見れば周囲の若い冒険者たちは、素人だ。

 迷宮で魔物を相手に戦った。依頼を受けて魔物の討伐に向かった。その程度の経験しかなく、実際に戦争というものを理解していない。

 両軍、千を超える規模程度でも大変なのに、何十万を超える規模での戦争――男は若い冒険者たちを見ながら。

「戦力を分散してどうなる? いったいどれだけの人数で助けに行く気だ?」

 若い冒険者は言う。

「決まっている。数百もいれば、助けにいける。村を助けて、バンセイムの奴らを追い返せる!」

 逃げ込んだ村人からは、数百人規模で略奪部隊が攻め込んで来た、と聞いた若い冒険者の言葉に、男は首を横に振った。

「……そんな数で外に出れば、倍の数で囲まれて叩きつぶされるぞ」

 元からバンセイム側の方が数は多い。そして、敵にはベイムの地理に詳しい傭兵たちまでいるのだ。普通に考えれば、ベイムは追い込まれていた。

 だが、それを冒険者たちは理解していない者が多い。魔物相手に戦うのではなく、同じ人間相手というのが理解出来ていない感じだった。

 いや、規模が大きすぎて、対応出来ていなかった。

「俺たちは、地下二十階で戦って生き残ってきたんだ! 地下三十階だって行ける実力もある。そう簡単に負けるわけがない」

 自信満々の若い冒険者たちを見て、男はかぶっていた鉄製の兜を触って視線を隠すようにした。

「……お前ら、ここを仕切っているのは誰か分かるか?」

 すると、冒険者たちは男を見た。

「なんだ? 自分の意見に従え、って言うのか? 悪いが、実力のない冒険者になにを言われても――」

 男を見下している若い冒険者を前に、男は言う。

「違う。この場を仕切っている奴、って意味だ。俺の上の上だよ。この門の責任者だ」

 理解出来ないというような顔をする若い冒険者たちを前にして、男はやはりと思いながらも覚悟を決めた――。

(これだけの規模の戦争なんかやった奴がいるのかよ。相手は年がら年中戦争をしている連中だぞ)





 ――ベイムの中央。

 商人とギルドの幹部が集まる場所には、避難してきた村人たちからの苦情が毎日のように届けられていた。

 被害に遭った村の再建のために資金を出せ、というのはまだ良い方だ。自分たちは被害者であり、もっと待遇を良くしろ、というのがもっとも困る問題だ。

 宿屋の多くを借り受け、部屋を用意しても全く足りない。使っていない建物に人を押し込めたら苦情が来る。酷い状況の中で、もっとも困ったのが――。

『ライエルを何故に追放したのか』

 というものだった。魔物の大軍勢を退け、レダントの奇跡を実現したのはベイムでは最近の事であって人々の記憶に残っていた。

 レダント要塞をアッサリと抜かれ、このような被害を出した責任を取れという声は日に日に高まっていたのだ。

 会議室……。そこでは、今後の対応が話し合われるはずだった。

 だが、実際は。

「私の責任ではない! 追放処分はお前たちも同意していた!」
「南支部が強行していたのは事実だ!」
「南支部の傭兵たちが率先してバンセイムを引き込んだ! 貴様に責任がないとは言わせんぞ!」

 南支部の幹部が出席した他の幹部、そして商人たちから責められていた。バンセイムの道案内をしている傭兵たちの多くが、南支部の傭兵たちだったと聞けば責めたくもなる。

 そして、連日のように会議はまとまらなかった。

「い、今はそんな事を言っている場合か! すぐにバンセイムへの対応策を考えるべきだ!」
「その前に、ベイムの都市に入り込んだ避難民が暴動を起こしそうだ。誰かに責任を取って貰う必要がある!」
「周辺で略奪をしていると聞く。一万でも二万でも派遣して、救助すればどうか?」
「誰が率いる? それに、もうバンセイムの軍勢は集結して都市部を目指しているのだぞ」

 まとまらない会議のため、対応が遅れていた。商人たちは自分たちの商館があるベイムを守るために、兵士を外に出したくない。

 ギルドは面子もあって、冒険者を出してベイムの住人を救助したい。

 意見が分かれ、そして会議の最後には毎回のように――。

「……サウスベイムに使者を出してはどうか? 海路ならバンセイムも手を出せない」

 ライエルたちに救援を求める声が高まり、いよいよ自分たちの身が危うくなるとサウスベイム――ライエルに助けを求めるという流れになった。

 だが、ベイムにいる者たちは理解している。ライエルを追放したのは自分たちで、第三者から見ればライエルは完全なる被害者だった。

 サウスベイムで新しく商売を始めた商人たちも、元は自分たちが追放したのだ。助けを求めたところで、助けてくれるのか?

 そして、一番大事なことだが……。

「助けを求めるにしても、サウスベイムにそれだけの兵力はありません。それに、奴らは何を要求してくるか」

 そうした会議を毎回のように見ていたのは、東支部の幹部と共に参加していたターニャだった。東支部の幹部――ターニャの上司は言う。

「サウスベイムとて危険なのだから、協力してくれる可能性はあるのだがね。いや、あったと言うべきか。もう、ここまで来てしまっては間に合わない」

 ターニャは上司に。

「ギルドへの復帰と優遇、そして適正な報酬を出しては駄目なのですか?」

 上司は少し笑っていた。

「そんなもので彼は動くだろうか? ターニャ、受付嬢をしていたタニヤならどう思うかな?」

 ターニャは少し考えると、首を横に振った。サラサラの肩まで伸びた黒髪が揺れた。

「……無理です。ライエル君がなにを提示すれば、ベイムを助けるのか分かりません」

 上司も頷いていた。そんな会議室に、知らせが入った。息を切らしたギルドの職員が、ドアを乱暴に開けて。

「サウスベイムが、約一万の軍勢を持ってベイム南部で略奪をしていたバンセイムの部隊を撃ち破りました!」

 それは、ベイムにとってこの上もなく朗報だった――。





 ――ブレッドは、連日のように襲撃を受けイライラしていた。

 夜になれば急に大きな音が聞こえてきた。馬のいななきや金属音。鐘の音。更に、闇夜に紛れて襲撃を受け、物資が不足気味になっていた。

 未だに物資が足りない、という事はない。全体で見れば些細な問題だ。しかし、兵士たちの疲れは日に日に蓄積していた。

 準男爵が、ブレッドの近くで馬に乗って並んでいた。ブレッドは、準男爵に視線を向けると。

「ライエルたちは、本当に慌てているんでしょうかね?」

 少し不安も混じる声に、準男爵は堂々と。

「逆です。これだけの数を前に、有効な手立てがなく散発的な嫌がらせをしているのです。警戒を怠れば被害を出すでしょうが、最終的な勝利は揺るぎません。奴らは、もうそれしか手がないのです。あればとっくに攻め込んで来ています」

 ブレッドは思案した。

(確かに、準男爵の言う事にも一理ある。攻め込むにも攻め込めず、嫌がらせをする程度と言う事か)

「分かりました。夜の見張りの数を増やしましょう」

 ブレッドはこれまで以上に夜の警備を増やす事で、ライエルたちの嫌がらせに対処しようとした――。





 ――夜。

 エヴァは見張りが多いのを見て、少し考えていた。

 周囲にはエルフたち――嫌がらせ部隊が控えており、エヴァの指示を待っていた。ダークエルフの女性が声をかけてくる。

「さて、どうするんだい、お姫様」

 エヴァは驚きながら。

「ちょっと、お姫様ってなによ?」

「ニヒルの一族。そして、私たちの希望の星だからね。お姫様で悪くないだろ?」

 エヴァは少し違うと思いながら、少し胸を張ってつきだした大きな胸に手を置いた。

「お姫様は止めて。そうね、歌姫で良いわ。世界一の歌姫」

 冗談を言ったつもりだが、ダークエルフたちは一斉に。

「分かったよ、歌姫」
「歌姫か。随分と強気だな、歌姫」
「まぁ、エルフならそっちがいいかもな、歌姫」

 真面目に歌姫で通そうとするダークエルフたちを前にして、エヴァは首を横に振った。表情は少し恥ずかしがっていた。

「ごめんなさい。冗談だから止めて。私が悪かったから」

 すると、ダークエルフの女性がエヴァに言う。

「さて、それで今日はどうするんだ、歌姫? あんたのスキルで大きな声や音を鳴らすのか? それとも矢で襲撃か?」

 エヴァは歌姫呼びが治らないと思うと、肩を落とした。そして、ダークエルフたちに言う。

「……今日は敵の数も多いからいいわ。もう、これだけで十分な嫌がらせだし。私たちは先に進んで休んでおきましょう」

「いいのか?」

「構わないわよ。ライエルも、適度に間を開けるように言っていたから。その方が効果はあるみたいよ」

 エヴァたちの嫌がらせは、着々とバンセイムの軍勢を疲弊させていたのだった――。





 バンセイムの軍勢を待ち受けている俺たちは、準備が進む中で合流してきた部隊と打ち合わせを行なっていた。

 合流した部隊というのが、四ヶ国連合の本隊だ。一部がバンセイムの動きが分からないので、重要な戦力を手放せなかった。

 ただし、バンセイムがベイムだけを目標にすると、すぐに海路でこちらに増援としてきてくれたのだ。主に、トレース家の船や商人たちの船が頑張ってくれた。

 白銀の髪を揺らして俺に近付くのは、黒い服装を着ているグレイシアさんだ。いや、グレイシア、だ。少々険しい表情をしているが、俺が笑顔を向けると白い肌の頬を染めた。

「会えて嬉しいよ、グレイシア」

 両手を広げると、オズオズと近付いて抱きつくグレイシア。周囲に自分の存在や立場を示している。それは、俺にとっても好都合だ。

 しかし、最近合流したバルドアが目を見開いていた。その隣では、バルドアの教育係ではないが、マクシムさんが色々と説明をしてくれていた。

「マクシム殿、ライエル様はいったいどれだけの女性を囲っているのですか!?」

「落ち着け、バルドア殿。囲っているのではない。囲われている状態だ。失礼のないようにしてくれ。何しろ、かなり兵士を出してくれている。一国で一万を出していて、ルソワースのエリザ様と同規模だ」

 四ヶ国連合の中で、一万を出したのはガレリアとルソワースだ。ザインは八千となっており、ロルフィスが六千と規模が一番少ないのはまとめる人材が足りていないためだった。

 三万四千もの軍勢が、サウスベイムに集結したことになる。

 カルタフスの兵士は消耗したとは言っても九千は動かせる。四万三千に加えて俺の部隊とサウスベイム――四万五千を動かせる状況だった。

 グレイシアさんが抱きついてくるが、軽く抱きしめているのに胸が大きく感触が……。

『ライエル、鼻の下が伸びては示しがつきませんよ、しっかりしなさい。女性になれていないなら、この際ですからミランダに言ってすぐに童貞を――』

 ミレイアさんがアドバイスをするフリをして、ミランダを強く推してきた。だが、五代目は意見が違っており。

『よし、こいつは無視しろ。ノウェムかアリアで決定だ。二人とも、その事で周りをひっかき回さないから安全だぞ』

 その意見に対抗するのは三代目だった。

『おっと、僕一推しのクラーラちゃんを忘れて貰っては困るね。アリアちゃんも悪くはないけど、嘘をつけない性格だ。そこから情報が漏れるのは確実……ここは、クラーラちゃんかノウェムちゃんで決まりだね!』

 しかし、七代目も声を張り上げてくる。

『馬鹿な。大事な正妻問題も絡んでくるのですぞ! ライエル、ルドミラかリアーヌで手を打ちなさい』

 なんという事だろう。まったく意見がまとまらない。初期からそうだが、宝玉内の意見がまったくまとまらない。

 俺はグレイシアと離れた。頬の赤くなったグレイシアに言う。

「今回も手を貸してくれ、グレイシア」

 すると、周囲の視線も気にしながら、グレイシアが髪をかき上げながら。

「任せろ。お前のために私は槍を振るう。そ、それが……お前の女としての……」

 そこまで口にしたところで、慌てたようにエリザが入ってきた。グレイシアとは対照的な白い服。そして水色の髪は冷たい印象を周囲に与えた。

 俺はグレイシアにお礼を言いつつ、エリザに向かう。

「待っていたぞ、エリザ」

「う、うむ! 急いできたかったのだが、家臣たちが許してくれなかった。だが、私が来たからには安心だ!」

 両手を広げて抱きつくと、またしてもバルドアが言う。

「……ライエル様、まさかとは思いますが」

 マクシムさんが乾いた笑い声を出しながら。

「どうだ。凄いだろ。……本当、指導者に女性陣が多い時代で助かった。ライエル殿は凄いぞ。狙った獲物は確実におとすからな。アデーレ様が心配だから、二人っきりには絶対にさせないが」

 バルドアはマクシムさんの顔を真剣に見ながら。

「まさか、ロルフィスとザインも!」

「残念だが……」

 マクシムさんが残念というと、バルドアは安心していた。しかし、マクシムさんの言葉の続きを聞くと頭を抱えていた。

「……ザインはまだ、というかどうなるか俺にも分からない。噂程度では、先代と今代の聖女とは関係ありだそうだ。そして、ロルフィスの王女殿下はノウェム殿によって拒否された。良かったな、家訓かなにかは知らないが、ロルフィス以外は条件を満たしているらしいぞ」

 バルドアが呟く。

「……ウォルト家の嫁取りの家訓、ですか。確かに、それを満たしており、フォクスズ家のノウェム殿が認めるなら間違いなし。しかし、確実にお世継ぎの問題が……これでは、先々代の時のように……父上、私はどうしたら……」

 何故だろう……バルドアを見ていると面白く感じるようになってしまった。いっそ、バルドアにも数人紹介してやろうかと、俺は考えてしまったのだ。
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