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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないよ 十四代目

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ファンバイユ王国

 ――ジャンペア王国。

 そこで協力の約束を取り付けたノウェムたちは、ジュールと話し合いをしていた。

 どれだけの戦力を出せるのか、という事もそうだが、一番はジャンペアの兵士は平地で戦えるのか、という事だった。

 山が多く山岳戦、そして海もあり船上でも戦えるジャンペアの兵士たち。特殊な地形では十分にその強さを発揮出来る。それ故に、バンセイムもジャンペアに侵攻した際は何倍もの戦力を投入して負け続けていた。

 山を越えるまでに戦力を失い、山を越えても気候と風土が違いすぎて体調を崩す兵士が多かった。

 だが、今度は逆にジャンペアから兵を出して貰う形だ。

 ノウェムとミランダ、そして護衛が傍にいるジュールはお茶を楽しみながら話をしていた。

「悪かったね。色々と話し合いをして時間を潰してしまった。結果的に言えば協力する事になる。だが、我々が出せる兵力は最大で五万だ。それ以上は厳しいな。時間が少なすぎる」

 補給、装備、そして練度――人を集めるだけでは駄目だ。運用出来る数というのが、ジャンペアでは五万なのだろう。

 ノウェムはジュールに対して。

「予想よりも多いですね。失礼ですが、ジャンペアが出せる戦力は三万と予想していました」

 今までのバンセイムとの戦闘では、五万から六万でジャンペアは防衛を行なっていた。なので、出せても三万から四万という規模だとノウェムは考えていたのだ。平地は少ないが豊かな土地だ。

 かつてはバンセイムも欲しがり、港まで存在して交易で栄えていた。海のないバンセイムにとって、ジャンペアはどうしても欲しい土地だった。

 それを長年返り討ちにしてきたのが、ジャンペアという国だ。だが、近年では積極的に戦ってはいない。ジャンペアという国は、防衛はしても積極的に攻め込まない国だからだ。国内で満足していると言うよりも、攻め込むことに不安を抱えているからだとノウェムは思っていた。

 ジュールは隠そうともしないで、お茶を飲みながら。

「バンセイムの雲行きが怪しいのでね。戦力を整えていた、というところだよ。本来ならもっと時間をかけて十万は揃えたかった」

 ミランダが鋭い目つきで。

「維持出来る数字とは思えませんが?」

 国の規模からそう判断したミランダに、ジュールは「なかなか鋭いね」などと言って笑っていた。

「こちらとて平地が欲しいのさ。バンセイムがセレスによって荒廃し、周辺国が手を取り合う……そこまでは予想した。もっとも、ここまで早く動きがあるとは思わなかったけどね」

 ノウェムはジュールの言葉を聞き、その時までに戦力を整えてバンセイムの領地を削ろうとしていたのだと確信する。

「確かに十万は大きな数字です。ですが、それではジャンペアの目的は――」

「――領土の拡大。そして、バンセイム討伐後の発言力を得る事だった。その辺は君たちのリーダーに期待させて貰おう。協力の対価は領土と今後の発言力だ」

 ミランダは頷く。

「確かにそれなら納得します。ただ、平地での戦闘に不安があるのでは?」

 ジュールは隠さずに頷く。

「確かにね。山で戦えば負ける気はしない。三倍でも五倍でも相手に出来る自信がある。山は我々にとって要塞と同じだ。だが、平地での戦闘となると確かに不安だ。そのために兵を増やして訓練をしている。足手まといにはならないよ」

 山を自由に歩き回るジャンペアの兵士たちは、強靱な足腰を持っている。だが、得意とする場所での戦闘ばかりとは限らない。

 それに、特殊な環境であるために、馬が少ない。騎馬隊が存在せず、歩兵中心だった。ただ、その歩兵が強力であるのは間違いない。

 ノウェムは戦力の情報をまとめると、ジュールに対して。

「分かりました。それでは、次に指揮系統についてです。こればかりは譲れません。ライエル様――ライエル・ウォルトを総大将として認めて貰います」

 ジュールは頷くが、人差し指を立てて一つ条件を出した。

「それは構わないよ。カルタフスに四ヶ国連合が認めているのに、我々だけが認めない、などと言えないからね。ただ、一つだけ条件を出して良いかな?」

 ミランダが警戒しつつ。

「条件とは?」

 ジュールは笑顔で言うのだった――。

「そのライエル・ウォルトと酒が飲みたい。聞けば興味が出て来てね。それくらいはいいだろう?」

 ノウェムは少し思案してから、ジュールの条件をのむのだった――。





 ――ノウェムとミランダは、メイに持たせる荷物の確認をしていた。

 ジャンペアの内情を書いた手紙。そして、瓶に入った水のような液体にペンをつけると、そのまま紙に何かを書き込む。文字はすぐに乾いて読めなくなった。

 それを確認し、ノウェムは手紙を折りたたむと荷物に入れる。

 麒麟の姿のメイの近くでは、エヴァが首を傾げていた。

「ねぇ、それって必要かしら? この子たちに伝言を頼んだ方が早くない?」

 液体は魔力が入った水のような物だ。それで見えない文字を書いたノウェムは、エヴァに説明をする。

「これは布石ですからね。それに、ちゃんと使えるから確かめないといけませんから」

 ノウェムたちに同行しているヴァルキリー一号は、手紙を見て悔しそうにしていた。一号だけは、モニカと同じ金髪ツインテールという髪型だ。違うのは胸の部分がとても控えめという事だろう。

「くっ、そんな手紙よりも私たちの方が役に立つのに……」

 ミランダも、何もかかれていない紙に特殊なインクで何かを書いていた。それをメイが首に下げている荷物入れに入れる。

「大事な事なんだから我慢しなさい。それと、ライエルにはメイが向かうことを知らせたの?」

 一号はポーズを決めると、無表情で。

「お任せください。既にファンバイユに入り、辺境伯への人質も確保して交渉の準備は整っているようです。合流場所も伝えてあります」

 メイは首を横に振りつつ。

「いや、近くまで行けば反応くらい分かるからね? ライエルの持っている宝玉の反応を探せばいいし」

 ノウェムは、メイが宝玉というと少しだけ俯いた。

(どうして……歴代当主の方々は、私を拒否するのでしょうか。お会いしたいのに)

 すぐに何か意味があるのだとノウェムが判断すると、顔を上げて準備に取りかかるのだった――。





 バンセイムからファンバイユへと入り、国境近くの街へと入った俺たちは国境を預かる領主と接触した。

 カルタフス、四ヶ国連合、それにいくつかの書状を用意して、ファンバイユの国王に面会を求めるためだ。

 領主監視下の下、数日を街で過ごして返事を待つという日々を過ごしていた。

 俺は領主の城から見える城下町を与えられた部屋から見ながら、一人で呟く。

「辺境伯の領地もそうだったけど、この辺も少し似ているな」

 雰囲気、とでも言えばいいのだろうか? 辺境伯の領地と、ファンバイユの国境にある街の雰囲気が似ていたのだ。

 俺の故郷やセントラルとも違う、そんな雰囲気があった。建物も似たようなものが多く、全てが似ているわけでもないがそう思えた。

 すると、七代目が説明してくれる。

『統治者が変っただけで全てが変るわけではないからな。数十年程度でも変らないものが多い。そうだな……五十年、百年すれば、バンセイムに染まってくるかも知れないが』

 三代目も同じような意見だった。

『ファンバイユから領地を奪ったんだから、似ていて当然さ。統治者や支配者が変ったから、って急に色々は変らないよ。無理すれば反発も多いし』

 五代目は懐かしむように。

『そうなんだよ。その土地の決まり、っていうか色々とあるよな。無理に変えられない理由もあるし、難しいんだぜ』

 ミレイアさんの方は、自分の経験を話してくれた。

『私も嫁ぐと色々と屋敷内のルールが違って困りましたね。曖昧に記憶が残っていますけど、姑に色々と言われましたよ。田舎者はこれだから、とか。目の事についても色々と……』

 七代目は、笑っていた。

『そんな事も言っていましたね。わしは結末を知っているので何も言いませんが、叔母上らしい結果に終わりましたよ。……本当に、叔母上らしい結果でしたけどね』

 どんな結果なのか聞きたい。だが、聞いてはいけないような気もするので黙っておく事にした。

 俺の部屋にノック音がすると、モニカたちが部屋に入ってきた。来る前に誰が来ているのかをスキルで確認出来ていたので、俺は特に何も言わない。

 モニカは、ヴァルキリーズたちからの報告を俺に告げてきた。

「チキン野郎、どうやらメイがこちらに向かっているようです。例の件も確認するために手紙も用意しているそうですよ」

 部屋の中、ソファーに座っているシャノンに全員の視線が集まった。シャノンはテーブルの上の焼き菓子に手を伸ばしている。

 アリアは心配そうに。

「シャノンちゃん、読み書きとか大丈夫なのよね?」

 クラーラは少し不安そうに。

「色々と不安もありますが、最近は凄く熱心でしたよ。だから、信用してあげてもいいと思いますけど」

 普段の行いがここに来て不安をかき立てるのだ。俺はシャノンに視線を向けつつ。

「シャノン、お前には期待しているんだ。頼むぞ」

 シャノンは周囲に視線を巡らせてから、頬を膨らませていた。

「ならもっと信用しなさいよね!」

 大事な計画の前だ。なんとしても、シャノンの力が必要になってくる。すると、部屋に領主が直々に訪れてきた。俺を見る目は凄く微妙だ。ファンバイユの大敵であるウォルト家の人間だから、仕方がないのかも知れない。

「使者の方々、連絡が取れました。すぐにお会いになるそうです。馬車をご用意出来ますが……用意しますか?」

 俺たちが荷馬車や馬車を持っていないため、領主は気を利かせていた。だが、それらを持っていないにしては、俺たちの荷物が少なすぎるのも警戒している様子だった。

 俺は笑顔で断る。

「ありがとうございます。お気持ちだけで結構ですよ。通行許可書や書類などをご用意頂ければ十分です」

 領主は頷いた。

「……そうですか。では、すぐに用意させましょう」

 俺とはあまり会話をしたくないのか、領主はすぐに部屋を後にするのだった。



 宝玉内。

 ファンバイユの首都を目指して旅をする俺たち。

 街道をポーターで移動すると、どうしても注目を集めていた。ファンバイユでも噂程度にはポーターの事が伝わっている様子だ。しかし、本物を見た事がないのはバンセイムと同じだった。

 そんなポーターの荷台で眠っていた俺は、宝玉内に意識を飛ばしていた。

 今日は五代目の記憶を見ている。

 男爵家となった五代目の時代。屋敷の執務室では椅子に座った五代目が、机を挟んで並んでいる四人の女性を見ていた。

 五代目の隣には、正妻である女性が背筋を伸ばして立っている。

 五代目は指先で頬をかいていた。

『……一人の女が子供を産める数、ってのは限界がある。多ければ十人を超えるが、ハッキリ言って足りなかった。ウォルト家は分家もなければ、親戚関係である寄子もいない状況だ』

 その解決策というのが、単純に子供を産む女性を増やせば良いというものだった。五代目の結論は、色々と問題も多く抱えていたが現状を打開するには必要でもあった。

『悠長な事を言っていられなかった。この時の俺は、自分の代で周辺領主たちを潰すつもりだったからな。こいつにも納得して貰ったんだが……今にして思えば、もっと違うやり方を探せば良かったよ』

 五代目が見ていたのは、正妻である女性だ。フレドリクスとはお見合いで知り合い、そして結婚していた。

 その時の五代目は、好きな人を失い、色々とギリギリだったようだ。復讐を誓い、そして効率的に領地をまとめるために、あらゆる事に手を出していたようだ。ウォルト家の軍事の基礎を用意した五代目は、自らも賊と名乗る領主たちの部隊と戦って戦争の基礎を固めていったようだ。

 つまり、余裕がない。目つきは子供の頃の優しいものではなく、鋭く隈もあった。冷たい印象の方が強い。

 そんな五代目――フレドリクスは、四人の女性を前にして口を開いた。

『跡取りはこいつの子を選らぶ。お前たちに求めるのは、男だろうが女だろうが構わない。子供を産むことだ。生まれて教育を行なったら、周辺の地盤固めのために利用させて貰う』

 酷い物言いだ。俺はこんな事をノウェムたちに言えと言われたら拒否する。

 だが、女性たちは頷いていた。五代目に解説を求めるために視線を向けると、五代目は髪をガシガシとかいていた。恥ずかしいのだろう。

『……四代目の貯め込んだ金があった。だからそれを利用して、広く優秀な女性を求めたわけだ。おかげで俺は女好き扱いを受けたが、この時はどうでも良かったな。この四人の実家は宮廷貴族、領主貴族と様々だが共通していたのは金がない、って事だ。色々と理由はあるが、そういった事情の家を探してそこから優秀な娘を探した。ま、言い方を悪くすれば人身売買だ』

 互いに幸せな結婚生活を諦めたような関係は、見ていて寂しかった。四人の女性たちも、理解しているのか多くを求めていない。

 ただ、場面が切り替わるとそうでもなかった。

 妾である女性の一人が、実家からの手紙をフレドリクスに見せていた。萎縮している女性を前にして、フレドリクスは手紙の内容を確認する。

『……ウォルト家にも出席しろ、だと? お前との関係は知られているだろうに。二人で参加すればいいのか?』

 女性は俯いていたが、フレドリクスの反応に驚いて顔を上げた。

『は、はい! ウォルト家と繋がりがあると実家が示したいようです。その……ウォルト家の兵力をもって他の宮廷貴族たちに実力を見せたいそうです』

 妾の女性は宮廷貴族の娘だったのか、領主貴族であるフレドリクスに兵を率いてセントラルに来いと書かれていた。

 五代目が説明する。

『宮廷貴族も俺たちと組むことでメリットがある。兵力だ。宮廷貴族は王都で生活出来るが、収入は王宮から出ている。それで人を雇えるが、基本的に限界があるからな。どの家も同じ格なら同じ力を持っているようなものだ。多少の差はあるけどな』

 役職によっても変ってくるが、それでも大きな差はない。使える金額が同じだからだ。ただ、力のある領主と組めば話が違ってくる。

『周囲へ威嚇するには、単純に兵士が多ければいい。自分たちはこれだけの人を集められる、動かせる、ってのを示せば相手が警戒するからな』

「五代目は、その……二人でセントラルに?」

『あぁ、兵を連れて向かったよ。ウォルト家は四代目の頃から領地経営が順調だったからな。裏切り者もいたようだが、それでも順調に大きくなっていたから人くらい出せた。人材も育てていたから、指揮官クラスも揃っていたしな』

 フレドリクスに視線を戻すと、椅子から立ち上がっていた。

『準備をする。実家には一千は出すと伝えておけ。ただ、領地を長期で空けるのはまずい。滞在期間は短くなるぞ』

 女性は少し驚いた様子だったが、何度も頷いていた。

「意外ですね。もっと冷たい対応なのかと思っていました」

 五代目は俺をジト目で見てきた。

『この頃は色々とまずかったと反省もしていたんだよ。けど、もう妾を迎えていて、今更復讐を止めるとか思えるか? 妾だって抱え込んだ責任だってあるんだ。出来る範囲で色々と希望には応えたからな』

 意外と妻や妾にはマメだったという事を知った。というか、このマメさを五代目は六代目に教えるべきだったと思う。

 五代目は溜息を吐きながら。

『……自分の子供が三十人も超えれば、平等に扱うなんて不可能だ。だから、俺は子供たちの面倒を見るこいつらには色々と頑張ったよ。役目を果たしたのに、こいつは俺のために実家に働きかけて陞爵の手伝いもしてくれた。だから、俺は自分の子供がせめて俺と同じような思いをしないで済むようにする事だけを考えていたな』

 五代目と同じ思いとは、周辺が敵だらけという状況を打破することだった。寄子となった家に、本物の貴族の血を引く息子や娘を送りつけたのは味方を増やすためだ。

 そして、不満をファインズ――六代目に向けないように、五代目は徹底的に子供と関わらなかったらしい。

『本当は俺だって嫁は一人で良かった。俺を支えてくれたからな。男の子も産んで、その後も子供を産んでくれた。途中で止めようと何度思ったか……それでも、ファインズが自分と同じ境遇になるのが怖かった。だから、俺は……それに、怖かった』

 怖かったという五代目は、俯いていた。

『復讐のために子供を利用する事ばかりを考えていた。そんな俺が今更、ってな。両親も俺を見て泣いていたよ。辛かった。本当に辛かったぜ。ママなんか俺のために泣くんだ。でも、どうすればいいのか分からなかったな』

 復讐心で動き出した五代目は、気が付けば止まれなかった。色々と酷い話の多い五代目の言葉を聞いていると、自分ならどうしたかを考える。時間をかけてゆっくりでもいいので周辺の地盤を固める?

 もし、ノウェムたちを殺されたとして、俺は五代目のように冷静に復讐することを考えられるだろうか? 周りに喧嘩を売って領地を疲弊させたかも知れない。

 ミレイアさんは、そんな五代目の気持ちに気が付いていたのだろうか? だから……そこまで考え込むと、映像が切り替わった。

 五代目が悲しい表情から一変して、慌て始めた。

『ラ、ライエル! すぐに部屋から出て行ってくれ!』

「え? でも、何か記憶が……って!!」

 周囲光景が変化し、灰色から色を取り戻すとそこには正妻である女性とフレドリクスが部屋で話をしていた。

『旦那様、あまり高価な物で揃えられたら困ります。娘が何人いると思っているのですか? 最初に嫁ぐからと見栄を張れば、その後に嫁ぐ娘たちだって扱いに差が出れば不満も――』

 五代目は、屋敷に来た商人に対して女性の意見を無視しつつ。

『こいつで一式揃えてくれ。金の方は金貨で用意してやる。細かな事はこいつと娘に聞けばいい』

 商人はいくつか持ってきたサンプルらしい商品の中で、もっとも高価なものを選んで貰うと大喜びだった。しかも支払いも金貨ですぐに、とあって嬉しさが倍増の様子だった。

『すぐに職人と話をします。デザインに関しては希望があればなんでも仰ってください。それと奥様、色々とサンプルがありますので確認して頂けますか?』

 フレドリクスはその場からすぐに去って行こうとすると、女性が腕を掴んだ。

『旦那様、いくらなんでも高価すぎます。うちの収入でも大丈夫ですが、これだけの品となると負担も――』

『いい。問題ない。俺が持っている分を使う』

『持っている、って……まさか』

 女性が呆れていた。フレドリクスは振り返ると、少し照れくさそうにしていた。

『せ、せめて独り立ちするときの準備くらいは、金を出してやりたい。俺が用意した事は絶対に言うなよ。いいか、絶対だからな!』

 逃げるように去って行くフレドリクスを、女性は呆れてみていた。だが、少しだけ嬉しそうでもあった。そして、商人の男性に。

『今の旦那様の発言は忘れなさい。いいですね?』

『は、はいぃぃぃ!!』

 鋭い瞳で威嚇すると、商人は物凄い勢いで何度も頷いていた。

 女性は溜息を吐き、そして俯きながら少しだけ嬉しそうに。

『まったく、素直に喜べば良いのに。不器用なんですから……』

 フレドリクスがその場から完全に立ち去ると、周囲の光景は灰色に染まった。俺は五代目に視線を向けると、五代目は両手で顔を隠していた。

「なんだ、実は色々と気を使っていたんじゃないですか」

『……男の子なら武具や馬。女の子なら嫁入り道具。大事だろうが。それとな、お前は最初の頃に、ノウェムの嫁入り道具を売り払った金で色々と揃えたのを忘れてないか? 娘を送り出す親として失格の俺だが、流石にアレはドン引きだったからな』

 五代目に言われ、俺は視線を泳がせた。

「あ、あれはその内になんとしてでも返そうと……でも、今は大事な次期だから、ってノウェムが受け取らないので……」

 俺と五代目は、何故か微妙な空気になった。

『……で、お前はどうするんだ?』

「なにがです?」

 俺が首を傾げると、五代目は右手で顔を覆った。そして、俺に言う。

『だから、誰を正妻にするのか、って聞いているんだよ! いいか、世の中に平等なんて有り得ないからな。一番がいるのは当然だ。最初から付き合いのあるノウェムやアリア、ミランダを選ぶのか? それともそれなりの力を持つエリザかグレイシアか? 言っておくが、国力だけを考えればルドミラ一択になるぞ』

「……あの、クラーラたちとか名前が出ていないんですけど?」

『アホか! クラーラは貴族じゃないだろうが! それに、あの面子を仕切れると思うのか? シャノンも駄目だ。ミランダとの間に確執が出来るぞ。エヴァとメイは論外。ヴェラも商人の娘という立場は難しいからな。あの子たちだけじゃない。後ろ盾になっている家、そして国家! 個人だけじゃないんだぞ!』

 今まで曖昧にしていた部分をいわれ、俺は困っていた。誰を正妻にするのか?

 正直な話をすれば、国力だけを考えればルドミラさんだ。だが、それを行なうと戦争が終わっても争いが続きそうな気がする。

「もう、宝玉内で誰が一番か決めればいいんじゃないですか?」

 冗談を言うと、五代目が本気で怒鳴ってきた。

『そんなんで良いわけがないだろうが! ハーレムは遊びじゃないんだよ、馬鹿野郎!!』





 ――円卓の間。

 ミレイアは外から記憶の部屋の中を覗いていた。

『まったく、五代目もライエルも駄目ですね』

 七代目は、アゴに手を当てて五代目のことを意外そうに感じていた。

『口で言うほど、冷たい人ではなかったという事ですか。なる程、六代目も五代目に従うはずですね』

 三代目は首を横に振っていた。

『やれやれだよ。僕とマークスの責任は重かったね。せめて、弟か妹が一人か二人いればもっと違ったのかも知れないけどさ』

 ミレイアはハーレムの事を一生懸命伝えている五代目を見て、クスリと笑うと映像を消した。

『後からならいくらでも言えますよ。過去を変えるのは不可能ですから、今を頑張るしかありません。さて、せっかく五代目の記憶を勝手に流したのに、話が変な方向に向かいましたね』

 五代目の記憶が勝手に流れたのは、ミレイアの仕業だったようだ。そして、三人は楽しそうに。

『誰が正妻になるか楽しみだね! 僕はやっぱりノウェムちゃんかな? だって、嫁入り道具まで売り払ってお金を作ってくれたからね!』

『いやいや、やはり大国の力は侮れません。ルドミラが無難です』

『何を言っているんですか? ミランダ一択ですよ。私のひ孫ですよ。それ以外は論外です』

 三人はそのままいくつかの予想を話し合った。そして、三代目が、少しだけ悲しそうに笑いながら。

『……まぁ、最後まで確認出来ないから、ライエルには早めに結果だけ教えて欲しいよね。あの様子だと難しそうだけどさ』

 自分たちの役割を思えば、全ての結末は知ることができない。それを知っている三代目の呟きに、七代目とミレイアも少し悲しそうに頷くのだった――。
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