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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

そろそろ駄目な奴が出て来てもおかしくないぞ十三代目

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見捨てられたのは誰だ?

 マリアーヌさんを救出し、エアハルトの恋が終わる瞬間を見た俺は宿に向かった。

 流石にマリアーヌさんをそのまま家に帰すわけにもいかず、宿へと連れていくとしばらく身の安全のために近くに置く事になった。

 護衛を置いて、俺は自分が借りた部屋で白い面を手にとって眺めている。スイーパーの面であり、支部ごとに特徴があるようだった。

 部屋で俺の飲み物を用意するモニカが、面を見て一言。

「センスがありませんね。白一色とは」

 駄目出しをした。

「顔を隠しつつ、相手を威圧出来ればいいんだろ? 暗いところでこんな面をつけた奴に襲われれば恐怖するさ。それより、毒は大丈夫なのか?」

 襲撃者であったスイーパーの毒付きのナイフ。

 それを受けたモニカだが、平然としていた。体や服の傷などは既に元通りであり、やはり規格外の存在であると実感してしまう。普段の残念な部分ばかりを見ていると、時々忘れそうになるが、モニカもオートマトンだ。

「……きた。ついにチキン野郎もデレ期に突入ですね。最初は心配してないふりをして、二人になると気遣う。あぁ、なんというツンデレ! モニカは嬉しくて、他のポンコツ共に今の状況を映像と解説付きで自慢してしまいそうです」

 いつものモニカなので安心した。

「はぁ、そうか。それで、あいつらの使っていた毒は?」

 お茶をカップに注ぎ、モニカが俺に持ってくる。受け取って口をつけると、モニカは毒の事を話し始めた。

「即効性もあるのですが、体内で残留しないので発見されにくいもののようです。ついでに死因も特定されにくいものですね。よくこんなものを作り出せたものです」

 モニカが毒に関してスイーパーを褒めていた。

「ミランダとエヴァだけなら危うかったかな?」

「負けるとは言いません。ただ、多くを逃していましたね。仕留められたのは一人か二人か……その程度です。それに、どちらかが死んだ可能性もあります」

 成長を短期間で数回も繰り返した二人でも、被害が出た可能性が高い。スイーパーはやはり厄介である。

 スイーパーがマリアーヌさん狙いで、俺たちを意識してなくて助かった。その隙を突いて奇襲が成功したおかげで、完勝出来たようなものだ。

「向こうが本気で最初からスイーパーを送ってきたら危険だったな。なんで最初から送り込まなかったんだ?」

 俺を確実に仕留めようと思うなら、そちらの方が可能性は高いような気がした。暗殺や死体の処理を考えても、スイーパーの方が手慣れているはずだ。

 そんな疑問に答えたのは七代目だった。

『ライエル、相手とてスイーパーとなれるような人材が多いとは限らない。技量だけではなく、本人の持つ性格なども採用するには調べる必要がある。ただ強いだけでスイーパーになど選ばんよ。分かるか? お前は相手の得難い駒を七人も潰した事になる』

 小さなテーブルの上には、六つの白い面を置いていた。一つは手元に持っており、襲撃者八名の中で一人だけ逃がした。

 タニヤさんがスイーパーだとは思わなかったが、言われてみると一人だけどうにもポジションがフラフラしていたような気もする。

 後から言われれば、納得する部分もあった。

 モニカが俺に聞いてきた。

「チキン野郎、明日の商人会議では、フィデルに何を依頼したのですか?」

 俺はモニカの顔を見ながら。

「俺たちの拠点を今後の活動場所にするのを認めさせる。そのための交渉をして貰う事にした。まぁ、あんな何もない場所に行きたい、っていうなら認めるだろうさ。ルドミラさんにもそういった方向で支援して貰う。エリザさんにグレイシアさんには、予定通り港の開発を進めて貰って――あ、そうだ。ついでだ。ギルドから職員を派遣して貰おうか。あそこにある迷宮の管理というか、ギルドのノウハウは今後必要になる」

 俺は、ギルドのノウハウもベイムから貰う事にするのだった。





 次の日。

 ギルド本部へと向かった俺は、そこでフィデルさんと歩くルドミラさんを見かけた。

 騎士たちに囲まれ、ルドミラさんは上機嫌のようだ。

 フィデルさんだけは、俺を見て複雑そうな表情をしていた。ヴェラにあの後、冗談であると説明するように頼んだ。なのに、嬉しそうには見えない。

 少しフィデルさんが理解出来ないでいると、七代目が言う。

『……孫を見たかったんだろうな。ライエル、お前の問題は片付いていないぞ。ヴェラは後でフィデルに冗談だと打ち明けたようだが、アリアはその事実を知らない。お前は選択肢を間違えた』

 ミレイアさんも普段より真剣な口調で。

『ライエル、失敗の対価を支払う事になりますよ。火は小さい内に消さないと、燃え上がってからは大変だと知りなさい。……でも、燃え上がるところも見たいのよね』

 最後の方はいつも通りのミレイアさんだった。

 ルドミラさんが俺に近づいて来た。

「ライエル、お前の言った通りにしたよ。それで、その対価を渡しに支払ってくれるんだろうな?」

 まるで俺を獲物でも見ているような肉食獣の瞳で、ルドミラさんは対価を求めてきた。

「アハ、アハハハ……対価ですか? ほら、ラルクから救出したじゃないですか」

 そんなルドミラさんと俺とのやり取りを見て、フィデルさんがボソリと。

「やはりお前は敵だ。ヴェラ以外の女にも手を出しおって……」

 やはり娘の父親として、俺に対して思うところがあるようだ。ただ、商人としての顔も持ち合わせているわけで――。

「例の件はお前の言う通りに進めた。これから始まるギルド幹部との話し合いでは、迷宮討伐依頼の廃止、それと同時にベイムのギルド支部を設立する流れになった。これで約束は果たしたぞ」

 ベイムの南にあった迷宮は、どうやらそのままベイムが管理する事になったようだ。割と攻略がしやすく、ベイムの管理する迷宮からは出現しない魔物が出てくるのが評価されたらしい。

「ただ、お前のパーティーは冒険者資格の剥奪が決まった。一部の商人とギルド幹部から相当恨まれているな。バンセイムとの今後の付き合いを考え、お前たちもベイム追放で決定だよ」

 俺はその話を聞いて頷いた。

 宝玉内から五代目の声がした。

『つまり、セレスと手を組むという訳だ。さて、ここからはどうなるか……セレスの手先になるか、それともバンセイムに攻め込まれるか。どちらにしても、ベイムは一度破壊する必要があるな』

 ルドミラさんが、俺の方を見ながら面白そうにしていた。

「随分と動じないな。まるで分かっていたようだ。もっとも、ライエルにはいつまでも冒険者の身分でいられても困る。どうだ、このままカルタフスに来て王座につかないか?」

 俺は苦笑いをしつつ、ルドミラさんに言うのだった。

「近い内に寄らせて頂きますよ。俺の方も用がありますからね」

 そうして、俺は呼び出されているギルド本部、その会議室へと向かうのだった。





 ギルド幹部が並んで座る会議室で、俺は熱弁を振るっていた。

「レダント砦では命懸けで戦った! そればかりか、俺はこれまでギルドに大きく貢献してきた! 追放処分とはどういう事です! それにカルタフスでの一件、そして留守の間には仲間も襲撃された。これがギルドのやり方ですか!」

 居並んだギルド幹部たちが、俺の顔を見て忌々しそうにしていた。確かに俺はベイムのためにも頑張ってきた。

 だが、彼らからすれば面白くない状況を作り出した張本人が俺であり、そしてマリアーヌさんの襲撃時に貴重なスイーパーが俺によって倒されてしまった。

 既に商人たちの話し合いが済んでおり、俺の処分も決まっているのだろう。そう、ギルド幹部にはなんの決定権もないのである。

 俺はそれをいい事に、いかに自分が頑張ってきたのかをアピールしている訳だ。

 まぁ、簡単に言えば――。

『命懸けで戦った英雄を切り捨てるの? しかも襲撃して消そうとしたよね? 忘れないからな、この事は絶対に忘れないからね! ……って、感じだよね』

 ――三代目が実に楽しそうに説明してくれた。幹部だけではなく、この場には記録を残すための職員、そして関係者もそれなりにいたのだ。

 南支部の幹部など、俺を睨み殺さんばかりの視線を向けてきていた。西支部の幹部は表情が青く俯いていた。

 北支部の幹部は、東支部の幹部とタニヤさんを見ている。

 他の幹部が連れている職員は、スイーパーなのだろう。だが、どうにもタニヤさんと比べると見劣りするように感じた。

 東支部の幹部が言う。

「……全ては君の考えている通りではないかね?」

 どうとでも取れるような発言をして、東支部の幹部は俺を真剣な表情で見ていた。

 ギルドからは、俺――俺のパーティー全員の冒険者資格剥奪が言い渡され、現在扱っていた迷宮討伐の依頼は破棄。

 今後は迷宮を利用する事になり、俺は討伐から外れる事になった。

 そして、ベイムからも強制的に退去、という扱いだ。

「納得出来ませんね。理由を説明して貰えますか? おっと、そうだった……実は、昨日の事なんですが、知り合いが襲われているのを助けましてね。お世話になっている職員だったんですよ。それで、一人を取り逃がしたんですが、彼らは特徴的なお面をしていまして」

 そこで白い面を七枚取り出した。目の前にある机に置くと、周囲に殺気が放たれた。幹部の後ろにいるスイーパーたちだ。

 南支部の幹部が立ち上がり。

「貴様! 何度も何度も……やはり、東支部と繋がっていたな! 今度も東支部の――」

 そこまで口にしたところで、北支部の幹部が咳払いをした。

「……職員が襲撃されたのなら、放置はできませんね。分かりました。その面はこちらで預かりましょう。ただ、これはベイムの決定です。貴方たちの処分に変更はない」

 南支部の幹部は悔しそうに呟く。

「白々しい真似をしおって……」

 七代目は嬉しそうにしていた。やはり、冒険者嫌いは相当なものだ。

『貴様ら、我々を切り捨ててセレスを抱き込もうとしているようだが、それは勘違いだ。貴様らを捨てたのは我々で、セレスを抱き込もうとするのも間違いだ。あれはそういう人間ではないのだよ』

 ――怪物。

 初代が言った、歴史の変わり目に登場するおとぎ話のような人物たち。その怪物であったアグリッサの血を引き、そして意思のこもった宝玉を持つセレスは、バンセイムで傾国の美女となって死を振りまいている。

 それをベイムは正確に理解していない。

 よくある話の一つ、という程度の認識だった。セレスが暴れ回り、その規模が今のままだと思い込んでいる。

 あれはこの程度で満足しない。それを理解しろと言っても、多分無理なのだろう。セレスを見た者しか分からない。見てしまえば並の人間なら魅了されてしまう。

 俺は、ギルドから処分を受けて、その場を後にするのだった。





 ――バンセイム。

 謁見の間では、周囲に王族が並んでいた。

 今日はライエルとセレスの父であるマイゼルはおらず、王太子に果物の乗った皿を持たせ、それを食べながらセレスが玉座に座っていた。

 足を組み、もうすぐ十五歳になろうとする少女とは思えない妖艶な動きで、果物の一つを口に含んだ。

 周囲に並んだ大臣、そして親衛隊の騎士たちがそのセレスの姿に見惚れていた。

 異様な光景だ。

 そして、一番異様なのは、セレスの足下で背を丸めて足置きとなっている少女だった。彼女の名前は元ザインの聖女【レミス・ザイン】。今はただのレミスだが、聖女が着る衣装に身を包み、セレスの足置きとなっていた。

 ただ、表情はそれでも嬉しそうだった。

「あぁ、セレス様の体温を背中で感じられます。私の女神様……」

 セレスは、そんなレミスを笑っていた。

「あら? 皆の憧れであった聖女様が、私の足置きで満足なのかしら? プライドがないわね」

 レミスは頬を染めながら言う。

「はい。満足です。私はセレス様の足置きが相応しい女です!」

 ザインから追い出され、バンセイムへと流れ着いたレミスは、以前のような傲慢な少女、という感じではなかった。

 それを見せつけられていたのは、ベイムから来た商人だ。

(な、なんだ。こんな……いや、少し雰囲気がおかしいだけだ。ザインの元聖女がいるのは驚いたが……それより、近くにいるあれはなんだ)

 セレスの近くには、首輪をして鎖で繋がれた魔物がいた。ただ、そんな不気味な魔物を、商人は見た事がない。しかも、まるでセレスは飼い慣らしている様子だった。

 すると、セレスは商人の視線に気が付き。肘掛けに肘を置いて、手に頬を乗せた。綺麗な金髪がサラサラと動くと、キラキラと輝いているように商人には見えた。

「これが気になるのかしら? こいつらはね……元ザインの大神官と、その仲間たちよ。面白いものを持ち込んでくれたから、その身で実験して貰ったの。凄いわよね。ずっと昔に研究していた魔物の力を得る実験……成功でもないけど、隠し持っていたんだから」

 元は人間というそれらの魔物たちを見て、商人は驚いた。

「そ、そのような事が可能なのですか!?」

 セレスは笑っていた。

「可能なんじゃない? 実際に飲ませてみたし。ねぇ、バート」

 セレスの傍で控えている赤い髪の青年は、青い瞳をしていた。着ているのは燕尾服で、主人に対して失礼な口調で言う。

「無理やり飲ませたのは、セレス様ですけどね。まぁ、最後には喜んでいましたが」

 傍には床に座っている長すぎる黒髪の少女は、目に髪がかかっており瞳が見えない。そんな状態でボンヤリと宙を見ていた。

 不気味だった。その少女がとても不気味に見えた。

 異様な光景に、商人は何かがおかしいと思った。ただ、すでにベイムではセレスに接近する事で話がまとまっていたのだ。

 セレスは首を傾げ。

「それで? ベイムから来た商人が、私になんの用なの? 退屈な用件なら許さないわよ」

 商人の男は言う。

「はい。我々ベイムは交易都市。今まで自由都市として領主のいない環境で生きてきました。隣国になったバンセイムには、是非ともお近づきのご挨拶を、と。我々が取り扱っていないものはございません。バンセイムにもご贔屓にして頂きたい。そのための挨拶でございます」

 セレスは商人を見てニヤニヤしていた。

「持ってきた品は見たわ。色々と面白いものもあったし、何か買う事もあるかもね。それにしてもベイムねぇ……レミス、あんたを追い出したクズ野郎がいるところよね?」

 足を軽く上げ、振り下ろすとレミスが痛みを感じていた。だが、すぐに表情は涎を垂らして喜んだものになる。

「はい! 我々を追い出した憎い相手です。でも、今はそんな奴どうでもいいんです。私にはセレス様がいますから!」

 すると、セレスは嬉しそうだった。

「そう。可愛いわよ、レミス。しばらくは、私の足置きとして使って上げる」

 商人は、思った。

(やはり兄に対して何か思うところがあるのか? クズ野郎と言っていたし)

 商人は嬉しそうにセレスに告げた。

「それならばお喜びください。そのライエルという冒険者、ベイムではセレス様との縁を大事にするために、追い出す事が決まりました。ベイムはセレス様のために――」

 商人がそこまで口にすると、セレスは立ち上がってレミスを踏み越えて商人の目の前まで一瞬で移動して商人を蹴り飛ばす。

 謁見の間――その入口まで蹴り飛ばされ、商人は何が起きたのか理解出来なかった。

 ただ、セレスが言う。

「私と……この私とあのクズ野郎を比べた? あのクズ野郎と比べて、私を選んだ? ……許さない。絶対に許さないわ。ベイムに宣戦布告よ! 粉々にして上げるわ。いったい誰が私とあのゴミを比べろと言ったのかしら? 不愉快よ!」

 セレスは苦々しい表情をしていた。まるで、何か思い出したような表情だ。余裕はなく、苛立ちを隠そうともしていない。

(し、使者である私を蹴り飛ばして……宣戦布告だと? いったい、何を間違った)

 周囲の大臣、そして騎士たちが声を上げた。セレスに誰も逆らわない。

「セレス様、その役目は私に!」
「いえ、私がベイムを焼き尽くしてご覧に入れます!」
「セレス様に失礼を働いたベイムに、裁きを!」

 そして、商人が口から血を吐くと。

「……今日は食事がまだだったわね」

 セレスはそう言って、まだ今日の分の餌を与えていない自分のペットにしている元人間の魔物たちを見たのだった――。
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