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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

誰に似ているのかな? 十五代目

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裏切り

 ――レダント要塞。

 その第一の壁が制圧され、要塞の目の前にはバンセイムの軍勢が布陣していた。狭い場所に並んだバンセイムの軍勢だが、大砲が設置されている場所を空けるように軍勢は並ばされていた。

 要塞の指揮官であるベイムの司令官は、その様子を見て歯を食いしばっていた。

「……何故だ」

 配置した罠はことごとく解除され、バンセイムに被害を与えることは出来なかった。崖の上に配置した落石のための岩も、バンセイムの軍勢が通る前に動いてしまい被害を与えられていない。

「何故、我々は負けているのだ!」

 限定された場所で、数で押し寄せるという戦法は使えない。なので、バンセイムは不利な状況に立たされているはずだった。実際、攻撃側よりも守備側が有利なのはこの世界では常識だった。

 しかし、押し寄せるバンセイムの軍勢を前に、要塞の方は既に半数を失う被害を出していた。死傷者に加えて怪我人。有り余る物資を持っていたとしても、満足に相手を足止めすら出来ていなかった。

 装備の質もバンセイムに劣っていない。むしろ、バンセイムより優れていた。第一の壁が突破された際には、要塞からも救援の部隊を出した。しかし、バンセイムの騎士団に敗北していた。

 数は多かった。装備も質ではベイムが優れていた。なのに、負けたのだ。副司令官が、司令官に進言した。

「司令、このままでは士気が下がる一方です。怪我人を後方へ移動させ、増援の要請に人を出しては」

「そんな事はもうやった! 商人共が出し渋るからこんな事に!」

 豪華な武具を身につけた司令官は、元は商家の三男坊だった。体が大きかった。しかし、商才がなく家を手伝えないとなると独立のために兵士を目指したのだ。それから実家の支援を受けて出世し、今ではレダントの司令官に任命された。

 五万人を超える人員を動かせるとあって、胸を躍らせていた司令官。だが、現実は非情だった。

 要塞内部の会議室に、伝令が飛び込んで来た。

「バンセイムの軍勢が要塞に侵入しました! 壁の上では両軍が激突していますが、次々にバンセイム兵士たちが登ってきて対処出来ません! 増援を! 増援をお願いします!」

 限られた場所で、互いに兵を出して近接戦を行なっているらしい。だが、バンセイムの兵士たちは、そのまま要塞内にいた兵士たちを倒して突き進んでくるようだ。

「冒険者たちに対処させろ!」

 伝令は、その言葉に悔しそうに呟いた。

「それが……多くの冒険者たちが、もう討ち取られてしまいました。要塞内部で暗殺され、リーダーを失い動けない冒険者たちも」

 攻撃が始まったと同時に、中で潜んでいた傭兵団の団員たちが動き出したのだ。主だった冒険者たちを暗殺し、バンセイム側に有利になるように事を運んでいた。

「あ、暗殺だと……何故だ。どうして敵が潜り込んでいたのだ!」

 続いて、ボロボロになった伝令が部屋に飛び込んで来た。血まみれで、息も絶え絶えだった。

「なんだ! どうした!」

 伝令は、声を出そうとしていた。だが、声が出せないのか小さな声しか聞こえてこない。イライラした司令官が不用意に近付くと、伝令である男はニヤリと笑った。司令官に抱きつくと、鎧の隙間に剣を刺した。

「ありがとよ、まさか司令官が近付くとは思わなかったぜ」

 直後、部屋の中に次々とベイム側の装備を身に付けた連中がなだれ込んできた。

「ちっ、司令官の首はこいつのものかよ。まぁ、他で我慢するか」

 要塞内部にある会議室は広いとは言っても、室内だ。傭兵たちは短剣や盾を持ってベイムの司令部に乗り込んだのだ。そして、司令部の兵士たちが持っていた武器は剣でもロングソードのような長いものだった。

「貴様ら、裏切ったのか!」

 傭兵たちはその言葉を聞き、一瞬黙ると急に笑い出した。

「裏切る? 違うね。相手の方が条件は良かった。そして、相手が勝つと思ったから向こうについただけだ。最初から俺たちは向こう側だったんだよ。お前らが甘いおかげで助かったぜ。だから……俺たちの報酬のために死ね」

 傭兵たちと会議室で戦う上層部の面々。護衛である兵士たちは傭兵に囲まれ討ち取られていく。傭兵も犠牲者は出るが、そんな事はお構いなしに斬りかかっていた。

 副司令が傭兵三人に短剣で突き刺され床に押さえつけられた。血を流し、青い表情をした副司令が、目の前の傭兵たちのまとめ役を見上げた。

「お前ら、何をやっているか分かっているのか? ベイムは――ギルドはお前たちを絶対に許しはしないぞ」

 その言葉に、傭兵たちが大笑いをした。副司令が周囲を見ると、傭兵の一人が屈んで副司令の顔を覗き込む。

「それは怖いなぁ。だけどよぉ……お前らの言うギルド、ってベイムのギルドだよな? もしかして、ギルドには手を出さないとか本気で思ってる? バンセイムは本気でベイムを潰しに来ているんだけど?」

 副司令が目を見開いた。

「まさか、お前たちはベイムを……分かっているのか! ベイムがなくなれば、困るのはお前たちであるということを!」

 副司令を傭兵たちのまとめ役が蹴り飛ばした。

「上から目線で五月蝿いんだよ。俺たちは商人やギルドの犬じゃないんだ。ただ、商売相手として上手くいっている時は協力しただけだ。ベイムにいても稼げないなら、稼げるところに行くしかないだろ? ……なんだ、もう死んだのか」

 声を発しなくなった副司令に興味をなくし、傭兵はバンセイム側に連絡するように告げた。

「おい、バンセイムに大将は討ち取ったと伝えろ。これで俺たちの報酬はとんでもない金額になるぜ」

 笑う傭兵たち。皮肉にも、商人と冒険者の都の要塞は、冒険者たち――傭兵によって、落とされたのだった――。





 ――ブロアが要塞の方へ移動した時には、全てが終わっていた。

 要塞内部では至る所に血の跡があった。それだけ激しく戦ったのだろうが、それにしても一方的に終わったものだ。結果だけを見れば、バンセイムの完勝だった。目立った被害もなく、そればかりかベイム側の大量の物資を確保したバンセイムの軍勢は、これで憂いなくベイムの都市部に進軍出来るのだ。

 片付けられた会議室に入ると、ブロアは既に到着していた将軍たちに謝罪をした。

「いや~、遅れました。申し訳ない」

 将軍の一人が、軽い雰囲気のブロアの態度を見逃した。勝利したので気分がいいのだろう。

「ブロア将軍は第一の壁にいましたからね。遅れてもしょうがないでしょう。さて、会議の続きですが」

 総大将である将軍が、口を開いた。

「このまま我々はベイムへ侵攻する。それと、だ。領主たちの要望もある。現地で物資の調達を行なう事にした」

 その言葉に、ブロアは思った。

(人の欲は尽きない、か。やっぱりこうなるんだね)

 参加している男爵家以上の領主たちは、それぞれが現地調達という言葉に喜んでいた。

「要塞内部に物資があるとは言え、三十万もの大軍勢ですからね。やはりベイムを落とすには心許ない」

 白々しいことをいう子爵がいれば、黙って腕を組んでいた伯爵も賛成を口にした。

「兵士たちも待っているからな。ここで我慢をさせて暴走されても敵わない」

 まだ若い男爵が、早速名乗りを上げた。

「それでは、我々はここから北へと進みます」

 すると、他の領主たちから不満の声が上がった。

「北は発展しているそうではないか。男爵家の規模では返り討ちにあう。我々が担当しよう」

「失礼な。ベイムの弱兵を見たでしょう? あれに負けるようでは、領主として恥ですよ」

 笑い声が会議室を支配した。そんな中で、ブロアは一人浮かない顔をしている。領主たちは笑っているが、これから起こるのはとても笑い話では済まない略奪だった。場合によっては、村を焼き払い皆殺しにする者たちも出てくる。

 領主たちが真剣になっている理由は、ベイムに領主がおらずに各村が裕福だと知っているからだ。まとまった抵抗も出来ず、頼りの冒険者は都市部の防衛で忙しい。とてもではないが、負けるとは思えなかった。

 実際、ブロアが調べた限りでは、絶好の狩り場である。

(面白くないのは事実。だが、それを言ったところで止まりはしない。それに、中央はベイムを本当に殲滅するつもりでいる。下手なことを言えば、こちらが処罰されるか)

 ブロアも綺麗事だけで世の中が回っているとは思わない。しかし、それでも納得出来ない自分がいるのも事実だった。

 そして、総大将がブロアを見て口を開いた。

「時に、ブロア将軍。さきの戦いでは見事な働きぶりだった。セントラルの方へは将軍の功績が大きかったと報告しておこう。ベイム攻略でも期待しているよ」

 ブロアは笑顔で。

「いえ、出来ることをしたまで。私などよりも、他の将軍の方々の方が――」

 謙遜して周囲を評価する発言をしておこうとした時だ。会議室のドアが開かれた。そこには、ブレッドが立っていた。

 周囲の将軍、騎士団長、そして領主たちの蔑んだ視線がブレッドに集中する。総大将は、頭を押さえ、大げさに首を横に振って見せた。

「まったく、情けない。周囲の反対を押し切って独断で動いたばかりか、戦場に間に合いもしないとは。ブロア将軍とは大違いだ」

 ブロアは、内心で思った。

(止めてくださいよ。ブレッド殿が凄く睨んでいるじゃないですか。これで確実に目の敵にされますよ)

 流石にブロアも、迂回すると言って飛び出して戦場に間に合わなかったブレッドを、フォローするのは難しかった。言えることと言えば。

「総大将、流石にこの短期間で要塞を攻略出来るとは誰も想像が出来ません。要塞攻略での他の将軍のお手並みは見事でした。流石にブレッド殿だけを責めるのはどうかと。むしろ、早く落としすぎたこの場にいる全員に責任があるのでは?」

 ブロアがそう言うと、周りの将軍や騎士団長、そして領主たちが笑い出した。

「確かに。弱兵ばかりだと知っていれば、親衛隊や精鋭部隊も残っただろうさ」
「険しい山道を越えてきたのだ。冷たくしては可哀想だったかな? 被害もそれなりに出たのだろう?」
「そうですね。間に合わなかったのではなく、我々が強すぎたのです。親衛隊長殿を責めても仕方がありませんね」

 周囲の笑い声に、ブレッドは益々ブロアを睨み付けていた。ブロアは、話を逸らしたのだから少しは恩を感じて欲しいと思った。そして、総大将がブレッドに座るように言う。空いている席は、総大将の席からもっとも離れた椅子だった。

「さて、それでは予定通り動いて貰おう。それと、兵を分散させるが、手綱はしっかりと握るように。暴走されては敵わないからな。全体で進軍する時までに、合流地点に集合するのを忘れないで貰おうか」

 総大将が立ち上がると、会議が終了して領主や将軍たちが立ち上がって会議室を出て行く。全員がブレッドを見ながら。

「よく会議に来られたものだ」
「俺なら恥ずかしくて命を絶つね」
「セレス様のお気に入りだからな。それだけで親衛隊長だ。実力を期待するのは酷ではないかな?」

 ブロアは、最後に会議室を出る事になり、ブレッドの隣を通ると。

「……生まれだけのボンクラ将軍が。一度の功績で自惚れるなよ」

 直後、立ち上がったブレッドは、ブロアを押しのけて先に部屋を出て行った。ブロアは、溜息を吐きつつ。

「どうやっても恨まれる。まったく、どうしてこう面倒な立ち位置にいるのか」

 ブロアは肩をすくめつつ、最後に会議室を出るのだった。

 そんな会議室の様子を、うかがっていた一人の準男爵がいた――。





 ――ブレッドは、要塞内部で与えられた個室で荷物を蹴り飛ばしていた。

「どいつもこいつも! 私のせいじゃない! 案内人や傭兵団が渋るから遅れたのだ! それさえなければ、我々が――いや、私が!」

 部屋に置かれていた家具が粉々になっていた。ブレッドは、自分の怒気を沈める気配がない。ただ、収まるまで暴れているだけだ。

 そんなブレッドの部屋に、ノック音がした。

「誰だ!」

 ドアが開き、そして部屋の前にいたのは準男爵の二人だった。ブレッドから見れば、取るに足らない相手だ。連れてきている兵士も百から二百程度。たいした相手ではないと、挨拶もしなかった。

「何の用だ。私は忙しいんだ!」

 準男爵の二人組。一人は、アデーレに協力を約束した準男爵だった。

「……親衛隊長殿にお耳に入れたい事があります。誰に伝えるのが一番良いのか悩んだのですが」

 差し出されたのは、手紙だった。ブレッドがそれを奪うように受け取り中身を確認した。読み進めるブレッドは、次第に両手で手紙を持って口の両端をつり上げた。

 封を切られていない手紙は、まだ誰も読んでいない。それを、ブレッドに見せた二人の準男爵。

「これは……内応の手紙ですね」

 そこに書かれていたのは、ライエル一行の一人であるアデーレという人物からの協力要請だった。かつて縁があり、そして約束通り協力して欲しいという手紙だった。

 ブレッドは、二人の準男爵を見る。

「手紙の内容からすると、お二人は既に密約ある様子ですが?」

 準男爵の一人――アデーレに無理難題を押しつけた方が、事情を説明した。

「三十万のバンセイムの軍勢を裏切り、小勢力でしかないライエル側につけと? 我々とてそこまで愚かではありませんよ」

 アデーレの実家と昔から付き合いのある準男爵も言う。

「すでにいくつもの騎士爵家の家にも同様の手紙をばらまいております。まぁ、協力した時はこちらにも利益がありましたのでね。ただ、我々も今後を考えれば、どちら側につくかなど考えるまでもない。ただし、以前に協力した事もある。そこで、親衛隊長殿にはセントラルに取りなしをお願いしたいのです」

 ライエルたちから自分に寝返った。そう思ったブレッドは、二人の話を聞き。

「いいでしょう。私の方から取りなして上げますよ。それと、今後は協力してくださるのでしょうね?」

 二人の準男爵は頷いた。

「もちろんです。ただ――」

「ただ?」

 準男爵がなにを言うのか身構えていると、二人はライエルたちの計画を話し始めた。

「裏切りを装って手紙を渡す者たちもいるかも知れません。ライエルたち一味は随分と汚い手を使います。それをご忠告申し上げておこうと」

 ブレッドは、そんな事かと思った。しかし、同時に有り得ると思ってしまったのだ。二人は封を切る前に手紙を渡してきた。多少は信用してもいいだろう。

「ならば、話を誰かに持ち出した時点で裏切り者確定という事か。分かった。対処しましょう。それと、この手紙に関してですが……今後もやり取りを続けて頂きます」

 準男爵が不思議がる。

「続けるのですか?」

 ブレッドは、頭の中で一つの計画が思い浮かんだ。それは、ライエルたちを引きずり出し、囲んで叩くというものだった。それを理解していない準男爵の二人を見て、内心で馬鹿にする。

(こんな作戦も思いつかないのか)

「えぇ、そうです。大事な作戦ですからね。お二人にも協力して貰いますよ。それから、この話を誰かにはしていますか?」

 二人は首を横に振った。そして、ブロアの名前を出した。

「あのブロアという将軍は気に入りません。まぁ、他の将軍たちも似たようなものです。ただ、親衛隊長殿は、この手紙の価値を理解して頂けると思いましてね。山越えという誰も選択しない作戦を実行しました。間に合いはしませんでしたが、それはあまりにもベイムが脆かったためです。普通であれば挟撃の機会を作り、親衛隊長の功績が誰の目から見ても一番でしたよ」

 気をよくしたブレッドは、笑いながら頷いていた。

「それでは、返事はこちらで考えます。手紙が来た場合は、すぐに私に知らせてください」

 こうして、ブレッドとライエルとの戦いは避けられないものになったのだった――。
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