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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないよ 十四代目

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フレドリクス少年

 バンセイムにおいて、本物の貴族とは男爵家以上を指して言う言葉だ。

 騎士爵、準男爵という爵位は、その下にいる存在だった。見下しているわけでもないが、領地規模や責任を考えると、男爵家から本物の貴族というのは間違いでもなかった。

 抱えている領民の数、そして管理する領地の広さ。

 それらを守る義務が発生しており、騎士爵や準男爵家の寄親としての立場も発生するのである。

 だが、長い年月をかけてその地位にいたのではなく、成り上がったウォルト家に周囲は不安を抱えていた。

 三代目が英雄で、四代目は王の覚えが良かった……と、思われている時代は良かった。だが、五代目の時代。

 この頃からバンセイムの国内は荒れ始めていた。何しろ、周囲に攻め込むことが減ったのだ。当然だが、三代目の時代で疲弊した国力も回復し、有り余る不満や国内の問題が表面化してきた時代でもあった。

 五代目の記憶の部屋――。

 そこに映し出された光景は、俺には信じられないものだった。

 そこは見知らぬ屋敷で、ウォルト家の屋敷ではない。緑色の髪をした少年時代の五代目――フレドリクスは、余所行きの服を土で汚して屋敷の人気のない場所で少年や少女に囲まれていた。

 フレドリクスは泣いていた。

『ぼ、僕はなにも……』

 子供の頃から小柄で、そして今のような達観している雰囲気もなかった。そんな過去の自分を見て、五代目は右手で顔を覆った。

『……見せなくても良いと思った。だが、ミレイアが納得しないと、いつまでも俺はお前にスキルを託せないからな』

 集まった少年少女たちは、フレドリクスを蹴っていた。

『五月蝿いんだよ、成り上がり!』
『お前の家のせいで、うちは大変なんだぞ!』
『格下の家の癖に、英雄なんて呼ばれていい気になりやがって!』

 クスクス笑っている少女たちは、少年たちがフレドリクスを蹴っているのを本当に楽しそうに見ていた。

 我慢出来ずにフレドリクスを蹴ろうとする足に手を伸ばしたが、触れることなくすり抜けてしまった。記憶の映像で、フレドリクスは壁に叩きつけられていた。

 五代目が説明してくれた。

『既に王位継承が行なわれていたからな。ウォルト家に恩を感じていた……というより、三代目を恐れていた王は先々代の爺様だ。状況が変っていたからな。こいつらもそれを子供なりに感じていたんじゃないか?』

「ウォルト家のせいというのは?」

『ん? あ~、それはアレだ。四代目は本当に内政手腕が高かった、って事だ。何もない場所に職人を招いて、そして育てていたな。ママに聞いて領地経営を試行錯誤して、色々とやってきた訳だが……その成果が出たんだよ』

 その成果が出た。出てしまったために、ウォルト家は周囲から飛び抜けた存在になっていたようだ。

 税率は周囲と同じで高いが、色々と協力すれば免除、あるいは報酬を支払うことで領民のやる気を引き出したらしい。

 結果、ウォルト家は周囲よりも税が安いという状況を作ったのだ。

『こいつらの恨みも分かるんだぜ。どこかが極端に税を下げれば、領民がそこに流れ込む。逃げられる方も、逃げて来られた方も迷惑だろ? だから、そういった話し合いをしてある程度は揃えたりするわけだ。四代目は周囲にも勧めていたらしいけどな。誰だって実入りが減ると思うとやる気が出ない。例え、隣が大きな成功をしていても、だ。ま、理由はそれだけでもないけどな』

 成功すると分かっていても、今までのやり方を変えない人は多いと五代目は呟いた。そして、ここでウォルト家は大きな問題を抱えていたようだ。

『……今まで格下と思っていたウォルト家が、周囲でも一番の力を持った。だが、周りが協力すればウォルト家を押え込むのも可能。なんとも微妙なバランスの上にいたわけだ』

 いじめている側の子供たちは、そういったウォルト家を恐れる両親を見ながら育ったらしい。

『今にして思えば、こいつらも怖かったのかも知れないな。大きくなり続けるウォルト家が』

 五代目がそう言うと、周囲から子供たちがいなくなった。泣き顔のフレドリクスは、袖で顔を拭いて立ち上がると服の汚れを落としていた。

 そして、お付きの者が屋敷の使用人たちに連れられてやってくる。

「……使用人たちもグルだったんですか?」

 その使用人たちの表情は、複雑そうな者もいれば笑いを堪えている者もいた。屋敷の跡取りに言われて共謀でもしたのか、お付きの者を離れさせていたのかも知れない。

『フレドリクス様! どうされたのですか!』

『あ、こ、これは……』

 フレドリクスが何かを言う前に、屋敷の使用人が言うのだ。

『転んだのですか? それは大変ですね。こちらで着替えを用意させて頂きます』

 そう言って連れていく。

 それらを見た俺は、何とも言えなかった。五代目にこんな過去があるとは思わなかったのだ。

 五代目が言う。

『……ライエル、今日はここまでにしてくれ。俺も結構辛い』

 五代目に言われ頷くと、俺は円卓の間に出ていた。円卓の間では、ミレイアさんが肩で息をしながら床に手をついていた。

 その姿を、自分の席に座って三代目が見ていた。

『ライエル、何か知ることはできたかな?』

 三代目は欠伸をしており、そこから動いていた様子がない。俺はミレイアさんと三代目を見ながら言う。

『もしかして、わざとミレイアさんを引き離したんですか?』

 三代目はクスクスと笑いながら。

『誰にだって見られたくない過去はあるからね。少しファザコンの気があるミレイアちゃんは、一緒について行きたがると思ってね。ブラコンでもあるし、なんとも厄介なひ孫だよ』

 ミレイアさんは立ち上がり、俺を見ながら。

『……ライエル、五代目の過去を見ましたか? そこから何を学ぶかは、貴方次第ですよ』

 俺は首を横に振りながら。

「ミレイアさん、今までの流れをなかった事のようにしてそんな台詞を言わないでください」

 そう言ったら銃口を向けられたので、現実世界へと逃げる事にした。





 カルタフスを出発する朝。

 俺は雰囲気のおかしい仲間を見ていた。

 シャノンはいつも通りだ。格好良く生まれ変わったポーターの荷台に乗って足をブラブラさせており、外の景色を見ていた。

 だが、クラーラの様子は少しおかしい。

 見送りに来たルドミラさんと話をしているのだが、ルドミラさんはまるで友人とでも話しているような態度だった。

 ルドミラさんが言う。

「これが言われたものだ。カルタフスにあったから良かったが、割と貴重なんだ。大事に扱ってくれよ」

 クラーラが頷きながら受け取っていたものは、どうやら弾丸の類いだったようだ。

「助かります。弾も貴重なので」

 ルドミラさんはそんな貴重な弾丸を、クラーラに大量に渡していた。

「いいさ。お前が無事であるのも、私にとって重要な事だ。それに、ライエルを守るためにも必要だからな」

 そう言ってルドミラさんは笑っていた。

 確かに、クラーラが戦う術を持っていると助かるのは事実であった。魔物にしても賊にしても、拳銃による攻撃はある程度の効果がある。

 だが、そんな二人の様子を見ていたアリアだけは、複雑そうな表情をしていた。そして、妙に二人と距離がある。いや、シャノンとも距離があるように見えた。

 俺の近くにいたモニカが、その距離感を見て。

「おや、何やら派閥に新たな動きが見受けられますね。そのまま潰しあえばいいのに。チキン野郎にはこのモニカだけで十分ですからね」

 派閥などと言い出すモニカを見て、俺は鼻で笑った。

「なにが派閥だ。大げさなんだよ。前に色々あったけど、そこまでじゃないだろ。まったく……それにしても、ルドミラさんが仲良くなるなら、アリアだと思ったんだが」

 同じように戦う女性であるアリアとルドミラさんなら、きっと共感する部分も多いと思った。だが、風呂場で一緒になった後から、ルドミラさんと仲良くなったのはクラーラであるようだ。

 意外な組み合わせに首を傾げたくなったが、そういう事もあるかと納得して出発することにした。

 宝玉内からは、不機嫌になって黙っていたミレイアさんが口を開いた。

『……強敵が出現しましたね。まさか、あの子があちら側につくなんて』

 三代目が普段よりも少しだけ低い声で。

『僕のお気に入りのクラーラちゃんに手を出したら怒るからね』

 そんな二人の会話を聞きつつ、また首を傾げたくなっていると七代目が言う。

『意外ですね。ルドミラはアリアと馬が合いそうなのですが……同族嫌悪でしょうか?』

 そんな中で、五代目だけが俺に言うのだ。

『……ライエル、アリアに声をかけろ。移動中に話しかけるだけでもいい。それとな、もう少しだけ緊張感を持て』

 これからバンセイムに向かうので、その事だと思っているとどうやら違う様だ。

『まずいな。派閥を知っている嫁か。ノウェムより厄介かも知れないぞ』

 五代目は真剣に悩んでいる様子だった。





 生まれ変わったポーターでの旅は、快適だった。

 ある程度の道なら揺れも少なく移動出来る。鉄の塊で移動するので、賊も魔物も何を思ったのか警戒して出てこない。

 遠くから見ているのと、移動速度が今まで以上で追いかけるのをすぐに止めるのだ。

 俺は荷台の長椅子のようなソファーに座りつつ、隣のアリアに言うのだった。

「随分と快適になったな。なんか変な部分が増えて少し狭くなったのは問題だけどさ」

 アリアも同意見だったようだ。

「前より揺れないし、快適にはなったけど狭いのよね。もっと大きな奴なら良かったのに。それこそ、ダミアンのところの――」

 笑顔のアリア。だが、ダミアンの名前を出すと、編み物をしていたモニカが反応を示す。立ち上がって両手を広げて。

「あのでかいだけのポーターの偽物がいいと言うのですか!? 変形機構までつけた浪漫の塊で、私とチキン野郎の愛の結晶を馬鹿にするとはどういう――痛いっ!」

 アリアの槍を借りて、柄の部分でモニカの頭部を軽く叩くと、涙目になってモニカは叩いた部分を両手で押さえて座り込んだ。ふわりと床にツインテールが綺麗に落ちた。

 計算をして、可愛く見えるようにしているのだと最近になってヴァルキリー一号から教えられたのであざとく感じる。

「モニカ、少し静かにしろ。隣で涎を垂らして寝ているシャノンが起きる」

 幸せそうに眠っているシャノンを見て、モニカは布を取り出して涎を拭き取っていた。

「私とチキン野郎のポーターを汚さないでください」

 そう言ってまた座ると、編み物を再開していた。もうじき冬が来る。そのために色々と準備をしているそうだ。

 去年の冬は、愛のこもりすぎた重いセーターやマフラー、それに手袋を貰った。今年はどんなものが出来上がるのか少し気になる。

 俺は、溜息を吐きながら、アリアに槍を返すのだった。

「最初の頃を思い出すと、人が増えたよな。それに、最初はダリオンでゼルフィーさんに怒られながら、冒険者になろうとしていたのに。今だと冒険者ギルドから追い出されるし」

 ゼルフィーさんは、冒険者になったばかりの俺たちを指導してくれた冒険者だ。ダリオンという新人冒険者が多い街で、ベテランだった。

 昔はアリアの家に仕えていた家柄で、アリアのお姉さんのような存在だったらしい。

「今の私を見ると、ゼルフィーがなんて言うか……見た目だけなら立派な冒険者よね?」

 確かにアリアは、女性冒険者としての貫禄も出て来ていた。使い慣れた装備に加え、戦い方も男顔負けだ。

 それでも、新米冒険者の頃に色々と失敗してきたアリアを見ている俺からすると。

「ワイルドになったけど、あんまり変ってないかな。活発で、それで意外と少女趣味なところもあるし」

 アリアが気まずそうにした。

「どうせガサツですよ」

 そう言ってはいるが、本人はあまり気にした様子がないようだ。少し笑っていた。だが、すぐに表情が暗いものになっていく。

「ライエル、あんたに聞きたいんだけど」

「なに?」

 アリアは天井を見上げると、前方でポーターを操作しているクラーラに聞こえないことを確認し、少し小さな声で。

「やっぱりさぁ。私はほら……こんなだし、協力はするけど……あんたの嫁になるのは止めておくわ」

 アリアが口にしたのは、協力はするが俺とは結婚しないという言葉だった。ただ、どこかで俺もそれを認めようと思っていた。

 何しろ、俺はアリアにも幸せになって欲しいし、それがアリアの選択なら、と――。

 だが、そこで反対意見を出したのは、意外にも宝玉内。五代目だった。

『ライエル、お前は何が何でもこの子を引き留めろ。言っておく、この子は絶対にお前に必要だ』

 五代目が本気で俺にアリアを引き留めろと言う。俺は困惑していると、アリアも俺の答えを待っていたのか少し緊張していた。

 俺は口を開いた。

「……り、理由を聞いてもいいか?」

「そ、それはほら! 私、って他より強くないし、ヴェラみたいにお金も出せないし、他の人みたいに人手も出せない。ノウェムやミランダみたいに頭も良くない……魔法だって使えるけど得意じゃない。足手まといだ、っていうのは自覚しているのよ」

 そんなアリアの言葉を聞いて、五代目が宝玉内からいつもより強い口調で。

『ライエル、絶対にアリアを逃がすな。この子はお前が今後必要とするものを持っている。ノウェムでもミランダでもない。ヴェラやルドミラたちとも違うが、絶対にお前に必要だぞ』

 必死の五代目の意見を聞きながら、俺はアリアになんと言えばいいのか考えるのだった。だが、心の中で思ったのは――俺の傍にいれば、アリアは幸せになれるのだろうか? ――という疑問だった。

 このまま歴代当主たちの言葉に従い、俺だけの幸せを追求していいのだろうか? とも、思うのだった。
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