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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

ネタがないよ 十四代目

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第十四章 プロローグ

 ベイム南方に位置する迷宮討伐用の拠点は、サウスベイムと呼ばれるようになっていた。

 ベイムから追放された者たちによって作られたとされる小さな街は、一ヶ月もしない内に活気が出て来ていた。

 それもそのはずで、商家がいくつもなだれ込んできた。港には少なくとも三隻の船が停泊している状況で、船の出入りが行なわれている。

 商人が連れて来た職人、または関係者で一気に街の人口は増加していたのだ。

 そんな活気のあるサウスベイムで、俺はモニカとクラーラ――三人で倉庫にあるポーターを見ていた。

 使い続けボロボロになって来たポーターを、旅をするとあってモニカが修理をする事になっていたのだが――。

「ポーター……お前、立派になって」

 ――両手を口に当て、俺はポーターを見ていた。

 円柱状の頭部には、クリッとした目が二つ。そこは変らない。だが、ボディーが大幅に改良されていた。まるで鉄の塊――雄々しいポーターの姿がそこにあったのだ。

 宝玉内――歴代当主たちも少し感動していた。

『ポーターも僕たちの仲間だね。なんだか立派になったみたいだ』
『俺、なんか鉄の塊にも愛着が出て来た』
『この重厚感。以前よりも洗練されつつ、無駄と浪漫が融合したなんとも言えない魅惑的なボディー……ポーター、お前は最高だ』

 七代目が言うとおりだ。このポーター……一回り大きくなっていた。モニカがダミアンの大型ポーターを見て、触発されたのだろう。

 一番の目玉は、天井に折りたたまれた二本の腕だ。

 使われた部品は、かつてアラムサースで倒した魔物が着込んでいた巨人の鎧のような装甲であり、丁寧に加工されていた。

 モニカは自信満々に言う。

「この程度で驚かれては困りますよ。このモニカ……あのダミアン教授のところにいる三体とは出来が違うのですよ、出来が! ポーター、お前の真の姿を見せてやりなさい! ……クラーラさん、打ち合わせ通りに」

 ポーズを決めるモニカだが、反応を示さないクラーラを見てチラ見しながら催促をしていた。

 クラーラが黙って頷くと杖を掲げた。

 ゆっくりと動き出すポーターは、前方部分がゆっくりと持ち上がり、そして胴体部分になった。

 背中の腕が展開し、脚部は八つに増えたタイヤと車体が支えていた。

「おぉぉぉ!!」

 俺が興奮すると、モニカも俺を見て興奮していた。

「凄いでしょ! モニカはその辺のポンコツとは違うんですよ! バージョンアップをしたとか、少し改良されて喜んでいるポンコツーズとは元の性能が違うんですよ! 見たかチキン野郎ぉぉぉ!!」

 天井に向かって両手を掲げ、叫ぶモニカはまるで魂で叫んでいる様子だった。

 宝玉内からも歴代当主たちが――。

『凄い。凄いよ、ポーター!』
『お前、頑張ったな……』
『なんという姿。この無骨さ……完璧ではないですか!』

 ただ、一人冷めた意見を言う人がいた。ミレイアさんだ。途中から参加したミレイアさんは、ポーターに愛着がない。そればかりか、頭部を無駄だと言った人でもある。そんなミレイアさんは一言。

『……こんな機能が必要なんですか? いりませんよね? というか、これ……収納的にどうなんです? 変な機能がついて、旅を快適にする機能がつかない、ってどうかと思いますよ』

 ミレイアさんの分かってない駄目出しだが、確かに重要な事だった。

「……モニカ、ポーターが生まれ変わったのは分かった。それで、以前と比べてどうなんだ? スペース的なものとか、快適さとか」

 モニカは人差し指を突き出し、横に振りながら。

「チキン野郎。このモニカを舐めないでください。多少のスペースは犠牲にしましたが、職人さんたちに頑張って貰いました」

 そんなモニカに、クラーラがボソリと。

「酷使した、とも言えますよね。モニカさんが笑顔で近付くのを見ると、ドワーフやノームの皆さんが走って逃げ出しますから」

 俺はモニカを見つつ。

「お前、なにをしたんだ?」

 モニカは肩をすくめ、ヤレヤレという感じで首を横に振るのだった。

「彼らは職人ですよ。無理な注文をした時にこそ、それを何とかしようと輝くのです。逆に褒めて欲しいですね。このモニカが色々と技術を伝えたのですから。サウスベイムの未来のため、いえ……チキン野郎のために!」

 俺はポーターの後ろに回って後方の扉を開けた。

「前より少し狭くなったか? まぁ、ソファーというか長椅子が両脇に二つあるからそう見えるのかも知れないが」

 鉄の塊であるポーター……人や物資を運ぶ際に、頼りになる俺たちパーティーの重要な仲間が生まれ変わった。

 モニカたちのところへと戻ると、クラーラがポーターを元の姿に戻すのだった。

 クラーラは首を傾げていた。

「重量がかなり増えていますね。それなのに何故か操作する時に消費する魔力が低い気がします。操作する時に何か違和感もあるのですが?」

 モニカはポーターに近付くと、前方部分を開いて見せた。

 そこには、かつて俺が迷宮で見つけた宝石ペリドットが三つ埋め込まれていた。周囲には変な措置が取り付けられている。

「あ、俺の宝石――」

「――そう! これがポーターの動力源! これによりポーターは更に力強く動く事でしょう! まさにポーターの心臓部分! 宝石三つで快適な操作性が手に入るのです!」

 俺の方をチラチラ見ているモニカは、少しは罪悪感があるのだと思いたい。

 そして、俺はポーターに手を触れて呟く。

「ポーター、良かったな」

 クラーラが俺に対して。

「ライエルさんがそれでいいならいいですけどね。というか、宝石を勝手に使用したのは放置ですか? パーティーに報告する義務を怠りましたね、モニカさん」

 クラーラの言葉に、モニカはツインテールの片方をかきあげつつ。

「あれはチキン野郎の持ち物。そして私はチキン野郎の持ち物。チキン野郎の物は私の物。私の全てはチキン野郎の物! だから問題などないのですよ!」

 俺が怒らないと見ると、とんでもない発言をしたので後ろからモニカを叩く。

「駄目に決まっているだろが。前もって使うと言え」

「あぅ……でも、皆さんここ最近は忙しく、帰ってきてもすぐに倒れるように寝ていたのでモニカも気を使ったんですよ」

 そう、俺たちは忙しかった。

 サウスベイムだけではない、これからのために行動する必要があったからだ。ポーターの改良もその一環であった。





 ――エヴァは、サウスベイムを訪れたエルフの一族と交渉していた。

 場所はサウスベイムの大通りで、その場所は歌い手や旅芸人のために簡易のステージが用意されていた。

 人通りが多い中で、エヴァは一座――一族に、ある依頼をしていた。

「――で、これが流して欲しい歌と語りね。噂でも良いから流布して貰える。その見返りはサウスベイムでの場所代よ。安くするから」

 一座にとって、場所代が安いのはありがたい話だった。それを聞いた青年のような族長のエルフはアゴに手を当てつつ。

「ニヒルの一族の娘の頼みだ。聞いておく事にしよう。ところで、いくつか聞きたい事がある。レダント砦、あるいは要塞での詳細な情報が知りたい。魔物の軍勢を退けた英雄の歌が流行っていてね。こちらはベイムに流れてきたばかりでまったく知らないんだ」

 エヴァはそれを聞いて。

「どこから流れてきたの? ザインやロルフィスじゃないわね? ガレリア? ルソワース? でも、ないか。カルタフスはないと思うし……」

 エルフの族長は溜息を吐きつつ。

「バンセイムだよ。あそこから逃げてきたんだ。今は酷い状況でね」

 エヴァは族長に向かって頷きながら、真剣な表情でたずねた。

「バンセイム、ね。バンセイムの情報と交換ならいいわよ。私も前にバンセイムにいたけど、そこまで酷い状況になっているの?」

 族長は空を見上げた。

「戦争というか蹂躙だな。死をも恐れない軍団というのを初めて見た。バンセイムの次期王妃が権力を握ってからというもの、どこも異常な感じがする。もしかすれば、歴史に名を残すかもしれないぞ。悪い意味でね」

 エヴァはセレスの異常さを知っていた。近くで見なければ……伝え聞けば残忍なバンセイムの次期王妃、という程度で終わってしまう。

 ベイムがそうだった。セレスの情報は入ってきても、それをよくある事。あるいは、残忍な女性――という事で済ませていた。

 どこかでベイムは対岸の火事だと思い込んでいたのだろう。エヴァはバンセイムの情報を族長から聞くのだった。

「日に日に滅亡に近付いているような気がした。男手は戦争に駆り出され、村ばかりか街でも女子供、それに老人が目立つんだ。流民も多く賊が増えていてね。我々も何度か襲撃を受けた」

 食糧を投げ捨てて逃げ出すと、相手がそれを奪い合って喧嘩をしていたという話を聞いてエヴァは酷い状況だと思うのだった。

「ねぇ、王族に反抗している貴族とかいないの? 領主でもいいわよ」

 エヴァの質問に、族長は首を横に振った。

「いない、というかいた。過去形だ。多くの領主が潰されたよ。セントラルの軍勢もそうだが、ウォルト家も関わっている。バンセイム最強は伊達ではないという事だね」

 ライエルの実家であるウォルト家が、国内の領主貴族や反抗勢力を潰すのに協力している。それは、エヴァにとって皮肉に感じられたのだった――。





 ――メイは、サウスベイムに増えた屋台を数えていた。

「おぉ! 今日は三つも増えた! あっちはお菓子かな? こっちはお肉の匂い。はぁ……食べ歩きコースにまた三つの新しい仲間たちが」

 幸せそうな表情で屋台を見ながら、今日は何を食べるかと楽しく考えるメイ。

「昨日は揚げ物だったから、今日はお肉で……いや、お菓子も捨てがたい。だが、僕の手元には全てを食べられる軍資金がない。……なんという事だ」

 基本的に食べ物にしかお金を使わないメイは、屋台で食べ歩きをするためにノウェムからお金を貰っていた。

 お金の管理まではする気もないのか、それでいいとすら思っているのだ。そのため、毎日のようにノウェムからお小遣いを貰っている形だった。

「よし、まずは喉を潤すためにジュースからだ。爽やかな柑橘系で行こうじゃないか」

 すると、小柄なメイは屋台に向かう足を止め、振り返った。

 そこには長い黒髪をボサボサにした、まだ季節的に合っていないコートを着た長身の女性が立っていた。

「……ここで暴れるなら止めてよね。ここは僕のお気に入りの一つなんだ」

 相手はマリーナだった。

 マリーナは、手に持っていた紙袋をメイに投げつける。それを受け取ったメイは、袋が暖かく、中に串に刺さった肉があるのを見て目が輝かせた。

 涎が出て来そうなのを我慢しつつ。

「な、なんのつもりかな?」

 マリーナと袋に視線をチラチラと向けながらたずねた。

「なに、あそこまで暴れたのは久しぶりだったからね。楽しかったからお礼だよ。それと、あんたのリーダーに会いたい。えげつない行為をしてくれたからね。私もベイムに居づらいのさ」

 メイはマリーナの様子を見て、嘘だと見抜いていた。袋から串を一本取り出して、口に運ぶと肉にかぶりつく。

「紹介料だっけ? いいよ、これで手を打って上げる」

「助かるよ。失敗して色々と理由をつけて貯め込んでいた金を持って行かれたから、今は金がないんだ」

 どうやら、それは嘘ではないようだ。

 メイは串に刺さった肉にかぶりつき、豪快に食べるとマリーナを見ながら。

「それで? 本当の目的はなんだい。お姉さんほどの人ならどこのギルドでも受け入れてくれるだろうに」

 マリーナは笑った。

「私より長生きをしているのに、お姉さん、か。お嬢ちゃん、世渡りが上手なんだね」

 自分の姿から、マリーナを小娘扱いすると違和感が出るとメイは知っていた。人の世界に溶け込んで暮らすために覚えた事だ。

 ただ、それでも周りから見れば違和感があるのも事実だ。

 メイが黙って肉を食べ続けると、マリーナは「降参だ」などと言って話し始める。

「私たち東支部の人間だけを逃がして孤立させた事はどうでもいいんだ。ただね……お嬢ちゃんを従えるリーダーに興味があるのさ。あの坊やも強いんだろ?」

 ライエルは、マリーナに目をつけられてしまった――。





 ――宝玉内。

 ライエルの記憶の部屋では、かつてライエルが過ごした部屋で少年の姿をしたライエル――らいえるが黙って座っていた。

 ベッドの上にあぐらをかき、そして膝の上に肘を置いて手にあごを乗せている。

 その姿は少年なのに、少しだけ貫禄があった。

『……五代目はしばらく残って貰わないとね。ライエルには五代目を知って欲しい。知る事で何を感じるのかは知らないけどね。その前に』

 らいえるは天井を見上げた。

『自分の本当の姿を見たくないから、って僕を放置しすぎだよ、ライエル。この姿は君の姿。まだ幼い君自身の姿なのに』

 ライエルの宝玉内の部屋は、ある種の見たくないものを見せる部屋になっていた。宝玉が干渉した。セレスによって干渉され、結果的に生み出されてしまった部屋だ。

 そして、少年らいえるの姿こそが、今のライエル自身の姿でもあった。

 らいえるが封印され、生まれてしまったライエルは大きな体を持つが心はまだ小さな子供だったのだ。

 歴代当主たちに見守られる事で成長し、そして精神的にも強くなってはいるが不安定な存在だった。

 らいえるの記憶が戻れば、バランスを崩しかねない。自分が誰なのか? そういった悩みを抱えるのは分かりきっていた。

『ライエル、僕と向き合ってくれ。潜在的に怖いのは分かるんだ。それでも……僕を消して、ライエルは前に進むしかないんだから』

 らいえるは子供とは思えない表情で、悲しそうに呟くのだった――。
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