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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないよ 十四代目

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アリアの利益

 夜。

 周囲が寝静まる中、モニカが夜の見張りを引き受けてくれていた。

 全員がポーターの荷台で横になって眠っているのだが、俺だけは五代目に呼び出されて宝玉内で向き合っている。

 三代目や七代目、そしてミレイアさんは、少し離れた場所でその様子を見守っていた。というよりも、面白そうに見ていた。

『アレかな? やっぱり、五代目もハーレム的なものに悩まされたのかな? いや~、僕は嫁が一人で良かったよ』

『ですね。我々には分からない苦労です。わしもどちらかと言えば恋愛を経て結婚に至りましたから。ま、ゼノアの身分が当家よりも勝っており、結婚に都合が良かったのは事実ですが』

『割と上手くまとめていましたけどね。父上的には問題があったと思うのでは? 私だったら、旦那が妾を用意した時点で実家に帰りますけど。兄上の奥様は、恋愛結婚だったのによく我慢しましたよ』

 五代目がヒソヒソと楽しそうにこちらを見ている面子を無視して、俺にアリアについて説明してきた。アリアを擁護していたのは初代であり、二代目はアリアを嫌っていたところがあった。他の歴代当主たちも、アリアに関しては特に意見を述べていない。

 だが、ここに来てアリアが俺とは結婚しない方がいいと言い出すと、五代目が目の色を変えて勧めてきたのだ。

『いいか、ライエル! あのアリア――アリア・ロックウォードは、お前にとってとても重要な娘だ』

「いや、今までそんな事を一度でも言いましたか? それに、アリアがそう望むなら、俺としては――」

 五代目は宝玉内。円卓の間で、自分の得物である蛇腹剣を出現させると、刃を横向きにして腹の部分で俺の頭を叩いた。

 その様子を見ていたミレイアさんが、驚いている。

『あら、父上が子供相手に怒った。凄く珍しい光景ですよ』

 俺は叩かれた部分を手で押さえる。そこまで強い力で叩かれてはいないので、そのまま五代目の話を聞くのだった。

『いいか、ライエル。女は時として自分の利益のために嘘を吐く。金のために体を差し出す。笑顔の裏で何を考えているのか分からない時もある。動物の純粋さを見習えと何度思った事か……っと、今は動物の話はいいんだった。いいか、とにかく女は男よりも容易に嘘を吐く』

「まぁ、そうなんでしょうね。俺も冒険者なんで、色々と聞いていますしその辺の話も聞きましたよ」

 女性は嘘を吐くのが上手い。それは知っているのだが、なぜ五代目がその話を俺にするのか理解出来なかった。理解出来ないでいると、ヒソヒソと三代目の声が聞こえてきた。

『あれ? ライエルの奴、分かってないよ』

 ミレイアさんも呆れている様子だ。

『私の一推しはミランダとシャノンなので、他はどうでもいいんですけど、あれはどうかと思いますね』

 七代目だけは俺と同じで理解していない。首を傾げており、三代目とミレイアさんに呆れられていた。

 五代目は俺を見て俯くと頭が痛いのか、額に手を当てて少し考え込んでいた。そして、顔を上げると俺に対して言うのだ。

『ライエル、アリアは嘘を吐いた。自分の利益のためだ。その利益がお前には分かるか?』

 アリアの利益と聞いて、俺はすぐにアリア本人のためだと思った。俺と結婚するよりも、確かに他の男性を見つけた方がアリアは幸せになれる。アリアだけではない。他の女性陣にも同じ事が言えた。

 だが、五代目がこう聞くという事は、答えが違っているのかも知れない。

「アリアの利益は、自分のためじゃないんですか?」

 五代目は俺の顔を見て言う。

『アリアはお前のために身を引くつもりだ。あの子は嘘を吐くのが下手だ。頭より先に体が動くし、自分の思ったことを言う。そんな子が、お前にキスされて嫌がったか?』

 俺が首を横に振るが、五代目は頭を抱えた。「まだ分からないのか」などと言っているのだが、ヒソヒソと声がした。ミレイアさんだ。

『ライエルはアレですね。狙った女性は全て落としてきましたから、嫌われるというのをあまり理解していませんね』

 それを聞いた五代目が、思い出したように顔を上げると指を鳴らした。

『そうだ! お前、屋敷ではどんな扱いを受けてきた!? そいつらの顔を思い出せ。お前が何かを言えば、相手はどんな反応を示した!』

 俺は思い出す。屋敷で嫌われ始めた頃は、周りに何かを言うと文句を言われた。だが、次第に周りは俺に対して邪魔者のように扱いだした。一番酷かったのは、いないものとして扱われた時だ。

「すごく冷たい目をしていました。俺なんかいないみたいに……」

『だろ。俺もその気持ちは理解出来る。アリアは嫌いなら嫌いとハッキリ言うぞ。そんな子が、お前にベイムまでついてきた。セレスとも戦うと決めてくれた。なんでだと思う? アリア自身の将来のためだと思うのか? お前が本当に大陸をその手に掴むと、いったいどれだけの人間が信じた? 今ですら口に出せば笑われるような目標だ。それをベイムに来る前に聞いたアリアはどうだ? きっと、相当な覚悟が必要だったはずだ。死ぬ覚悟もあったかも知れないぞ』

 俺はそれを聞いて、アリアの利益というのが分からなくなった。そして、アリアの幸せとはなんなのか……。

「……五代目、俺はアリアに幸せになって欲しいんです。俺にこのままついてきて、幸せになれるか……他のみんなだって!」

 五代目が、またしても俺の頭を蛇腹剣の腹の部分で叩いた。今度はかなり痛かった。両手で頭を押さえると、俺は涙目になる。

『――ライエル、お前はセレスに勝つために女性陣の力を必要とした。そのまま受け入れることも決めたな? いいか、これだけは言っておく。幸せになれるか? じゃないんだよ。幸せにするんだよ! 嫁だけじゃないぞ。お前がこれから殺す人間の中には罪のない奴らも大勢いる。ベイムがどうなるか考えたことがあるな? なんのために殺す? なんのために踏みつぶして前に進む? お前だけの幸せを掴むためじゃないだろうが』

 五代目は蛇腹剣を宙に放り投げた。蛇腹剣が光の粒子になって消えていくのを見た俺は、五代目の言葉を聞く。

『俺には出来なかった。だから言う資格はない。それも分かっているが言うぞ。他の連中はアリアが抜けても問題ないと思っている。いや、力さえ貸せばその後に抜けても、ある程度の面倒を見ればいいと思っているかも知れない。だけどな、俺は絶対に認めない。大事な事だから、お前には自分で気付いて欲しかったが、分からないままなら俺が言ってやる』

 五代目と違い、確かに他の面子はアリアの協力が得られるなら、その後に俺の嫁にならなくてもいいと考えているようだ。ただ、協力した礼はするつもりらしい。それをアリアが望むなら、それでもいいと思った。

 しかし、五代目は俺に自信を持って伝えてきた。

『アリアの利益は――ライエル、お前だよ。お前の幸せだ』





 朝。

 ポーターの荷台から出ると、俺は槍を振るうアリアを見た。

 湿った朝の空気。地面の草は濡れており、歩くとブーツが濡れた。周囲では虫の鳴き声がまだ聞こえ、太陽も昇りきっていない。

 周囲が青色に見えた。

 その中で、槍を振るうアリアは汗をかいているようだ。こちらに気が付いている様子だが、そのまま顔も向けずに俺に言う。

「なに? 気が散るから体を動かすなら他の場所に行ってくれる?」

 突き放すような冷たい態度は、これまでと少し違っているような気がした。本当に俺のためを思って、身を引いたのだろうか? 五代目の勘違いではないのか? 色んな考えが頭に浮んでくる中で、俺は左手を横に伸ばした。

 魔法陣が出現し、そこから木製の宝箱が出て来た。七代目のスキル―― ボックス ――である。そこから飛び出すように出現したのは、残っていたサーベルだった。

 数打ち品で、数本がまだボックス内に入っていたのだ。

 飛び出したサーベルの鞘を左手で掴むと、右手で柄を握ってサーベルを引き抜いた。

 鞘を左手に持ったまま、俺はアリアにサーベルの剣先を向けた。

「……いつかの続きをしよう。前は俺の圧勝だった。あれから少しは互いに成長した。今はどちらが強いのか試してみたいと思わないか?」

 アリアが体を止めると、槍を地面に突き刺してこちらを振り返った。困惑もしていたが、覚悟もしているような……複雑な表情だ。

「なに? 自分になびかない女はいらないの? だったら最初から追い出せばいいじゃない」

 俺もアリアになんと返事をすればいいのか分からない。分からないから、口から言葉が出てこない。すると、宝玉内から五代目の声がした。

『ライエル、不安なのがお前だけだと思うな。お前は……俺のような失敗はするな』

 軽く息を吐き、そして踏み込むとそのままサーベルをアリアに向けて突きだした。

 槍の柄の部分で受け止められたのは、槍の方が上等で質が良く柄の部分も丈夫だからだろう。

 これが作って貰ったカタナなら、話は違ってきたかも知れない。

「反応が早いじゃないか」

 アリアの目つきが鋭くなる。意識が切り替わったようだ。普段のアリアから、戦闘の時のアリアに――。

「あんまり舐めていると――怪我するわよ!」

 アリアの力が一瞬にして高まると、俺はそのまま強引に吹き飛ばされた。アリアの持つ赤い玉に記録されたスキルが発動したようだ。

 軽く後ろへと飛び、着地すると濡れた草で少し足下が滑った。目の前にいたアリアが少し屈むと、目の前から姿を消した。

「クイック!? 違う、二段階目!」

 アリア独自のスキルだ。瞬間的に素早く動くため、四代目のスキルである―― スピード ――よりも爆発力があった。だが、持続時間はとても短い。

 そんなクイックを使いこなすアリアは、一瞬だけ俺の右隣に移動して姿を見せた。

「フェイント……左!」

 二代目のスキルや六代目のスキルで位置を特定しようにも、素早すぎてとらえるのも一苦労だった。

 左手に持った鞘で、アリアの振り下ろしてきた槍の一撃を受け止める。初代のスキル―― フルオーバー ――で強化した肉体が、耐えられなく俺はアリアの一撃を受け流した。

 だが、すぐにアリアは移動して――俺の真後ろに来たのだ。

 咄嗟に右側に転がると、今までいた場所を斬撃が飛んで地面が抉れ、草が宙を舞った。

 五代目の声が聞こえてきた。

『手加減をするな。本気で答えてやれ。もう、前のようにはいかないぞ』

 俺は深く呼吸をすると、持っている全てのスキルを使用する事にした。

 アリアが俺の雰囲気が変化したのに気が付き、接近してきた。アリアがクイックで素早く駆け抜けた場所の草はまるで道を開けるかのように別れていく。

 サーベルと鞘をクロスさせてアリアの一撃を受け止めた。武器を硬化し、力を増幅してスピードを上げたアリアの一撃は、耐えるのも大変だ。

「クイックと……スラッシュを同時に使用したな。本気で危なかった」

 アリアの顔が近くにあった。すると、アリアは少し笑っていた。

「先に勝負を仕掛けたのはあんたよ、ライエル!」

 目の前から姿を消したアリア。

 俺は周囲の地形を立体的にとらえる五代目のスキル―― ディメンション ――を使用し、六代目の―― リアルスペック ――で更に情報を収集。

 二代目の―― セレクト ――まで使用し、魔法をアリアに向けてはなった。火球がいくつもアリアを追尾すると、俺は呟く。

「フルバースト……からのフルドライブ!」

 初代、そして四代目の三段階目のスキルを同時に使用して、アリアに急接近した。驚くのは、そんな状況でもアリアがしっかりと俺に気が付いていた事だ。

 ゆっくりと動く周囲の中で、アリアだけは他より少しだけ早く動いていた。しかし、アリアの唇が動く。その動きを読み取ると。

【ブースト】

 ――と、読み取れた。

 直後、アリアから小さな、本当に小さな光の粒は出現すると、四代目のスキルの世界に、アリアも踏み込んできた。アリアが、四代目のスキルにおいついたのだ。

「そこぉ!」

 アリアが槍を振るうと、受け止めた鞘が耐えきれずに破壊された。俺よりも、素早く動いており、力も俺を超えていた。

「前衛系のスキルは、理不尽だと言っていたな」

 前衛系のスキルの特徴は、攻撃特化の爆発力にある。肉体の強化にしても、初代のスキルよりも攻撃的だ。自己の負担もあって長時間の使用はできないが、それでも瞬間的な爆発力が違う。

 アリアが斬撃を飛ばしてくると、俺は地面を駆けてそれらを避けた。抉れる地面。全身が濡れ、宙を舞った泥のせいで俺たち二人は泥だらけだ。

 真剣なアリアを見て、俺は言う。

「強くなった。本当に強いよ、アリア!」

 サーベルをアリアに振り下ろすと、硬化したアリアの槍によって数打ち品のサーベルが砕けた。ゆっくりと破片が周囲に飛び散るのを見ながら、俺はアリアに手を伸ばした。

 服の首辺りを掴むと、そのまま体を近づけて槍を振るえなくする。

 そのまま足をかけて転がすと、アリアを押さえつける形になった。

 周囲の時間の流れが普通に戻ると、風が吹くのを感じた。汗ばんだ体には、風が冷たくて気持ちよかった。

「俺の勝ちだな」

「……そうね。また負けたわ。それで、なんでこんな事を――」

 ――なんでこんな事をしたのか? そう言い終わる前に、俺はアリアに言う。

「昨日の答えだ。負けたんだから俺に従え。俺の傍にいろ。俺には……お前が必要だ」

 アリアが、俺の顔を見て泣き出しそうになった。いや、涙がこぼれ、手で顔を隠した。

「……私、他のみんなみたいに凄くない。ライエルより弱いし、お金もない! 人手だって出せない! もう、必要ないじゃない! 私より綺麗な子も一杯いるじゃない! 私は……ライエルの重荷になりたくないのよ」

 俺は、この時にアリアの心の声を聞いた気がした。確かに、アリアは嘘を吐いた。

「それでも――お前は俺の傍にいろ」





 ――ライエルとアリアの事を見守っていた五代目は、安心したのか胸をなで下ろしていた。

『まったく、長い付き合いだから、ってなんでも理解出来るわけじゃないが……本当に手がかかる』

 円卓に座って安心した様子の五代目を見ながら、ミレイアは言うのだった。

『私たちの時にも、それくらいはして良かったのでは?』

 五代目は俯くと悲しそうに言うのだ。

『……できるかよ。俺は最低な男だぞ。家族と領地を天秤にかけた。領地のために家族を増やして、自分の子供を不幸にした。分かっていたんだよ。間違っていたよ。それでも……俺にはそれしか選べなかった。だから、俺は……』

 五代目の時代も問題が多かった。それは、周囲がウォルト家を警戒したためだ。初代から四代で男爵家だ。通常では有り得ない。

 しかも、四代目は統治も成功させた。させてしまった。だから、周囲は恐怖したのだ。

 英雄であるスレイ・ウォルトは、万の軍勢に数十人の部下で突撃した猛将であり、義将でもあったのだ。

 その血が蘇らないとも限らず、周囲はウォルト家を恐れた。ミレイアは少し悲しそうに言う。

『もっと話してくだされば良かったんです。もっと……会話だけでも良かったんです。私だって、言葉にして欲しかった時があります』

 ミレイアの魔眼は相手の精神状態を見抜く力もあった。魔力の動きでそれを判断するのだが、無表情で子供に興味のない五代目が、いつも悲しんでいたのをミレイアは知っていた。

 動物に依存してしまったのも、精神が持たなかったからだ。

 ミレイアは、五代目に言う。姿勢を正し、綺麗なお辞儀をして見せた。

『ライエルに全てを教えて上げてください。お願いします、父上。あの子には父上の教えも必要なんです。父上が不要だと思った想いは、ウォルト家に必要だったんですよ。いいじゃないですか。いじめられても、馬鹿にされても。そこから這い上がってウォルト家が伯爵まで上り詰めたのは、紛れもなく父上の功績があったからこそです』

 五代目は、俯いたまま何も答えなかった――。
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