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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないよ 十四代目

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 都市を出て林に入ると、俺たちはポーターを変形させて上半身を起こさせた。

 布をかぶせ、その上に網をかぶせると泥や木々で外見を整えるためだ。頭部が左側に寄りすぎているので、もう一つ頭部を付け足してみるとこれが実に禍々しい。

 無駄に器用なモニカが外見を整え、ポーターの操作に関して俺以上の腕を持つようになったクラーラが動かせば魔物に早変わりだ。

 両手を上げるポーターを見て、俺やアリア、そしてシャノンは拍手をした。たぶん、シャノンは空気を読んで拍手をしており、正確にはポーターに何かが覆い被さっているようにしか見えていないだろう。

 モニカが道具をスカートとエプロンの隙間にしまうと、胸を張った。

「どうですか! どこから見ても魔物とかいうへんてこな生き物に似ているでしょう。いえ、下手な魔物よりも完成された姿ですよ!」

 車輪の部分には布を巻き込まないようにかぶせ、そして動けば確かに魔物に見えた。大きな両腕を動かし、二つの頭部を持つ魔物の完成だ。

 アリアは拍手をするのを止めると。

「それで? この街道を利用するセントラルの部隊を襲撃して辺境伯の家族を救出するのよね? その後はどうするの?」

 救出、という部分を強調するアリア。確かに、誘拐とかその辺の言葉を使うよりも、まともに聞こえてくる。やることは一緒なのだが。

 俺は作業を手伝った時に服についた土を払いつつ。

「悪いが交渉材料に使う。そのままファンバイユに向かわせて貰おう」

 シャノンが首を傾げた。

「辺境伯と交渉しなくていいの?」

 俺はポーター――魔物バージョンを見ながら、シャノンに笑顔を向けた。

「するよ。ただし、こちらが有利な状況で、だ。悪いけど、ファンバイユとも話をしないといけないし、しばらくは手元に残さないと」

 ファンバイユの協力を得るには、相手側にもメリットを用意する必要があった。そして、相手が求めてくる内容もある程度は予想が出来る。

 その辺の調整には時間がかかると思っていたが、周辺の情報も集めたので俺たちの方針も決まっていた。

 アリアは少し戸惑いつつも。

「最初から辺境伯に人質を返して誠意を示せば良くない? そこから協力を得ることだって……」

 俺は首を横に振る。

「悪いけど、辺境伯にはある程度は譲歩して貰う。そうしないとファンバイユは動かない。それに、ウォルト家が切り取った土地だ……返して貰おうじゃないか」

 ファンバイユが求めているもの――それは、ウォルト家によって切り取られた自国の領土のはずだ。

 宝玉内。七代目が楽しそうに言う。

『領主というのは自分の土地が削り取られるというのは我慢出来ない生き物だ。納得して渡すこともある。親族に分け与える事も……だが、奪われてヘラヘラしているような奴は領主失格だ。そんな奴ならこちら側に引き込む価値もない!』

 ミレイアさんが説明を引き継ぐ。

『だからこその人質です。ファンバイユと交渉しつつ、辺境伯とも交渉しましょう。素直に引き下がるとも思えませんが、家族想いなら交渉のテーブルには着きますよ。上手く行けば、ファンバイユの侵攻の際に手引きも頼めますから辺境伯の協力は欲しいですね』

 クラーラが、俺を見ながら眼鏡を少し押し上げ。

「あの……ライエルさん? それでは、辺境伯が協力しないのでは? 土地を奪われ、家族を人質に取られて交渉では印象が悪すぎます。とても辺境伯には旨味がありません」

 俺は笑いながら。

「大丈夫。辺境伯にも旨味がある話は用意するさ」

 三代目が意味ありげに言うのだ。

『別に土地を切り取るだけとは言ってないよね。ちゃんと用意するさ。ちゃんと、ね』

 俺は準備が整うと、背伸びをした。

「さて、セントラルから人質を迎えに来る部隊が派遣されたようだし、俺たちは待つとしますか」

 伝令がすでに辺境伯に部隊が近付いているのを知らせていた。時間的には、数日後には襲撃となるだろう。

「……最優先は人質の確保。それと、敵の指揮官を倒す事だ。クラーラ、頼むぞ」

 クラーラは頷く。

「敵の戦力を削ぐのは大事ですからね」

 全滅させる必要がない。いや、やっている間に辺境伯の援軍でも来たらまずい。指揮官を優先的に潰すことが出来れば大成功だろう。

 俺たちは、襲撃まで身を潜める事にした。





 数日後。

 人質を受け取ったセントラルの部隊が、林を抜けるような街道を利用して戻っていた。

 辺境伯の城で一泊して、すぐに出発するのも予想はしていた。

 ポーターの荷台に乗り込む前に、俺はクラーラと二人で仲間から離れた場所で向かい合っていた。

「……こう、落ち着いてスキルを使用しようとすると、なんだか急に気恥ずかしくなる。何か急ぐ理由があると楽なんだけど」

 クラーラの両肩を両手で掴み、一本の木に押しつけていた。俺が俯いて呼吸を整えていると、クラーラが笑う。

「そう言えば、何か理由があると簡単にキスするようになりましたもんね。ライエルさんにしてみれば、必要だからキスしている感じですか?」

 急いでいれば問題ないが、時間があるとどうしてもためらってしまう。いや、今は必要なので急ぐべきなのだが、まだ時間に余裕があった。

「急いでいると考えている暇がないから……考える余裕があると、どうしても色々と……」

 すると、クラーラの方から近付いて俺の顔を両手で掴むとキスをしてきた。驚いていると、クラーラは眼鏡を外しており、目をつむっている。

 しばらくして口を離すと、クラーラは眼鏡を両手でかけた。

「……繋がりましたね。私にも周辺の地図と部隊が移動しているのが分かります。反応は黄色ですが……救出する相手は中央にいますね。私も準備します」

 木に立てかけてあった杖を回収すると、クラーラは歩き出した。俺は口元を触り、クラーラの後ろを歩く。

「クラーラ」

 振り返ると、クラーラは少しだけ顔が赤かった。

「なんですか、ライエルさん?」

 俺は少し考えて、首を横に振ると「なんでもない」と言ってポーターにクラーラと並んで一緒に向かう。





 ポーターの荷台の中。

 モニカに言われて体をベルトで固定すると、俺たちは魔物に扮したポーターでセントラルから派遣された部隊に襲撃をかけた。

 相手からすれば、急に見た事もない魔物に襲われたようなものだった。

 目を閉じると、クラーラが見えている映像が見えた。

 ポーターの腕を使用して、慌てていた騎士の一人を殴り飛ばす。本当に殴り、馬上から吹き飛んだ騎士は地面に落ちて転がると動かなくなっていた。

 シャノンが揺れるポーターの中で。

「待って! 本当に待って! 吐く! 吐いちゃう!」

 モニカはシャノンの口に布を噛ませていた。

「舌を噛みますよ。それから吐いても大丈夫です。このモニカ、忘れられそうだから言いますが、メイドですので」

 メイドだからなんなんだ? そう言いたかったが、揺れるポーターの中では不用意に口を開かない方がいいだろう。

 クラーラはポーターを器用に操作すると、部隊の中央付近でポーターを一回転させた。

 両腕を広げていたために、周囲にいた兵士たちが吹き飛んでいく。

 馬上から騎士の一人が魔法を使用するために動くと、俺は荷台の中の壁に触れて魔法を使用した。

「マジックシールド」

 騎士の放った魔法を防ぐように展開されたマジックシールドにより、ポーターは無傷だ。相手は、魔法に抵抗力を持つ魔物だと思ったのか急いで周囲の兵士に武器を持つように叫んでいる。

 だが、セントラルの兵士たちは、見た事もない魔物を相手に尻込みしていた。死をも恐れぬ軍団と聞いていたが、どうやら兵士全員がそういった状況にはないのかもしれない。

 ただ、騎士たちの戦意は高い。

 武器を持って斬りかかってくると、クラーラは騎士をポーターの腕で叩いていた。平手で叩いたような形になったが、それでも相手からすればたまったものではない。

 吹き飛び、地面を転がって曲がってはいけない方向に曲がった騎士が動かなくなった。

 周囲に騎士の姿を確認出来なくなると、クラーラはすぐに馬車の回収へと向かった。

 ポーターが動けば道を譲る兵士たち。そして、一際豪華な馬車を――。

「……クラーラ、それは違う。乗っているのは女性と子供じゃない!」

 クラーラが馬車を掴んで持ち上げると、馬車の中からは騎士二人組が落ちてきた。鎧を脱いでおり、一緒に酒や食べ物が落ちてきていた。二人組は地面に落ちるとこちらを見て慌てていた。

 尻餅をつき、ポーターを怯えた目で見上げていたのだ。

「荷馬車だ! 一つ後ろの荷馬車! 先にこいつらを――」

 俺が二人を始末して人質を救出するために指示を出そうとすると、三代目が止めに入った。

『ライエル、この二人は放置だ。その方が都合はいい。責任者は必要だからね。あと、馬も逃がしておこうか。時間稼ぎになる』

 三代目の判断を信じ、俺はクラーラに指示を出す。

「クラーラ、馬を逃がせ! それから、荷馬車を回収したら撤退だ!」

 クラーラが荷馬車をポーターの両手で回収すると、そのまま部隊から逃げ出す。相手は追ってこられない様子で、俺たちはレズノー辺境伯の領地からファンバイユ方向へとポーターを向かわせた。

 むろん、街道を利用しないで、だ。

「このまましばらく揺れるな」

 アリアは、戦闘の揺れが収まると安心した様子だった。

「なら、さっきみたいには揺れないわね。それより……」

 アリアの視線がシャノンへと向かう。青い顔をして、布を噛まされたシャノンが今にも吐いてしまいそうな雰囲気だった。モニカは袋をシャノンに手渡していた。

「こちらに吐いてくださいね。床にぶちまけるのはいいですが、チキン野郎にぶっかけたらただではおきませんよ。まぁ……汚されたチキン野郎のお世話をするのも大好きですが」

 俺はモニカを見つつ。

「お前はもう少し自重した方が良いと思う」





 ――レズノー辺境伯の城は、慌ただしかった。

 助けを求めて戻ってきたセントラルの部隊。

 現場へと向かえば、レズノー辺境伯の家紋が入った馬車は地面に叩き付けられたようにボロボロだった。

 騎士たちがすぐに周辺を捜索したが、救援を求めて戻ってきた部隊は馬がいなかったために連絡が遅れたのだ。

 辺境伯の部下たちが捜索をする頃には、すでに相当な時間が過ぎていた。

 責任者――生き残った二人の騎士を前に、バリウスは怒気を孕んだ視線を向けていた。

「貴様ら……護衛対象を守れずに逃げてきたというのか! あれだけ偉そうな態度をしながら、わしの大事な家族を魔物に奪われただと!」

 二人の騎士は、それぞれ鍛えてもいない体をしていた。ひとりは服がはち切れそうになるまで太った男だった。もう一人は、逆に細身だった。細身すぎだった。まったく鍛えていない二人は、実家の地位だけで騎士をしているような男たちだ。

「そ、それは!」

「辺境伯! 我々に手を出せばセントラルが! セ、セレス様が黙ってはいないぞ!」

 その言葉を聞いて、バリウスは剣を抜こうとしていた右腕を握りしめた。殺意のこもった瞳で二人の騎士を睨み付け。

「任務に失敗した騎士二人――セレス様がお許しくださればいいがな!」

 嫌味を言い放ち、バリウスは部下たちに捜索を続けるように命令していた。

「なんとしても探し出せ! 【パルセレーナ】と【ブラウベイ】を……なんとしても孫を……」

 焦るバリウスを見て、部下たちは大急ぎで追加の捜索隊を編成することになるのだった――。





 ファンバイユ。

 大急ぎでレズノー辺境伯の領地から抜け出した俺たちは、荷台の中で膝枕をされて眠っている少年を見た。

 茶髪に緑色の瞳をした、母親似の少年はスヤスヤと眠っていた。膝枕をしているのは、母親である【パルセレーナ】――ストレートの茶髪と緑色の瞳をした女性だった。まだ二十代前半のようで、見た目は十代にも見える。

 道など無視してファンバイユに入った俺たちは、ポーターで無理やり川を渡ってファンバイユに入り込んでいた。

 移動中、なんとか二人を説得はしたが、未だに警戒されている。疲れた様子のパルセレーナさんだが、俺たちの前で眠ることがなかった。

 俺は溜息を吐きつつ。

「休まないと体に悪いですよ。そうでなくても、緊張して疲れているのでは?」

 パルセレーナさんは、俺の提案にお礼を言う。

「ありがとうございます。ですが、私は貴方たちを信用しておりません。確かにセントラルの部隊から助けて頂きましたが、それによってレズノーの家が困る事になりました。ハッキリ言えば、大きなお世話です」

 宝玉内では、ミレイアさんが笑っていた。

『その通りですね。言い返す言葉もない』

 俺は何度も言った台詞を口にする。

「貴方たち二人に危害を加えるつもりはありません。それに、レズノー辺境伯も無事だと思いますよ。貴方たちが手元にいませんからね」

 三代目が笑いながら。

『きっと今頃はセントラルに苦情の手紙でも書いているんじゃないかな? セントラルも、自分たちに非があるし、下手なことはしないだろうけど。まぁ、下手なことをしたら、それはそれでつけいる隙ができるわけだ』

 七代目も三代目と同じだった。

『レズノー辺境伯と対立してくれれば、引き込みやすくなりますね。普通なら両者が妥協をするでしょうが、この状況ですからね……それに、セレスがどう判断するかにもよりますね』

 パルセレーナさんは、俺の方を見ると【ブラウベイ】の肩を握り守っているような雰囲気だった。

「そうですか……私たち、には危害を加えないと。レズノーへ身代金でも求めますか? 断っておきますが、国境を預かる辺境伯の家。貴方たちが思っているよりも優しくなどありませんよ」

 オットリした雰囲気のパルセレーナさんだが、表情は真剣そのものだ。きっと、色々と状況が急激に変化する中で、ストレスもあるだろうに良く耐えていた。

 五代目が、ボソリという。

『母は強し、だな』

 きっと、自分と自分の母の姿を重ね合わせたのかも知れない。俺はモニカに。

「毛布と飲み物……ハーブティーと簡単に食べられるものを用意してくれ。俺は、クラーラに速度を落とすように言ってくる」

 モニカが頷いて準備を始めると、横になっていたシャノンを看病していたアリアが、俺に聞いてきた。

「いいの? 時間的に厳しいんじゃない?」

 頷きながら小声で。

「倒れられるよりはいいさ。それに、見ていると少し辛い」

 そう言ってクラーラのいる前方部分へと向かうのだった。
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