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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

誰に似ているのかな? 十五代目

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才覚

 伯爵との戦いを終えた俺たちは、予定された場所まで後退すると準備を開始した。

 本隊約一万の軍勢は、バンセイムから来る軍勢を待つだけでいい。本陣の天幕の中、俺はシャノンが書き起こした文字を読む。

 レダント要塞から来た手紙には、規模の小さい部隊が調査のために来ると書かれていた。ただし、手紙の余白の部分には――。

『約三万五千の兵を準備中』
『親衛隊、セレスに近い領主貴族たちの参戦』
『こちら側に数名の裏切り者発生。処分済み』
『目標は部隊と共にレダント要塞防衛へ』

 ――短く色々と書かれている。目標はブロア将軍だ。有能で、そしてセレスに魅了されていない貴重な将軍だった。宮廷貴族の生まれで、才能はあるが若くして出世しすぎてしまいセントラルでは厄介者扱いを受けていた人物。

 ラウノさんの調べでは、本人が強く望んで出世した訳ではなく、与えられた仕事をこなしている内に出世してしまった人らしい。

 天幕の中、シャノンに手紙を返した。

「ちゃんと読めるようになったのか?」

 シャノンは視線を少し逸らしながら。

「こ、この人たちの字が独特で……は、八割くらいは」

 文字を書き写させてそこから推測してみたが、間違いないようだ。シャノンがもう少し読み書きが出来れば、魔力の入った水で書かれた文字を読むことが出来ただろう。

 薄い紫色の髪を触って、気を紛らわすシャノンに俺は言う。

「完璧にして欲しいが、今はこれでいい。それと、よくやったな」

 シャノンは安心したのか胸をなで下ろしていた。天幕の中、バルドアが手紙を覗き込みながら一言。

「私には都合の良いことが書かれているくらいで、何を書いているのか分かりませんね」

 アゴに手を当てて考え込んでいた。ミランダがバルドアに優しく説明しはじめた。

「シャノンの目は特別なのよ。これで本命を戦場に引っ張り出せるわ」

 しかし、バルドアの表情は優れない。

「セレス様――いえ、セレスの親衛隊。そしてセントラルの精鋭部隊ですか。噂程度ですが、死を覚悟した死兵と聞いています。死を覚悟した兵士は怖い。それが万の軍勢となると、相手よりも数が多い程度では……それに、どちらかが全滅するまで戦争が終わりません」

 セレスによって魅了され、死を恐れない軍勢。厄介を通り越して恐怖だ。どんなに味方が倒れても士気は崩れないだろう。

「四ヶ国連合とカルタフスに人手を出して貰って、五万には届かないまでも相手よりは多い。条件の良い場所で殲滅をする必要があるから準備は進めてきたが」

 俺は周囲で立っている青い鎧を着たヴァルキリーズたちを見た。ある意味、彼女たちオートマトンも死兵である。

 エヴァが、地図を見ながら印のついた場所に指を指した。

「……ちゃんと私たちも仕事はするけど、数が多すぎるわ。そんなに数を減らせないわよ」

 俺は緊張した様子のエヴァを見ながら。

「危険なら下がれ。いや、相手が警戒すればいい。少しでも体力を削りたいだけで、数を減らすのが目的じゃない。大事なのは相手を苛つかせる事だ」

 エヴァが俺の顔を見て頬をヒクヒクさせていた。

「あんた、本当によくこういう手段を思いつくわね。性格悪いんじゃないの?」

 すると、宝玉内でこの作戦を提案した五代目が。

『ッ!』

 反応してしまった。そう、この作戦を考えたのは五代目で、内容は夜襲をかけて相手を警戒させつつ体力を地味に奪う、というものだ。他にもネチネチと相手の体力を削る作戦がとられている。

 傷ついた五代目に、ミレイアさんが言う。

『大丈夫です、父上。卑怯は褒め言葉ですよ』

 すると、エヴァの方を見ながら、バルドアがオロオロとしていた。未だ、俺たちの空気になれていない様子だ。というか、ここにいる女性陣のほとんどが俺の嫁候補と聞いて呆れていた。そして、どう接して良いのか悩んでいたそうだ。

「エヴァ様? ライエル様の戦術は効果のあるものです。これも勝利のためでして」

 エヴァがそんなバルドアを見ながら、困った様子だった。本気で説明してくると思わなかったのだろう。エヴァも軽口のつもりだったはずだ。

 マクシムさんが、頷きながら。

「分かる。分かるぞ、バルドア殿。この独特の空気は俺も最初は苦労した。だが、大丈夫だ。これが普通だから」

 俺もバルドアに。

「軽口はいつもの事だ。気にする必要はない」

 すると、バルドアがまたしても悩んでいた。

「それは流石に……ですが、私が色々と口を出す問題でも……しかし、主君の面子にも関わって……」

 バルドアを見ながら、宝玉内の三代目が笑っていた。

『アハハ、この子も随分と真面目だね。僕の時代で騎士になった初代のランドバーグ君に似ているね。彼は少し真面目すぎて不器用だったけど。しかし、色々と縁が繋がっているものだね』

 七代目も頷いている様子で。

『フォクスズ家、そしてサークライ家……確かに、失ったものもありますが、残っていたものもある。そして、ライエルが新しく得たものも……』

 七代目が、少しだけ嬉しそうにしていた。俺は気を引き締めるために手を叩く。

「さて、それでは会議を続けようか。今回は楽しめないと思う戦いだが、絶対に必要な戦だ。ここでセレスの戦力を大きく削ぐ意味は大きい」

 そう、精鋭部隊はセントラルからの兵士たちだ。そこで大きく戦力を削ることが出来れば、今後の戦いが楽になる。そして、流石に死兵をベイムに相手にさせては完全にベイムが潰れてしまう可能性もあった。

「まだ戦争は始まったばかりだ。だが、ここで負ければ次がない。気を引き締めていこうか」





 ――レダント要塞では、ブロアが総大将である将軍に詰め寄っていた。

 総大将が使っている部屋へと入り、ブロアは訴える。

「聞いて頂きたい。サウスベイムのライエル・ウォルトは危険です。親衛隊を中心に三万五千もの兵士を死地に送るようなもの! ここは五万。いえ、六万を送るか、無視してベイムに向かうべきです!」

 総大将は淡々と。

「別に悪くない作戦だ。我々は当初の予定通りベイムを目指す。それに、伯爵の軍勢を失ってしまった。全体でも損害は一万を超えている。略奪に向かって返り討ちに遭った領主たちも少なくない。ついでに、略奪に向かって帰ってこない馬鹿共も、ね。そんな状態で六万も送る余裕はないよ。ついでに、三万五千でサウスベイムの動きを封じて貰うのもいい。それくらいは出来るはずだ。ベイムを責めている間に、サウスベイムが後ろから攻め込んでくるよりもいいだろう」

 ブロアは、総大将の言葉を聞いて確かにそれは間違いないと思った。結局、総大将は親衛隊が負けても問題ないと思っていたのだ。

 親衛隊と精鋭部隊――その抜けた穴を埋めるために、どんな部隊が選ばれるか? ベイムから帰って来た東部方面の軍勢――勝利後で覚えも良く、そして総大将はセントラルに戻ればセレスに更に近づけると考えている。ブロアはそう思った。

「しかし、サウスベイムが予想以上の戦力を保持していた場合――」

「ブロア将軍。君は、どうやら悪い噂が流れているようだね?」

 総大将の言葉を聞いて、ブロアは悔しそうな表情をする。総大将も別に噂を信じているわけではないが、今回の話を断るために利用するつもりのようだ。

「要塞の守備を任せている。君の兵士と本隊から三千を加えて七千規模だが、十分に気を付けてくれたまえ。なに、しっかり仕事を果たせば、悪い噂など消えてしまうよ」

 ブロアは総大将の部屋から追い出されるように出て行かされた。総大将たちの護衛によって、腕を引かれて――。





 ――ブレッドは、山越えで失った兵士たちの代りを本隊や領主貴族から補充してレダント要塞から出発した。

 親衛隊の部下たち。そして、精鋭部隊は二万八千という数になっていた。二千人は山越えで死亡、あるいは怪我をして動けなくなっている。

 しかし、七千という規模を吸収して兵力を増強してサウスベイムへと向かうのだ。中には傭兵団もいるが、彼らには道案内を任せ露払いをさせていた。

「魔物の数が思ったよりも多いな」

 ブレッドの言葉に、報告に来た傭兵団の団長は肩をすくめつつ。

「冒険者たちはベイムに集めているから、増えているんでしょうよ。あいつら、どこにでもわいて出て来ますからね」

 ブレッドは、近くには位置している準男爵に意見を求めた。良くも悪くも、ブレッドの意見を聞いてくれるため、近くには位置していたのだ。

「準男爵、このまま罠を回避して進むとして、到着までに時間がかかる。罠を無理して突破してはどうか?」

 準男爵は慌てることなく言う。

「それでは消耗してしまいます。それにこの数の規模の軍勢が動けば、相手には嫌でも耳に入るでしょう。そうでなければ、かえって相手は無能。気にする必要もありません。報告よりも敵の数が多いとしても、三倍以上の数。負けることなどありませんよ」

 ブレッドはその意見を聞いて考える。

(被害を出して最短で進んで数を減らし、こちらが不利な状況に追い込まれる事はない、か。報告では一万には届かないと聞いたが、こちらは三万五千。本来なら四倍は欲しかったが、精鋭部隊はセレス様のためになら死をも恐れない。この突破力は容易に防げるものでもない。相手が野戦に出る可能性は低いが……こちらは攻城兵器も用意した。サウスベイムとやらに引きこもったとしても、こちらが有利!)

 ブレッドはどちらでも勝利を得られるのなら、無理をして進まなくても良いと判断した。そして、罠を避けるようにして本隊を進めることを決めたのだった――。





 ――夜。

 エヴァはエルフの一族。しかも、森に住む一族を率いて野営をする敵陣に近付いていた。

 周囲ではダークエルフたちがエヴァを守るように配置されており、動きの素早い連中が偵察から戻ってくる。

 黒ではなく紺色の布をかぶり、闇に紛れて敵陣を偵察してきたようだ。そして、エヴァに報告してきた。

「間違いないようだ。準男爵の手の者が目印をつけてくれている。これなら火矢でも十分に狙えるよ」

 エヴァは遠くを見ながら。

「私には見えないけど?」

 周囲のエルフたちが笑っていた。そして、エヴァに悪いと言いながら。

「こちらは夜目が使えないと生活に問題が出るからね。森を出た一族と違って足腰にも目にも、そして弓の腕も自慢なのさ」

 ダークエルフたちがバラバラに移動すると、火矢の用意をして矢を放つ。エヴァは周囲を守られながら走り出すと火矢が荷馬車の天幕に突き刺さり燃えるのを見た。

 そして、中にあった油に引火したのか物資が燃えている。

 エルフたちはすぐに火を消して近くの森へと向かうと、先程までいた場所やまったく違う場所に矢が放たれていた。

 一瞬にして何百という矢が放たれ、物量の違いというのを思い知らされたエルフたちは。

「羨ましい限りだ。あれだけ撃ち続けられるのだからな。それにしても、距離も短ければ狙いもなっていない。腕が足りないようだ」

 エヴァは周囲に遅れないようについていきながら。

「私もそれなりに自信はあったのに、あんたたちはそれ以上ね」

 すると、エヴァの近くにいたダークエルフの女性が言う。

「あんたには必要ない。あんたは精々、あの男に気に入られてくれ。そうすれば、我々の地位向上に繋がると長も言っていた」

 エヴァにエルフたちが協力する理由は、どうやらニヒルという一族だから、だけではないようだ。エヴァもそんな強かな仲間を得て微笑む。

「任せなさい。これでも私は美声なのよ。歌でライエルの心を鷲掴みにしてみせるわ。それより、どうやら馬が来たみたいよ」

 後ろを見れば騎士が馬に乗ってランタンを掲げて周辺の様子を見ていた。だが、ダークエルフたちは走りながら矢を放ち。

「問題ない。それに、もうすぐ森に入る。そこまでくれば馬など的だよ」

 放った矢がランタンを騎士の手から撃ち落とし、そして違う矢が馬に当たって暴れだし、騎士が落馬していた。

「やるじゃない」

「これくらい当然だ。ほら、森に入る。離れるなよ」

 ダークエルフたちに囲まれ、エヴァは森へと入った――。





 ――ベイム周辺にある村。

 ベイムから冒険者や兵士たちが出ない事で、略奪目的で村に入った準男爵の手勢百五十名は、たった二人を前にして膝から崩れ落ちていた。

 いや、百五十名もいたのは先程までだ。準男爵の周囲には、すでに数名の騎士と兵士しかいない。準男爵たちが持ち込んだ荷馬車の天幕の上に座る少女。

 そして、地面に立っていた大女――たった二人が素手で準男爵の一団を殲滅したのだ。

 大女が自分の手の平に右手の拳を当てると。

「歯応えがないね。囲んでおいてこの程度かい?」

 槍で囲み、弓兵に援護させて戦った準男爵の兵士たちはたった二人の女に負けたのだ。しかも、一人は少女であった。

「なんだ……お前たちはなんだ!」

 ベイムに近いとは言っても、それはベイム全体を見れば、という話だ。荷馬車の上にいた少女が立ち上がってジャンプをすると、準男爵の目の前に着地した。

 しかし、同時に周囲にいた騎士や兵士が吹き飛ぶ。

 吹き飛ばされ、地面を転がって動かなくなった。月夜の晩に、準男爵は夢でも見ているのかと思った。座り込み、少女を見上げると満月を背にしていた。

「悪いね。でも、君たちは散々暴れていたみたいだし、手加減なんかいらないよね。こんなところまで暴れるために来たんだ……死ぬ覚悟は出来ているよね?」

 少女の右手から鋭い何かが出るのを見た準男爵は、それが横に振られると視界が急激に動いた。そして、自分のからだが崩れるのを見ていると視界が暗くなっていく――。





 ――メイは、戦いが終わると近づいて来た村長を見ていた。

 元は冒険者だったようだが、今では腹回りに肉がついて昔の武具が着られないのか武器だけ持っているようだ。

「あ、あんたら冒険者だな? その戦い方……かなりの腕だろ? 頼む! うちの村を守ってくれ!」

 頼み込んでくる村長に対して、メイは肩をすくめた。マリーナは交渉を最初からしないつもりらしい。メイは思う。

(こういうの、僕よりマリーナの方が向いているはずなのに)

「残念だけど違うよ。僕たちはライエルのパーティーメンバー……元パーティーメンバーだね。ギルドを追い出されて、たまたま近くを通りがかったんだ。だけど、用事があるからもういかないと」

 相手はライエルの名前を知っており、追い出された事も知っていたのか肩を落としていた。

「そ、そうか。ライエル、って言えばレダント要塞で……。そんな冒険者を雇う金は流石にない。だが、どうして助けてくれた?」

 メイは腕を組みつつ。

「放っておけないからね。でも、ずっと守っても上げられない。だから、君たちは逃げるんだ。バンセイムは各地で暴れ回っているし、襲われた村の多くが全滅しているからね」

 メイはそう言ってマリーナと共に村を出て行く。

 そして、村人たちから離れると、メイが麒麟の姿になって空へと駆け上がった。マリーナはメイの背中に乗り、地上を見下ろすと。

「……あの坊や、本当に徹底しているよ。私たちに助けられたあの連中がベイムに入れば、絶対に噂が広がる。ベイム――いや、ギルドや商人たちは、絶対に責められるよ」

 メイはそういった人間の行動を不思議がりつつも。

「それがライエルのやり方だからね。本当に……人間は怖いよね」

 メイはそう言って、襲われている村を探すのだった。メイとマリーナには、小規模な部隊に襲われている村を助けて回らせていた。主にベイムに逃げ込む村人たちを救出し、噂をベイムに広めるために――。
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