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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

誰に似ているのかな? 十五代目

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要塞攻略

 ――レダント要塞を迂回する形で、険しい山道を選択したブレッド率いるセントラルの精鋭部隊は、現地の道案内や雇った傭兵たちを先行させる形で進んでいた。

 細い道を進む一行の列はどこまでも続き、そして普段はあまり使われることがない道を大勢で進軍するとあって非常に危険な状態だった。

 休める場所を探し、そして天幕を張って休憩していたブレッドの下には傭兵団の団長や現地の人間が押しかけて後退して本隊に合流することを求めてくる程に。

「これ以上は無理です。数百規模ならまだしも、万を超える大軍勢。先に進んで調べてみましたが、危険な場所も多い。これだけの人間が移動出来るとは思えない」

 傭兵団――冒険者が集まったような組織を前にして、ブレッドは忌々しそうにしていた。

(屑が。使ってやっているだけでもありがたいと思えないのか)

 かつて、ライエルにこき使われ、そして結果的に手柄を譲られた事でブレッドはライエルに対して対抗心があった。そのため、冒険者たちが嫌いでもある。ライエルに出会う前は冒険者を見下していた。

 しかし、今では憎いと思う程の相手になっていた。それでも傭兵や冒険者を使っているのは、自分にもライエルと同じ、あるいはそれ以上の事が出来る器だと思っていたからだった。

 現地の案内人は、山で狩りをする人間だった。数名で狩りをしており、移動の際は少数での経験しかない。

「騎士様、この人数での移動は無理です。もう怪我人まで出ていますし、それに道が狭い場所が多く、とても期日までに案内出来るとは思えません」

 ブレッドは、天幕の中で椅子に座っており、二人の意見を聞くと。

「無茶は承知していますよ。それをやり遂げてこそ、我々は歴史に名を残せるのではありませんか? 突破して要塞の裏に回れば、バンセイムの被害は大きく減らすことが出来ます」

 口ではもっともらしい意見を述べてはいるが、内心ではかつてライエルと共にグリフォン退治をした記憶が蘇っていた。自分はもっと働けると思っていた。だが、ライエルは予備戦力としてずっと放置していた。

 元は目上の伯爵家の人間。追い出された無能。なのに、戦場で活躍したのはライエルで、ブレッドはその手柄を譲られる形で出世した。

 ――その事実を認めたくなかった。セレスに命令された以上に、ブレッドはライエルに対して逆恨みとも言える感情を抱いていた。

 傭兵団の団長は、そんなブレッドに対して。

「これ以上は無理です! 今なら引き返せますし、本隊と合流すれば間に合います! 下手をすれば、山を抜ける前に要塞攻略が終わってしまう!」

 その言葉に、ブレッドは眉を動かした。相手に苛立っているのを悟られないようにしながら、何度か頷く。

「分かりました。では、軍をいくつかに分けましょう。五千を先行させる形で先を進みます。それなら、予定よりも早く到着するでしょう」

 案内役の狩人は、それでも不満そうだった。傭兵団の団長も同じだが、決定権がブレッドにあるのでしたがっている様子だ。

 そんな二人の態度を見て、ブレッドは心の中で。

(無能共が。どうして私の作戦の重要性が理解出来ないんだ。この作戦を成功させれば、三十万もの軍勢を指揮する立場の中で、優位に立てる。そうすればセレス様も喜び、私はライエルを超えられる男になる)

 奇策で自軍よりも多い魔物の軍勢を退けたライエルに、ブレッドは必要以上に対抗意識を燃やして周りが見えていなかった――。





 ――一方。

 レダント要塞方面は、二十万を超える軍勢が狭い道を進んでいた。元から数の理を活かせない地形、加えて相手方が有利な場所での戦闘だ。

 要塞からは大砲が火を噴き、魔法や矢が雨のようにバンセイムの軍勢に降り注いでいた。

 ただ、最前線で指揮をするブロアは、そんなレダント要塞の攻撃を見ながらアゴに手を当てていた。

「この程度で魔物の軍勢を退けたとは思えないね。やっぱり、指揮官の有無は大事だよ。基本を知っている指揮官がいたら、きっともっと多くの被害を出していたね」

 笑いながら、用意した大きめの盾に隠れるブロアを、完全武装した副官が呆れてみていた。

「将軍、笑っていないで早く突破をしましょうよ。既に罠の配置は調べ尽くし、進軍ルートも決まっています。後続のために罠を解除して進めば、我々の役目は終わりなんですよ」

 ブロア率いる部隊の役割は、先行して罠の排除を行なう事だった。ベイムから流れてきた傭兵団を通して、高い金を払って情報を買ったのだ。そして、現在でも要塞内部に人員を送り込んで内部の情報を集めていた。

 ブロアは、兜を脱いで髪をかいた。流石に脱いだままというのも悪いので、すぐにかぶり直す。

「いや~、何しろこんなに盛大に散発的な出迎えをしてくれるから、後続のためにも相手の疲弊を狙おうと思ってね。しかし、大砲は実際問題として厄介だね」

 砲弾の直撃を防ぐため、マジックシールドで勢いを殺すも鉄の塊が緩やかな坂道になっているので、転がって兵士たちを巻き込むのだ。

「ふむ、着弾箇所に穴を掘っておこうか。転がればそこに集まる感じにしよう」

 ブロアがすぐに対策を立てると、大きな盾を並べた防御柵に魔法が直撃した。土煙が舞い上がり、ブロアは息を吸い込んでしまったのか咳き込む。

 副官が周囲の部下たちに指示を出すと、夜になれば作業を開始する事にした。

「さて、後続から仕事をしろと言われる前に、地味に前進しますか。罠が設置されている場所は避けて進もう。それと、崖側には落石の準備もあるから、別働隊が罠の排除を行なうまで近付かないようにしないとね」

 ジワジワと前進するバンセイムのブロア隊。次々に罠の解除を進め、後続の本隊が進むための道を用意していた。

 副官が、要塞の上の方を見た。

「……しかし、本当に酷いですね。もっとまとめるか、それとも絶え間ないように撃てばこちらは困ったと思うのですが」

 放った矢が、放たれた魔法によって燃やされる光景もあった。闇雲に攻撃してきており、まともな訓練を受けているとは思えない。実際、副官が見ている光景をブロアが見ると――。

「おや、要塞の上では言い争いをしているね。しかし、魔法や矢を効率的に撃たなくてもいいだけ、人材や消耗品の数が揃っていることを考えると……やはりベイムは脅威だね」

 副官が、ブロアを見て少し笑った。

「評価を改めますか? 平時の方が恐ろしい、って言っていましたよね?」

 その言葉に、ブロアは首を横に振るのだった。

「悪いが評価を変えるつもりはない。ほら、罠の撤去も終わったようだ。前進しよう」

 部下たちに指示を出し、ブロアはまた地味に前進するのだった――。





 サウスベイム。

 レダント要塞にバンセイムの軍勢が到着した頃、俺はモニカと共に集まった情報をまとめていた。

 仕事部屋にしている場所には、ソファーがある。そこには、レダント要塞から帰還したラウノさんが座ってお茶を飲んでいていた。

「はぁ、酒の方が良かったんだが」

 モニカは笑顔で。

「そう思い、お酒を少しだけお茶に入れております。ただ、今は仕事中なので真面目にしていてくださいね」

 ソファーの背もたれに背中を預け、肩をすくめたラウノさんはカップを置くと前のめりになった。視線が真剣なものになる。

「こっちの情報はまとめあるから読んでくれればいい。だが、途中立ち寄ったレダント要塞だが、あれは想像以上に早く突破されるぞ。既に内部に傭兵団の人間が入り込んでやがる。やったのはブロア・キャデルだな。ほら、お隣を無難に治めた将軍様だ」

 ラウノさんの資料を見ながら、俺は何度か頷いた。

「セレスに魅了されていない、元セントラルの将軍ですか。志願して現在の任地で仕事をしていると聞きましたが?」

 モニカも資料に目を通しながら、その中の内容から興味深いものを俺に伝えてきた。

「部隊の全てをセントラルから集めずに、他の場所から集めていますね。セレスに関わりのない場所から、というのも面白いです」

 ラウノさんは頷きながら。

「引き抜くつもりならブロア将軍が狙い目だ。セントラルでの評判は悪いが、仕事ぶりを見るに無能でもない。セレスから逃げて東へ異動したというのが妥当だな。ただ、送り込まれた中でセントラルの精鋭部隊だけは駄目だ。セレスに魅了された連中で固められた部隊だ。引き抜きは無理だろうな」

 他にも、セレスに魅了されていると思われる人材のピックアップが行なわれていた。安全なのはブロア将軍、という事になっている。セレスのために行動しているようには見えない。

 また、そういうふうを装っているにしても、不自然な点が多かった。モニカは、資料を見ながら。

「主だった面子は魅了されていますね。兵士は精鋭部隊の三万が魅了され、他は領主に将軍、騎士団長……チキン野郎、圧倒的に指揮官が足りません」

 人が増えると、管理する側の人材不足が問題となる。それを余所から借りるなどというのも問題だ。引き抜けば、引き抜いた場所で問題が起きる。

 宝玉内では、五代目がモニカの意見を聞いてシミジミとしながら。

『数だけ集めても、部隊を率いる人間とか教育しないと使いものにならないんだよな。少ない人数をまとめる奴は結構いるが、その上となると少なくなる。その更に上……千人規模を率いる事が出来る連中はもっと少ない』

 バルドアの加入で、ある程度の指揮が出来る人材は増えた。だが、一人増えただけではどうにもならない。

「一番いいのは、ブロア将軍の部隊ごと引き抜く感じですかね」

 ラウノさんもその意見には同意していた。

「そうだな。それがベストだろうさ。あの将軍なら、部下も揃っているから五万までなら率いてくれるんじゃないか?」

 適当に言っているラウノさんだが、実際それだけの規模を動かせる能力も部下も揃っているはずだ。何しろ、荒れた隣国に入ったときは、数万規模の兵士を率いていたのだから。

 俺は自分の仲間の顔ぶれを思い出す。

「ノウェムは魔法特化だ。率いて戦う事も可能だが、出来れば後方に置きたいな。クラーラは間違いなく後方。シャノンは問題外。エヴァは少数までなら……いや、同族のエルフを率いて貰えるか? メイは無理だろうな……」

 それなりの規模を率いて戦える面子は、かなり限られていた。

「アリアとミランダだろうな。マクシムさんも、率いた数は数百だとか言っていたけど、この際だから数千を率いて貰うか」

 モニカが、俺にアドバイスをしてくる。

「副官としてヴァルキリーズをつければ、ある程度は率いて貰えると思いますよ。まぁ、あのポンコツ共もバージョンアップで少しは役に立つようになったみたいですからね。もっとも、チキン野郎の傍に必要なのはこのモニカだけですが」

 俺はモニカの戯れ言である後半をスルーした。

 そして、ラウノさんが俺に最後に言う。

「それと、お前さんに言われた通りの場所を調べてきた。確かに、戦うならあそこだろうが……攻め込んで来ている連中がいて、戦争は始まったばかりだぜ? まだ先の事を考えるには早いと思うけどな」

 俺はラウノさんを見ながら。

「でしょうね。でも、もう始まりましたからね。終わるのは俺かセレス……どちらかが死ぬまでが、大きな区切りですから」

 セレスとの戦いは、もう既に始まっていた。





 ――宝玉内。

 自分の椅子をミレイアに譲り、円卓に腰掛けている五代目はミレイアに視線を向けた。

『なぁ、いつまで俺はスキルをライエルに渡せないんだ? もう渡した方がいいと思うんだが?』

 ライエルとバンセイムとの戦いが始まった中、五代目は自分のスキルをライエルに渡すことを考えていた。しかし、以前は伝えていないことがあるとして、ミレイアに止められたのだ。

 しかし――。

『……え?』

 ミレイアは、ハッとした様子で五代目の顔を見ていた。そして、視線を逸らして汗をかいている。

『おい……おい!』

 五代目が円卓から降りて、ミレイアに近付いて両肩を握った。ミレイアは、口元だけが笑っていた。

『い、いやですよ、父上……私、もう制限を解除した、って言いませんでしたか?』

 父と娘のそんなやり取りを、三代目と七代目は眺めていた。そして、五代目に同情的な視線を向けていたのだ。

 三代目など。

『なんだろうね。タイミングが大きく外された気がするよ。五代目は、もっと早くにスキルを継承させておけば、良い感じだっただろうに』

 別に別れ際は恰好よく、などという決まりはない。だが、明らかに今までがそれぞれにドラマがあり、そして綺麗な形でライエルと別れていた。

 七代目も。

『酷い。これは叔母上が酷いです。まぁ、いつも酷いですけどね』

 ミレイアも理解していたのか、今日は七代目を拳銃で撃ち抜く行動には出なかった。それを、少しだけ寂しそうにしている七代目。

 しかし、五代目はミレイアの両肩から手を離した。

『そ、そういう事は早く言え。確かに、なんだか今更という感じもあるが、俺は目的を果たせる訳だ。なら、ライエルの都合のいい時にスキルを継承させる』

 気にしていないという態度を取る五代目だが、明らかに気にしていた。そんな様子を見ていたミレイアは、冷や汗を流しつつ。

『……な、なんとかしますから。父上の大事な去り際ですので、このミレイアが感動的な演出を!』

 すると、三代目がボソリと。

『そういうの、って逆に盛り上がらないというか、色々と無理やり感が出るんだよね。ライエルにも五代目にも、迷惑なんじゃないの?』

 五代目も、失敗している場面を想像したのか、左手を顔に当てて。

『……ミレイア、もういいから。俺にはこれくらいが丁度いいから。頼むから、放っておいてくれ』

 すると、男三人に責められたミレイアが立ち上がった。

『そこまで言われては黙っていられません! こうなれば、盛大なパーティーを開いて!』

 五代目が焦りながら、ミレイアの両肩をまた掴んだ。

『もういいから! 頼むから止めてくれ! もっと酷いことになりそうだから!』

 宝玉内は、戦争とは別に大きな問題が発生していた――。
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