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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

二代目様は苦労人

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スキル誕生

(この人は……アリアはどんな人なのだろう)

 俺は、涙を流して槍を構えるアリアと向き合っている。

 知っているのは、ロックウォード家の当主の娘である。ダリオンで親子二人暮らしをしており、家宝である赤い玉を奪われたと思い昔の家臣の関係者であるゼルフィーさんを頼った人。

 俺は、アリアの事をあまりにも知らなすぎた。

 積極的に話をしなかった。

 ノウェムがいるからと、自然と家の中でも距離を置いていたと思う。

 それこそ、避けていたのかも知れない。

「馬鹿にして……私だって……私だって!」

 言いたい事があるのだろう。

 きっと色んな思いを持っているのだろう。

 なのに、俺は――。

 サーベルを構えると、一度深く深呼吸をする。

 目の前の少女を見て、俺は剣を構えた。

 疲れているのか隙が多い。かなりの量の汗をかいている。スキルの連続使用で体力も魔力も限界に来ているようだった。

(なんで俺は……自分がされてきた事を、アリアにしたんだろう)

 誰かに見て欲しかった。

 話を聞いて欲しかった。

 それなのに、俺は押しつけられたと思い、アリアを避けていた。彼女にだって、言いたい事もあったのだろうに。

(だから、ご先祖様たちが俺に気付かせようとしたのか?)

 何故、アリアを庇うのか分からなかった。

 だが、今なら少しだけ理解できた気がする。

 俺が――俺自身が、今のアリアにとって、セレスになろうとしたのだと。

「……次は本気で行く」

 そう言うと、アリアは驚いた表情をした。だが、涙を流し、真剣な顔つきで軽く頷いた。

 周囲で俺とアリアを見ているノウェムと、ゼルフィーさんは、俺たち二人を見て少しだけ安心した様子だった。

(勝てないと分かっても挑むんだよな。どうしても認めて欲しくて……許せなくて、悔しくて)

 アリアの呼吸が整うのを待って、俺は踏み込んだ。

 距離を詰めると、アリアは槍を掴まれまいと横になぎ払った。

 地面を蹴り飛び上がると、槍を振り抜いたアリアが上空の俺を見上げる。そのままサーベルを振り下ろすと、アリアは槍を横にして受け止めた。

 だが、力の差があるだけに、そのまま地面に膝をついてしまう。

 ギチギチと音が聞こえ、俺はそのままアリアを地面に押さえつけるように更に力を強めるのだった。

「力の差があるのに、どうしてそれを補うスキルを使用しない?」

 俺の疑問にアリアは、悔しそうに表情を歪めた。

 それが答えなのだろう。

「使えないのか? これなら、盗賊団の大男の方が上手く使っていたな」

 サーベルを引いて、槍を蹴飛ばすと地面をアリアが転がった。すぐに立ち上がるアリアだが、泥で汚れてしまっている。

 解放されて体勢を立て直すと、俺に向かって槍を突き出してきた。先程よりも……戦いを始めた時よりも、その動きは鈍い。

 突き出した槍を避けつつ踏み込むと、アリアのお腹に軽くサーベルの柄を叩き込んだ。

 本気でやれば、アリアが危険だからだ。

 殴られ、息を強制的に吐かされたアリアは、そのままヨロヨロと距離を取る。

「……魔法は使わないの? 俺は使わないけど」

 挑発してみたが、アリアはそれどころではないようだ。青い表情をして、汗をかいている。

 こちらを睨んでいる瞳だけは、光を失っていない。

(覚悟を決めたのかな)

 実力差は明らかだった。なのに、アリアは槍を手放さずに構えている。

 そんな様子を見ていた宝玉の中のご先祖様たちは、先程まで黙っていたのに俺に助言をしてきた。

 いや、助言ではないのかも知れない。

 初代は言う。

『見ておけよ、ライエル。あれが、スキルの誕生する瞬間だ。強い意志や本人の才能、思いによって誕生する人間に与えられた武器だ』

 スキルには当然だが、それなりの謂われがある。

 弱く、そして魔物と戦う術を持たなかった人間に、神が与えた恩恵の一つだと。

 人によって発生するスキルは異なる。

 魔物と戦うために、神が与えた可能性。

 それがスキルなのだと――。

 アリアの胸の辺りで赤い玉は、輝き出す。

「……スキルの誕生する瞬間か」

 アリアの持つ赤い玉は、直接戦闘に関係するスキルを発生させやすくする。

 青い玉を持っていたウォルト家の歴代当主たちが、支援系と言われるスキルを発現させてきたように、アリアの一族は前衛系のスキルを発現させてきた。

「これならぁぁぁ!!」

 アリアが強く踏み込むと、今まで以上のスピードを出してくる。

 目の前に迫った槍を避けるが、すぐに横に振り払ってきた槍が迫ってきた。

 四代目の声が聞こえてきた。

『俺のスキルと似ているかな。ただ、戦闘時に一時的に、加速するようなスキルみたいだね』

 似ているが、別物だと言われた。確かに、瞬間的に加速して今まで以上の手数を繰り出してきている。

 避けるのが間に合わず、俺は予備のサーベルを引き抜いて攻撃を受け止めた。

 金属同士のぶつかりによって、火花が散る。

 だが、アリアの猛攻はまだ終わらない。

「まだよ!」

 突き、払い、そして斬る。

 それらの攻撃を避け、サーベルで受け止める俺は防戦一方となる。

 気を抜けば本当に負けるのは、一瞬にして俺になってしまった。

 二代目が言う。

『前衛系のスキル、っていうのはこういう爆発的に強くなるのが多いよな。本当に厄介なんだよ』

 右からの槍が迫ってきたので避ければ、左からまた攻撃が迫ってくる。そうした連続攻撃に、俺は二刀流で防戦に回った。

 火花が散り、せっかく買い換えたサーベルの刃が削れていく。

 ただ、同時にこの勝負はついたと確信してもいた。

「もう終りだね」

 サーベルの構えを解き、俺は目の前で息を切らしたアリアを見下ろした。

 地面に座り込んでいる。槍を地面に突き刺し、杖代わりにしがみついてなんとか倒れないようにしていた。

 先程の攻撃全てが、一撃の重みが乏しかった。

 スピードを一時的に上げて連続攻撃を繰り出す。そういうスキルなのだろう。アリアのスキルである。

 脚に力が入らないのか、アリアの体は震えていた。自分のスキルが誕生した事で、無理に使用し続けたのだろう。

 サーベルを持ち上げて見ると、刃がボロボロである。

(また修理か買い換えだな)

 そう思いながら地面に突き刺すと、アリアの側に歩いて向かった。周囲の地面は均されていたのにデコボコになっている。

 やりすぎたと思いながら、後で道具を持ってきて直そうと考える。

 だが、今は――。

「凄いスキルだったね。驚いたよ」

 言葉をかけると、アリアは俺を見上げてくる。

「……どうせ勝てなかったわよ。知っていたわよ。私があなたに劣るって! でも悔しいじゃない。せっかく自由になれたのに、それでも役に立てなくて……私は二度と、あんな生活に戻りたくなかった。一人で生きていけるようになりたかったのに!」

 泣き出したアリアに、なんと言葉をかけて良いのか分からなかった。

 それだけ、俺はアリアの事を知らないのだと実感する。

 ノウェムが駆け寄ってくると、アリアに治療魔法をかける。光に包まれたアリアが、段々と泣き止むとそのまま意識を失ったのか地面に倒れそうになった。

 近づいてきたゼルフィーさんが、そのまま体を支えてやる。

「……あんまり褒められたやり方じゃないと思うんだけど?」

 俺を責めるような視線を向けてきたので、頬を指でかいてどう答えるか考え……結局、答えるのを止めた。

「ライエル様、アリアさんを運ぶのを手伝って頂けますか? 見た目よりも体力や魔力の消耗が激しく、早く休ませたいので」

 普段通りのノウェムに言われ、俺は頷くとアリアに近づいた。

 背負うべきか、それとも持ち上げるべきか――。

 ここでいつものように初代から順番に――。

『お姫様抱っこが良いと思うだよ』
『普通に背負え』
『ここはあえて担ぐとか! ほら、肩に担ぐ感じで!』
『優しく抱き上げてそのままベッドまで運ぶんだ』
『気を失っているなら、どれも同じだろ』
『ゼルフィーにも手伝って貰えばどうだ? 肩を貸す感じでいいだろうに』
『そのままベッドにおけるから、抱きかかえればいいのでは?』

 まったく意見がまとまっていない。

 本当にどこまでも自由な連中だと思いながら、俺はアリアを抱きかかえた。

 それを見て、ゼルフィーさんがからかうように口笛を吹く。

 ノウェムは微笑むと。

「少し羨ましいですね」

 そう言って俺の先を歩き、家に向かってアリアの受け入れ準備を始めるのだった。





 夜。

 庭先で体を動かしていると、三代目の声が聞こえてきた。

『嫌い、憎んでいる相手と同じ事をする、もしくは似てくる、ってよく聞く話だよね』

 アリアが寝込んでしまったので、今日は外に出る事もなくそのまま休日扱いになってしまった。

 庭先で木剣を振りながら、俺は三代目の話を聞いている。

「俺がセレスと同じだと言いたいんでしょ。アリアと戦って初めて気が付きましたよ」

 そう言って重りのついた二本の木剣を振り抜く。

『気が付いたのかい? でも、一番気が付いて欲しかったのは気持ちなんだけどね』

 気持ち――。

 言いたい事は分かる。今の俺には必死さが足りない。

 アリアのように焦り、そして空回りするのが良いとは言わない。だが、気持ちがこもっていない俺も問題があると思う。

「別に冒険者で食べていくだけが人生でもないですけど、ね!」

 二本の木剣を振り、思い描いた敵に攻撃を加えていく。相手はいかに鋭く攻撃を加えても、全てを避け、防いでいくイメージが思い浮かんだ。

 急に息が上がってくる。

 いかに技術を磨いても、届く事のない相手に剣を向ける恐怖を思い出した。

 木剣をその場に落として、俺は上がった息を整えるために胸を押さえた。

『誰を思い浮かべて剣を振るったんだい。当ててあげようか?』

「……結構です。それより、さっきの話ですけど」

 そう言うと、三代目は思い出したと言いながら続きを話す。

『そうそう! 気持ちだったね。うん! ……ライエルもスキルが発現した。僕たちが封じられた青い玉の近くにいたんだから、きっと支援系のスキルだろうね。ただ、未だに判明しないのは気持ちの問題じゃないかな』

「俺のスキルですか」

 発現したのは間違いない。ご先祖様たちも、宝玉が反応しているのは確実だと言っている。

 だが、どんなスキルなのかは分かっていないのだ。

『スキルというのは、個人の感情も大きく作用するからね。今のライエルだと、スキルが発動しないのも当然かも知れないよ』

 普段ノンビリしている三代目に言われ、俺も同じような意見だ。

 今日のアリアを見て理解した。

 強い気持ちが、スキルを形作る。

 ただ、今の俺にはそれだけの気持ちがないのかも知れない。追い求めたものが、手に入らないと知った時から、どこか胸の辺りに穴が空いたような気分だった。

 その穴を無理矢理埋めようとしたが、未だにできない。

『やる気が出ないのも分かるんだけどね。今のライエルには、ノウェムちゃんと……不本意だろうが、アリアちゃんの人生がかかっているんだよ』

 不本意なのは間違いない。

 俺は引き取るとも言っていないのに、勝手に話が進んでアリアが急に側に来たのだ。

 勝手だ。凄く勝手な話だ。

 なのに、ノウェムは賛成してしまった。

「俺は間違っているんでしょうか? ノウェムと二人でのんびり暮らすという目標は、間違っているんでしょうか?」

 俺の問いかけに、三代目は普段通りの軽い口調で答えるのだった。

『それを決めるのはライエルだからね。僕たちに決定権はないよ。状況は不本意だろうし、そこから僕たちの指示で全てが決まれば……ライエルは納得できるのかな?』

 納得……するのかも知れない。

 俺は一瞬、それが楽でいいと思ってしまった。

 見透かされたように、三代目が言う。

『流されるのは楽でいいだろうね。僕もそんな感じだったよ。知らない内に義将とか忠臣とか言われてもね……実際困るよね。そんなつもりはまったくなかったのにさ』

 確かに、三代目は伝え聞く人物像と実際がかけ離れすぎている。

 俺は呼吸が整ってきたので、木剣を拾うと近くにあった岩の上に座る。

『……まだ目標は決まらないのかな? それとも、本当にどこか遠くでノウェムと二人で静かに暮らす?』

 分からなくなってきた。

 あれだけ必死なアリアを放り出して良いのだろうか?

 報酬としてアリアを引き受けたが、今から放り出してアリアが上手く生きていけるのだろうか?

 色々と悩む事が増えていく。

 悩んでいると、六代目が出てくる。

『随分と悩んでいるな。好きなだけ悩め。後になれば、どうしてそんな事で悩んでいたのかと、馬鹿らしくなるぞ』

 人の悩みだと思って……。

 そうして空を見上げると、星が綺麗に輝いていた。





 次の日。

 アリアは目を覚ましたが、体が動かない状態だった。

 無理をしてスキルを使用し、そしてその反動で体に負荷がかかった。おかげで、ノウェムはアリアの世話をする事になったのである。

 そうなると、当然だが働きに出られるのは俺一人だった。

 ギルドの受付に出向き、ゼルフィーさんと共に受ける依頼を選ぶ事になった。

 全部が肉体労働系の依頼で、ゼルフィーさんの仕返しも込みなのかきつめの依頼書が、カウンターの上に並んでいた。

「好きな依頼を選ぶといいよ。しばらくはライエル一人で仕事だろうからね」

 確かに勝手に行動し、アリアが数日パーティーに参加できない状態を作ったのは俺である。

 ニヤニヤときつめの依頼書ばかりを並べているゼルフィーさんに、言い返す言葉がなかった。

 俺とゼルフィーさんのやり取りを見て、ホーキンスさんが助け船を出してくる。

「ゼルフィーさん、貴方は指導員なのですよ。個人的な感情で依頼を選ぶのはどうかと思いますけどね」

 すると、ゼルフィーさんが言い返す。

「酷いじゃないか、旦那。それじゃあまるで、私が仕返しのために厳しい依頼ばかりを選んだみたいだ。こっちは、ライエルのためを思ってきつめの依頼を選んだ、ってのに」

 芝居がかったような台詞に、ホーキンスさんは呆れた様子だった。

 だが、俺はその並んだ依頼書の中で、一番厳しそうな物を選ぶ。

 それを見て、ゼルフィーさんの眉が少し動いた。

「……今日は愚痴をこぼさないんだね」

 以前、雑用系の依頼を受ける際に愚痴を言ったのを、ゼルフィーさんが覚えていたのだろう。

 俺は淡々と書類にサインをして、ホーキンスさんに手渡した。

「これでも二人の生活も抱えているんで。働かないわけにはいかないんですよね」

「言うじゃないか。領主様から貰った大金が残っているだろうに」

 ゼルフィーさんが言うと、俺はそのまま手を振ってギルドの受付を後にする。





 ライエルが去った後の受付――。

「随分とたくましくなりましたね。ここに来た時は右も左も分からない様子だったのに」

 ホーキンスはライエルが最初にギルドを訪れた時の様子を思い出す。

 指導員であるゼルフィーはカウンターに肘を突いて手の上に顔を乗せていた。

「貴族のボンボンかと思って監視目的で近づいたんだが、とんでもない裏があって焦ったけどね。ま、たくましくなるのは良い事さ。もう貴族様じゃないんだから」

 ホーキンスは受け取った書類の処理を行なうと、ゼルフィーに過去を思い出し微笑んだ。

「まるで誰かを思い出しますね。ゼルフィーさんも依頼を受ける度に文句を言っていましたよ」

 ホーキンスが昔の事を言い出すと、ゼルフィーがふて腐れる。

「あの時の私はまだ世間知らずだったんだよ! 家では家事に作法だとか、色々と世界が違ったんだ」

 落ちぶれた貴族が、冒険者となると色々と苦労をする。

 それは、今までの価値観や常識が通用しないためだった。

「大変なのは理解していますよ。時々、冒険者が召し抱えられる事もありますからね。そうした方々は作法などで苦労すると聞きます」

 まさしく、住んでいる世界が違うのである。

「……アリアお嬢様も、上手くやれると良いんだけどね」

 ゼルフィーの本音に、ホーキンスは書類を整理しながら答えた。

「一般の方が冒険者になっても苦労しますし、命も落とします。大丈夫だと言い切れませんが、ライエル君ならなんとかしてくれるかも知れませんね」

 ホーキンスの高い評価に、ゼルフィーは疑惑のこもった視線を向ける。

「ライエルが? ダリオンでの評判は最低なんだけど」

 ライエルが盗賊団を討伐する際に、色々と駄目な行動を繰り返していた。そのせいもあって、ダリオンでのライエルの評判は低かったのだ。

 それは、ダリオンを拠点にする冒険者としては、致命的でもある。

「領主様に資金を出させ、百名以上も人を集めて盗賊団を討伐したのは事実ですから。もっとも、何を考えているのかは分かりませんけどね」

 ホーキンスが困惑するのも無理はなかった。

 やる気がなく、パーティーメンバーのノウェムに頼っていたライエル。

 しかし、盗賊団が現われると自ら動いて解決している。

 二人で会話をしていると、隣で受付をしている中年女性の職員の列にゼルフィーの知り合いが現われる。

 手早く手続きが終わると、ホーキンスたちに声をかけてきた。

「よう、ゼルフィーじゃねーか!」

 中年の顔に傷のある冒険者に、ゼルフィーは嫌な顔をした。

「まだ生きてたのかい。引退したらどうだい」

 相手はゼルフィーの物言いに笑うと、後ろに控えていた若手の冒険者たちが困った表情をしていた。

「あんたも指導員?」

 ゼルフィーがそう言うと、相手の男は頷いていた。

「おうよ。こいつらダリオンでも期待の若手でな。少しばかり遠出をして、実力付けさせようと思ってよ」

 冒険者としては、ゼルフィーよりも経験のある冒険者だ。

 何度か仕事を共にした事のあるゼルフィーは、それを聞いて羨ましそうにする。

「上手くいっているようで何よりだよ」

 そして、相手の男はゼルフィーを見てニヤニヤとしていた。

「それより聞いたぜ。貴族の馬鹿息子のお守りらしいな。運がなかったな、ゼルフィーちゃん」

 『ちゃん』付けで呼ばれ、ゼルフィーの額に青筋が浮かび上がるとホーキンスが咳払いをした。

 相手の男は両手を肩の辺りまで上げ、ゼルフィーは舌打ちをする。

「ギルドでの私闘は禁止しています。それに、冒険者として他人に迷惑をかけないように。それより、あなた方は指導員なのですから、模範的に行動して頂かないと」

 ホーキンスが溜息を吐くと、相手の男は苦笑いになる。

「堅い事を言うなよ、旦那。俺も悪かったが、こういうのは冒険者同士のノリみたいなものだろ」

 ゼルフィーは、相手の男を睨み付けた後にカウンターを離れていく。ライエルの様子でも見に行くのだろう。

「まったく。しかし、遠出ですか。少し早い気がしますね」

 ホーキンスがベテランである冒険者に指導を依頼した若手を見た。

 五人組で、一見するとバランスの取れたパーティーである。

 前衛が三名に、後衛には弓を持った狩人が。

 最後に、魔法使いが杖を持っていた。

「チマチマやるのは性に合わないんでね。早く稼げるようにしてやりたいのさ」

 ゼルフィーとは違うタイプの冒険者だが、彼なりに若手の事を気にしている様子だった。元から、指導員に選ばれる冒険者は面倒見の良い者が選ばれる。

 同じようにゼルフィーも、口では色々と言うが仕事を投げ出さない真面目なところがある。

「そうですか。十分に気をつけてください。大事なのは生きて帰る事ですからね」

 ホーキンスが助言をすると、ベテラン冒険者に連れられた一行は受付を後にする。

 誰もいなくなった受付で、ホーキンスは隣のカウンターを見た。

 奥には若く美人の職員に長蛇の列ができている。

 ほとんどが若手で男性冒険者だ。

 隣は中年女性が素早く仕事を片付けていく。

 中堅どころの冒険者たちが、素早く報告が終わるので列を作っていた。両方とも列ができているが、流れはまったく違う。

 美人の受付の列は、流れが遅く文句が聞こえてくる。

 隣は静かに淡々と仕事をするので、流れが速かった。

 それなのに。

「今日も私のところには人が来ない……」

 ――ホーキンスは溜息を吐くのだった。
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