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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないよ 十四代目

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復讐

 それは復讐だったのかも知れない。

 ウォルト家の五代目であるフレドリクスは、俺にそう言った。

 周囲に映る光景は、酷いものだった。

 転落した馬車。

 冷たく皮膚に当たると痛みを感じそうな土砂降りの中、一人の女性がフレドリクスを庇っていた。女性からは血が流れ、少し大きかったお腹の方も心配だ。

 いや、俺はこの後の流れを知っている。

『ママ、ママ!』

 フレドリクスが、崖から落ちた馬車の中で四代目の妻――母親にすがりついていた。

『だ、大丈夫だから。フレドリクス……大丈夫』

 馬車を襲撃したのは、賊の恰好をした者たちだった。だが、記憶の映像を見る限り、相手は手慣れていた。護衛を足止めし、馬車だけを狙って突き落としていた。物取りの犯行とは思えない。

 一緒にその光景を見ていた五代目が口を開く。

『この時にママのお腹には赤ん坊がいた。俺を庇って流産したよ。その後は、色々と理由をつけて子供は作らない、なんて言ってはいたが……事故が原因なのは俺でも分かる。分かるんだよ』

 駆けつけた護衛たちが、大急ぎでフレドリクスたちの周りを警戒しながら馬車を破壊して屋根を作り、そして火をおこしていた。応急処置を行ない、すぐにウォルト家の屋敷に騎士の一人が土砂降りの中を馬に乗って駆け出していく。

 映像はそこで灰色になり止まると、雨粒が止まって見えた。

『……ただの賊じゃない。うちは賊に対して容赦しないから、恨みを買ったとも考えた。だが、後から考えても手慣れすぎていた。それに、俺たちを呼び出した近隣の領主の息子が、その時に俺に笑って話しかけてきたな』

 五代目の考えすぎなのか、それとも全部仕組まれていたのか。

 映像が切り替わると、今度はフレドリクスがドアの前で聞き耳を立てていた。部屋の中では、騎士たちが四代目と話をしていた。

 机に拳を振り降ろし、四代目が息を荒げていた。

『マークス様……』

 心配そうにする騎士は、どこかで見た事があると思った。年老いてしまったが、かつて三代目に殴り飛ばされ、四代目に三代目の危機を知らせた騎士である。

『……分かっている。妻もフレドリクスも無事だった。これ以上を望むのは確かに……だが、許せるものか! 徹底的に探し出せ! 捕まえた賊からは、どんな事をしても情報を聞き出せ! 俺も後からこいつで……』

 首に下げた青い玉を握りしめる四代目は、記録された三代目のスキルであるマインドを使用するつもりなのだろう。だが、証拠にはならない。

『スキルで聞き出した情報なんか、スキルで言わせているだけと言われることも多い。相手が判明しても容易に手は出せない。笑えるよな。大きな家になったから、容易に動けなくなったんだぜ』

 俺は五代目に聞こうとすると、映像が切り替わった。

 十代前半のフレドリクスは、またウォルト家の屋敷ではない場所にいた。同じ年代の子供たちに囲まれ、殴られ、蹴られていた。

『チビ、お前のところ、いつになったら言うことを聞くんだよ!』

 大柄な少年が五代目を投げ飛ばした。壁に激突したフレドリクスは、何も言わずに立ち上がろうとしていた。そんなところを蹴られていた。

 周囲では同じ年頃の貴族の娘たちも笑ってみていた。

『成り上がりとか最悪よね。私、ウォルト家だけには嫁ぎたくないわ』
『こいつチビだもんね』
『こいつの母親もチビだし、宮廷貴族なんだって。しかももう子供が産めないの。女として最低よね』

 俯いたフレドリクスが、歯を食いしばって耐えていた。大柄な少年がフレドリクスの胸元を掴み、持ち上げた。

『言い返して見ろよ、チビ。まぁ、本当の事だから無理か。あの日、馬車が転落して怪我でもしたんだったか?』

 フレドリクスは、耐えていた。拳を握りしめ、そこから血が流れていたが耐えていた。

「五代目、どうして言い返さなかったんですか」

 五代目は、その映像を見ながら。

『……こいつらが口裏を合わせるからだ。やり返せば、俺が悪い事になる。当然、親同士の話し合いでもそれが問題になってくる。言っただろ。この時のウォルト家は微妙な立場だった、って。自分の寄子すら信じられないんだぞ。協力してくれる家もあったさ。フォクスズ家がそれにあたるな』

 そして映像は、ウォルト家の屋敷に切り替わった。

 母親が、フレドリクスに言う。

『フレドリクス、隠していることはない?』

『あ、ありません』

 マークスも、同様だった。

『……実は近隣の領主から、娘をお前の嫁にという話が出ている。だが、断っておいた。フォクスズ家の当主や先代が強く反対してね。相応しくないそうだ』

『……はい』

 マークスも何か気が付いていたようだった。だが、フレドリクスはあまりその事について喋ろうとはしなかった。

 ただ、両親に笑顔を向けていた。

 そして映像は、開拓を始めた村に切り替わった。

 フレドリクスが、周囲を騎士に囲まれ開拓する村を見ながら色々と勉強している様子だった。

『ここはいい土地なのか?』

 騎士の一人がフレドリクスに丁寧に説明していた。

『あまりいいとは言えませんが、手を加えればここも豊かになるかと。成功すればフレドリクス様の手柄です』

『修行の一環で見て回っているだけなんだけど?』

 五代目が、相手の若い騎士を見て呟く。

『……ランドバーグの爺さん。その孫だ』

 ランドバーグと聞いて、俺は青年の顔を見た。通りで見た事があると思っていると、俺が騎士として憧れていた人だ。

 五代目が続ける。

『三代目の時から騎士としてウォルト家に仕えているよ。いい奴だった』

 そして、フレドリクスに小さな少女がぶつかった。建物の脇から走り出てきて、衝突してしまったのだ。

『こ、こら! すぐにフレドリクス様から離れないか!』

 騎士が少女に手を伸ばすと、フレドリクスが笑って首を横に振った。

『よい。今後は気を付けるんだぞ』

 少女がフレドリクスを見てあまり理解していない様子だった。すると、姉である少女が走り寄ってきて、青い顔をしていた。頭を下げて謝罪をする。

『も、申し訳ありません!』

 何度も頭を下げ、妹らしい少女を抱きしめて許しを請うていた。その姿に、フレドリクスも困惑気味だ。だが、姉の方の少女を見てフレドリクスが頬を染めた。

『よ、よい! 今回は大目に見る。ほら、仕事に戻るといい』

 声が少し上ずっており、そして少女二人が安堵して笑顔で頭を下げていた。立ち去る二人の背中を見て、フレドリクスが戸惑っていた。

 ソレを見た騎士が。

『……今日の夜にでも部屋に向かわせましょうか?』

 すると、フレドリクスが顔を真っ赤にしていた。

『ば、ばばば、馬鹿者! お、俺はそんな……そんな』

 周囲がフレドリクスを見て笑っていた。フレドリクスは大股で歩き出し、騎士たちを振り切って先へと進んでいく。

 五代目がその光景を見ながら。

『うちはこれからも開拓村が増える予定だった。だから、俺がそういった現場を知る必要があると四代目が判断したんだ。この辺は荒れ放題だったからな』

 懐かしそうな五代目。だが、その様子を悲しそうに見ていた。

 その後も、フレドリクスと姉妹は何度か会話をするシーンが流れた。少しずつだが、仲良くなっていくフレドリクスと姉妹。

 そんな時だ。

 フレドリクスが、ウォルト家の屋敷に呼び出され一時的に戻ることになった。

 村の入口では、ランドバーク家の跡取りが村人たちとフレドリクスを見送っていた。

 フレドリクスは、馬に乗ると仲良くなった少女二人に言うのだった。

『すぐに戻る。その……その時は……』

 周囲が顔を赤くしているフレドリクスを、笑ってみていた。少女は頷いていた。

『お待ちしておりますね、フレドリクス様』

 笑顔になるフレドリクス。

 だが――。

 次に映し出された記憶は、燃えてしまった後の村だった。立ち尽くすフレドリクスは、燃え残った村の跡地で護衛の騎士たちを連れながら村の中央にあった木を見ていた。

 生き残りが数名いたが、フレドリクスが来ると罵声を浴びせた。

『どうしてもっと早く来てくれなかったんですか!』

『私の……私の娘が……』

 どこかで見た夫婦。それは、家出した六代目の記憶に出ていた夫婦だった。

 ゆっくりと歩き、村の中央にある木に向かうフレドリクス。

 木には村人たちが吊されていた。

 ランドバーグ家の青年は身ぐるみを剥がされ、とても酷い状態だった。最後まで抵抗した様子だった。

 そして、真正面の目立つ位置には、フレドリクスが仲良くしていた姉妹が吊されていた。

 念入りに――というのもおかしいが、フレドリクスに当てつけるような吊し方をしていた。膝から崩れ落ちるフレドリクスは、木に刻まれた文字を見た。

 チビ――そう書かれていた。

 フレドリクスが俯くと、その目つきが変ったのが分かった。鋭く、そして濁ったその目に俺は息をのむ。

 五代目を振り返った。

『……証拠はない。それに、村の内情を知っていた人間もいる。すぐに兵士を引き連れて殴り込みたかった。同じようにしてやりたかった。いや、根絶やしにしたかったな』

 表情の変らない五代目は、淡々と言葉を続けた。

『俺と姉妹が親しかったのを、誰かが情報として流した。誰かは大体の予想がついた。寄子の関係者だったよ。笑顔で近付いて、俺たちの情報を売り払っていやがった』

 俺は村の中央にあった木を見上げ、そして目を背けた。ここまで酷いことが出来るのかと、そしてここまでする必要があったのかと。

「これは酷すぎます。こんなの……」

『有り得ない、なんて言うなよ。いいか、ライエル。これをやった連中と、俺たちは同じだ。同じ領主で、貴族だ。一歩間違えれば、こんな事だってする。実際、ファインズは攻め込んだ領地でもっと酷いことをしただろうな。相手が攻め込んで来た場合、報復はしなくてはいけない。舐められれば、相手はこういった行動を繰り返すから』

 相手に舐められてはいけない、というのは分かった。

 そして、五代目は言うのだ。

『……攻め込んで来た領地の領主だが、先々代は三代目と上手くやっていたんだぜ。それが代を重ねてこうなった』

 領主がいて領民がいて……領地の方針を決められる領主は、優秀であれば領地も栄え、逆に無能であれば領地が駄目になってしまう。

 代替わりで駄目になる事も多く、または逆もあった。

『……俺はな、ライエル。この時に誓ったんだ。必ず復讐してやると。何年かかっても、何十年かかっても、やつらを根絶やしにすると』

 俯いた五代目を俺は見た。だが、五代目の時代、ウォルト家は耐える事を続けて最終的には周囲に攻め込まなかった。

「何があって、五代目は方針を変えたんですか?」

 俺の言葉に、五代目は空を見上げて笑うのだった。笑って、最後には小さな声で。

『自分の子供だよ。最初にファインズを見て、俺は本当に迷った。凄く憎かったのに。殺してやりたかったのに……こいつらに、自分の子供に俺のような気分を経験して欲しくないと思った。遅いよな。もう、妾もいて計画を進めていたのに……気付いた時には止まらない状況だったのによ』

 五代目は、そう言うと黙って俺を記憶の部屋から追い出したのだった。





 ポーターの中。

 ランタンの明かりの下で、モニカが俺に伝えてきたのはバンセイムが行なっている人質についてだった。

 規模の大きな男爵家以上の領主たちから、人質をセントラルに送るようにと命令が国中に出されていたのだ。

 アデーレさんたちが手に入れた情報をまとめると、それによって動きたくても動けない領主が多いのではないか、という事だった。

 ヴァルキリーズを通して伝えられた情報に、俺は少し考え込んでいた。だが、頭の中をよぎるのは、五代目のことだ。

 ポーターの荷台の中で、クラーラが俺に言う。

「ライエルさん、大丈夫ですか? 休まれた方がいいと思いますけど?」

 指先でこめかみを軽く揉むと、俺は首を横に振った。

「悪い、続けてくれ」

 モニカは俺の様子を見ながら、得られた情報を伝えてきた。

「人質以外ですと、準男爵家以下の領主たちは領土の安堵で動いてくれるそうです。このままこちら側に引き入れられれば、バンセイム国内で兵を用意出来ると」

 すると、三代目が口を出してきた。

『違うね。確かに領地の安堵は欲しい領主もいるさ。けど、全員がそうとは限らないよ。もっと土地が欲しい奴もいれば、これを機に周辺領主とのもめ事を解決しようと考える連中も多い。やっぱり、男爵家以上の寄子を抱えている領主の協力が必要だね。面倒事は少ない方がいい。というか、小領主ばかりではまとまりがない。大規模な軍勢を率いるのは難しいだろうね』

 三代目曰く、小規模領主の意見を全てまとめるのは困難、だそうだ。そういった細々とした調整が出来る領主――男爵家以上を傘下に加えるべき、との事だ。

 ついでに、指揮官としても大規模な部隊を指揮出来ないという。

「モニカ、アデーレさんたちに伝えてくれ。小さく切り崩すのも大事だが、一つ大きな領主をこちら側に迎えて欲しいと。俺たちでまとめるのは不可能だ」

 モニカは、俺のためにお茶を用意していた。ハーブティーのようだ。

「難しいと思われます。人質の件もそうですが、問題はその人質です。あのセレスの下に送られて無事でいるのでしょうか? 救出を約束しても、最終的には心からセレス側に寝返っている可能性もあります。すでにこの世にいない場合も――」

 連れ去られてしまった領主の関係者は、取り戻すのが困難という事だ。下手に説得する際に、必ず助けます、など言えない状況だった。

 クラーラが俺に言う。

「やはり小さく切り崩していくしかないのでは? セレスを倒しても、人質が無事でなければ禍根が残りますし」

 アリアも否定的だった。

「セントラルに乗り込んで救出ができるなら、もう誰かがセレスを暗殺していてもおかしくない状況よね」

 セレスと向かい合い、その理不尽さを経験しているアリアの意見はもっともだ。

 ただ、俺たちも時間がない。

「西部方面。ファンバイユとの故郷付近の領主たちはどうなっている? 俺たちが向かうことになっている。まだ無事なら、やり方はあるぞ」

 顔を上げると、モニカは首を横に振った。

「そこまでの情報はありませんね。アデーレさんたちは東部ですので」

 ノウェムたちは南部にいる。無事に役目を終えれば、そこからバンセイムに入るはずだ。

 少し考え込み、そして結論を出す。

「情報を集める。まだなら救出、もしくは奪還も考える。セントラルへは流石に無理だ。それ以外ならこの人数で出来る事をする」

 全員に視線を巡らすと、皆が頷くのだった。
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