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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないよ 十四代目

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本当の復讐

 ファンバイユ王国。

 その首都にある城の一室では、俺が他の四人を集めてリアーヌ対策会議をしていた。

「――と、いう訳でかなり追い込まれているみたいだ。ただ、このままファンバイユが潰れて貰っては困る。何か方法はないだろうか?」

 表情が引きつったアリアが、周囲の面子を見てから俺の方に視線を戻した。

「なに? お姫様はそんなに酷い状態なの?」

 俺は頷いた。ファンバイユ王国がリアーヌに乗っ取られていること、そしてそのリアーヌがルーファスやセレスへの復讐に燃えていること。更には、拷問を嬉々として実行しようとしているのを説明したのだ。

 アリアの反応は、当然の部類なのかも知れない。

「かなり追い込まれている。戻ってきてからも酷い状況だったせいもあると思うんだけどね」

 婚約者に捨てられたお姫様。確かに聞きようによっては憐れだが、世の中は思ったより冷たい。「リアーヌに何か問題があったのではないか?」そういった事を言う者たちもいたわけだ。家族だけではない。国の重鎮、そしてそれ以外の末端――。

 そんな中で、リアーヌがその能力で国を支配した。いや、能力というか……本人の資質の部分かも知れない。

「本当のお姫様と思っていたけど、なんかイメージと違うわね。前も色々と儚げと言うか可哀想だったのに……」

 クラーラは、眼鏡を少し持ち上げ、そして位置を正すと俺に言うのだ。

「協力して頂けるなら宜しいのではないでしょうか? それとも、ライエルさんはリアーヌさんもハーレムに加えるおつもりですか?」

 確かに、セレスに勝利をするだけなら、今のままでも問題ない。

 ただし、ファンバイユという国には爆弾が残ったままだ。勝利したとして、リアーヌが無気力にでもなって国政に関わらなくなる方が怖いのだ。

 ウォルト家に恨みを抱いているファンバイユが、素直にこちらの意見を聞くだろうか? いきなり統制が取れなくなり、爆発されても困る。

「問題なのは勝利した後だ。戦う前に勝利後の事を考えていると笑われるかも知れないが、そこは大事な部分だ。勝利して終わりじゃないからな」

 クラーラは納得したように頷く。ただ。

「そうなると、ファンバイユにはリアーヌさんが必要。もしくはこちらに従うようになって貰わないといけませんね。かなりウォルト家という事で恨まれているので、感情面で厳しいかも知れませんが」

 クラーラの発言に、宝玉内の七代目が照れくさそうに。

『フフ、かなりの大勝利――いや、完勝と言っていいくらいだったからな。王太子以下、主要な貴族は捕虜として身代金と引き替えに大儲けだ。厄介な連中は戦死したから、立ち直るのに何十年かかったか……捕虜となった奴らも、きっと肩身が狭かっただろう』

 つまり、六代目と七代目が原因だ。

 いや、分かっている。負けるなど論外だし、勝たなければいけなかった。だが、トラウマになる程に完勝してしまったのが問題だ。おかげで、ファンバイユはここ数十年を戦争に弱いという印象がつきまとっていた。

 俺が逆の立場だったら、確かに恨みたくなる。

 アリアが難しい表情をして。

「あれ? そうなると、リアーヌ様はファンバイユにいた方がいいのよね? ハーレムとか関係ないし、ファンバイユにライエルを認めさせれば終わりじゃないの?」

 黙って聞いていたモニカは、話している俺たちの目の前に置かれたカップの中身を確認し、おかわりの用意をしていた。

「認めさせるのも難しいですし、問題は復讐が完了――勝利後にファンバイユをまとめた女傑がやる気をなくすのが問題ですね。将来的に奪ってみては?」

 俺はモニカの意見を拒否する。

「バンセイム単体でもかなりの国土なんだが? それを統治するのも大変なんだぞ。できれば、余計な問題は前もって解決したいだろうが」

 五代目が、宝玉内で俺の意見に同意してくれた。

『賛成だな。国盗りまでは派手だが、それ以降は地味な感じになると思うぞ。というか、良い感じに大陸中が疲弊して貰わないと困るな。戦争に加えて領土が戻る……それだけでファンバイユが止まらないような気がするな』

 三代目が同じように。

『根が深い問題だからね。権力者たちがまさかのトラウマ世代だから、余計にややこしいんだ。いっそ……サクッと首を変えておく?』

 怖い。三代目が怖いことを言う。だが、世代交代をさせるというのは正しい意見かも知れない。

 シャノンはモニカの煎れたお茶を飲みながら、少し不思議がっていた。

「ねぇ、私が思うにあのお姫様、ってまだ王太子に気持ちがあるわよ。だから許せないんじゃないの?」

 俺はシャノンを見て、呆れながら。

「だから困っているんだろうが。愛が深いから、それだけ憎くなったんだろうな」

 シャノンは逆に俺を見て呆れていた。

「だ、か、ら! 私が言いたいのは、あのお姫様は確実に殺した相手を憎むわよ、って事! このままだと、お姫様がいないファンバイユじゃなくて、お姫様のいるファンバイユが牙をむいてくるわよ」

 アリアもクラーラも、そして俺もシャノンを見た。よく考えれば、普段は残念なシャノンだが、人の心を魔力の流れや揺らぎで感じ取れる目を持っていた。

「……本当か?」

 シャノンは自信満々にない胸を張って頷いた。

「ふっ、このシャノン様の目は凄いのよ。今は憎んでいるけど、未だに深く愛しているわ。だからこそ許せない、って感じね」

 アリアが息をのんだ。

「待って。そうなると、たった一人で国を乗っとったお姫様と今度は戦うの? あのさ、私はそういう裏方というかそういうのはよく理解してないけど、リアーヌ様は危険だと思うわよ」

 クラーラは俺の袖を指先で掴み、そして俺の顔を見上げて。

「ライエルさん……ここは“らいえるサン”の出番です。ファンバイユのお姫様をおとしましょう。絶対に厄介ですよ、あのお姫様」

 モニカはアゴに手を当てて、自分なりの見解を述べる。

「ふむ、戦うにしても前線で活躍するタイプではなく、裏で動き回るタイプですね。チキン野郎の話が本当なら、神出鬼没で厄介なスキル持ち。間違いなく厄介なタイプです。それに、精神を操るスキルを持つ人間よりも、よほど質が悪い。今の面子では……ルドミラよりも厄介かも知れません。あの目狐ノウェムと同等の厄介さですよ。いえ、明確な敵に回れば厄介さはそれ以上かも知れませんね。どんな手を使ってくるか分かりませんし」

 シャノンは俺を見て言うのだ。

「私はあのお姫様……お姉様より怖いわよ。いや、戦えばお姉様が絶対に勝つけど、そういう怖さじゃなくて……本当に怖いわよ」

 セレスを倒したら、最悪セレス並の怪物が誕生するという流れだった。いや、セレスとは違った脅威なので比べられないが。

「……どうしたらいいんだ」





 宝玉内。

 俺はらいえるに右腕を差し出していた。らいえるは、俺の右腕を流れる青い光の流れを修復しつつ、俺の愚痴に付き合ってくれた。

『なに? 今度は怖いお姫様? どうしてそんなババばかり引くの? ライエルの手持ちは本当にババが多いね』

 記憶の中の部屋。そこは俺が軟禁されていた部屋だった。

 ベッドに座り、俺はらいえるから視線を逸らした。

「……み、みんな俺には優しいから」

『そうだね。ライエルに“は”優しいね。気を抜けば本気でつぶし合いが始まりそうだけど。……おっと、ここも酷い。なんでここまで丁寧に壊すかな? しかも放置期間が長すぎて、思ったより修復が難しい』

 セレスによってズタズタにされた、俺の中の魔力の流れ。それを修復するらいえるは、俺の背中に手を合わせた。

 小さな手が俺の背中をさすっていた。

『復讐ね。本当の復讐を理解していないね。それに、自爆するようなやり方は復讐として二流だよ。本当の復讐は――うわぁ、ここも酷い』

 らいえるは『もっと早くに治療しておけば良かったね』などと言って笑っていた。

 そして、俺に言うのだ。

『……ライエル、僕は言ったね。君には家族を救って欲しい、って。ここで質問だ。“僕と君”の家族にとって、救いとはなんだと思う?』

 俺は背中をさするらいえるの質問に、俯いて答えた。

「殺す事だ。苦しまないように殺す事」

 らいえるはどんな表情をしているのか見えない。だが、きっと楽しそうにはしていない。

『正解だ。そして、それが操られた両親にとって出来る最大限の救いだ。どこかに匿う、っていう選択肢もあるね。けど、僕の知っている両親はそれを認めない。誰よりも貴族らしくと思った父。優しくて誇り高い母。二人はきっとセレスから解放されれば死を選ぶ。そんな人たちだよ』

 俺はらいえるの言葉を聞いて悲しくなった。

「俺には、そんな記憶もない。なぁ、返してくれよ。俺は……曖昧な記憶しかないんだ。家族の記憶が欲しい。思い出したいんだ!」

 らいえるは答えなかった。そして、俺の両肩に手を置く。体が温かくなった感覚があり、そして黙っていたらいえるが口を開く。

『……ごめん』

「え?」

 俺が顔を上げる。振り返ろうとするが、肩を押さえられ振り返ることが出来ない。首だけを動かしても、らいえるは俯いていたので顔が見えない。

『きっと記憶を返すのが正しいと思う。僕はそのために宝玉によってセレスの封印から解放された記憶そのものだ。人にとって記憶は大事だ。人生を左右するくらいに……大事だ』

「だったら!」

『だからこそ!』

 らいえるは大声を出した。

『だからこそ、僕は記憶を君に渡せない。渡したくない。宝玉にとって大事なのは、今のライエルじゃない。セレスに勝てるライエルだ。そのために、宝玉はライエルを強くしたがっている。でも、そうじゃないんだ。僕は――』

 らいえるが俺の両肩から手を離した。

 振り返ると、部屋の中が灰色に染まって砂のように崩れ去る。灰色の砂嵐が吹くと、残ったのは宝玉内を再現した部屋だった。

 再現された部屋には、初代、二代目、四代目に六代目が自分たちの椅子に座っていた。灰色に染まった宝玉内。

 周囲を見ても、四人は俺に反応を示さなかった。

 円卓が広がり、闘技場のようになるとらいえるは右手にサーベルを握りしめていた。誕生日に貰ったサーベルだ。俺が握り続けたサーベルだ。

 十歳の姿。そんな俺自身が、サーベルを構えた。

「……勝てば返してくれるんだよな?」

 左手を前に出すと、俺が使用してきたカタナが出現した。鞘を握ると、右手で柄を掴んで刃を抜く。

 らいえるは笑っていた。

『さぁ、治療は終わりだ。今の状態でも四から五の力は出せる。本気で来い。そんなに記憶が欲しいなら、僕を倒して奪い取れ!』

 今まで以上に力が体に入った。どこか入りきらない力が、今になって体に馴染んでくる。青い光の線が体中を駆け巡る感じがした。

 らいえるも同じだ。一瞬で俺に接近してくると、サーベルを突き刺してきた。だが、俺はサーベルの刃を脇で挟み込むと、そのまま蹴りを放つ。

 素早くサーベルを手放したらいえるは、横に飛んで床に着地した。

「見える!」

 今まで追うことも簡単ではなかった俺が、らいえるの速度について行けた。そして、左手に持った鞘をらいえるに叩き付けると、床に激突してその部分が砕けた。

 跳び上がったらいえるは、サーベルを握っており俺にそのまま振り下ろしてくる。

 右手に持ったカタナで受け止めると、火花が散った。

『――次の段階だ。ライエル、お前はまだ理解していない。歴代当主の武器は、こういう使い方もあるんだよ!』

 らいえるの左手に出現したのは、六代目のハルバードだった。横に振り抜かれ、俺は左手の鞘で受け止める。柄の部分を押さえ込み、そのまま蹴り飛ばそうとするとらいえるはハルバードを引いた。

 斧の部分に左腕が斬られ、血が噴き出す。

 サーベルを投げ捨て、らいえるが両腕に持ったハルバードを振り回していた。鞘を手放し、鞘が床に触れるとガラスのように砕けて消えていく。

「な、なんで」

『言っただろ? 使えるのはお前だけじゃない。僕だって“ライエル・ウォルト”だよ。歴代当主の武器は、僕だって使えるんだよ』

 らいえるが持ったハルバードは、見た目がおかしかった。斧や槍の形状、そして柄の長さ――それらが変っていた。

 カタナを床に突き刺し、ハルバードを両手に握ると見慣れた形のハルバードが出現した。

 らいえるが接近してくると、器用にハルバードを振り回してくる。逆に、近付かれすぎた俺は対応が遅れていた。

「リーチが――」

『違うだろ。そうだよ。六代目のハルバードは、柄の長さから刃の形状を変えられる。なんで気が付かないかな?』

 言われて柄を短くして対応しようとすると、今度は逆にらいえるは柄を伸ばして――十メートルは伸ばし、そして部屋の天井まで行くと、そこでハルバードから弓に形状を変えさせた。

 咄嗟に四代目の短剣を用意すると、目の前に展開する。短剣が円を描くように回転するが、らいえるが放った矢は俺には向かわず四方に放たれ――そして、地面スレスレで方向転換した。

「くっ!」

 両手に持った短剣で二本の光の矢を弾くが、そのまま右腕と左太ももに光の矢が刺さった。

『二代目の弓を使いこなせていないね。やりようによっては、今のような事だって出来るんだ。それに――』

 らいえるが握っていたのは、四代目の短剣だった。スキルを発動するのを感じ、俺も咄嗟にスキルを使用した。

『――遅い』

 気が付けば、銀色の短剣が体中に突き刺さっていた。膝を突いて倒れると、短剣が消えて体の傷が癒えていく。

 なんとか体を起こすと、らいえるは浮いている短剣の上に立っていた。短剣で足場を作り、そして跳び上がると今度は大剣を取り出す。初代の使っていた大剣は、破壊に特化した武器だ。

 俺も大剣を用意した。大剣――金属の塊であるそれが、ぶつかり合うと俺の方が弾き飛ばされた。

 地面を転がり、大剣を手放さないのがやっとだった俺。

 らいえるは、肩に大剣を担いでいた。子供が自分の体よりも大きな大剣を肩に担ぎ、そして俺の方を見て。

『スキルも武器も……本当に扱いが下手だね。単体でも強力すぎて、どう扱うかをあまり考えてこなかったのが悪い。それで本当にセレスに勝つつもりだったのか? これは記憶なんか返せないね』

 歯を食いしばって立ち上がる。初代の大剣を地面に突き刺し、そして立ち上がると近くには記憶の中の初代がいた。視線がこちらを向いている気がした。

「勝手な事を言いやがって……お前に分かるのかよ。記憶も奪われ、それすら理解出来ず、なにも分からない! 周りに迷惑をかけて、それでも足りない、って……俺の記憶なんだろうが! 俺に返してくれよぉ!」

 らいえるは、何も言わなかった。ただ、大剣を肩から下ろすと構える。らいえるの魔力を吸い上げ、凶暴な大剣はその姿を変えた。

 理解出来ない。俺に記憶を返す目的があるはずのらいえるが、それを拒否する理由が――。

 だが、一つ想像出来るとすれば。

「お前は、自分が消えたくないだけなんだろうが。俺に記憶を帰せば、お前はどうなるか分からないもんな!」

 らいえるは、悲しそうに笑うと。

『あぁ、そうだ。そうだよ。僕だって消えるのは怖いさ! ほら、取り戻したいなら僕を殺してみろ! 消し飛ばしてみろよぉ!!』

 らいえるの真似をして、大剣に魔力を流し込む。青い光を発して、大剣はその姿を変える。らいえるとは違う姿形に変ると、互いにスキルを全て使用して踏み込む。

 大剣同士がぶつかると、激しい衝撃が部屋を襲った。
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