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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないよ 十四代目

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バンセイム王国

 バンセイム王国。

 大陸中央に位置する大陸でも最大の国家だ。

 セントラス王国――当時の大陸を統一していた王国の首都を引き継ぎ、分裂した国家に戦争を仕掛けて今日の繁栄を築いた。

 バンセイム家が、セントラス王国のアグリッサを倒した事から、新しい王家として君臨した大国だ。

 そんなバンセイム王国に戻ってきた俺たち一行だが、首都であるセントラルは避ける事が決まっていた。

 不便だがセントラルを避けて西を目指し、ファンバイユ王国を目指す事になっている。

 なってはいるのだが、バンセイムという国は大きい。

 街道が整備された場所を移動するのとは違い、道というには首を傾げたくなる場所を進むことも多い俺たちは苦労をしながら、目的地の一つである村を訪れていた。

 ポーターから降りた俺たちは、道中で倒した魔物の素材などを引き替えに村の名士の家に泊まることになった。

 代官が派遣されているようだが、俺たちを冒険者だと思ったのか金を渡すと一泊だけは認めてくれた。

 夕方。

 村の子供たちが遠くからポーターを見ている中で、俺は背伸びをする。

「荷馬車なんかで移動するより快適でも、ずっと座っているだけなのも辛いな」

 名士の家では、庭の一部にポーターを止めてモニカがポーターの整備を行なっていた。各部のチェックをしているようで、クラーラに頼んで車輪などを動かして貰っている。

 名士の家の娘が庭に出て来て、俺たちに部屋の用意が出来たことを知らせに来た。茶髪で素朴な感じの娘は、ポーターを見て少し驚いた様子だ。

「馬のいらない鉄の馬車、って本当にあったんですね。行商人の人が嘘を吐いているとばかり思っていました」

 アラムサースでゴーレムの魔法を利用し、荷運びを行なうポーターは広がりを見せている。

 そのせいか、バンセイムではそれなりにポーターの事を知っている人たちがいた。

 娘に対して、アリアは笑顔で対応する。

「うちのは特別製よ。アラムサースなら沢山作っているかもね」

 娘はアラムサースの名前を聞くと。

「あ、そう言っていました! アラムサースでは、人の形をした人形が沢山動いているとか、馬のいらない鉄の馬車が沢山動いている、って。行商人のおじさんも噂で聞いただけなんですけど、本当だったんですね」

 アラムサースは学術都市だ。以前は仲間集めのために立ち寄って、そこでミランダ、シャノン、そしてダミアンと出会ったのだ。

 アリアは少し嬉しそうに。

「ライラさんは元気かな? ……おっと、そうだった。他に変った噂とかないの? バンセイムには戻ってきたばかりなのよね」

 すると、娘は少し考え込みながら。

「セントラルで王太子殿下が結婚しましたね。でも、色々と変な噂も多いですし、正直に言ってどれが本当のか分かりません。何しろ、結婚したセレス様……周りに多くの男性を侍らせているらしいんです。次期王妃様がそんな事をしたら許されませんし、もとはファンバイユのお姫様がお相手でしたし、もう何が起きているのかサッパリですね」

 セレスらしい行動だろう。

 あまりに馬鹿らしい噂で、周囲ではそんな訳がないと思っているのかも知れない。俺は娘に対して大銅貨を数枚渡した。

「他に何かあるかな?」

 受け取った娘は、大銅貨を数えると何とか思い出そうとしていた。やはり金の力は偉大だと思い知らされる。

「……あ! ベイムです! 正式にベイムへ宣戦布告をしましたよ。この村からは徴兵しないみたいですけど、それでも準備だけはするようにと代官様が言っていましたね」

 アリアがその話を聞くと、少し頷いていた。

「東側だけで対応かしらね。流石に反対側から人を持ってくるだけでも大変だろうし」

 バンセイムはセントラルを中心に、東西南北に区分けしてそれぞれが戦争で対応していた。各地の領主が救援を求めれば、南部なら南部の区画から。東に攻め込む際には、東側の区画から兵を出している。

 俺は娘に対して聞いてみた。

「どれくらい動くんだい?」

「そこまでは分かりませんけど、なんでもベイムは強敵だから数十万の規模は出すだろう、って大人たちが言っていました。西側はファンバイユと関係が悪化していますから、そのせいで準備をしろと言われているんだと思います」

 俺はそれを聞いて、娘にお礼を言った。

「そう、ありがとう。俺たちも戦争で稼ぎたいところだが……流石にその数だと出番がないな。諦めるか」

 アリアに視線を向けると、肩をすくめたアリアが同意した。

「そうね。これだけ参加しても旨味がないわ。地道が一番ね」

 サラリと二人で嘘を吐いてその場を笑ってごまかした。





 ――アデーレたちは、知り合いである領主の下を訪れていた。

 準男爵家と規模は大きくないが、付き合いのあった家なのでどうしても立ち寄りたかったのだ。

 アデーレたちが到着すると、準男爵である領主は丁重にアデーレとマクシムを迎え入れた。街を持ち、周辺の村を治める規模の準男爵は、兵にして最大で二百を出せる規模だった。

 決して大きくはないが、信用出来るためにアデーレはバンセイムに入って最初に立ち寄ったのだ。

 領主の屋敷。その応接間で、アデーレは領主にたずねた。

「今のバンセイムの状況はどうですか?」

 領主は首を横に振った。

「日に日に悪くなっている気がします。戦争で食糧を大量に消費しておりますし、田畑は荒れた場所も多く、まるで暴れ回っているだけです。逆らおうものならセントラルの正規軍、それにウォルト家が動きます。悪夢ですよ」

 ウォルト家。

 バンセイムでその名前は、最強を意味していた。何度もバンセイムの危機を救い、そして代を重ねるごとに大きくなってきたためだ。

「……ベイムでウォルト家の長男。ライエル・ウォルトが動いている噂は届いていますか?」

 領主は頷いた。

「レダント砦での一件は聞き及んでいます。ただ、それ以上の情報は嘘か本当か……四ヶ国連合、それにカルタフスの女王を籠絡したとか。まさしく兄妹ですな」

 アデーレの後ろで控えていたマクシムは、頬を引きつらせる。確かに間違っている情報ではないが、悪意が込められている気がした。

 アデーレはその噂を、頭痛を覚えながら訂正した。

「確かに外から見ればそうでしょう。ですが、事実は違います。私は実際にライエルさんに会ってきました。彼はベイムで力をつけ、セレス打倒を目指しています。噂のように女性を籠絡している……わ、訳ではなく、結果的にそうなったというか、自力で何とかしたというか。と、とにかく、セレスのような危険性はありません」

 領主は、アデーレではなくマクシムを見た。そして、アデーレを少し心配そうな目で見ていたのだ。

 マクシムが言う。

「大丈夫です。お嬢様は籠絡などされていません。もしもそのような卑劣な手段に出ていれば、この俺がライエルを倒していました」

 マクシムは有名な騎士だった。領主もその言葉を信じ、話を続ける。

「分かりました。信じましょう。それで、アデーレ殿から見て勝機はどれ程で?」

 相手も領主。そして、準男爵家規模というのは、もっとも扱いが難しい領主であるのを、アデーレも心得ていた。

 彼らは規模的に騎士爵家より裕福だ。だが、男爵家のように大きくもない。しかし、それなりの実力を持っており、非常に厄介な立ち位置だった。

 世渡りが上手い者が多いのも、その微妙な立場が原因だった。だから、アデーレはこういうのだ。

「ギリギリですね。ギリギリ勝てるか、といった状況です。既に四ヶ国連合、カルタフスからは協力を得られています。ベイムではトレース家が同じ派閥の商家と後ろ盾に回ってくれました」

 領主が頷いた。

「ベイムのトレース家ですか。有名どころですな。東側の領主なら知っている者も多い商家です。そうですか、そこが後ろ盾を」

 アデーレは心の中で思った。

(……私、嘘は言ってない)

 そう、嘘は言っていない。ベイムではトレース家が分解され、二つに分かれて追い出された方が支援している状況だ。

 聞きようによっては、ベイムで有名な商家が後ろ盾になったのだから、ベイムも協力すると言っているようなものだ。ベイム内部の状況を詳しくしていれば、もう少しだけ相手の反応は違ったはずだ。

「準男爵、お力をお貸し頂きたい。ライエルさん……ライエル殿は、協力してくださった領主の方々には恩を報いる気があります」

 相手はそれを聞いて腕を組んでいた。このままセレスの暴挙を見て見ぬ振りをしておくのか、それともライエルに協力するのか。

 領主は口を開いた。

「……我が領地の安堵を保障して頂く。それと、報酬を用意して頂こう」

 アデーレは少し不思議に思った。

「準男爵にはこれから各領主への説得にも協力して頂きます。報酬が莫大なのですか? 領土を広げるチャンスだと思いますが?」

 領主は首を横に振った。

「アデーレ殿は領主の気持ちを理解していませんな。確かに領地が広がるのは重要でしょう。ですが、そうとは考えない者も多いのです。規模が大きくなれば責任も増えますからね。日和見をする者の多くは現状で満足している事が多い。だから動かない」

 アデーレは、なる程と思って頷くのだった。

「それに、領地替えでも言い渡されると面倒ですからね。私はそれなら現金などの方がいいわけですよ。あ、我が家がライエル殿に協力したという証明も欲しいですよ」

 そんな中で、マクシムが領主に対して。

「一つお聞きしたいのですが?」

「なにか?」

「我々を信用した理由をお聞かせください。今後の活動にも影響が出ますので」

 話がスムーズに進む中で、マクシムはその事を気にしていた。いくら知り合いとは言っても、相手がこちらの意見を信用しすぎているように感じたためだ。

 領主は言う。

「……このままセレスを放置しても、ろくな事にはなりません。だが、私の力ではどうする事も出来ない。これがカルタフス、または四ヶ国連合の使者では手を貸せませんよ。ベイムでも同じです。まぁ、実は色々とバンセイム内でも噂が広がっていましてね」

 アデーレはその事を思いだし、領主に詰め寄った。

「ダリオンやアラムサースでの一件ですか? それともセントラルでのグリフォン退治?」

 領主は言う。

「その全てです。バンセイム国内では、ベイムでライエル殿の噂が流れると、期待したものですよ」

 アデーレは、相手が最初からある程度の情報は持っていたのだと知ると、少し相手に遊ばれた気分になるのだった。

 ただ、領主も言う。

「周辺領主への説得は私の方で進めましょう。求めるのは領土の安堵、そして報酬です。中には違ったものを求める者もいるでしょうが、その辺の対応は?」

 アデーレは座り直すと領主に答えるのだった。

「私の方にある程度の権限を貰えています。対応しましょう。それと、男爵家以上の領主であれば、どこが協力してくれますか?」

 領主は腕を組んだ。黙って俯くと、しばらくして天井を見上げた。

「難しいですか?」

 領主は言う。

「少し前に男爵家以上の領主からは、セントラルに人質を出すように命令が出されました。跡取りだけではなく、領主の妻や婚約者……手当たり次第です。愛人まで連れて行った話もありまして、混乱しておりどこが、とは言えない状況です」

 セレスの行動に、アデーレは厄介な事になったと思うのだった――。





 村を出発した俺たちは、ポーターで次の目的地を目指したていた。

 今日中に辿り着いておきたい場所があり、先を急ぐために今はクラーラと交代して俺がポーターを操作している。

 モニカやクラーラ、そしてアリアも横になって休んでおり、俺の膝の上にはシャノンが乗っていた。

「……重いんだけど?」

 そう言うと、宝玉内からミレイアさんが。

『ライエル、シャノンに冷たくない? もっと優しくしなさい』

 言われる俺だが、俺の膝の上に乗っているシャノンに対してもう一度。

「重いんだけど?」

 そう言ってやった。シャノンは振り返ると、舌を出して。

「座る場所がないからここで我慢しているんですぅ」

 などと言ってきた。荷台の方ではクラーラとアリアだけではなく、モニカも横になっているので場所が狭くなっていたのだ。

 ミレイアさんが寂しそうに。

『ライエルが……素直だったライエルがどうしてこんな……』

 七代目が、笑いながら。

『叔母上のせいでは? まぁ、叔母上も色々と重いですけどね』

 宝玉内からは銃の発砲音が聞こえ、そして静かになった。いつも通りなので放置すると、シャノンは俺の膝の上で前を見ていた。

 目の前には景色が広がっているが、シャノンが見ているのはモニカが用意した本だった。文字が書かれており、子供向けの絵本だ。

「これは見えるのか?」

 シャノンは嬉しそうに。

「見えるわよ。でも、これとあとは二冊しかないから飽きるのよね。クラーラからも色々と教えて貰ったけど」

 特別に作られた絵本は、カラーでとても分かりやすい。シャノンが文字を覚えるのは、俺たちにとっても重要な事だった。

 ポーターが少し大きな石の乗り上げ、揺れるとシャノンの体を押さえた。

「ちゃんと操作しなさいよね!」

 プンプンというような感じで怒るシャノンを見て、俺は頬を引っ張って涙目にさせた。

「結構難しいんだぞ。クラーラみたいに出来るかよ」

 サポートとして仲間内では目立たないクラーラだが、そのサポートに関しては優秀だ。ポーターの操作、そして魔法による支援。

 知識量も豊富で、色々と頼りになっていた。すると、シャノンは絵本に視線を戻して言うのだ。

「ちゃんと本人に言ってあげたら? ライエルはすぐに忘れるんだから。それ、釣った魚には餌をあげない、っていうのよ」

「どこで聞いた、そんな話? まぁ、近い内に言っておく。それより、お前はなんでこっち側に来たんだ? ミランダの方についていくと思ったんだが?」

 すると、シャノンは絵本を閉じて俺の方に振り返った。

「あんたが余所で変な遊びに手を出さないか見張るためよ。喜びなさい、この可愛いシャノンがお目付役として――痛い! 痛いって!」

 拳をグリグリ押しつけ、シャノンの痛がるのを見て俺は笑った。すると、涙目になったシャノンが俺を見て言うのだ。

「……あんた、もっと笑ってなさいよ。最近、作り笑いとか多いわよ」

 そうして、また絵本を開いて勉強を再開するのだった。作り笑いが多いと言われ、俺は言い返そうとしたが、確かに最近は多い気がした。気を使わせたのかも知れない。

「そうだな。そうなのかもな」

 俺は代わり映えのしない景色を見ながら、シャノンが膝から落ちないように支えるのだ
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